予めご了承の上、お読みください
「縮地!」
「臨兵闘者皆陣列在前 天理叶いて天人合一となれば天神地祇感応を成す」
土地がねじまがり、それを越えて、一人の貴族の服装をした者が夜の帳に包まれた朱雀大路を駆ける。それを、陰陽師が、
羅城門でとある男が悪に染まる数十分前。良香は、ただひたすらに、稀代の大陰陽師・安部晴明の術から逃げていた。
大前提を言うと、魔術の類いの勝負において、良香は絶対に、晴明に勝つことはできない。
片や、鵺の類いではないかと噂されるほどの力を持った陰陽師。
片や、仙術を少しかじった程度の弱小術師。
いくら、本人の実力のみが、勝負の分れ目ではないにしても、この差を埋めるには、八百万の神々の加護を、良香が一身に背負う必要すら、あるだろう。
しかし、此度の敵、晴明は、稲荷神の眷属の狐を母に持つともされている。稲荷神とは、嵯峨天皇の治世から信仰されるようになった神で、日本神道では、
良香に、運に頼って勝つことすらできないことを告げていたからだ。
つまり、現状における良香にとっての最善策は、逃げることなのだ。しかし、それですら
(あの陰陽師。どういう訳か、私の名前も目的も気付いている。もし羅城門の手前に罠が張られていたら、完全に詰みですね)
都良香の名も目的も、もしくは、事態に鬼以外の者が関わりだしたことすら、綱と金時は知らないことであろう。この男。明らかに良香について詳しすぎる。もし、華扇が羅生門にいることまで知っているのなら、良香と接触しに来たのと同時に、羅城門にも何かを仕掛けている可能性が高い。
(まぁ、それでも、このまま羅城門に向かうしか、私にできることは無いのですがね)
今から別の方向へ逃げても、目的が達成出来なくなり、ほんの少しの確率で、捕まるか、殺されるのが、少しだけ伸びるだけだ。
刹那だけ延長される自由か、極小であるだろう目的の成功の可能性に賭けるか、二つに一つ
どちらを選ぶかなんて、決まっている。
「絶対に腕をあなたに返しますからね。華扇!」
地面を蹴る足によりいっそうの力をかける。ここは朱雀大路。羅城門までは一本道。逃げ切れるか、死ぬか。その二択。前者を追い求め、良香は南へ駆ける。
しかし、その努力も虚しく、良香と晴明との距離は縮まってしまう。そして、ついに晴明の術の射程圏内に入ってしまったようで、
「ノウマク・サンマンダ・バサラダン・センダンマカロシャダヤ・ウンタラタ・カンマン——慈救咒・喼急如律令」
先ほど、妖怪を懲らしめた時に晴明が使った不動尊の炎。ただし、その時の一字咒より威力の高い慈救咒。
火炎の流れが、咄嗟に横へ回避した良香の衣と髪を微かに焦がす。直後、左手の指に、熱い痛みが走る。どうやら、完全には避けきれなかったらしい。見ると、左手から取り落した松明が、水だまりに落ちて、その火が消える。一瞬、華扇の腕をとり落としそうになるが、なんとかそれを避ける。
良香は、転げると同時に、衣に付いた炎を、水だまりを用いて素早く消すと、再び羅城門へ走り出す。いや、走り出そうとした。
「ちはやふる 神代のからす 告げさして いつしかはらん 本のウンケン 七難即滅 七里即星 喼急如律令」
透明な壁があった。結界の呪。結界は良香の四方、そして、上すらも取り囲み、これ以上の逃亡を許しはしなかった。
「やっと、捕まえましたよ。これであなたと会話ができます」
後ろから声がする。あの陰陽師のものだ。もはや、なす術はない。良香が、全てを諦めて振り返った丁度その時、再び声がした。
「あなたに不動尊の火炎が効かなかった所をみるに、どうやらあなたは不浄な存在ではないらしい。少し安心しましたよ」
意味が分からなかった。
結界の外側で、先ほどまで自分を追いかけてきた男が微笑みかけてきている。狐につままれた気分というのは、この時のためにある言葉だろう。
晴明は、事情を説明すべく、紙を一枚取り出すと、それを忽ち、二本の尾をもった狐の妖に変えてしまった。
