「どれだけ人類が文明を飛躍させようが書類仕事から逃げられないのはすごいよね」
「その人類も自分達の都合で文明が後退してますよ。ほら、現実逃避してないで目の前の書類の山を片付けましょう」
「うぅ…。研修受けてた頃のように敵倒すだけの仕事がしたいよ…」
「敵を倒すのは私達人形の役目。花を愛でる余裕がないのは残念ですがこれも因果ですわ」
どうも、執務室にてシーアとAUGと共に書類の山と格闘してるイーニャです。
基地が始動してから既に1ヶ月ほど経過しました。その間何やってたかというとずっと書類書類書類…。
最初は基地周囲の作戦地域内の指揮してたんだよ。でも一通りやっちゃうとHK部隊のみんなは普通に覚えるから自律作戦扱いで私の指揮いらないんだよね。で、第二・第三部隊の人形達にはひたすら後方支援に向かわせて資源を稼いで貰ってる。カノやグローザは張り合いが無いとぼやいてたけどこの基地の貧乏っぷりはどうにもならないので仕方ない。
私がシーアとAUGで処理してる書類はほとんど後方支援に関する物だ。どこにどう行って何をどういう風に集めてきたのか、そういうのを事細かくチェックしなきゃならない。この終末世界じゃ人や人形より資源の方が遥かに価値としては高いので、こういうのをおざなりにしとくと私の預り知らぬところで流血沙汰などが発生しかねない。三人でやってる分一人でやるよりかはまだ楽なんだろうけどこの1ヶ月ぶっ続けで後方支援を回してきたその量は私にはとても辛かった。弱音一つ吐かない二人が凄いよ…。
一応基地には他に春田さんとFNCがいるけど春田さんはカリーナのお店にずっと勤めているしそのカリーナも作戦報告書で死にそうだし、FNCは食べ物以外に興味が無い性格でこんな書類仕事をやれそうに無かったから消去法でAUGが副官代理を勤めてくれてる。あくまでも副官代理だ。45がめちゃくちゃAUGに対して念押ししてた。今もまたHK部隊の隊長として出撃させてる45だけどそんなに私と離れるのが嫌だったんだろうか。
「指揮官さん、お疲れのようですしそろそろ休憩しましょう。シーアも疲れているでしょう?」
「そうですね。ちょうど一段落付きましたしお茶にするのも悪くはないでしょう」
「FNCのために買い込んだお菓子が沢山あったはずだよね。うん、それでティータイムと洒落こもうか」
丁寧な口調に真面目な態度、っていうとこの二人はよく似てるんだけど雰囲気がかなり違う。シーアはなんていうか学級委員長みたいな生真面目さがあるのに対して、AUGはその服装もあってかまるで未亡人のような振る舞いだ。また、性格もAUGの方が若干穏やかだったりする。今にしたってAUGが言わなきゃこのままずっと書類仕事をやってただろう。
「あ~仕事した後の一杯は美味しいね~」
「お酒でも飲んだようなセリフですよ、イーニャさん」
「あははは、お酒ね。私はまだ飲めないんだけどあれって美味しいの?好きな人結構多いよね」
「味もそうですが、酔う感覚が好きな人が多いでしょう。前の指揮官もかなりの頻度でお酒を飲んでいましたから」
「…飲んだくれってあんまり良い印象無いよね」
「考えるまでもない事ですね。酒に執心した挙げ句、身を滅ぼすなんて愚の骨頂です」
「何事も程々が一番なのかな。というかAUGは前の指揮官の事よく知ってるんだね」
「副官に任命されていましたから」
「ああ、AUGだけ大破してなかったのはそれが理由なのか」
「抱きたい女をわざわざ壊す理由は無いだろう、と」
「…なんかごめん」
「指揮官が謝る必要はありませんよ。所詮私達は人形。人のお役に立てればそれでいいわけですから」
「それはそれとして、女性がする話としては普通にショック受けるよ」
「…ほんと、ここの前任者はどうしようも無い方だったんですね」
「控えめに言ってクズだね」
「そこまでお怒りになられるとは…。分かりました、この話は控えましょう」
「うんうん。過去は変えようが無いんだから今は未来に目を向けて話そうか。二人に聞きたいんだけど、今の基地をこうしてほしいとかそういう要望ってある?改善点とかじゃなくて、こういう趣味持っててそのための部屋が欲しいんですみたいな」
「「………」」
「二人してめっちゃ悩んでるね」
「今のところ私はあまり…」
