戦姫絶唱シンフォギアーNo name monsterー   作:ハウスダストドラゴン

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八千八声 啼いて血を吐く 時鳥

「うっ......うっ......うっ......」

 

暗い夜に、立花さんの嗚咽だけが聞こえる。

 

「クリス......」

 

彼女の名を呟く。

嗚呼、私はまた大切な物を失ったのか。

それも二年前と同じく何も出来ずに。

 

「そんな......せっかく仲良くなれたのに......こんなの嫌だよ......嘘だよ......」

 

立花さんのすすり泣く声が聞こえて来るが、私の頭にあるのはフィーネへの燃えるような憎しみだけだった。

彼女は夢ができたと言っていた。

その夢が、目の前の女によって潰えたのだ。

 

「貴女はどれだけ私から奪えば気が済む!」

 

「ふん。人間など羽虫のような物だ。何人死のうが変わらんだろう」

 

「巫山戯るな!!」

 

痛みを無視して立ち上がる。

身体のあちこちから悲鳴が上がるが、そんなことはどうでも良かった。

 

「疾ッ!」

 

燃えたぎる黒い感情を拳に乗せ振り下ろす。

 

「データより速いだと!?」

 

フィーネは私の拳を腕をクロスさせてガードするが、ネフシュタンの腕部装甲にヒビが入る。

直ぐに次撃に入ろうとするが、身体に力が入らない。

直後に立っていることすら困難になり、膝をついてしまう。

 

「ふん。万全な状態ならば脅威となったかもしれないな」

 

フィーネは破損したネフシュタンを再生させ、私に鞭を振るう。

その一撃は私の腹部に直撃し、吹き飛ばされる。

 

「カハッ......」

 

フィーネは高笑いをしながら私の身体に鞭振るい続ける。

 

「もっとたくさん話したかった......ケンカすることも、今より仲良くなることも出来ないんだよ......!クリスちゃん、夢があるって......でも私、クリスちゃんの夢聞けてないままだよ...... 」

 

気を抜けば気絶してしまいそうな程の痛みの中、うわ言のように呟き続ける立花さんの姿が見える。

 

次第に音も遠ざかって行き、私はそのまま意識を落とした。

 

 

 

凄まじい衝撃で目を覚ます。

 

「痛ッ......!」

 

蒼い光が見えた気がした。

霞む視界が捉えたのは、全身が漆黒に染まった、シルエットで辛うじて立花さんだと判別できる者と、カ・ディンギルへと飛び立つ翼さんだった。

だが、鞭が翼さんの行く手を阻み、翼さんの身体は落下を始める。

手を伸ばそうとするが、相変わらず身体は動かない。

だが翼さんはもう一度空中で剣を構える。

その剣に炎を纏わせ、カ・ディンギルの一部を足場とし、飛び立つ。

フィーネは鞭を振るうが、その全てを振り切る速度で翼さんは上昇して行く。

 

「立花あああああ!!」

 

炎を纏ったその身は、剣にも見え、鳥にも見えた。

翼さんはカ・ディンギルへと消えていき、カ・ディンギルが大爆発を起こす。

 

「ああっ!?私の願いは、またも!?」

 

破壊されたカ・ディンギルの前で、立花さんのギアが解除される。

 

「あ......あ......翼さん......?」

 

立花さんの悲痛な声が聞こえる。

クリスに次いで翼さんまでも失ってしまったのか?

フィーネが立花さんに近づいて行く。

このまま立花さんまで殺されてしまったら、私には何が残る?

あの太陽のような笑顔を守りたい。

これ以上フィーネに私の大切な物を奪われて良いのか?

良いはずが無い。

手を伸ばせ、フィーネを止めろ。

動け、動け動け動け!

 

「どこまでも忌々しい!月の破壊はバラルの呪詛を解くと同時に重力崩壊を引き起こす。

惑星規模の天変地異に人類は恐怖し...... そして聖遺物の力を振るう私の元に帰順するはずであった!

