11代目の大空へ〜next generation REBORN〜   作:くぼさちや

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標的003「包囲網を打ち破れ」

「風見翔一、ってことはお前が賭場の元締めだったのか」

 

「そういうことだぜ。今朝はなんかよくわかんねえけど、面白そうなやつが来たからな。遠回しに俺の賭場に招待したってわけさ」

 

収納台に片膝を立てて座り込んでいた翔一は楽しそうに笑う。

 

「ま、実際は期待以上に面白かったぜお前。だから俺たち風見一派の秘密基地に案内させた」

 

「秘密基地って...まあこんなとこにスペース作ってたむろするなんて普通考えねえわな」

 

 テルは辺りを見渡して言った。

 仮にそう考えたとしても、実際に行動に移すのはひと握りだろう。そういう意味では尋常じゃない行動力だといえる。基地にするにあたって相当パイプ椅子を詰めて収納し直したのか、スナック菓子や各々の私物が運ばれたそこはかなりの広さがあった。

 

「それで? こんなとこにまで連れ込んでどうしようって?」

 

「そう警戒するなっての。わざわざ秘密基地の場所を教えたのは俺なりの歓迎と誠意のつもりだぜ?」

 

 翔一は一拍間を置いてテルに言った。

 

「なあ照吉、いやテル。俺たちとつるもうぜ」

 

 なんとなく予想のついていた返事にテルは無言のまま返す。

 

「まあ、もともと数を増やせねえかとは思ってたんだけどよ。こいつら二人に賭場を仕切らせるには限界があるし、俺も風見一派のリーダーとして風紀委員には面が割れちまってる。だから面白そうなやつで、なるべく頭の切れるやつが欲しかったところだ」

 

 つるむなら面白いやつ、それでいて頭が切れるかどうかは二の次といったところが翔一らしかった。

 

「それは、俺に風間一派に入れって言いてえのか? だったら断る。そいで次は俺の番」

 

 テルが頬を釣り上げて翔一を見た。

 

「俺のファミリーに入れよ。お前のその思い切りの良さ、こんな不良グループのトップで終わらせんのはもったいないぜ?」

 

「ファミリー?」

 

「まあ、これから俺が作る不良グループみたいなもんだよ。いま絶賛メンバー募集中。どう?」

 

「断るぜ。風見一派は俺が作ったグループ、そして俺はこいつらのリーダーだ。おいそれと看板下ろせるかよ」

 

 薄暗いステージ下で繰り広げられるのは単純な構図。お互いが相手を自分の下につかせようとしている。しかしこの状態が不毛なやり取りなのは百も承知といった様子で、どちらも相手を試すような目線を向けていた。

 

「どうあっても俺たちとつるむ気はねえんだな」

 

「そっちこそ、俺のファミリーに来る気はねえの?」

 

 テルと翔一はお互いを見て笑い合う。

 

「ねえな。俺は風だ。誰かの下につくなんてまっぴらごめんだぜ」

 

「こっちこそ、三人しかいねえシケた不良グループに入ってやる義理はないな」

 

 それなら答えは単純、屈服した側が下につく。そんな一触即発の空気が二人を包んだ。

 しかしその時、真上で部活動に励んでいた合唱部の歌声が急に止まった。それに気づいた翔一の表情に緊張が走る。代わりに歌い出したのはドナドナだ。

 

「...っ? 静かに!」

 

 翔一はテルの口を塞いだ。その表情からは先程までのテルに向けていた余裕は消えていた。つかさず横山と長島にアイコンタクトを送ると2人は灯りを消し、注意を張る。

 

(いきなりなんだってんだ?)

