パパはクルーガー   作:エドレア

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二話目にしてパパです


昔の女の忘れ形見

なんだこれ。

 

 母がもういない事以外は、いつも通りの毎日を送ろうとした矢先にドルフロ原作の超重要人物が突然来るとかホラーの類いでしかない。

 

 珍しく裏口のチャイムが鳴ったので患者さんの対応をしているアオザキ先生に代わって応対してみたらこの始末である。ドアを開けたら仏頂面のいかつい髭のおっさんがこっちを睨んでるし、不用意に開けちゃダメでしょ!と私を叱りつけながら出てきた先生はおっさんを見た途端、眼鏡を外して臨戦態勢みたいな感じになるし空気が重くて耐えきれない。

 とりあえず玄関先で睨み合うのはご近所にも外聞がよろしくないので、普段は使わない重篤な患者用の個室におっさんを入れて先生が診察を終わらせるまでの間待つ事となった。

 

「……」

 

 二人で待っている間、会話は無い。

 どう見てもあのG&K社長のベレゾヴィッチ・クルーガーその人にしか見えないのだが如何せん関わりが無い。…母が死んだこのタイミングでやってくるのだから母に関係した事なんだろうけどそれにしたってこんな突然に現れるものだろうか。私が原作で知るクルーガーならやるにしてももうちょっと慎重に行うはずだ。

 

「…終わったぞ」

「ああ、済まないなDr.アオザキ。こんな形で押しかける事になってしまって」

「分かっているなら最初からしなければいいんだ。おまえはいい加減学ばないな、クルーガー」

「…突然だったんだ。本当に、何も知らなかった」

「知っていたら私がイーニャの面倒を見るような事にはなっていなかっただろう。最初からエリーナはおまえに迷惑かけまいと奮闘していたんだ」

「その結果が、これだと?」

 

 …私を無視してガミガミと言い合っている。

 眼鏡を外した先生は基本的に超越者みたいな振る舞いをするから、正直今のは意外だ。まるで子供の育て方で衝突する妻と夫のようである。いや、実際私の事でぶつかっているのは確かなのか。

 このまま置いてけぼりにされるのは嫌なので一つ、意を決して予想していた問いを投げかけてみる。

 

「…あの~」

「どうしたイーニャ?」

「おじさんってお父さんなんですか?」

 

 先ほどまで言い争っていたのが嘘のように、二人は動きを止めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────この子が私とエリーナの子なのか。

 

 切っ掛けは一つの訃報だった。

 軍属時代に一夜だけ深い関係を持った女。

 聖なる夜を共に一つのベッドで過ごした後、全く音沙汰無かったが鉄血人形の反乱で命を落としたという。

 それだけならまだ良かった。しかし聞けば彼女には娘がいるという。

 年齢、早産、誕生日を聞いて背筋に薄ら寒い何かを感じた私はまさかと思ってエリーナの経歴を調べあげた。死因となる胡蝶事件の詳細までは分からなかったがそうして分かった事は一つ。彼女に他の男の存在は影も形も見つからなかった。私以外の男に体を許した事は無かったということだ。

 であれば、答えは自ずと出てくる。

 目の前で、不思議そうにこちら見上げている少女こそ今まで認知されることの無かった私の娘に他ならないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…私が言うのも何ですけど、母さんって強かだったんですね」

「まぁ、そうだな。そうでなくては政府の中枢で働けないだろうしな」

「でもそれはそれとして、女性の言う大丈夫な日を信用しちゃったお父さんも大概アウトな気がします」

「ヴッ」

「ヤるにしてもゴムくらい付けるのが当然のマナーでしょうに、性夜で舞い上がってたんですか?」

「ヴヴッ」

「それに、今日なんで来ちゃったんですか?今のグリフィンって大変デリケートな時期ですよね?そんな状況下で父さんの弱味になりかねない私の存在が露見したらどうするつもりだったんですか?」

「その辺にしといてやれイーニャ。そいつのライフはもう0だ」

「あら…」

 

 さっきまでの威厳はどこへやら。

 そこにはどんよりした雰囲気を漂わせたしょうもないおっさんがいるだけだった。

 私が感じてた威厳というのも単に緊張して顔が強張っていただけだったんだろう。

 当初こそ、原作の重要人物だやべぇって思ってた私だったが"父さん"としての話を聞いてしまった以上、そこにいるのは架空の登場人物ではなく一人の人間でしかない。アオザキ先生に笑われている父さんを見て、そう思った。

 

「…君は、私を父と呼んでくれるのか」

「ええ。今だけですが」

「今だけ?」

「だって、私を公的にあなたの娘だと認めるのはリスクがありますよ」

「それは…そうだな」

「だから、時間とチャンスを下さい」

「何?」

「既に知っているかもしれませんが、私って首から下は無能なんですよ。今までは先生の助けで生きてこれましたがこれからもずっと、死ぬまでそうだなんていうのは有り得ない」

「…私なら、君の生活を支えてやれるかと思うが」

「だーかーらー、それを今やっちゃうと難癖付けられちゃうでしょ。グリフィンだってどうせ一枚岩じゃないんだから」

「むぅ…」

「大戦前であれば国の福祉的な保護で私は生きていけたかもしれません。ですが今はそんな事望める時代でないのは私よりよく知ってるでしょう?」

「…イーニャ。君は私に何を望むんだ」

「私を、戦術人形達の指揮官にしてください」

「なんだと?」

「イーニャ、おまえは何を言っている?」

 

