解放者よ、再び   作:甘党

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たった一人で

あれから一週間がたち、和人は旅の準備を進めていた。

俺は戦争に参加しないことを決めているので近いうちに王宮から出ることになる。

なのでしばらくは路銀を集めながら旅に出ることにしたのだ。

しかしメルド団長曰く一ヶ月は待ってほしいとのこと

それは始めの目的地が俺がオルクスの大迷宮であることだったからだ。どうやら最初の訓練は一週間後、オルクスの大迷宮であるらしく一緒に参加してほしいとのことだった。

恐らく大迷宮の場所は7つ

あった場所から考えると

オルクス

ライセン大渓谷

グリューエン大火山

メルジーネ海底遺跡

氷雪洞窟

ハルツィナ樹海

神山

だろう。

ついでにいうならばオルクス大迷宮が最高難易度で全ての迷宮を攻略した時にだけ攻略対象ってことは知っている。

オルクスの大迷宮は俺が地図を見る限り、昔孤児ですりをしていた緑の大坑道で間違いないだろう。

俺が昔入り込んで教会を相手に孤児と一緒に戦っていた場所。

解放者と名乗る前の話で盗賊として俺は教会と争っていた。

そこからさらに迷宮を作ったはずだ。

……つまりダンジョンは100層以上は間違えはないだろう。

怒らせた時のオスカー兄さんは鬼畜以外言葉がないのでかなり難易度は高めだろう

 

……しかし最高到達点が65層か。なんか既視感があるな。

 

あれはミレディ姉さんとオスカー兄さんと出会った場所だ。

……ロック・リエーブルという人生はそこから始まった。

 

「……」

 

ダメだ。思い出すと涙が出てくる。

正直今の人生も俺にとっては悪くはないし恵まれていると感じる。

家族仲もいいし、友達も、親友だっている。

それでも、あの7人だけは俺にとって特別だった。

たった数年。それだけの歴史でそれだけ重かった数年だ。

 

一人になったな。

 

これがここまで心細い物であるとは知らなかった

会いたいなぁ。

 

会いたいよ。兄さん。姉さん。

 

その言葉は誰にも届かず絶対に絶対に叶うこともない。

それでも願わずにはいられない。

どんだけ苦しくても、どれだけ厳しくても

 

僕の全てはそこにある

 

……あの時からもう、どれくらいたったのであろう。

 

千年?いやもう万年単位で変化しているのかもしれない。

……それでも、願わくは

俺が全てを終わらせたい

死んでもいい。未来につなぐためならば

たとえ親しい仲を殺すことになってもいい。兄さん、姉さんの願いならば。

俺は石川健斗であってロック・リエーブルであるのだから。

この世界の歪さを俺の全てをもって終わらせる。

そう決意したところでコンコンとノックの音が聞こえる

どうやら来客らしい。一応魔力を持ち準備する。

俺が反教会派であることは誰もが知っていることだ、なので王国や教会から刺客を送られてもおかしくはない。

 

「はいどうぞ。」

 

俺が答えるとするとどういうわけか見覚えがある人が入ってくる。

金髪のいかにも王室育ちの豪華な衣装に包まれていた

 

「……へ?」

「こんにちわ。健斗さん。少しお時間はありますか?ってどうしたんですか?」

 

この国のお姫様であるリリアーナ姫が急に尋ねてきた。これにはさすがの俺も固まってしまう。

すると驚いたのはリリアーナ姫も同じだったのか俺の方を指差す

 

「なんで泣いているんですか?」

「えっ?あっ。」

 

そういえば泣いていたとを思い出す。

 

「……えっと。まぁ、いろいろあってな。」

 

適当に誤魔化す。まさか故人を思っていたとは知らないだろう。

詮索をしてはいけないと気づいたのだろうリリアーナ姫は少し間を空ける。

 

「そういえばリリアーナ姫は何のようだ?」

「ちょっと秘密のお話がありまして。」

「護衛もなくか?」

「はい。そっち側の方が健斗さんにとってよろしいかと。」

 

……なんかよくわからんけどいいか。

部屋の中に入ったリリアーナに紅茶もどきを入れそして俺は反対側の席に着く

 

「んでなんの用だ?話したいことがあるらしいけど。」

「……」

 

するとリリィは一息つきそして

 

「健斗さんはこの世界に来たことがありますね?」

「……」

「私は変装してステータスプレートを見た時に一緒にいました。その時健斗さんは図書館に行ったと言いましたよね?でもそれはおかしいです。私たちは施設の案内をしてなかったはずです。さらに目撃証言もない。ステータスの開示もしていないあなたがなぜ図書館に行けたのか。この世界の歴史の本を実際健斗さんの部屋からは見つかりました。貸し出しもちゃんと記録されて。それも深夜に。警備の穴はなかったはずです。即ちあなたはその時点で技能や魔法を使ったことになります。」

 

おっとこのメッセージに気づくとはさすがだな。正直変装も気づいていた俺は驚くことはしなかった。

 