痛みだけが人の心を繋ぐ絆! たった一つの真実なのに!」

 

フィーネが立花さんに手を振り下ろそうとする。

このままでは立花さんも死んでしまうだろう。

血反吐を吐いてでも良い。

幾ら痛くても良い。

まるで意思に応えない身体にもう一度動けと命ずる。

心臓の鼓動が五月蝿い。

身体中の血液が沸騰しそうな程熱い。

口の中に鉄の味が広がる。

もう何も奪わせてなるものか。

(力を貸せ!ギア擬き!)

 

 

 

動かない筈の身体が、動いた。

いつもより遥かに加速した身体はフィーネを捉え、振り下ろされた鞭を止めて見せる。

 

「なっ!?どうなっている!?貴様はもう動けなかった筈だ!!それにこの出力はいったい!?」

 

身体が黒い光に包まれる。

ガントレットの感触が消える。

ガントレットはロングコートとなり身体に纏わり、掌の中には鍔が無く、刀身から柄まで真っ黒な一振りの刀が生成された。

傷は黒い光に包まれ、ほぼ全てが完治していた。

 

ふと、八千八声 啼いて血を吐く ホトトギス そんな詞が頭に浮かんだ。

そうだ、私は血反吐を吐こうとも大切な物を守ろうと叫び続ける。

ならば、この力の名は......

 

「抜刀ッ!時鳥(ほととぎす)ッ!」

 

私は刀を振り抜き、フィーネの肌を切り裂く。

傷そのものは直ぐに完治するが、フィーネは困惑を隠せない様子だ。

 

「まさか......!?今までは"起動すらしていなかった"と言うのかッ!?」

 

「疾ッ!」

 

先程とは打って変わって隙だらけのフィーネに切りかかる。

横薙ぎに放った斬撃はフィーネの腹部を捉え、深く切り裂く。

しかしフィーネは少しづつ再生を始める。

幾ら出力が上がったとは言え、このままではジリ貧だろう。

 

「立花さん!取り敢えず二人で連携して突破口を探しますよ!」

 

「でも......もう何の為に戦えばいいのか......」

 

立花さんは完全に戦意を喪失していた。

クリスに続いて翼さんまでも失ったのだ。

無理もないだろう。

 

「ですがそれでは......」

 

そんな時、歌が聞こえた。

 

『仰ぎ見よ太陽を よろずの愛を学べ』

 

「あ......」

 

一瞬、立花さんの目に光が灯る。

 

『朝な夕なに声高く 調べと共に強く生きよ』

 

「なんだこれは?」

 

再生が終了したフィーネが辺りを見回す。

 

『遥かな未来の果て 例え涙しても 誉れ胸を張る乙女よ 信ず夢を歌にして』

 

「何処から聞こえてくる?この不快な......歌......歌、だとッ!?」

 

「これは......リディアンの校歌?」

 

ならば、少なくとも生徒達の一部は避難に成功しているのだろう。

 

「聞こえる......皆の歌が......」

 

暗かった空に、光が見えた。

夜が明けたのだろう。

 

「良かった。私を支えてくれてる皆はいつだって傍に......皆が歌ってるんだ......だからまだ歌える。頑張れる!戦えるッ!」

 

「ならば共に行きましょう。立花さん」

 

立花さんの身体が凄まじい光を放つ。

 

「なっ!?まだ戦えるだと? 何を支えに立ち上がる? 何を握って力と変える?

鳴り渡る不快な歌の仕業か? そうだ、お前が纏っている物は何だ?

心は確かに折り砕いたはず...... なのに、何を纏っている? それは私が作った物か?

お前が纏うそれは一体何だッ!? 何なのだッ!?」

 

「そんなの......決まっているでしょう。フィーネ」

 

「っ!」

 

空に三本の光の柱がたち昇った。

 

「シンフォギアアアアアアアアアアア!!!」

 

その背中に美しい翼を生やした三人の奏者が、そこに居た。

 




書くことねェ......

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