「この子は、私の式神でしてね、ずっと羅城門であなたとあの鬼の様子を見張っていたんです。だから、あの鬼にもはや危険がないこと位、とっくに知っていました。私があなたを追ったのは、寧ろあなたを怪しいと思ったからです」
よくよく、思い出せば、この式神とよく似た狐を羅城門で見た気がする。良香は、事態が好転していることに安堵しつつも、この陰陽師が次に何を言い出すか分からず、その眉間には、深いしわがある。
その様子を見て、晴明は苦笑する。
「あなたが、もし、邪仙と呼ばれる類いの仙人ならば、事態は深刻でしたからね。鬼を使役している邪仙なんて、人間からしてみれば、たまったものではないです」
邪仙とは、天に仙人として認められず、仙術のみを会得した仙人のことである。「邪」の字を使っていることもあって悪とみられがちだが、実際、進んで悪を為そうという邪仙は少ない。良香の知り合いにも、一人だけ邪仙がいるが、自らの目的のためには家族さえ欺くが、それ以外のことで悪を為したという噂は聴かない。陰陽師もそれ自体が捨て置くことができないほど危険だとは思っていないだろう。
だが、そこに鬼という単語が加わるだけで、事態は急変する。
いつ邪仙が鬼に人の里を襲わせるか、分からない。自分の目的のために手段を選ばないのが邪仙なら、鬼という興味のために人が何人死のうと問題だと思わないだろう。
晴明が危惧していたのは、そういう事だ。
良香が、話の内容を理解したのを見て、陰陽師はさらに口を開く。
「つい先ほど、私があなたに放った術は、あらゆる不浄を払う不動尊の火炎です。その炎が、あなたにほとんど効かなかったということはあなたは邪仙ではないという印です。もうこれ以上、私があなたと戦う理由はありませんよ」
とはいえ、……と、陰陽師が続ける。
「急に追い回されて、困惑したことでしょう。あまり時間もありませんが、文句があれば、お聴きしますよ」
良香がそう言われた直後、結界の中で叫び声がして、
「あなたの詠唱、漢字が難しすぎるんですよ」
作者の気持ちを代弁した良香の叫びが、結界によって少しばかり音質を変えて、朱雀大路に響き渡る。
「あなたの詠唱、pixivの方だとカタカナでしか載ってないやつありますけど、それ以外の所では元々の漢字を一文字一文字、地道に打ったんですからね。しかも『きゅうきゅうにょりつりょう』の最初の『きゅう』を口編に急って漢字にするのどれだけ時間が掛かったと思います? これ不動尊の術の詠唱の元ネタにした子子子子子子子様著の『魔術破り◯リベンジ・マギア』だと、普通に『急急如律令』って載ってるんですよ。それをいちいち結界の術の詠唱の元ネタである助野嘉昭様作『双◯の陰陽師』の方の字に直して書くなんて馬鹿げてますよ」
「…………」
華扇が相手であれば、鋭いツッコミがとんでくるところだが、メタい会話をしたことがない陰陽師は、ただ唖然とするだけで、何も言い返さない。その代わり、これから自分がしようとしていることを、良香に説明することにした。
「これよりあなたに、妖から身を隠す術を施します。それ以降は、喋ってくださるな。妖の類いに見つかるかも知れません」
そういうと、晴明は御札を数枚取り出して、術式発動の準備をする。
その様子を見て、急いで言いたいことを言おうと思い、良香は昔に晴明がしてくれたこと合わせ、礼の言葉を述べる。
「此度の協力、そして、我が友の怒りを収めて頂いたこと。誠に有り難く存じます。この良香、此度の御恩、千歳経とうと決して忘れません」
良香の発言を晴明は無言をもって受け取る。
数秒後、陰陽師の足元が、四縦五横の形に妖しく輝く。良香を妖怪から守る術式の準備が完了したのだろう。良香が反応しようとすると、晴明は人差し指を唇にあてて、良香が口を開くのを防ぐ。どうやら、もう声をだすことは許されないようだ。
「臨める兵 闘う者 皆 陣列ねて 前を行く」
術式の発動のため、晴明は真言を唱え、手を奇妙な形に九回組む。その手の組み方は、良香にも見覚えがあった。
