「………んぅー…」
どうも、絶賛風邪で寝込んでるイーニャです。
何とか首を回してベッドのそばにあるアナログ時計を見てみれば時刻は既に午後4時。
まだ終わってない仕事が沢山あるのにこれは辛い。今は良くてもこういうのは休み明けにどっと降りかかってくるものなんだ。鬱になりそう。
何も出来ずにぼーっと天井見上げてたら寝室のドアが開いて誰か入ってきた。アオザキ先生だ。相変わらず見計らったような行動するなこの人は。
「あら、起きたみたいね」
「…ぁ……」
「無理して喋らなくてもいいの。あなたは昔からこうなんだから」
「んー…」
「徹夜した無理が祟ったようね。いつもと違う生活リズムで動いたものだから、それで体調崩して抵抗力が弱まったってところかしら。風邪そのものより疲労の方がひどいわよ。しっかり休んで食べて寝てれば、ちゃんと復帰できるわ。ほらこれお薬。朝と夜、ご飯の後に飲む物とひどい頭痛が起きた時の痛み止め。一人じゃ難しいだろうけど人形達に介護して貰えば大丈夫でしょう」
口振りから察するに私が寝ている間に諸々の診察を済ませてくれたのだろう。あれだけ寝てたのだから先生の言う通り疲れ気味なのは事実なようだ。新しい環境に来て1ヶ月働いていたのだから、知らず知らず疲労を溜め込んでいたのかもしれない。
「それと、急な増員になるけど本部から2体の人形が派遣されたわ。今回のハイエンドを鹵獲した功績とこれから先S0-9地区での戦いが激しくなる事を見込んだ故の派遣ですって。とはいえ流石に今のあなたが挨拶するのは無理だろうからとりあえず人形が増えた程度に覚えておいてね」
それじゃ私も仕事あるから後はよろしくね、とそれだけ言ってアオザキ先生は部屋から出ていった。代わりに入ってきたのは春田さんだ。私のお世話するにあたって順当な人選だけど45やHK部隊の人形はどうしたんだろう。G11を除いた三人は結構私を甘やかす接し方してくるからこういうのには率先して手をあげそうなものなんだけど。G11は逆です。私が可愛がりたい。ベッドに入ってきたあの子ってちょうど良い大きさなのよね。気付いたら抱きついちゃう。そしてモフる。
熱で汗に濡れた体を春田さんが優しい手つきで拭いてくれてるけど「何も心配することはありませんからね」と言い聞かせてくるものだからちょっとどうしたのかと思う。ドルフロにおけるママみの強い人形の代表格である彼女だけど、それにしては若干顔が強張っていたように感じられた。
HK部隊がいない現状と春田さんの様子を見て何となく現在進行形で何か起こっているのを察したけど、何も出来ない今の私ではかつて先生と居た頃と同じようにみんなの無事を祈るしかなかった。
「このっ…!気持ち悪い…!」
「舐めるな…グリフィンの鉄屑共が…っ!」
煩い、不愉快、耳障りだ。
私────G11は過去最高に苛立っていた。
苛立っている理由は、ここ1ヶ月のんびり寝る事が出来なかったわけでも、今目の前の鉄血のハイエンド2体が基地に襲ってきたからでもない。二つとも不愉快であるのは事実だけど。
一番近くにいたのにイーニャの疲労を考えてやれなかった。これが悔しい。ウロボロスとかいう鉄血のハイエンドを捕まえた一件の後、わざと宿舎じゃなくイーニャの部屋で寝たんだ。地区に鉄血の小隊がいた件はこれで終わりだろうと思ったから。気付いたのは一番付き合いの長い45だった。起きてみれば淡々とドクターに連絡する45と体温計で計ったり着替えとか体のお世話をする9と416がいた。私はなんにも出来なかった。
…イーニャは私がずっと寝てても怒らない。私がちゃんと仕事をしてくれるからって言ってたけど、民生人形として働いていた前の職場だったらつまらないミス一つするだけでひどく殴られるのは当たり前だった。相対的な環境の変化もあるけど私はイーニャが好き。たまにイーニャのベッドへ潜り込んで二人で一緒に寝たりするけど、気づいたら寝ているイーニャが抱き枕のように私を優しく抱いてくれてそれがたまらなく幸せなんだ。イーニャがそのまま起きれば子供をあやすように頭を撫でてくれる。それも、とても心地よかった。
「クソッ…。なんだこいつ、なんでそんな銃剣一本で俺のブレードと打ち合えるんだ!?」
「あなたが弱いだけです。武器の差を実力でカバーするのは当たり前でしょう?」
「一〇〇式ばかり見てると今度は火達磨になるよ…そらっ」
「焼夷手榴弾…!聞いてないぞ"狩人"!この基地にはHK部隊とかいう奴らしか強いんじゃなかったのか!」
「今話しかけるな、"処刑人"!こっちもこっちで手一杯だ!」
今私達は基地に急襲をかけてきた2体のハイエンドモデル、"処刑人"と"狩人"を相手にしてる。"狩人"と戦ってるのは私達HK部隊。"処刑人"と戦ってるのは昼間に本部からやってきたVectorと一〇〇式の二人だけだ。
2体ハイエンドモデルが襲ってきたのはほぼ確実にウロボロスが目的だろう。鉄血の情報を喋って貰っては困るだろうし、酷使された因縁からこの二人がウロボロスを殺したいと思うのは当然なんだろうね。私からしたら知ったこっちゃないんだけど。
おかしいのは一〇〇式。Vectorはまだ普通のSMGらしく中近距離で立ち回るんだけど一〇〇式は完全に近接オンリーで"処刑人"を相手に互角以上の戦いを披露していた。しかも一〇〇式はVectorの射線が自分と被らないように動いてる。Vectorもそれを理解しているから遠慮無く発砲して"処刑人"の頑丈な体に傷を付けてる。この二人の息の合った見事な連携で他の人形達が手出し出来なくなっていた。あまりにも練度が高すぎるんだ。
