---八幡side---
青春とは嘘であり悪である。
なんて言っていた時が、もう懐かしく感じる。
まあ実際、青春が本物かなんて今現在でも分かってなんていない。
それが俺が奉仕部員として1年過ごして分かったことだ。
...それと、そんな毎日も意外と悪くないということ。
気がつけば1年が過ぎていて、気がつけば1度は終わりかけていた関係になっていて、気がつけば...また3人集まった。
一応、俺は雪ノ下と付き合ってる...事になっている。
それを分かっていながら、由比ヶ浜は戻ってきた。戻ってきてくれた。
もう、これまでの関係のようにはなれないと知っている。けれど、俺は青ざめながら、確かに安堵の息を吐いた。
ああ、悪くない。
ずっとこうやって、居心地がいいと思える時間が続けばいいのに。
勝手ながら、ただそう願う日々だった。
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明くる日、土曜日のこと。
春の日差しが暖かく...ってなんだよ、まだ梅雨入りしてないのにめちゃくちゃ暑いじゃねえか、なんて5月。
そんな中、俺は雪ノ下に呼び出されていた。
...というかありゃ脅迫だ。なんたって...
『もしもし、比企谷君? 唐突だけれど今から私が言う2択のどっちがいいか答えなさい。今週日曜に私の家に食事に来るか、土曜日買い物に付き合うか。ああ、拒否権はないから。それじゃあ』
なんて一方的に電話かけられて、拒否権も与えられずに切られるとか狂気の沙汰でしかないだろ。
一応、俺は雪ノ下の彼氏(?)に値するわけだし、俺自身も雪ノ下といる時間は長い方がいいとは思ってるけど、どうしてもあの実家に行くのは気が引けて仕方がないからなぁ...。
というわけで、今こうして自宅から出て雪ノ下の買い物に付き合ってるわけだ。にしても、暑い。これだけ広いショッピングモールだ。多少なり冷房が効いていようと、歩いているだけでもう汗が出てきそうだ。
ほんと、たまには最近荒れ気味のお天気にズームインして欲しい。
「でも、そんな中で外出するのも悪くないでしょ? 比企谷君」
「7:3で暑いって感情が勝ってるな。これは譲れない」
「残りの3は?」
「休みたい」
「はぁ...だらしない」
「いや、誘ったのそっちだからね? 配慮くらいは欲しいんだけど...」
「分かってるわ。少し休憩にしましょうか」
雪ノ下はいたずらに微笑む。
そうして歩みをとめた俺たちは、同じ建物内のベンチに隣合って座った。
「そういえば、この間進路希望調査が出ていたわね」
「あー、そういや出したな。なんて書いたか忘れたけど」
「まさか、専業主夫だなんて言わないでしょうね」
「馬鹿言え、いつまでもそんな馬鹿げた理想を口にできるかよ。...まあ、近場の私立文系を狙ってるのは変わりないな。将来何をしたいか決まってないが...まあ、文系の学科なら潰しが効くだろ」
俺がそう言うと雪ノ下は口を開けて驚いた。
「偉く安定志向なのね」
「そりゃ、ブラックを引く可能性も大いにあるからな、転職するにしろ行ける範囲が広い方がいいだろ。あー、働きたくない」
こんなことを言う奴に限ってなかなか天職を引けない。分かっちゃいるけど芯は簡単に曲がらない。
そんな俺に、雪ノ下は呆れ笑いをうかべた。
「まあ、そんなところだろうとは思ってたわ...。けど、働く意思が生まれるようになったのは前より成長したということかしら?」
「まあな。...なんせ、雪ノ下の人生捻じ曲げる契約しちまったからな、だらしない奴じゃ示しがつかねえだろ」
「ちょっと、なんでこんな時にその話になるの...!」
雪ノ下は照れ混じりに俺の膝をパシンと1度叩く。...こういう所が可愛いと思ったから、俺はきっと好きになったんだろうな。なんて。
...けど、言ってて恥ずかしいのはこっちも一緒だった。
ここは1つ咳払い。そのまま話題転換というやつだ。
