解放者よ、再び   作:甘党

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今することは

光がおさまると目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

周囲を見てみると、どうやら自分達は巨大な広間にいるらしい。

素材は大理石で間違いはないだろう。石造りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。恐らく神山の大聖堂だ。

 

本当に戻ってきたんだな。

 

懐かしさでつい頰が緩んでしまう。

周りには呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒と愛ちゃんは全員この状況に巻き込まれてしまったようである。

 

「雫。大丈夫か?」

「えっ?えぇ。無事だけど。ここは?」

「さぁな。」

 

俺は少し罪悪感を覚えながら雫を誤魔化す。

確実にここはトータスだ。そして俺にとっては久しぶりの故郷に当たる。

 

法衣集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。恐らく今の教皇だろう。外見によく合う深みのある落ち着いた声音で俺達に話しかけた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 

 現在、健斗達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

 おそらく、晩餐会などをする場所なのではないだろうか。上座に近い方に畑山愛子先生と光輝達四人組と俺が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。健斗は最前線だ。

イシュタルの話を聞く限り、……俺たちが解放者であったときからもう数千年以上の時が流れているらしい。

魔人族の戦争。そして数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。

それが魔物の使役と言われた瞬間俺は少し思い浮かぶものがあった。

変成魔法で間違いないな。

この魔法の正しい定義は「()()()()()()()()()()()()()」であり、生物だけではなく植物や食料、人体に対しても行使できることなので今は魔物を作るくらいのことくらいしか使用してないのは本質を理解してないからであろう

魔人族がそれを覚えたということは大迷宮の攻略者がいることだ。すなわちそれだけの技能を持った奴がいるってことだろう。

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。

イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。そこら辺は全く変わっていない。

すると俺はクラスメイトの一人がとある異常に気づいたのを気づいていた。

やっぱり面白い奴だなっと思っていたら愛ちゃんは突然立ち上がり猛然と抗議し始める。

 

「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

ぷりぷりと怒る愛ちゃん。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。

 

今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛子先生を眺めていた生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

 

いや。恐らく返すつもりはないだろう。あの狂った邪神のことだ。俺たちのことも駒として使っているのだろう。

 愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 

 パニックになる生徒達。平穏である方が少ないがそれでも健斗はやることはあるのでそれを達成するにはちょうどいい機会だった。

 

「未だパニックが収まらない中、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。

 同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。

……まぁ今は教会に目を付けられるし本当の帰宅方法については語らない方がいいだろう。

 

世界を変える。

これは絶対にやらなきゃいけない行為だ。

俺はそのために生まれてきたのであり、まさに天命と呼べるだろう。

 

いつ動き出すのか。どう動くのか。

 

それをしっかりと決めるためにただ流されるクラスメイトの様子をただ見ていたのであった。

隣でずっと黙っている雫に気づかずに。

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