 

「合唱部の部長と示し合わせた非常事態の合図だ。外でなにかあったみてえだな」

 

 何が起きたのかわからないでいたテル。じっと動かないまま、翔一たちに習って外の様子に注意を向けた。

 

「風紀委員会だ。こちらで校則違反に該当する行為が横行していると生徒からの報告があった。これより体育館内を改めさせてもらう」 

 

「げ!? この声、よりにもよって風紀委員長が直に来やがった。あんにゃろう、さてはこの場所を嗅ぎつけた上で俺たちが来るのを待ち伏せてやがったな」

 

「どうする? 合唱部の部長が上手く応対しているが、あの様子じゃあこのままここに隠れていても時期に見つかる」

 

 翔一と長嶋のやり取りを聞いてテルの額に粘ついた、嫌な汗が浮かんだ。

 並盛中学の表側のボス、そして全生徒の頂点に君臨する絶対的な支配者。

 

「テル、この話はあとだ。収納の奥まで行けばステージの幕の裏側に出られる。ただどっちみち体育館の出入口まで行くんなら、今来てる風紀委員達を突っ切って行かなきゃいけねえ。一時休戦でどうだ?」

 

 声が聞こえるのは委員長ただひとり、しかし不良グループの摘発にたった一人で来るとは思えない。その他にも取り巻きがいることは容易に想像がついた。

 おそらくは他に数名、話の隙を見て逃げ出されないようにする意味合いで体育館の出入り口は完全に塞がれているだろう。

 

「そっか、なら俺にひとつ考えがある。多分この人数で突っ込んで強行突破するよりは安全だ」

 

 

 

 

 

 

 ステージの裏手からテルが出ていった。

 手に持った学生カバンには先程横山とのポーカーで勝った換金用のボールペンがたっぷり詰めてある。

 体育館の真ん中では風紀委員の腕章をつけた生徒が三人、今は合唱部の部長と思われる男子生徒となにやら話をしている。そして出入り口付近にも同じく三人、予想通り出入り口を塞ぐように並んで待機しているのが見えた。

 テルはそのまま出口に向かって歩いていき、何食わぬ顔で風紀員の前を素通りしようとすると、通り際に中心にいた1人がそれを呼び止めた。

 

「待て」

 

 その一言に一瞬、テルは狼狽えたが構わず歩みを進めた。その声質はステージ下で聞いていたものと同じ、恐らく彼が風紀委員長なのだろう。 

 テルは至って涼しげな顔で思う。

 

(超絶こえぇぇぇぇぇっ!!)

 

 横目で見ると長島程の身長がある上に、全身の筋肉が岩尾のように隆起している。オールバックで固められた黒髪は整髪用のジェルで威圧的な光沢を放ち、正規の制服ではない学ランと腕章に書かれた風紀委員長の文字がそのままその男が持つ並中での権力を示しているようだった。 

 

「ここにいる全員には風紀違反の嫌疑がかかっている。体育館内を改めるまでここから出ないでもらおう」

 

 そう言って風紀委員長の生徒がテルを止めようと肩を掴んだ瞬間、テルはその手を払って全力で出入口に向かって走った。

 

「止めろ! そいつを逃がすな!」

 

 すると案の定というべきか、体育館の外で待機していた風紀委員が出入口を塞ぎ、テルはあっけなく捕まった。両腕を捕まれ、振りほどこうと暴れた拍子に手からカバンが離れ中身のボールペンが床に散らばる。

 

「これはなんだ?」

 

 風紀委員長がボールペンを拾い上げると目を細める。

 

「報告にあった賭場で出回っているという換金用のボールペンだな。貴様これをどこで手に入れた?」

 

「.........」

 

 テルは何も答えず、表情を隠すように俯いている。

 

「いや、これだけの量だ。わざわざ問いはしない」

 

 

 

 

 風紀委員に連れていかれ、校舎の廊下を歩いていくテル。その逃げ道を塞ぐように数人の風紀委員が周りを囲んでいた。

 テルはふと後ろにいる風紀委員を確認した。

 

(数は全部で7人か、よしこれなら行ける)

 

 テルたちが歩く廊下は一本道だが、少し距離の離れたところには上の階や下の階に続く階段が正面にも後ろにもある。体育館のように逃げ道が1つしかない訳ではない。

 

(何より、体育館に立ち入られた状況とは違って連れて行かれている今なら不意をついて奇襲できる)