(あれは確か、九字護身法)
九字護身法。真言密教では、『臨兵闘者皆陣烈在前』という敵を破る呪として伝わっているが、此度、晴明が用いたのは天台密教に伝わる、行者が神山に入って登るための呪。つまり、ここではない何処かへ行くための呪だ。晴明は幼い時に、師である賀茂忠行が、ここ朱雀大路で百鬼夜行に出くわした時に、この術をもって同行していた晴明たちを異層へ移したのを見たことがある。これを使えば、大きな声を出さない限り、妖怪からも、人間からも見つからないだろう。
自らに術が掛かったのを確認すると、良香は再び礼を述べようとする。
(あっ、もう喋ることはできないんでしたね)
すんでの所で危険に気が付いた良香は、深々と一礼すると、羅城門へ駆けて行った。
その様子を見た晴明は、袖から数枚の霊符を取り出し、道の隠れた場所に貼り付ける。
(これで、少しは追手をごまかすことができるでしょう)
そう思って、周りを見渡すと、地面に微かに穴が開いているのを見つけた。
「あなたも、あまり余計なことをしないで下さいね」
その呟きが、誰かに届くことはなかった。
晴明と別れた良香は、ただひたすらに羅城門へ駆けていた。ただでさえ、先ほどの戦闘で松明を落として真っ暗なのに、変装のために選んだ服装は、走るのには適していない。転び、転んで、また転び、何度か華扇の腕を落としそうになり、その度に腕に込める力を強くする。それでも一言も発せず、門を目指す。
最早、衣服の泥にまみれていない部分を見つける方が難しい。陰陽師の攻撃よって焼きただれ、その上から、泥やら水やらを塗り込まれ、今や衣服は、十二単(じゅうにひとえ)のような重さになっている。
駆ける、走る、と書いてはいるが、それらの動作は、もうその体裁をなしていなかった。
それでも、だからこそ、まっすぐよりやや上の方向に明かりを見つけた時、良香の心は、衣の重さを無視して跳ね踊った。星ではない。雲は厚く、星などが見える気配はない。つまり、あれは、
(羅城門!)
命を賭して、歩んだ道の最終点がそこにあった。良香は、最後の力を振り絞って近づき、声を上げる。
「かせーん! あなたの腕を取り返してきましたよ~」
その叫びが遥か異層から良香を元の世界へ連れ戻す。その瞬間、
門から出てきた老婆を相手に追い剥ぎを行った盗人の視界、門から漏れ出す老婆が持っていた微かな明かりを光源とした視界に、急に人間の姿が映る。
「きゃ────────────」
そのとき、盗人の目に映ったのは、衣の重みで受け身がとれず、頭から倒れた人間と、高価そうな木箱。盗人の行動は決まっていた。
「高価そうな木箱だな、
泥だらけの肉塊が、必死に盗人に足にしがみつく。
「やめてください。それだけは」
肉塊の懇願を、盗人はそれを蹴り倒すことで返答し、再び夜の帳を駆けていく。
そして、瀕死と呼べるほど疲弊していた良香には、その蹴りが決定的な致命傷になったのだった。
とある歌人について思考を始めた直後、聴きなれた声とその悲鳴が、華扇の耳に届いた。
その声を聴いて、華扇は迷わず梯子を飛び降りる。そこには、
木箱を持って立ち去る人間と、泥にまみれ、倒れている人間の姿があった。
「駄目です。その木箱だけは、……」
倒れている人間から、聴きなれた声がする。あれが良香か。周囲の暗さと、本人が泥塗れなのもあって、華扇には、その姿はよく見て取れない。ただ、良香が今、すぐに対処しなければ死んでしまうほど疲弊していることだけが、華扇には分かった。
華扇は、持っていた酒をありったけ百薬升に注ぐと、良香の方に歩みより、そして、都の結界に触れる。
都を妖から守る結界が、鬼の侵入を阻む。良香を守るための華扇の歩みを、都との境界は無慈悲に弾く。ただ、
(ここで引くわけにはいかないでしょう)
無理矢理結界の拒絶を押しのけ、華扇はついに都に入る。結界は、さらに鬼を弾こうと力を込めるが、鬼の歩みを止められない。それを見て、良香は申し訳なさそうに笑う。
