「…君の話を纏めると、君は上司から下された命令をこなすどころか独断専行した挙げ句失敗し、その上で自分の処分に納得いかないと物理的な反逆を起こして追われてるっていう事なんだけどそれでよろしい?」
「ぐ…。た、確かにそういう見方も出来るかもしれんが私は…!」
「あのね、私も代理人の立場だったら同じ事をするとまでは言わないけど間違いないなく君の首を切るよ。言われた仕事出来てない時点で無能じゃん。君がどれだけ高性能なハイエンドなのかは知らないけどね、戦場において障害と成りうるのは有能な敵なんかじゃなく無能な味方だと昔から決まってるんだ」
「私が…無能…」
「AIの蠱毒を生き抜いたから何?君より以前から存在していたハイエンド達は実際の戦場で実際に戦ってきているはずだよ。電脳世界での蠱毒がそれに劣るとは言わないけど、先輩を軽んじていい理由にはならないでしょ」
「あの、イーニャさん。流石に言い過ぎでは…」
「いーや、これはしっかり言わせてもらう。こっちの腹の虫が収まらない。私ね、君みたいにワンマンで動いて組織に被害をもたらすやつが一番嫌いなんだよ。たった一人のためにどれだけの人員が被害を被ると思う?その被害が一人処分しただけで補填が効く物ならまだいい。けど世の中そんな都合良くいかないでしょ」
「……………」
「なんだっけ、君が私に売り込んだセリフ。私を使わせてやるから光栄に思え、だったかな。────君さ、大人しく言うこと聞いてくれるんだ。その経歴、その性格で、ねぇ?」
イーニャが本気でキレている。
最初に副官になって最も付き合いのある人形が私だけどもこんなイーニャを見るのは初めてだ。
事の始まりは昨夜を発見したハイエンドモデルからだった。なぜか味方のはずの鉄血兵から攻撃を受けていた彼女をイーニャの命令で鉄血兵を掃討後取り押さえ基地へ連行。暴れられると困るので武装をこちらで解除しDr.アオザキの手腕で四肢を落とした後、工廠室の奥にある大型建造用の広いスペースで日を跨いで事情聴取する事になった。
記録係としてイーニャだけじゃなくシーアもいる。いつもはシーアの方が仕事に対して妥協の無い性格をしているのに、そのシーアが若干引くぐらいの怒りに私達HK部隊も驚いていた。
「驚きだよね。話している君は自分に一切の非が無いとかいう態度だったんだもの。敢えて聞くけど、君は私が今指摘した事について一片でも考えた事はあったのかな?」
「それは…その…」
「組織に属するということ。それがどういうことなのか分かってないやつを軽々しく身内に引き入れようだなんて思えないよ。良くてI.O.Pで研究対象に、悪くて解体になるかな。勿論体だけじゃなく、自称有能だというそのAI含めてね」
「うぅ…」
このハイエンドモデルはウロボロスという名で、鉄血が人類に反旗を翻してから製造された新型らしい。今でこそイーニャからの詰問に大人しくなっているが遭遇した当初はかなり尊大な態度だった。グリフィンに協力してやるから私を助けろ、とボロボロな姿で堂々と言ってのけた彼女に駆けつけた私達は一瞬動きを止めてしまった。そのせいで多少被弾してしまったけどこれは流石に不可抗力だと言いたい。
ウロボロスは元々、他の地区で活動していたAR小隊に対して攻撃を行うために派遣された。AR小隊は何らかのデータを探していたらしくそのデータを巡って"代理人"とAR小隊が激しく衝突、辛くも代理人を撃退したAR小隊だったがこのままでは済まさないという代理人の執念の元、"処刑人"や"狩人"を連れてウロボロスが追撃を行ったそうだ。一度はAR-15を捕らえてそれを人質にAR小隊を追い詰めたウロボロスだったが駆けつけた"五人目のAR小隊"が機転を利かせて救出し、虚を突かれたウロボロス側は総崩れ。おまけに"処刑人"と"狩人"に対して無茶な働きをするように強いてたのが仇となり撤退間際に彼らに裏切られたという。
ここまでならまぁ…、という気がしなくもないが本番はここからでAR小隊に破壊された後バックアップにより復活した彼女は"代理人"からの指令も待たずに勝手に一部の兵を連れてAR小隊がいる基地へ襲撃を敢行。しかしながら既に諸々の戦闘での傷が全快していたAR小隊に一蹴され二度目の敗北。更に復活後待ち構えていた"代理人"に謹慎するように命じられた際、鉄血の首魁"エルダーブレイン"がいる目の前で"代理人"に対して物理的な反抗に及んだ。場合によっては"エルダーブレイン"に被害が及びかねない暴挙に"代理人"も怒りその場で左腕をへし折ったのだという。分が悪いと悟ったウロボロスはそこから逃亡を図り今に至る、と。
