パパはクルーガー   作:エドレア

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AR小隊が出ます
あと、私は銃を使った訓練などをある程度調べたつもりでも基本的に素人感覚でしか知らないのでおかしいと思われるところがあるかもですがそこのところご了承下さい


卒業試験

 父さんと衝撃的な出会いをしてから早9ヶ月。

 実地訓練というか、普通に小隊を指揮して鉄血の雑魚を殲滅する日々を送っていた私は唐突に父さんの元へ呼び出された。

 

「予定より早いが、君達には卒業試験を受けてもらう」

「…はいぃ?」

「君が優秀過ぎるのが問題なんだ。いつまでも地区を統括せずに傭兵のように遊撃を繰り返すだけが実状じゃないか。まさか心当たりが無いとは言わせないぞ」

「あー…、戦闘後の面倒な後処理とか全部そっちに任せっきりでしたからね…」

「本当ならさっさと前線へ向かってほしいところなのだが、一応体裁として研修生ではあるので試験という形になったのだ」

「その試験の内容は?」

「それは、16Labに行ってからのお楽しみだな」

「…えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…君が噂の"白雪姫"か」

「…なんですその白雪姫ってのは?」

「やだな~。自分の容姿くらい理解してるでしょう?」

「その言葉そのままそちらにお返ししたいのですが」

「これは手厳しい。ま、今日は上手くやってよ」

 

 …どうやら私は世間的に"白雪姫"なる異名を持っているらしい。目が青いこと以外は基本的に真っ白な見た目してるし身長も全然無いからね。おかげでいつも人を見上げてばかりで首が辛いのだよ。

 今目の前にいるのは16Labのペルシカリアさん。そうI.O.Pきっての天才博士だけど実際見てみると残念度が凄まじい。素材は良いのに服もそうだけど雰囲気が致命的にダメにしてる。

 

「さて、今日は君達の卒業試験を受け持つ事になったんだけどどんな内容なのか、気になるでしょ?」

「気になるっていうか知らないとダメでしょう。何なんです?人形の整備でもしろって事ですか?」

「違う違う。非力な君にそれは出来ないでしょ。今別室に待機してもらってるあの子達だけどそろそろ併設してるキルハウスに行ってもらうから」

「キルハウス?…あの、試験内容って…」

「グリフィンお気に入りの指揮官と言えば君の事なんだろうけど、うちにもとっておきがいてね。要はそいつらと戦って良い結果残せってこと。あと、今回の模擬戦はうちとグリフィンの宣伝も兼ねてて沢山の人が見に来る予定だからそのつもりでいてね」

 

 おぅ、ファッキンマイダディ、知ってて言わなかったな。まさかのAR小隊とかよ。

 

 

 

 

「ね~ね~、指揮官、ペルシカリアって人どうだった?あのネコミミ面白そうだよね~。私も頼んだら付けて貰えるかなぁ?」

「あ~ごめん9、今から大事な話をするからちょっと聞いて貰えるかな」

「あら、指揮官が真剣な顔するだなんて。そんなに難しい内容だったの?」

「うん。端的に言うとAR小隊と模擬戦することになりました」

「…AR小隊ってあの?」

「そうです。加えてグリフィンとI.O.Pがこれを大々的に宣伝するみたいで外部のお客さんも多数やってきます」

「つまり、無様な戦いは見せられないって事ね…」

「一応みんなに聞くけどAR小隊についてどの程度知ってる?」

「人形だけで構成された16Lab特注の小隊だっていうのは知ってるけど…」

「そうだね。特注であるが故に他の人形と違って壊れたら再生できないというデメリットを抱えてる。そのデメリットを上回るくらい優秀な性能を持つ人形達なんだ。特に、隊長のM4A1は従来の人形では出来なかった戦術指揮を行えるようになってる」

「指揮官がいなくとも活躍できる次世代の人形って事ね…」

 

 G11以外の三人は難しい顔をしている。…G11おまえほんとブレないな。ある意味安心できるよ…。

 この模擬戦ってどっちが勝っても負けてもグリフィンとI.O.Pに損が出ないんだよね。私達が勝ったらグリフィンには将来性のある指揮官がいるって証明になるし、AR小隊が勝てばI.O.Pの技術力の高さに箔が付く。どっちも対鉄血への不安を解消する材料になるから両者ともマスメディアとかに売り込みたいだろう。