「すみません。最後の最後でミスしてしまって。今ならまだあの盗人に追いつけますから、早く腕を……」
その発言を無視し、華扇は、升を良香に渡す。
「これは……?」
表情はよく見えないが、華扇の目の前から疑問の声が生じる。
「これは、鬼の百薬升です。飲めば鬼になりますが、今あなたが負っている傷を治せます。これを飲んでください。そして、鬼としてだろうが、仙人としてだろうが、共に生の道を歩みましょう」
華扇は正直に伝える。そして思う。
(もう、否定するのは止めよう。私はこの人間に生きてほしい。良香を鬼にしてでも生きて、共に歩んでほしい。そう思っています)
少なくとも、自らの腕より優先するほどには。
それなのに、
そんな、華扇の願いを良香は、静かにはねのけた。
「それを飲めば、私は鬼になってしまうのでしょう? ならば、それを飲むことは出来ません」
飲まなければどうなるかも分かっているだろうに、良香は頑なに酒を拒む。
「…………」
華扇の耳から、一切の音が消える。
ついさっき、吐き気をもよおした恐怖が現実の物になろうとしている。その事実が、華扇の感覚を締め付ける。
華扇の沈黙を、良香は、自分の考えていることが分かっていないのだと理解した。それを説明するために、良香はさらに口を開く。
「私の理念は天道と共にある!」
力を振り絞って声をだす。
「ここで酒を飲んで生き延びても、それは私の理念に反します。だから、飲むことは出来ません。私があなたと話したのは、全てあなたを鬼の道から助け出すためです。あなたと共に鬼の道へ堕ちるためではありません」
良香は、華扇と初めて会った時のことを思い出す。最初に会った時は、こちらも警戒してあまり喋ることが出来なかった。本格的に喋るようになったのは、その次に会った時からだった。そして、一週間の間、共に語り合い、お互いに歌のことについて語り合い、それはそれは楽しい一週間だった。今までは壁を隔てての会話で、今は羅生門から僅かに漏れ出す明かりだけでは、お互いに顔を見ることは出来ない。顔も知らない誰かにここまで入れ込むのは、華扇も良香も、初めてのことだ。
「もう腕を取り返すことは出来ないでしょう。だから、あなたは逃げて下さい。逃げて、清水でもって口を洗い、人間の血の味を忘れて下さい。そして修行して、仙人となり、今まで犯してきた罪の分だけ、人に正しき道を示して下さい。それが贖罪となります」
盗人が走る音は、とっくに遠ざかっている。平時ならともかく、結界に弾かれている華扇と、力が残っていない良香では、追いつくことは出来ないだろう。
ここで仙人以外の道を示せないのは、自分の無知が故だと良香は考えている。
「でも、それでは……」
一つしかない手に升をもったまま、華扇が戸惑う。どうしても良香を助けたいのだ。
だが、戸惑う時間は、もうこの二人には残されていなかった。
結界が鬼の侵入を拒むための力を強め、ついに華扇を、羅城門の外側まで弾く。華扇は、ノーバウンドで数メートル弾かれ、左手の升から、酒が零れる。もう、華扇は酒を持っていない。良香の傷を治す手段は、完全に存在しない。
「結界が反応したぞ! 鬼は羅城門にいるぞ! であえ~であえ~」
遠くから声がする。もう、華扇はここにいられない。
「生きて下さい。華扇。そして、罪を償い、再び、日の本を歩んでください」
その言葉を最後に、良香は動かなくなる。もう一度、結界の中に入ることはできない。入ったとしても、もう良香を治す術はない。そして、新たにその術を探そうにも、その時間もない。
華扇が為せることはもう何もない。
華扇にはもう、逃げだすことしかできなかった。
満月の夜なのに、雲の所為で、明かり一つない夜の話である。
華扇は、ただ一心不乱に逃げていた。真っ暗で何も見えないが、足に当たった物を全て蹴り飛ばしているので、転ぶ心配はない。
腕は取り戻せていない。良香を助けることは出来なかった。
(鬼の副将と名乗っておきながら、何という失態ですか?)