 お、驚いてる驚いてる。

 父さんはともかく先生まで驚くのは珍しいな。この人は滅多に表情を崩さないから、先生の驚いた顔は新鮮だ。

 

「これは私の勝手な推測ですが、グリフィンはおそらく対鉄血のために指揮官の増員を求めるかと思ってます」

「その根拠は?」

「鉄血に対抗できる大手のPMCが他にいないからです。正規軍はE.L.I.Dの掃討に尽力してて他に割く余力なんて無いと思いますし」

「だが…」

「私が欲しいチャンスはここにあります。対鉄血において明確な戦果をあげればそれは私の実績・名誉に繋がります。ただ無能なだけの身障者、という肩書きから脱せられるんです。それはひいて、私の生存に繋がるはずです」

「時間はどれだけ欲しいんだ?それは何のための時間だ?」

「欲しい時間は一年。それだけあれば、指揮官として必要な知識を学ぶのに十分なはずです」

 

 物凄く、苦々しい顔で思案する父さん。対称的に先生は薄く笑いながら私をじっと見ていた。今まで私がこんなに自己主張した事は無かったから面白く思ってるんだろう。

 

「君の言いたい事は理解した。しかし…」

「危ないって言うんでしょう?指揮に失敗すれば統括している地区が襲われるだけでなく、私自身の命にも危険が及ぶ」

「そうだ。まだ子供の君に、そんな危険な真似はさせられない」

「そのための時間です。こんな体ですからせめて考える頭だけは優秀でないといけないんです。それがダメなら、私は社会の穀潰し以外の何者でもない」

「……」

「子供だからっていう理由で庇護される時代ですらありません。たまたま私は、母さんと先生のおかげで体の事以外は不自由なく過ごせてきましたが私以外の人達はどうでしょう?親類に捨てられ明日をも知れぬ命で危険な凶行に及ぶ人達も少なくないのが世の中の実情です」

「…はぁ」

 

 らしくないため息をついて、瞑目する父さん。多分これがこの人の素なんだなと思った。いかつい見た目の割りにあたふたと百面相する様は見ていて飽きない。

 可愛い人。

 思わず、そんな言葉を呟いた。

 

「どうしました?そんな悟ったような顔をして」

「やはり君はエリーナの子なんだと改めて実感しただけだ」

「実感するまでもなくそうなんですがねぇ…」

「ともかく、君の意思は理解した。ただすぐこの場で決められる事ではない。確かに君の言う通り軍からそういった依頼は来ているが、実際にどう対応していくかをこれから社内で議論するという段階なのだ」

「そこで指揮官の増員を提案して…受け入れて貰えたらってことですね」

「いいじゃないかクルーガー。一般市民へのアピールとして元軍人でなくてもグリフィンで出世できる前例があれば働き手が増えるもんじゃないか?」

「Dr.アオザキは彼女が指揮官を目指す事に賛成なのか」

「賛成も何もこの子が自分の意思で決めた事だ。親ですらない私がそれを止められる道理など無い」

「…分かった。指揮官増員については部下と話そう。受け入れてもらえなければそれまでだがな」

 

 思わずガッツポーズしたくなるがグッとこらえて我慢我慢。

 渋々といった形ではあったものの、概ね納得してくれた父さんは早々に引き上げていった。

 

 そこからしばらく普通に過ごして二週間。

 指揮官増員とそれに伴う新人研修の詳細が届いた。

 この手紙とほぼ同時かそれより後にグリフィンの人形が社内研修のお迎えに来てくれるとの事だった。お迎えに来てくれる人形はそれだけでは終わらず指揮官研修の間、パートナーとして付き添ってくれるらしい。無事に指揮官見習いを卒業できたらその人形が最初に着任してくれる人形になるという事だった。

 ワクワクしながら出立の準備を進める私は敢えてどんな子が来てくれるか考えないようにしていた。下手にこの人形が良いとイメージを作って、それとは違う人形が来てしまったら私も人形も悲しいからだ。

 

「そんなにソワソワしないの。あんまりはしゃいでいたら人形に示しがつかないわよ?」

「ご、ごめん先生…。やっぱ落ち着かなくてさ…」

「人より体力無いのは分かってるんだからそこのところもね」

「そうだね。本当は先生と一緒に行けたら良かったんだけど…」

「流石に二週間程度でここを畳めるほど浅い医者はやってなかったからね。もう少し時間をくれたら私もグリフィンに出向くわ」

「…先生ってクルーガーさんと知り合いなの?」

「昔、ちょっと、ね」

「良い女には秘密があるってやつですか…」

「そうそう…、あら来たみたいよ」

 

 私は出来うる限り走らずそれでも努めて早く玄関まで歩いた。

 そうして玄関を開けた先にいたのは。

 

「初めまして、未来の指揮官さん。このUMP45があなたをグリフィンに連れて行ってあげるわね」

 

 片目の傷が特徴的な、あの404小隊の隊長さんだった




ここのクルーガー社長は基本は原作と変わりありませんが主人公が絡むと若干ポンコツになる仕様です
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