「とんでもない動きをしておるのう。確かにSMG人形は前衛を張る人形のはずじゃったがあんなのはもう人形の括りから外れておるぞ」
「基地に来た本部の人形ってあの子達だったんだ…」
「嬉しそうな顔ですね、姉さん」
「シノ、またあの一〇〇式に付き合わされたいの?」
「ごめんなさい」
「シノさんが素直に謝った…!?」
「二人はあの人形を知ってるのかニャ?」
「知ってるというか…ちょっと前に仕事で組んだ事があって…」
「組んだというか無理矢理付き合わされたというか…。ブリーフィングすらせずに敵を発見した瞬間、大和魂を見せてやる!って叫びながら突っ込む人形の露払いをやらされてただけですよ」
「なんじゃそれぇ…?」
「え、それ大丈夫なんですか?ちゃんと指揮官の指揮に従ってくれるんですかね」
「あの時は指揮がいらない仕事だったっていうのもあるし何とかな………ってくれると嬉しいな」
「カノさんそれただの願望になってますよ…」
「Vectorは何なのニャ?当たり前のように一〇〇式と一緒に戦ってるニャ」
「それは何とも…ただかなり仲が良いようでしたから仕事の枠を越えた付き合いなのかもしれませんね」
…後ろで駄弁ってる第二部隊が若干うざい。あの姉妹は一応ライフルを構えて基地からいつでも狙撃できるようにしてるけど、それ以外の面子はあの二人に混ざれないから手持ち無沙汰なだけだ。イーニャの指揮があればもっとマシな動きができるんだろうけど所詮人形はこんなもの。第三部隊もライフル持ちがいないから同様の理由で引っ込んでる。
「左足、もらいます」
「がぁっ!?」
「"処刑人"!?」
「あら、余所見できる余裕があるのかしら?」
「しまっ…!?」
「G11、416!」
「分かってるわよ!」
「さっさと消えて…!」
"処刑人"の負傷に気を取られた"狩人"に発煙弾と閃光弾を投げ、そこに416の榴弾と私の弾丸をありったけ叩き込む。煙が晴れればそこには左の手足が千切れ胴体も中身が露出した"狩人"が横たわっていた。かろうじて動く右手に持った大型拳銃で最後の抵抗を試みる"狩人"だけどそれも私が撃って弾く。これでこいつは何も出来ない。
"処刑人"の方はどうなっていたかというとあちらも終わっていた。うつ伏せになった"処刑人"の右手をVectorが踏みつけいて一〇〇式は背中から跨がり銃剣を首に突きつけていた。
「制圧完了ね」
「45姉、こいつらどうするの?」
「拘束してまた工廠室送りかしら。指揮官の指示が無いのに勝手な判断は下せないわ」
「…所詮は人間の手駒でしかないのか」
「その人間の手駒に負けたのはあなた達よ。負けたんだから大人しくしてなさい」
「"狩人"、"狩人"!、畜生、離しやがれ…!」
「心配しなくても内には腕の良い整備士がいるの。少なくとも生かしてはおくから、長生きしたかったら無駄に暴れないでね」
「"処刑人"、私は大丈夫だ。…敵に対して随分甘いんだな」
「負け惜しみのつもり?どっちにしろあなた達の生殺与奪はこっちが握ってる。長生きしたかったらもう少し考えてから喋ることね」
二人をさっさと拘束して工廠室に連行、一〇〇式・Vectorに任せDr.アオザキに全部放り投げる。"処刑人"が喧しく喚いていたけどしばらくすれば大人しくなった。
これでもう一連の事件は解決…したはずだ。
そうして、工廠室からの帰り際。
「G11」
「なに45…もう寝たいんだけど」
「そういってイーニャのとこへまた潜り込むつもりでしょ。そして今度は寝るつもりが無い。違う?」
「…そうだとして何が言いたいの」
「下手に気負うなって事。あなたが責任感じるのは勝手だけど、仮に今のあなたをイーニャが見たとしてどう思うか分かるでしょ」
「………45は良いよね。一番付き合い長くて」
「これから一緒にいる時間を増やせばいい。それだけの事じゃないの」
「あなたらしく無いわよG11。45は、いつも通りのあなたでいろって言ってるの。ベッドの中でいつも可愛がられてるのはあなたなのよ?」
「416、今の言い方は誤解を招くと思う」
「あははっ!今の416の言い方じゃエッチな事に聞こえるね」
「は、はぁ!?何ふざけた事言ってるのよ!」
「…ふふっ。変なの」
…なんだかんだ嫌いじゃないなぁ、このチーム。45はちょっと怖いけどイーニャを大切に思ってるのは分かるし9は無邪気過ぎるし416は言ってる割に世話焼きだし。
三人は宿舎に帰っていった。私はというとやっぱりイーニャが気になるからイーニャのところへ。行けばスプリングフィールドがじっと傍らに付き添っていた。
入ってきた私に一瞬怪訝そうな顔したスプリングフィールドだったけど、何か納得したのか店番があるので後は任せますと言って部屋から出ていった。後は私とイーニャだけ。
「早く元気になってね…イーニャ」
その晩、私はベッドの中へ入りしかし眠らずずっとイーニャに抱きついて過ごした。
一〇〇式…この話ではどこぞのBF魂が注入されてしまった子。敵陣に突っ込み無双することしかできない。ヨルムンガンドのバルメやカレンみたいな戦い方
Vector…一〇〇式の親友。一〇〇式とタッグ組んで活動してる。一〇〇式の奇行に文句言いつつも付き合う事には満更でもなかったり