深い自責の念が華扇を襲う。大江山で綱達に襲われた時も、今回も結局、何も出来ていない。その割に、精神的な傷は、彼女の考えを根幹から変えてしまうほどなのだから、割に合わない。
(もう鬼には戻れない)
腕をもった盗人を無視して、良香を救いに行った時点で、鬼の『茨木童子』は死んだ。今ここにいるのは、鬼でも人でもない、ただの『華扇』だ。
元鬼は、この時、今までの自らの価値観を全て捨て去った。
華扇は、この時、唯一友と呼べる人間の言葉を思い出した。
仙人を目指す少女は、この時、高らかに誓った。
「仙人になる!」と。
月光を遮る雲はことごとく消え去り、光が少女の道を明るく照らしていた。
終章・羅生門の仙人
華扇が回想をし終えると、雨音はさらに強くなっていた。
下を見ると、雨宿りをしていた下人が、杣売りの罪を糾弾している。いや、人間の悪は当然だと諭しているようだった。
(今までの私であれば、放っておくか、殺しておく所ですが、……)
鬼だったころの華扇はもう心の奥底にしかいなかった。あれから毎日、清水で口を洗って血の味を忘れ、仙人の修行も、数千数万とこなしてきた。今、人間にかける思いは、慈悲に似たそれだ。
(悪を糾弾するつもりはありませんし、私にはその資格はありません。でも、それを当然というのは間違っています)
かつて、自らの理念を守り、治癒の酒を拒んで消えていった親友のことを思う。そして、その言葉を思い出す。
(私は人間達に道を示す。それが私の贖罪です)
その時、羅城門に赤ん坊の泣き声が響く。杣売り達が、驚いてあたりを探すと、門の裏に捨て子を見つけた。先日、華扇が拾った赤ん坊だ。きっと、赤ん坊も、仙人に育てられるより、人に拾われるほうがいいだろう。
下人は、赤ん坊の親が残した財を盗もうとする。杣売りが糾弾するが、下人はそれを無視して、羅城門から逃げ出して、大雨の中を走り抜ける。その背中は、昔、この門で悪に染まった男と似ていた。
残された杣売りは、しばらくすると旅法師にこう切り出す。
「俺にゃあ子供が七人いる。七人育てるも八人育てるも変わんねえ」
雨が止む。杣売りは、赤ん坊を優しく抱えると、堂々と羅城門から立ち去る。
(そう、これが人間だ。悪をなし、それ以上の善をなし、歩んでいく。それこそが人間だ。まるで)
かつて、鬼としてあらゆる罪を犯し、贖罪に人間を助け、天道と共に歩もうとしている華扇のように、
雨水が、土が、木が、死体の悪臭を退け、良い香りを運んでくる。
華扇は、一つ、歌を歌う。
「時流れて、歌は茨木の香を変える」
—時は流れて、歌は茨の木が花咲いてその香りを変えるようにこの茨木華扇の考えを変えてしまった—
華扇と旅法師は、杣売りの後ろ姿希望に満ちた目で、いつまでも見つめていた。
遥か未来、忘れられた者の楽園・幻想郷で片腕有角の仙人・茨木華扇は、妖怪の賢者・八雲紫に宣言する。
「私の理念は天道と共にある!」
そう、あの歌人と共に (終わり)
ではない。
少し、都良香について、話をしよう。
前提として、良香は平安時代に活躍した歌人だ。古今和歌集にも、その名を連ねている。ただ一つ、おかしいのは、
良香が活躍した時代と、大江山の鬼退治の時代では、百二十年もの差がある。
ということだ。