休み明けましてどうも、イーニャです。
私がベッドから動けなくなって三日、ようやく体が動かせるようになりました。ほんとこの体不便だな。夜戦任務とかあるのにそれの指揮できないって体に宣告されたようなものじゃないか。敵がお行儀良く昼にしか攻撃してこないわけ無いから物凄く困る。幸い私のHK部隊は今のところ私無しでも対応してくれるけどそれもいつまで続くか…。
さて、病み上がりの私を待っていた仕事だけど予想とは違ったものが待ってた。それはというと。
「ども、この基地で指揮官やってる人です」
「「………………」」
「だんまりは良くないなー。別に鉄血の情報話せとは言わないから交流しようよ」
「話す事など何も無い」
捕まえたハイエンドが増えてた。
私が寝てる間に基地へ襲撃してきてたらしい。春田さんの顔が強張ってたのはそのせいね。で、HK部隊と新入り人形に負けて今に至る、と。現在ウロボロスを入れてる部屋とは別の部屋で対面中。
…あの新入り、Vectorはいいんだけど一〇〇式はなんなんでしょうね。私がゲームで知ってるあの子は奥ゆかしさを残しつつ戦闘では味方のために前衛張る良い子ちゃんみたいな印象だったんだけど、うちに来た一〇〇式はやたら熱血漢というかめっちゃ旧日本兵みたいな性格になってて知ってるイメージとのギャップに面食らったよ。
「まぁまぁそう言わずにさ。そっちもぶっちゃけ災難だったわけじゃん。私も経緯聞いてウロボロスに怒っちゃったよ」
「はぁ!?災難もクソもあるか!あいつは"狩人"を捨て石にしたんだぞ!その上勝手に兵力を無駄遣いして…!」
「よせ、"処刑人"。まともに取り合うな」
「"処刑人"と違って"狩人"は結構冷静だね。ま、そっちの方が扱いやすいからいいんだけど」
「おまえが何を言おうと取り合うつもりは無い」
「実を言うとそれはこっちも同じなんだよね。だってウロボロスが洗いざらいこれまでの経緯話してくれたし。君らも鉄血の中じゃそこまで地位高くないってのも知ってるから何か情報が欲しいとか思ってないんだ」
「…ならなぜ護衛すら付けずにここにいる」
「暇潰し」
「「はぁ?」」
「休み明けで指揮官なのにね、やること無いんだよ…」
遡ること数時間前。
今朝体が動かせるようになった私は身構えていた書類についてシーアから報告を受けていた。
「私が休んでる間に何してたの…」
「イーニャさんが過労で倒れたと聞けばこうするのも当然です」
「45どころかHK部隊総出で書類処理とか…。G11絶対嫌がってたでしょ」
(むしろ最も精力的に働いたのは彼女なのですが…)
「AUGはどうしてるの?」
「彼女は新しく来た人形と一緒に訓練をしていますね。スプリングフィールドやFNCも一緒ですよ」
「まぁあの二人のSMGが入れそうな枠なんて暫定第四部隊しかないからね。暫定扱いもこれで消えるでしょ」
シーアから報告を受けつつ書類にひたすらチェックだけ入れる作業。この基地の最高責任者は私なのでどれだけシーアや他の人形達が頑張っても最後には私の決裁が必要となる。無料ボランティアでもない立派な一企業なのでここらへんはおざなりにできない。と、言っても本当に流れ作業でやってるので以前の書類地獄とは比べ物にならないくらい楽になっていた。
「それと、新たに鹵獲した二体のハイエンドについてなのですが…」
「経緯については一応45からの報告で知ってる。扱いはウロボロスと変わらないかな。これもさっさと本部に報告書を上げて対応を仰ぐという判断だね」
「では、最後にもう1つだけ」
「お、おぅ?」
「休んで下さい。これはこの基地にいる人間・人形問わず皆さんがあなたへ持つ要望です」
「…一応休んだよっていうのは通じなさそうだなぁ」
「思えば、イーニャさんはこの基地に着任してからただの一度も休暇を取っていないじゃないですか。確かに確実な休みが取れる保証の無い仕事だとは思いますが、だからといってずっと働き続けるのは訳が違います」
「あーそうだねぇ…。基地周辺にいた鉄血兵は粗方掃討したし多少は暇な時間作っても良さそう。あ、いや…」
「まだ懸念事項が?」
「そうじゃなくて、人形達にも休みをあげようかと思って。ほら、この1ヶ月働いたのは私だけじゃないじゃん。資材も結構稼げたししばらくは後方支援任務やらせなくても大丈夫かなって」
「悪くはないと思います。有事に備えて基地外への外出は制限する形になるとは思いますがそれ以外でしたら比較的自由にできるでしょう」
書類仕事もそこそこに、やたら圧の強いシーアから休暇要請受けた私はなんかネタになりそうなもの無いかな~と適当基地を散策する羽目になったのだ。
回想終了。
マジでやることない。
一応本部に上げた報告の返信は届くと思うのでそれの対応をする必要はあるんだけど時間かかるのよね。あっちだって私ばかり相手にする訳にはいかないんだから。
「それでなぜ私達の元へ来る。他に行く場所があるだろう」
「いやハイエンド達の顔見てないなーって」
「えぇ…」
「俺こんな奴が指揮する人形に負けたのか…」
「ついでに言うと風邪でダウンしてたから指揮すらしてないしもっと言うと"処刑人"が相手にしてた一〇〇式とVectorはあの時点で顔すら合わせてないからね」
「なんなんだこいつ…」
「私としては一〇〇式がおかしいよ。なんであんなデカいブレードと銃剣で打ち合えてるのか理解に苦しむ。性格もやたら暑苦しいしさ…」