 まさか父さんに見世物にされるとは思わなかった。…あの人私への扱い吹っ切れたくさいな。まだ皮算用の段階だけど、上手く鉄血のハイエンドモデルを鹵獲出来たら面倒事全部押し付けてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、準備はいい?」

「バッチリだ、M4。さっさと終わらせて飲むぞ」

「M16ったら…。こんなアル中の戯れ言に付き合ってられないわ。相手の指揮官はかなり優秀だって聞いてるもの。油断の無いようにしなきゃ」

「模擬戦かぁ…。鉄血相手じゃないからバラバラにできないね。なんかつまんないよ」

 

 今回の模擬戦はいつもの訓練とは違います。

 AR小隊の隊長のとして一年ほど奮闘してきたけど、世間的な認知はまだまだのようです。私からすれば、皆さんのお役に立てればそれでいいのですがI.O.Pのお偉方はどうもそうは考えていないらしく、これを期に私達AR小隊を期待のエースとして宣伝したいようです。

 ちょっと気になるのは相手の方。ただのデモンストレーションでは無いようで、グリフィンの秘蔵っ子と言われるあの"白雪姫"が率いるHK部隊と対決する事になります。活動期間であれば私達の方が先輩なのですが、本社を中心に居住区で犯罪者を取り締まってきた彼女達の方が有名なようです。

 白雪姫と言えば蝶事件のすぐ後にクルーガー社長が直々にヘッドハンティングした猛者と聞いています。見た目は幼い子供ですがその卓越した頭脳には戦場の全てが見えているんだとか。…噂に尾ひれはひれあると思うので実際どこまで真実なのかは不明ですが、火の無いところに煙は立たずと言いますしそう言われるだけの高い指揮能力はあるのでしょうね。

 

「今回の模擬戦は閃光弾と発煙弾が制限されていないからバラバラに動いたところで撹乱されてしまっては各個撃破されてしまうわ。M16姉さんを先頭に索敵を繰り返して進みましょう。AR-15は左に、SOPⅡは右ね」

 

 開始位置より一歩手前でのブリーフィング。ここまで来るとさっきまでは気楽に振る舞っていたM16姉さんとSOPⅡも真面目になって臨んでいた。AR-15は言わずもがな。後は開始のブザーを待つだけ。

 

 3

 

 2

 

 1

 

 ビーッ!!!

 

 …走りださずにゆっくりと進む。

 こういう時のM16姉さんは心強い。ただ指揮ができるだけで隊長になった私だけど本当は姉さんの方が相応しいんじゃないかと思ってる。その指揮ができるのが大事なんだとペルシカさんは言ってくれたけど…。

 

 入ってすぐ右に進み反時計回りにキルハウス内を索敵する。だが…。

 おかしい。外周を回って既に一周してしまったけど誰とも出会わなかった。これには三人とも怪訝な顔をするけど方針は変わらない。全方位警戒しなくちゃいけないから避けてたけど相手が仕掛けてこないならこちらも仕掛けるまで。

 ハンドサインで中央に向かう事を指示する。ここまで来て仕掛けてこないなんてあり得ない。もしそうなら相手は勝負を放棄したのと同義だ。

 今度はわざと足早に中央へ向かう。音を立てる事でこちらに注意を引き付けるのだ。これで相手の攻勢を誘う。

 しかし中央に辿り着くと────。

 

「…zzz」

「は…?」

 

 思わず声に疑問が漏れる私。

 なぜかど真ん中で堂々と寝ている人形がいる。

 

「罠だM4!」

 

 そう言って振り返ったM16姉さんの目には既に敵が捉えられていたようで。

 振り返る間もなくペイント弾を頭に受けた私は大人しく戦闘不能判定を受けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶい♪」

「全く、おまえというやつは…」

 

 顔に手を当てて項垂れる父さんとダブルピースでにっこりする私。

 その私の後ろでは私のHK部隊の面子が勝利の喜びを分かち合っていた。…G11以外。いつもは張り付いた笑みの45も今は素直に笑っているように見える。あ、HK部隊ってのは4人の銃がH&K社の物なので私がそのまま付けた部隊名です。流石に404はね…。

 M4の今の性格からして慎重に外周から索敵するだろうと思ったのでその意表を突かせて頂きました。確かにAR小隊の面子ってみんな凄いんだけど図抜けてるのがM16なんだよね。なので初手でM16以外の三人を戦闘不能にして数的有利でM16に勝ったのが今回の作戦でした。…うん、こんなの模擬戦でしか通用しないよね。でも勝ち方は特に指定されてなかったのでやれるだけやったまでである。