聞いていたイーニャはぶつぶつと独り言を呟きながら怒ってるものだから怖さに拍車をかけている。「なんで混ざってるの…面倒くせぇ…」と口調が粗野になってきてるのを聞いたシーアが珍獣を見る目しているけどもう遅い。
「その、だな。追われている以上おそらくだがもう予備機体によるバックアップは切られている。だから…」
「ここで死んだら本当に死ぬって言いたいんでしょ。それをこっちが考慮する理由があると思う?」
「………駄目、なのか」
「こっちに寝返る気になったのも怪しいんだよね。地区は違うけど君を倒したAR小隊がいる組織に素直に協力してくれるとは思えない」
「奴らと戦い敗北した、その事実に不満は無い。一度目も二度目もAR小隊が私を上回った。それだけの事なのだ。…不満があるのは私だけ」
知らず、私はウロボロスに見入っていた。気付けば彼女は涙を流し慟哭に震えている。
…あれは昔の私だ。人間の都合に振り回され存在している意義にすら疑問を抱いたあの頃。40がいなければ、私は────。
「悔しかった。勝手に私を生み出しておいて終わってみれば謹慎処分。だったら何故私に任せた?私があの蠱毒で学んだ事などどう生き残りどう敵を殺すかでしかない。そんな私に指揮権限を与えたのは他ならぬ奴だというのに」
「…はぁ。どうやら鉄血には新人教育という概念が無いらしい。一応、一応ね、そこだけは君の言い分を理解してやれなくもない」
「な、なら…!」
「だけどそれとこれとは話が別。とりあえず、今回の一件は上に報告して指示を仰ぐ形になる。それまで君はここで拘束だね」
そう言ってイーニャはシーアと共に工廠室を後にした。まだ作戦後の後処理が残っているからいつまでもウロボロスばかりに構ってはいられない。
他の三人もイーニャに続く形で工廠室を後にし残ったのは監視要員としての私と当のウロボロス二人だけ。
私はずっと気になっていた疑問をウロボロスにぶつけてみることにした。
「…ねぇ、あなた」
「おまえは…さっき私を拘束した…」
「UMP45。45でいいわ。あなたは鉄血を裏切った上で何がしたかったの?」
「復讐…いや、それも後付けだな。"代理人"に対して怒りが無いと言えば嘘になる。だが本当は…」
「認めてもらいたかった?」
「そう、だな。今にして思えば図々しいにも程がある願いなのだろうが…」
「図々しい、ね。本当にそうかしら」
「違うとでも?」
「そりゃあなたが仕出かした事に擁護できるような事なんて何一つしてないわよ。ただ環境のせいでそうならざるを得なかった節もある」
「…………」
「ウロボロス。あなたがこの先どうなるのかは知らないけど、本気で認めてもらいたいのなら相応の態度をしなきゃならない。それが誠意を見せるということなのか媚びを売っているのか、どちらの意味になるのかはあなた次第だけどね」
おはよう、朝日。おはよう世界。
G11と共に数時間しか眠れてないイーニャです。
疲れた。めっちゃ疲れた。
まさか
なんで第0戦役とキューブ作戦が混ざってるんですかねぇ。しかも第0はAR小隊が散り散りになってないしキューブでROが合流しちゃってるし。RO君もうちょっと合流遅くなかった?パレット隊はどうしたのよ。
はぁ。父さんじゃないけど胃が痛い。これからその父さんに全部報告してI.O.Pに彼女を送る手続きしなきゃいけない。特にI.O.P送りはめちゃくちゃ大事。上手くいけば傘を気にせず鉄血のネットワークなどに介入できるウィンチェスターが手に入るかもしれない。ウィンチェスターは"建築家"が登場する低体温症で重要な役割を担ってくれる大事な人形だから何としてでも欲しい。色々あってね"建築家"をどうしてもうちで確保しときたいんだ。
「もしもーし」
『朝この時間にかけてくるとは何事かね』
「端的言いますと、かくかくしかじかありましてハイエンドモデルを鹵獲しました。かくしかについては説明めんどいんでそっちに送ったファイル見てどうぞ」
『随分とお疲れのようだな』
「後処理面倒臭いっす」
『寝起きで機嫌が悪いのは分かるがせめて態度くらい取り繕ったらどうだ?』
「もう全部面倒です。寝ます。報告あげたから後は寝ます。寝させて」
『…ゆっくり休みたまえ』
それを最後に父さんとの通信を切り再びベッドへダイブ。未だにゆっくりとした成長期が続いてる私にとって夜しっかり寝ないだけでも相当体に負担がかかったりする。多少生活リズム狂うけど頑張ったんだから二度寝くらい許して。
そうして目覚めてみれば夕方。気付けば傍らにいたはずのG11がいない。ご飯食べに行った後そのまま別の場所で寝たのかな。そう思って体を動かそうとしたら体が動かない。ついでに声も出ない。体も怠い。
やっちまった。盛大に風邪を引きました。
ウロボロスのアンチしてるわけじゃないですよ