「んで。」

「しかし、健斗さんの借りてきた本には神代魔法も、オルクスに大迷宮があることも分からなかったことです。私もその本は読んだことがありましたから。でも、あなたは、神代魔法のこともオルクスの大迷宮があることを知っていた。」

「正解。俺はもともとオルクスの大迷宮も全てのことを知っている。まぁ数千年前の歴史だけどな。」

 

隠す気がないので俺はそう告げる。元々この世界の真実に近づける事実に近づけるだろう。

 

「……数千年前ですか?」

「あぁ。俺はいわゆる転生人。すなわち生まれ変わりだよ。数千年前の世界ではロック・リエーブルとって名乗っていたな。」

「ロック・リエーブルですか?」

「あぁ。知らないと思うぞ。てかこの世界では恐らく悪役として知られていると思うし。」

「…どういうことですか?」

「俺は昔解放者。教会からは反逆者と呼ばれる組織に入っていた。」

 

するとリリアーナ姫の顔が固まる。

反逆者。神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した八人の眷属がいたと伝われている。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。そして一人が神から仲間を助けるために自殺した。多くの神の眷属を巻き込んで。

その果てに現在の七大迷宮といわれている物を残したらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているらしい。まぁ恐らく事実だろう。

そして一言目を告げる。

 

「この世界は歪だと思わないか?」

「えっ?」

「だっておかしいだろ?俺たちを呼び出したのだって、急に竜人族や吸血鬼族が今まで共存していたのに数百年前きっぱり滅ぼされているんだぞ。……たった一言の神託だけで。」

「っ!!」

 

リリアーナの顔が固まる。それは一言だけで異常に気づいたらしい。

やっぱりリリアーナはできる方の人間だ。頭を使いどうしてそうなるのかも理解できるのだろう

 

「てかこの王国だってそうだ。王国という名前なのに結局は教皇が実権を握っている。結果的に神託の一言だけで国や他の国すらも動かせる。他の国だってそうだ。普通戦闘経験のないものたちを勇者と讃えるか?人一人殺したことのないただの学生がだぞ。」

「……」

「言っとくけど天之河を勇者にするならば人族は多分負けるぞ。あいつには覚悟がたりない。誰を救い、誰かを見捨てる。その取捨選択ができていないんだ。それなのに勇者をあいつにしているんだ。戦争に死者はつきものだ。それが分かっていないんだよ。」

 

冷酷な声。それでも事実だろう。

 

「言っとくけど俺ならばちゃんとした兵士を使い精鋭として送らせた方がいいと思うけどな。人を殺すってことはそれなりの覚悟がなければできないだろうし。」

「健斗さんはどうしてそう言い切れるのですか?」

「魔人族が神代魔法の獲得をしている可能性が。いや確実に神代魔法である変成魔法の獲得に成功しているからな。」

「えっ?」

 

ほぼ確実に変成魔法の獲得に成功していると聞きリリアーナの顔が強張る。

それもそのはず。神代魔法は神すら対抗できる魔法として有名なのだ。その神代魔法を覚えたとなるとほぼ確実に人族は敗戦するだろう。

 

「大迷宮の攻略者が出たんだろうな。恐らくこれから魔人族は大迷宮攻略を確実に視野に入れ始めるだろう。そして人族を滅ぼすつもりだ。迷宮の攻略にこの世界の真実と神代魔法を残すことを俺たちは決めた。決戦に負け、それでも未来に望みを託すためにな。」

「……その神代魔法は魔物を使役することは」

「使役じゃなく生物を作り変えることが可能だ。本質を辿れば吸血鬼族や竜人族、魔人族の元になったと考えられる魔法だからな。だから正確には作った、もしくは作り変えた魔物だと思った方がいい。確かあそこのコンセプトは自分との戦いだし、あんまり神とは関係ないからこそ恐らく攻略できたのだろうな。」

 

実際攻略者はいることは確実だ。

そして信仰に心を奪われていないこともほぼ確実。

後は運命の選択を待つだけか

 

「まぁ、この情報をどうするのかも俺の存在を教会に話してもいい。まぁ、それが普通だ。お前らから見たら俺は異端者だ。」

「へ?話してもいいんですか?」

「当たり前だろ。お前の意思を尊重するだけだ。俺は俺の人生だしお前はまず一国のお姫様だろうが。それも王国のな。」

 

呆気にとられるリリアーナ。一つ苦笑しそして答える

 

「王国のお姫様なんだから国民を守るのは当たり前のことだろ?もし俺が危害が与えると判断したなら俺を売ればいい。」

「……あっ。」

「今日は逃げないけど明日出発するよ。この世界の常識の変化もわかったしな。教会から目を付けられているし俺は早々にこの国から出た方がいいし。」

 

少し早いけどそれでももう決めたことだ。

とりあえず雫たちをこの世界から返すことが条件だ。

 

何を捨て、何を守るかは既に決まっている。

 

俺が大切な人は雫と香織。

その二人は絶対に日本に返さないとな。

 

そんなことを考えながら俺は荷造りを再開した。

未だ椅子で座っているリリアーナ姫を放置しながら。


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