戦姫絶唱シンフォギアーNo name monsterー   作:ハウスダストドラゴン

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揺れ動く感情

あたしは刹那の冷たくなった身体を持って、森に逃げて来た。

後ろを見るが、フィーネは追ってきてはいなかった。

あたしは腕の中でピクリとも動かない刹那に目を向ける。

 

たかだか数週間の仲だ。

こいつが死んだって何も感じない筈なのに、何故か流れる涙は止まってくれない。

あたしにとってこいつは、思ったよりも大きな存在になっていたようだ。

時には意見の相違もあった。

けれど、ありのままの自分で、本音だけで話せた相手は刹那だけだったのかもしれない。

 

「お前......自由になってもあたしと話したいって言ってくれたじゃねぇか......」

 

刹那に言葉をかけるが、勿論返事など返っては来ない。

 

「死んじまったら話すことなんて出来ねぇじゃねぇかよ......」

 

声が段々と震えていくのが自分でも分かった。

 

「なんでだよ......パパもママも殺された。フィーネには捨てられた。挙句の果てにはお前もいなくなっちまうのかよ......」

 

空を見上げると、夕焼けが綺麗だった空はもうなかった。

ポツリポツリと雨が降り出す。

あたしはその場に座り込み、刹那の身体を抱きしめる。

 

「なんで世界はあたしの大切なもんを全部奪っちまうんだよぉ......」

 

掠れた声で言葉を紡ぐ。

やがてそれは言葉ですらなくなり、嗚咽へと変わっていく。

だが、それは降り出した雨の音に掻き消された。

 

ドクン......

聞こえる筈のない音が聞こえた。

幻聴だと思った。

聞き間違いだと思った。

けれど、あたしはその可能性を捨てきれずに、刹那の胸に耳を当てる。

 

ドクン......

それは確かに心臓の音だった。

冷たかった肌は温かさを帯び始めている。

やがて、先程まで確実に死体だった刹那が、目を開けた。

今も土砂降りの雨が降っているけれど、あたしの心は、少し晴れた気がした。

 

 

 

誰かの泣き声が聞こえた。

最初は濁って聞こえたその声は、段々と鮮明になっていく。

 

「雪音......さん?」

 

目を開けると、そこにいたのは涙を流しながらこちらを見ている雪音さんがいた。

 

「私は......死んだはずでは......?」

 

「良かった!良かったぁ......!」

 

雪音さんは私の身体に抱き着いてくる。

自分が何故生きているのかという疑問はあったが、こんなに喜んでくれている雪音さんを見ていたらそんなものは嬉しさに掻き消されてしまった。

 

 

 

次の日、私と雪音さんは路地裏でノイズと戦っていた。

 

『傷ごとエグれば 忘れられるってコトだろ?』

 

雪音さんの攻撃的な歌と銃撃音が聞こえ、ノイズが次々と炭になっていく。

私も負けじと力を込め、ノイズに拳をぶつける。

すると思っていたよりも強い威力になってしまい、周りのノイズは全て炭化し、建物の壁にヒビが入る。

 

(以前より出力が上がっている......?)

 

後ろから何かが落ちる音がした。

音の方を見ると、雪音さんが倒れている。

 

「雪音さん!?大丈夫ですか!?」

 

意識を失ってはいるが、脈拍はきっちりとしている。

恐らく今までの疲れが出たのだろう。

そこへリディアンの制服を着た女の子が駆け寄って来る。

 

「どうしたんですか!?」

 

「連れが意識を失ってしまいまして......」

 

「わかりました。着いてきてください」

 

少女は立ち上がり、私の前を歩き出す。

恐らくこの子は一般人だろう。

こちらの事情に巻き込むことは控えた方がいい。

わかってはいるのだが、こちらに行く宛てが無いのも事実、私は雪音さんを背負い、大人しく着いて行くことにした。

数分歩き続け、たどり着いた場所は『ふらわー』と書かれた店だった。

 

「おばちゃん。倒れてる女の子がいたの。お店の奥使わせて貰っていい?」

 

「おや、このご時世に珍しいね。そういうことなら幾らでも使って行きな」

 

「ありがとうございます」

 

私は一言お礼を告げ、少女に着いていく。

 

「私、小日向 未来って言います」

 

「私は刹那と言います。こんなに良くしてくれてありがとうございます」

 

私は小日向さんに頭を下げる。

 

「いいえそんな!気にしないでください。私が勝手にしたことですから」

 

少女はそう言ってから雪音さんを着替えさせ始める。

先程まで着ていた濡れていふ服はおばちゃんと呼ばれていた店主さんが持って行った。

同時に私も店主さんに貸してもらった服に着替える。

そうしてしばらくすると、雪音さんが目を覚ました。

 

「う......はっ!?」

 

雪音さんは辺りを見回している。

状況が分からず困惑しているようだ。

 

「くすっ。良かった。目が覚めたのね。びしょ濡れだったから着替えさせて貰ったわ」

 

「なっ!勝手なことを!」

 

雪音さんはそう言いながら立ち上がる。

 

「あっ......」

 

小日向さんが顔を赤らめて目をそらす。

 

「ん?......なっ、何でだ!?」

 

「さ、流石に下着の替えまでは持ってなかったから......」

 

雪音さんは慌てて布団に包まり、身体を隠す。

 

「ぷっ......」

 

私はそんな光景を見て、思わず笑みがこぼれる。

 

「な!?何笑ってやがんだ!」

 

「未来ちゃん。どう?お友達の具合は。」

 

「目が覚めたところです。ありがとう、おばちゃん。布団まで貸してもらっちゃって」

 

「気にしないでいいんだよ。あ、お洋服洗濯しておいたから」

 