「そんなもん俺が聞きてぇよ。製造過程でどっかバグってるんじゃないのかあれ」
「負け惜しみになるが、私もあの一〇〇式に負けたようなものだからな。下手に気を取られていなければまだ戦闘は続けられていたはずだ」
「そういう隙をうちの子は逃しません。どれだけ高性能な人形でも時の運ってやつはどうしてもあるのよね」
おまえの話なんか聞くか!みたいな野良犬っぽさあったのにちょっとふざけてみればこれである。君ら以外とチョロいな。
重要な情報とか考えずに適当な話題を振って話す。町での生活やメディアに流れる大衆向けの娯楽など。そうするとこっちが聞いてもないのに鉄血の話題を合わせて話してくれる。やれ"建築家"が突飛だの、"法官"がうるさいだの、"夢想家"が気味悪いだの…。
会話ってのはテーマに対して自分が知ってる事柄を好みに脚色して主張しあうコミュニケーションだ。私はそう思ってる。どれだけ喋ってはいけないかを考えていたとしてもずっと鉄血の一員として働いていた彼女達はそこの経験から会話のパーツを引っ張ってくるしかない。"夢想家"や"代理人"あたりはこういうのにすぐ気付きそうなものだけど、ハイエンドとしては下っ端にあたる二人は饒舌に普段の暮らしぶりについて話してくれた。
二人からそこそこ情報貰う代わりにこっちも色々喋る。二人だけが話していると流石に違和感を感じるかもしれないからだ。とはいってもこっちも話すのはそこそこだ。その中でも食いついてきたのは意外にも私自身の事だった。
「虚弱体質ってマジかよ。グリフィンの指揮官って正規軍上がりとかじゃないのか?おまえらのボスは確かそうだって聞いたぞ」
「マジもマジです。なんなら私の非力っぷり感じてみる?ほら」
「…これは私の顔をつねっているのか?ただ触れてるだけじゃないのか?」
「これでも全力で指に力込めてるんだよね。全然感じられないと思うけど本当にこれが限界なんだ」
「おまえなんでそれで指揮官なんかやってるんだ?」
「これ以外にやりたい事が無いから、かな」
「はぁ…?」
二人して胡乱げな目で私を見てくる。そこまでおかしい事だろうか?
何となく気まずくなってしまったのでここで会話は終了。そそくさと部屋を出る。部屋の外では45が壁に背を預けて佇んでいた。
「…あなたね、回復したんだったら私達に顔見せなさいよ」
「ごめんね、気を悪くさせちゃったかな」
「あともう徹夜禁止。二度とこんな事させないから」
「それは厳しいでしょ。任務が都合良く昼にだけ行われるとかゲームじゃないんだから」
「それは大丈夫よ。宛があるから」
「宛…?」
「クルーガーから返信あったわよ。鉄血のハイエンドを更に二体鹵獲した功績とあなたが徹夜して動けなくなった事。それらを合わせてAR小隊をこの基地に配属させる事にしたんですって。実際に基地へ配属されるのは大分先になるみたいたけど、捕らえたハイエンド達をI.O.Pに移送するための護送として一度来るみたいだから、その時に打ち合わせした方がいいわよ」
「ほぅりぃしっと…」
なんてこった。AR小隊丸々来るのかい。勤めて1ヶ月で想定外ですよこれはぁ。
そうだよね。特定の時間に指揮できないならその時間別の誰かに指揮して貰えばいいし、かといって指揮官が二人基地にいるのも命令系統がおかしな事になるからそれは無理。なら指揮ができる上で指揮官の麾下にちゃんといてくれる人材が要るってなったらM4とROしかいないよね。全く合理的だね。素晴らしい判断だよ、マイダディ。
「あれから随分活躍してるみたいよ、あいつら」
「複数のハイエンドモデルがいる鉄血の大軍を相手に任務をしっかりこなしてるからね。流石…と言えばいいのかな」
「私からすると、あの模擬戦後にイーニャがM4にかけた言葉が発破をかけた事になったんだと思うわ。任務記録を漁ってみたけど結構油断の無い作戦内容だったりしてるし」
「…そういうのは控えた方がいいよ。藪をつついてなんとやらってやつ」
「そんな頻繁にやってないわよ。ちょっと気になるところがあったら、軽く、さーっと、ほんの少しだけ覗き見してるだけだから」
「………うん、まぁそういうことにしておこう」
大丈夫かな45。この時代じゃ不必要なレベルの電子戦能力を持て余して、特に理由も無く他人のプライバシーを覗くような真似してそうで怖いんだけど。私が知られる分には構わないけど他の人とその手のトラブルがあったら庇いきれる自身が無いよ。
「ところでなんだけど、廊下の先で横たわってる物体は何かな?」
「イーニャの後をストーキングしてた不良人形よ。このまま廃棄しようかと思ってたらあなたが出て来てタイミング逃しちゃったの。すぐに片付けるわ」
「せめて宿舎あたりに放り込んでおいてあげてね…」
通常運転で何よりだよ9A。あの作戦後にご褒美を要求されてたからそれを欲しての事だとは思うけど。
何だかんだ思ってるより仕事以外じゃ基地の人形とあまり関われてない気がするし、ちょうど良い暇ができたからここらで彼女達と交流しておこう。人形と仲良くしていたいってのも私が指揮官目指した理由の一つだしね。
簀巻きにされた9Aを担ぐ45について行きながら、休暇のスケジュールを脳内で立てていく。
久しぶりにのんびりとした時間に浸れそうだなぁとしみじみ思う私なのであった。
ちょっとしばらく本編から外れて基地の人形を中心とした閑話みたいなのを次回から書いていきます