戦姫絶唱シンフォギアーNo name monsterー   作:ハウスダストドラゴン

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ノイズとの戦闘を終えて早一日。

私と雪音さんは廃マンションにいた。

ここに来てから暫く経ったが、私の頭の中はずっと同じことを考えていた。

 

(私は確かに死んだ筈......あれは夢などでは決してなかった。証拠に私の胸の傷はまだ完治していない)

 

だが、完治していないにせよ、回復速度が異常なのだ。

朝には胸の一部が抉れている程だった傷は、もはや切り傷と大差ない程に治っている。

 

(考えられるとすればギア擬きだけですが......)

 

聖遺物が臓器や肉体を完全修復できるなど聞いたことが無い。

だがフィーネは聖遺物が完全に身体と溶け合っていると言っていた。

一度死んで以来、ギア擬きの出力が上がっていることもある。

雪音さんから周りに他の何かがあったという話は聞いていないし、間違いないだろう。

 

「なぁ......」

 

突如聞こえた雪音さんのその声に、私ら思考をシャットダウンする。

 

「どうしました?」

 

「あたしのせいで関係ない奴らまで巻き込まれた。そのことをようやく理解したんだ。前までのあたしは目的に囚われて周りが見えていなかった。その目的すら間違ってたんだから、ほんと笑えてくるよな......」

 

いつもの勝ち気な態度とは異なり、今の雪音さんはとても弱々しかった。

 

「お前の友達も、あたしの起動したソロモンの杖のせいで死んじまったんだろ......?この罪は死んででも償わなきゃいけないよな......」

 

「確かに貴女の罪は重い。だが、死ぬのは違う。償い方が分からないのなら、一生を賭けてでも償い方を探し続ければいい」

 

「厳しいんだな......」

 

「ここで『貴女に罪は無い』などと言っても貴女は納得しないでしょう。それにこれは紛れもない私の本心です」

 

「あぁ......そうだな。この罪はあたしが一生背負って行かなければならねぇもんだ」

 

「ならば......貴女が答えを得るまで、私は共にいるとしますよ」

 

「ハハッ。一生見つかんなかったらどうすんだよ」

 

「別に構いませんよ。フィーネとケリがつけば後にやることもありませんし。寧ろ雪音さんといた方が楽しそうです」

 

「クリスでいい。さん付けもいらねぇ。硬っ苦しいのは嫌いなんだ」

 

「それなら私も刹那と呼んでください。いつまでも『お前』じゃあんまりですよ」

 

雪音さん......いや、クリスは少し逡巡した後、こちらを真っ直ぐ見据える。

 

「分かった。よろしくな。刹那」

 

「えぇ、こちらこそ。クリス」

 

ガチャリという音がした。

恐らくこの部屋の扉だろう。

クリスは壁に背をつけ、敵が来ても対応できるようにしている。

私も構えをとり、警戒態勢に入る。

足音は少しずつこちらに近づいてくる。

 

「ほらよ」

 

そこにいたのは赤いシャツを来た大男......風鳴 弦十郎だった。

 

「っ!」

 

クリスは後ろに大きく下がり、司令を睨めつける。

 

「応援は連れてきていない。俺一人だ」

 

「貴方に護衛は必要ないでしょう......」

 

「こら刹那君。安心させようとしているのに余計な事を言うな」

 

「で?国のお偉いさんがあたしに何の用だ」

 

「君の保護を命じられたのは、もう俺一人になってしまったからな。ほら、差し入れだ」

 

司令はクリスにビニール袋を差し出す。

 

 

「っ!?」

 

「この人は毒なんか盛りませんよ。そんなことするぐらいなら自分で戦ったほうが速いでしょうから。まぁ、一応私が毒味をしても構いませんが」

 

「わかった......お前がそこまで言うなら......」

 

クリスは恐る恐るといった様子でアンパンを食べ始める。

 

「随分と信頼しているんだな」

 

「うるせぇ!あんたには関係ないだろ!」

 

「それと、刹那君のクレジットを持ってきた」

 

「ありがとうございます。少し前まで囚われの身でして。お金が無くて何も買えなかったところです」

 

私は司令から買い物に使うデバイスを受け取る。

 

「で?結局あんたは何がしたいんだ」

 

「俺がやりたいのは、君を救うことだ」

 

「っ!?」

 

「引き受けた仕事をやり遂げるのは大人の務めだからな」

 

「ふん!大人の務めと来たか!余計な事以外は、いつも何もしてくれない大人が偉そうに!それにこちとら答えはもう出てるんだよ!」

 

クリスは空になった牛乳パックを投げ捨て、私を抱えて走り出し、窓を突き破る。

 

Killter Ichaival tron......

 

クリスはそのままギアを纏い、私と共に街に消えてゆく。

 

 

 

そうして夜......

街には警報と銃声が鳴り響いていた。

 

「っ!」

 

「クリス!まだ行けますか!?」

 

「ったりめーだ!このぐらいでへばる程あたしはヤワじゃねぇ!」

 

クリスのガトリングでノイズを殲滅し、うち漏らしを私が潰して行く。

そう言った動きを続けていると、視界の端に見知った黄色のギアが映る。

 

「刹那さん!やっぱり刹那さんだ!無事だったんですね!」

 

「気持ちは嬉しいですが感動の再開をしている余裕はありませんよ」

 

「分かりました!ならせめて、手伝わせてください!」

 

「何を馬鹿な事を!あたし達は敵同士だぞ!?」

 

「クリス。今は敵味方に拘っている時ではありません」

 

「クソッ!わかったよ!」

 

立花さんは右腕にエネルギーを集中させ、縦横無尽にノイズよ間を潜り抜け、一気に殲滅した。

以前とはまるで違う動きと出力に、思わず目を奪われる。

 

(これは......私はもう追い抜かれてしまったかもしれませんね)

 

立花さんはそのまま地面に拳をぶつけ、地面の崩落により、巨大ノイズを怯ませる。

私はそれを合図に私は巨大ノイズ目掛けて走り出す。

全力を拳に乗せ、そのまま放つ。

最近上がったギア擬きの出力は、いとも容易く巨大ノイズを貫き炭化させる。

 

「ふん!今回は仕方なく協力してやっただけだ!じゃあな!」

 

クリスはギアを纏ったまま立花さんから逃げるように去っていく。

 

「私はまだ彼女と居るのでもう暫く帰れません

戦場で会うことがあったらできる限り協力します」

 

私はそれだけ言い残し、直ぐにクリスを追いかける。

その場には、立花さんだけが取り残された。

 




書くことが無ぇ!

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