「強いて言うなら私は、花を育てられる場所が欲しかったりするものですが」
「AUGはお花ね。シーアは…元々仕事のためだけに来たって感じだしねぇ」
「すみません。今は思い浮かぶ事が無く…」
「まぁ、まだこの基地はそれほど発展してないし追い追いでいいよ…ん?」
二人と談笑してるところに入る一通のメール。私の交遊関係はかなり狭いので必然的に相手は限られてくる。差出人は任務中のはずの45からだった。
「私達をこうして呼び出したという事は、いよいよ本格的な実戦ですか?」
「その割りに第一部隊の子がいないのは妙だけどね」
「あ、ちゃんとした任務だよ。HK部隊がいないのもそれに関連した物だし」
日が暮れて既に久しい時間帯。
後方支援から帰ってきた第二・第三部隊それぞれの隊長であるカノとグローザを集めてブリーフィングを行っていた。
「鉄血の怪しい動き…ですか」
「実際おかしかったんだよね。だってあいつらいくつかの小隊として散らばってる割りに基地に侵攻してきたりどこか別の地区へ行動を起こしてたりしてなかったし」
「何を目的に動いているのか調査してこいっていうのが命令かしら」
「45からの連絡じゃ何かを探しているみたい。その何かっていうのが分からないんだけどね。今回の作戦は第二・第三部隊の人形達に鉄血を殲滅してもらいつつ、裏ではHK部隊にその何かを探って貰うっていうのが主旨になるかな」
「なるほど…これは腕が鳴りますね」
「全快してから一度も戦ってなかったもの。久しぶりに暴れられるわね」
「HK部隊がいないのは確認できる鉄血の位置を調べて貰ってるからだよ。つまりは斥候だね。あなた達が作戦開始位置に着いた時点で調査に出向いて貰うから、奴らの情報は作戦開始時の物に限定される事を留意しておいてね」
さてはて、鬼が出る蛇が出るか。いっちょ頑張りますか。
「45姉、ほんとにここで合ってるの?」
「合ってるも何もあいつらが何度も往復してた地域がここじゃない。他にに手掛かりなんて無いわよ」
「…見渡す限り、森ばかりね」
「ならこの森を探索しましょう。何か分かるかも」
「ねぇねぇ。もう何も無かったで帰ろうよ。ここ最近全然眠れてないんだよ。いくら良いベッド貰ったって眠れなきゃ意味無いよ…」
「ならあなた一人で帰ってもいいわよ。一人で帰れるならだけど」
「………ブラックだ…」
月も出ない暗闇の中、森に息を潜める私達HK部隊。
遠く、ライフルの発射音が山なりなこの地形にぶつかって響いていた。
イーニャが他の部隊を指揮してくれている間あいつらがここにいた理由を探らなくてはならない。意味も無く小隊を彷徨かせるだなんて明らかにおかしいのだから。
「静かに。あれは…」
「鉄血の斥候兵?なんでこんな森の中に…」
「やっぱり何かあるのよ。なるべく気付かれずに進みましょう。相手する余裕なんて無いわ」
「…あれ?45姉、あいつらの動き変わってない?今一直線に纏まって動いたよね」
「見つけたってことかしら?急がないと…」
『HK部隊!聞こえる!?』
「どうしたの指揮官」
『奴らの動きが変わった!散発的に動いてたのにいきなり纏まってそっちの方へ押し寄せてる!今なんとか他の部隊を指揮して倒してるけど何体か抜けてしまってるから戦闘準備しておいて!』
「了解。みんな、かくれんぼはここまでみたいよ」
隠密から索敵へ。急いで行動を切り替え鉄血のスカウトが向かったと思われる場所へ急行する。
途中イーニャの警告通り様々な鉄血兵が向かってきたけれど、他の部隊達に大分削られていたようで一蹴するのに苦は無かった。
走る速度をあげて森を進む中、一つの異常に気が付いた。鉄血兵が集中してると思われる場所から爆撃音が聞こえてくる。416が持つような榴弾などではない、もっと規模が大きいものだ。
最早言葉を交わす事すら無く進む私達。G11でさえ今は真面目に起きていた。爆撃のせいだろうか、木々は薙ぎ倒されところどころ炎上してる箇所がある。
そうして地獄絵図と化した森の奥。爆撃で無理矢理木々を伐採して作ったであろうその場所で鉄血兵と対峙していたのは。
「クソ!なぜ私が!こんな目に!」
既に片腕はもがれ全身に傷を負い武装も一部破壊されていてそれでもなお、生きる事を諦めていない目をした未確認の
セーラー服って需要高いよね()