「っ!?」

 

笑顔でそう言う店主さんに、雪音さんは驚いた顔をする。

 

「私、手伝います」

 

「あら、ありがとう未来ちゃん」

 

「いえ」

 

小日向さんと店主さんは仲睦まじげに洗濯物を運んで行く。

 

「......」

 

その様子を、雪音さんは羨ましげに見つめていた。

 

数分後、雪音さんは小日向さんに身体を拭いてもらっていた。

私にこういったことは向かないので、壁に寄りかかってその様子を見ている。

 

「あ......ありがとう」

 

「うん」

 

雪音さんの身体には、沢山の痣があった。

だが小日向さんは何も言わずに手を動かす。

 

「なんにも......聞かないんだな......」

 

「......うん。私は、そういうの苦手みたい。今までの関係を壊したくなくて......なのに一番大切なものを壊してしまった」

 

「誰かと仲違いしてしまったんですか?」

 

「......はい」

 

「ケンカか。私にはよく分からないことだな」

 

「友達と喧嘩したことないの?」

 

「友達いないんだ」

 

「私は友達じゃないんですか?」

 

少し傷ついたので思わず声に出してしまった。

 

「それは......その......」

 

雪音さんは顔を真っ赤にして俯いている。

だがすぐに切り替えたかのように小日向さんの方を向く。

 

「地球の裏側でパパとママを殺されたあたしは、ずっと一人で生きてきた。友達どころじゃなかった......」

 

「そんな......」

 

小日向さんが驚愕を露わにする。

 

「たった一人理解してくれると思った人も、あたしを道具のように扱うばかりだった。誰もまともに相手をしてくれなかったのさ。そこにいるそいつはまだマシだけどな」

 

雪音さんはこちらを見てそう言うと、再び言葉を紡ぐ。

 

「大人は、どいつもこいつもクズ揃いだ。痛いと言っても聞いてくれなかった。やめてと言っても聞いてくれなかった。あたしの話なんて、これっぽっちも聞いてくれなかった」

 

それは、以前聞いた雪音さんの過去だった。

 

「あ......ごめんなさい」

 

触れてはいけない話題だったのかと小日向さんが気落ちする。

 

「なあ。お前そのケンカの相手ぶっとばしちまいな」

 

「え?」

 

「どっちが強えのかはっきりさせたらそこで終了。とっとと仲直り。そうだろ?」

 

「出来ないよ......そんなこと......」

 

「ふん......わっかんねぇな」

 

「でも、ありがとう」

 

「ん?あたしは何もしてないぞ?」

 

「ううん。本当にありがとう。気遣ってくれて」

 

「あ......えっと......」

 

「クリス。雪音 クリスだ」

 

「優しいんだね。クリスは」

 

「っ!?そうか?」

 

「私は小日向 未来。もしもクリスがいいのなら、私はクリスの友達になりたい」

 

小日向さんは雪音さんの手を握り、そう言う。

 

「っ!」

 

雪音さんはその手を振り払う。

 

「あたしは......お前たちに酷いことをしたんだぞ......」

 

「え?」

 

ウゥゥゥゥゥ!!

サイレンが響き渡る。

 

「「あっ!?」」

 

「雪音さん。ノイズです」

 

「っ!?」

 

私たちが店の外に出ると、大勢の人が逃げ惑っていた。

そんな中、雪音さんは人々とは真逆の方向へ走り出す。

 

「二人とも、ありがとうございました」

 

私はそれだけ告げ、雪音さんを追いかける。

走り続け、ノイズの発生位置まで辿り着くと、雪音さんが膝をついていた。

 

「あたしのせいで関係ない奴らまで......うわぁぁぁ!!」

 

killter......

 

雪音さんはギアを纏おうとするが、むせてしまう。

そこへノイズが攻撃を仕掛けようとしている。

私は急いでギア擬きを纏い助けようとするが、どう見積っても間に合いそうもない。

 

「雪音さんッ!!」

 

その時、地面が割れた。

見ると、司令が地面を踏みつけ、抉れた地面を盾にしている。

司令はそのまま雪音さんを抱え、付近の建物の屋上へと飛ぶ。

私も後に続き、司令と言葉を交わす。

 

「お久しぶりです。司令」

 

「おう。刹那君。無事で何よりだ」

 

雪音さんは怪訝な目で私と司令を見るが、直ぐに切り替えたノイズを見据える。

 

Killter Ichaival tron......

雪音さんはギアを纏い、語気を強めて司令に言う。

 

「ご覧の通りさ。あたしのことはいいから他の奴らの救助に向かいな」

 

「だが......」

 

「こいつらはあたしが纏めて相手してやるって言ってんだよ!着いてこいノイズども!」

 

雪音さんはボウガンをガトリングに変形させて発砲する。

 

ーBILLION MAIDENー

 

「司令。私は暫く雪音さんと行動を共にします。今の彼女を放って置くわけには行きませんので」

 

「そうか......分かった......」

 

私は空中に身を躍らせ、雪音さんを追いかける。

 

『HAHA!!さぁ It’s show time 火山のよう 殺伐 Rain さぁお前らの全部全部全部全部全部

......否定してやる そう......否定してやる』

 

雪音さんの歌が終わると同時にノイズの殲滅も終わる。

 

「なぁ。お前は帰らないのか?自由になったんだぞ」

 

雪音さんが問いかけてくる。

 

「えぇ。今の貴女を放っておくと壊れてしまいそうですし......それに、貴女の隣は居心地が良いんですよ」

 

「そうか......」

 

色々の感情が合わさり、複雑な顔をした雪音さんは、どこかへ向かって歩き出した。

私はその小さな背中を、追いかけ続けた。

 




書くことがねェ!

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