戦姫絶唱シンフォギアーNo name monsterー 作:ハウスダストドラゴン
翼さんは立花さんの頬を叩いた後、無言で本部へと帰って行った。
「翼さん......泣いてました」
立花さんは落ち込んだようにそう言う。
「えぇ。ですが今回は立花さんに非がある」
私は少し語気を強めそう言う。
「でも!私は翼さんの力になりたかっただけで......」
「では......そうですね。ある日君の大切な人......例えば家族や親友が亡くなってしまったとしましょう。それでその後にその人と同じようなことが出来る人がいきなり現れて、『その人の代わりになる』と言い出す訳です。自分にとって、その大切だった誰かに代わりなど居るはずがないのに......今回貴女がしたのことはつまりそういうことですよ」
私がそう言うと、立花さんは何かを思い浮かべるような仕草をし、やがて後悔と悲しみ等色々な感情が入り交じった顔をする。
「そんな......私はなんて事を......翼さんになんて謝ったらいいか......」
「してしまった事を悔やんでもどうにもなりません。謝罪も必要ですが、大事なのはこれからの行動でしょう。今回の失敗を活かし、翼さんとの距離を縮める努力を怠らないことでしょう」
「分かりました。私、頑張ります!」
一月後、あれから立花さんは翼さんと打ち解けようと頑張っているようだが、全てが空回りに終わっているらしい。
あれ以降、私は相談役のようになっており、色々な話を聞かせてくれるようになった。
親友に嘘を吐かなければならないことや、翼さんと打ち解けられないことなど。
そのせいか、ここ一週間程はストレスも増えてきているようで、笑顔も何処かぎこちない。
だが、今日は少し機嫌が良さそうで安心した。
「立花さん。何かいい事でもあったんですか?」
「ええ!親友と一緒にこと座流星群を見る約束をしたんです!えへへ......楽しみだなぁ......」
「こと座流星群ですか......星はあまり見ないのですが......たまには私も見てみましょうかね......」
「じゃあ刹那さんも一緒に見ますか!?」
「それは遠慮しておきます。親友さんとの約束なのでしょう?私などが割り込むのは野暮ですよ」
ここひと月は会う度にしている他愛のない話。
そんな日常も悪くない気がしてきている。
ノイズへの憎しみを忘れた訳ではないが、こんな日常を、太陽のように笑うこの少女を、守りたいと思った。
次の日、本部から招集のかかった私は二課に来ていた。
「遅くなりましたー。すみません......」
そう言って最後に入室してきた立花さんは謝罪する。
「では、全員揃ったところで仲良しミーティングを始めましょ」
了子さんがいつもの調子でそう切り出し、ミーティングが始まった。
ノイズの発生が国連での議題に上がったのは十三年前だが、観測そのものは世界中に太古の昔からあったこと。
ノイズの発生率は決して高くはなく、ここ最近の発生件数は異常であり、さらに発生地点の中心がリディアンの真上であることから、そこに何らかの作為が働いていると考えられることなどを説明された。
その説明を受け、私は一つの可能性に辿り着く。
「作為が働いていると言うのなら、その狙いはデュランダルでしょうか?」
「刹那さん。デュランダルって......?」
「デュランダル。ここより更に下層のアビスと呼ばれる最深部に保管され、日本政府の管理下にて二課が研究している完全聖遺物です」
私に台詞を取られ、了子さんが少しムスッとしていたが、気にせず話を続ける。
「翼さんの天羽々斬や立花さんの胸のガングニールは奏者の歌によってシンフォギアとして再構成しない限りその力を発揮出来ないのですが、完全聖遺物は一度起動すれば常時100%の力を発揮し、奏者以外の人間も使用できる可能性があるとの研究成果が出ています」
「それが!ワタクシの提唱した櫻井理論!だけど完全聖遺物の起動にはそれ相応のフォニックゲイン値が必要なのよね」
了子さんが被せるようにそう言ってくる。
「ん?ん〜......?」
立花さんは頭を悩ませている。
どうやら理解する事は難しかったらしい。
私は一通り話の区切りが着いたので、弦十郎に鍛錬場にいくと告げ、その場を後にする。
そして数日後......
こと座流星群が見られると言う日。
放課後、窓の外の夕焼けを眺めながら、どこで星を見ようかと頭を悩ませていたところ、二課本部から通信が来る。
「刹那です」
『響です』
どうやら同時に立花さんにも連絡を取っているらしい。
『ノイズの出現パターンを検知した。翼にはもう現場に向かって貰っている。二人も現場に急行してくれ』
「立花さんは親友との約束があるのでしょう?今回はそちらを優先してください。私と翼さんだけでも事足ります」
『刹那さんや翼さんが頑張ってるのに私だけ遊んでいる事なんて出来ません。私も行きます』
『すまないな......響君』
『いえいえそんな!弦十郎さんが気にする事はありませんってば!』
「そういう事なら分かりました。今回も宜しくお願いします」
『では刹那君は住宅地へ、響君は駅に向かってくれ』
「『了解しました!』」
私は身体に染み付いた動きでバイクに跨り、現場へ向かった。
己の身体のみを武器とし、ノイズを屠る。
思ったよりも数が多く、殲滅までに一時間程が経過してしまった。
突然本部から連絡が入る
「刹那です。何かありましたか?」
『刹那君!響君と翼の付近でネフシュタンのアウフヴァッフェン波形が検出された!我々も直ちに向かう!君も合流してくれ!』
「なっ!?了解しました!直ちに現場へ急行します」
現場付近、二年前にも聞いたあの歌が聞こえてくる。
Gatrandis babel ziggurat edenal......
Emustolronzen fine el baral zizzl......
Gatrandis babel ziggurat edenal......
Emustolronzen fine el zizzl......
現場に到着すると、血を流し流しながらも立ち続ける翼さんとそれを見て放心している立花さん、逃げ出しているネフシュタンを纏った少女らしき人がいた。
すぐ後ろには司令と了子さんが乗っている車が見えている。
「私はあの少女を追います!立花さんは司令達と協力して翼さんをお願いします!」
そう言って私は答えも聞かずに走りだす。
相手は翼さんの絶唱で負傷している様で、数分とかからずに追いつくことができた。
「追いつきましたよ。ネフシュタン」
「はっ!追いついたところでお前に何ができる!?」
そう言ってネフシュタンの少女は鞭を此方に放ってくる。
私はそれを左手で掴み、右の拳を突き出す。
突き出した拳は肩部装甲へと直撃し、ヒビを入れる。
そのまま脇腹に蹴りを入れ、少女を吹き飛ばす。
「クソッ!これでシンフォギアより出力が下なのかよ!?」
少女は悪態を着きながらも立ち上がる。
「日頃の鍛錬の賜物です。さて、本部まで連行されて貰いますよ」
私は立ち上がるのがやっとの少女に駆け出し、拳を前に突き出す。
だがその拳は、突如現れた紫色の障壁に阻まれてしまう。
私は突然の出来事に勢いを殺しきれず、障壁に激突してしまう。
全力で突き出した拳の反動が全身に響き、動けなくなってしまう。
「私一人でも問題ないと言っただろう!フィーネ!」
「分かっているわクリス。でもそこの子は確保したいの。このままだと貴女はこの子を殺してしまうかもしれないでしょ?」
そんな会話が続いた後、頭部に強い衝撃を受け、私は意識を手放した。
クリスが推しですハイ