 

 テルの瞳が策謀に揺れて、口が三日月のような弧を描いて吊り上がる。

 突然、テルの後ろを塞いでいた風紀委員たちがいきなり何かに突き飛ばされたようにして先頭を歩いていた風紀委員に突っ込んだ。

 

「来たぜテル! 作戦通りだ!」

 

「よし、とっとと逃げんぞ!」

 

 そのままテルを連れて一撃離脱。すぐに風紀委員たちが後を追ってくるが、袋の鼠だった体育館とは違い、校舎の中ならいくらでも逃げ道はある。

 ここまでは作戦通り、しかしこのまま逃げ切れるかどうかは翔一の裁量に頼る他ない。なにせテルにとっては入学以降、一年以上通っていない学校の校舎だ。当時の記憶はおぼろげで単純に行ったことのない場所の方が多い。

 

「逃げ道はそっち任せにするしかねえんだ! ここまでお膳立てさせておいてあっさり捕まるとかはナシで頼むぞ!」

 

「大丈夫だ! このまま一気に下へ降りて校舎から出る! 学内からおさらばすりゃこっちのもんだぜ」

 

 風間一派三人の足にどうにかついていくテル。普段の運動不足が祟ってすでに呼吸は乱れ、両足は鉛のように重かった。そんな有様だったせいで左右の足がおかしな具合に交差すると、そのままもつれて前傾姿勢になる。

 

(あ、あぶねっ!)

 

 そのとき、下の階から階段を駆け上がるようにして風紀委員達が飛び出した。数は4名。

 

「構うな突っ込め!」

 

「っ!」

 

 駆け抜ける勢いをそのままに風見は飛び蹴りを、テルは半ば転んでいるに等しい動作でタックルでその壁を突破する。どうやら階段の下まで追っ手は来ているようだった。

 テル達は階段を降りることなくその階の廊下を直進する。

 

「どうする? 下に降りられないんじゃいつか追い込まれるぞ! この先の廊下はどうなってるんだ?」

 

「隣の校舎へ行く渡り廊下があるだけだ! こうなったら二手に分かれるぞ! 政と凛はこのまま行け。テルは俺について来い!」

 

「「ウス!」」

 

「二手に分かれるってどうするんだ? この廊下は一本道なんだろ?」

 

 教室に面した廊下はテルの言うとおり一本道。渡り廊下を除けば上の階に逃げる階段もあるが、校舎を出ないことにはいつか逃げ道はなくなってしまう。

 

「そんなもん、ここっきゃねーだろ!」

 

 翔一はテルの襟を掴んで強引に止まると、開け放った窓の淵に足をかけた。

 

「おいちょっと待てテメエまさか!」

 

「いっけえええええーっ!!」 

 

 掴んだ照吉もろとも、翔一は窓から中庭へ文字通り飛んだ。

 浮遊感に背筋がゾワリとするのを感じた頃には、もう地面が迫ってきている。

 

「へぶしっ!」

 

 そのまま地面に転がるようにしてどうにか衝撃をいなす。対して風見は膝のバネを上手く使って着地していた。

 

「馬鹿かテメエは死ぬかと思ったわ! 俺の縮んだ分の寿命返しやがれ!」

 

「これしか逃げ道がねぇーんだ。勘弁しろよ」

 

 翔一の手を借りて立ち上がるテル。しかし立ち上がった瞬間、周囲の様子を見て一気に血の気が引いた。

 大勢の生徒に周囲をぐるりと囲まれている。全員腕には風紀委員の腕章があった。

 

「あーあ、こりゃ見事に囲まれちまったな」

 

「おいおい嘘だろ。風紀委員っていったい何人いるんだ?」

 

「たしか全学年合わせて40ちょいとかか? この分だと、全員連れてきてるな」

 

「それだけ今回の摘発には我々も本気だということだ」

 

 風紀委員の一団が道を開けると委員長が悠々とした歩調で歩いてくると仁王立ちで腕を組んだ。

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