 HK部隊の更に後ろではAR小隊とペルシカリアさんが話している。M4は申し訳なさそうな顔をしているけどペルシカリアさんは笑っているし悪い雰囲気では無さそうだ。ただAR-15がこっちをじっと見つめてくるのが怖い。他三人がペルシカリアさんと談笑してるけど君だけぼっちだよ。仲間と混ざってきなさいな。そんなに見つめたって何にも出ないから。

 

「さて、これで君は晴れて研修を卒業することとなる。統括する事になるであろう地区は追って伝えるから今日はゆっくり休んでくれ」

「はーい。…あの高級ホテルみたいな社員寮ととうとうお別れかー」

「高級も何も、あそこは君が不自由しないために特注でリフォームした部屋だぞ。そもそも社員寮ですらなかったしな」

「…どっかから難癖付けられたのでは?」

「最初は文句はあったが君の実力がそれを解消した。何も問題はあるまい」

「これは喜ばしい事なのか…」

「これが、君が求めた名誉と実績だ」

「…ちょっと違うような気もする」

 

 何となく釈然としない私の扱いだっけどこれで私は指揮官になれる。

 指揮官になった私の今後の目標は原作で404が関わるイベント関連を指揮したり、偶発的なきっかけによらない一部AR小隊のmod化だ。あとこれは狙えたらだけど比較的早い時期のハイエンドモデルの鹵獲。出来れば"建築家"を狙いたいけどそこはまぁ、運次第という事で。

 

「お二人さん、ちょっと今よろしいかしら?」

「…なんだね。今日はもうこれで終わりのはずだが」

「うちの子達がそっちの指揮官様と是非お話願いたいってさ、ほら」

「さ、先ほどはどうも…。M4A1です」

「M16だ。いやぁ、見事な奇襲だったなぁ」

「私はSOPMODⅡ!ねー、さっきのもう一回やろー?次は負けないんだから!」

「………AR-15よ」

「あら、負け犬達がこぞって何のつもり?負け惜しみでも言いにきたの?」

「そんなんじゃない。今回は順当におまえ達が上回っただけさ。場の環境、模擬戦である事を理解した上での作戦は確かに見事だった。ま、SOPⅡの言う通り次同じ手で負けるつもりは無いがな」

「その、次があれば…ね」

「ええっとグーバレフさん…でしたっけ」

「イーニャでいいよ。私もM4って呼びたいし。それでいい?」

「は、はい。それで…イーニャさんは良くあんな作戦考え付きましたね」

「全体的な練度だとこっちが劣ってるように感じたからね。こっちが強いなら正攻法で押し潰すのがベターだけど弱い方にはそんなの無理だし。だったら奇策でその差を埋めるしかないかな、と」

「…指揮官は私達が負けるって思ってたの?」

「負けないようにするのが私の役目だよ、416。みんなの事は信頼も信用もしてるけど、それ故に盲信は決してしないんだ。出来もしない事を命令されたって困るでしょ?」

「…凄いです。私も見習っていかなきゃ」

「いやいや、M4にはM4の強みがあるでしょ。指揮ができるだけじゃなく、人形として戦う事もできるってさ。私が戦うだなんてどう頑張っても無理だからそこで差別化を図ろうよ」

「差別化…ですか」

「そうそう。私達指揮官は比較的安全なところから人形に指示を出すけど敵の妨害とかで通信が出来なくなったら大変じゃん。そういう時にM4がいてくれると助かるんだよ」

「なるほど…」

「それに、現場指揮でしか見えない物もあると思うんだよね。同様に全体を俯瞰する視点からでしか見えない指揮もあると思う。君と指揮官が組めばもっと多角的な視点から戦場を見る事が出来ると思うよ」

 

 分かっちゃいたけどやっぱり今のM4はただの良い子ちゃんだな。M16がフォローに回らざるを得ないのも頷ける。…もっと穏当な手段で彼女の"制限"を解除できればいいんだけど。

 

 おしゃべりもそこそこに私達は16Labを後にした。早ければ三日後には派遣先の地区が決まるというから引っ越しの準備をしなくちゃいけない。

 新生活第二弾!に備えて足早に帰路に着く私達なのであった。


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