「...んんっ! まあ、それはいい。それで、雪ノ下の進路は変わらず、だよな?」
「え、ええ。...前も言ったと思うけれど、私は父さんの仕事を継ぎたいと思ってるわ」
「...家族からは?」
雪ノ下の進路にはいくつかの懸念材料がある。最もなところで言うと、あの氷よりも冷たい母親だ。
何度か会ってるから分かるが、あの人が持っている威圧感、権力、発言力といえば相当なものだ。そこからの応援が無いと夢を実現するのは難しい。
俺の考えを他所に、雪ノ下は表情をくもらせることなく答えた。
「何も言われてない。ただ、私を見る目は少しくらいは変わったと思うわ。...可愛げはなくなったでしょうけど」
「可愛げ、ねぇ...。俺なんかそんなものは小一の時にはもう置き去りにしちまったな」
今思い返してもなかなか辛い比企谷君の少年期。うん、過去はやはり捨てるべきだ。
「最も、そんなものなんて、どうせいつかはいらなくなるものなのでしょうけど」
「違いないな。可愛げなんて親が子供に抱く感情でしかない。大人になるってんなら、そろそろ捨てるべきなんじゃねえのか?」
「そうね。...そろそろ行きましょうか」
「うい。なんなりと」
そんな他愛のない会話とともに時間はすぎていく。
実に実のない話でも、好きな人と一緒であれば楽しく思える。
そうなれば、時が経つのも早いもんだ。
気がつけば日はだいぶ西側へと向かっていた。建物を出て、設置されている大きな時計に目を向けると時刻は5時を示していた。
「もうこんな時間なのね」
「こういうところで買い物なんかしてるとよくある事だよな。見るものに飽きないぶん、時間が経つのが早く感じちまう。...なにか見落としたものはないか?」
「ええ、大丈夫よ。欲しいものは買ったし、見たいものは見たわ。後は帰るだけ」
「そうか。お気に召したのならなによりで」
俺はおちゃらけて返すが、ちゃんと満足してもらえたことには嬉しさを覚えた。これも、彼氏とやらになってから付いた見方だろうか。
そんなもの、知る由もないけどね。
「それじゃ、帰りましょうか」
「ああ。...今日は電車か?」
「ええ」
「駅まで送ってく」
「ありがとう。それじゃ、お願いしてもいいかしら?」
「合点」
そして俺はまた雪ノ下の隣に並んだ。
そこから同じ歩幅で1歩、また1歩と歩いていく。どちらかが先に行くことも無く、遅れることも無く。
3分ほど歩いたあたりで、目の前に国道を横切る横断歩道が見えてきた。あれを渡ってしまえば駅に着く。
つまり、この時間も終わりというわけだ。...分かってちゃいたが、少し名残惜しい。
だから俺は...。
「...なあ、雪ノ下。手、いいか?」
「えっ? ちょ、ちょっと...!」
俺は少しばかり積極的に手をつなごうと右腕を動かした。しかしそれは雪ノ下の意に反したのか、ものの見事に弾かれる。
「...ごめんなさい。一応、周りに人がいるから...」
「そうか...。悪かった」
さっきまでの空気がどこか消えてしまった。場にはほんのわずかの気まずさのみが残る。
そんな状況でおしゃべりなんて出来るはずもなく、同じはずだった歩幅も少し乱れる。
1歩、また1歩。
先を歩く雪ノ下のスピードがどんどん早くなっていく。気がつけばもう5mほどの差ができていた。
やがて雪ノ下が横断歩道に差し掛かる。ここは車通り、人通りが少しばかり少ないのもあって歩道橋が敷かれていない。
コツ、コツと、靴を鳴らして、下を向いて歩く雪ノ下。
だからこそ、急に接近してくる1台の大型トレーラーに気が付かなかった。
ゴォォォォ!
次第にそのトレーラーは近づいてくる。減速する気配もなく、むしろだんだんと加速している。
俺は人知れず叫んでいた。
「何やってんだ雪ノ下!! 早く渡れ!!!」
「...えっ?」
正気を取り戻した雪ノ下が右を向く。しかし、今から走って逃げてもおそらく間に合わない。
「...! 間に合え!!」
俺は体に残っている全ての力を足に込めて、思い切りアスファルトを蹴った。全速力で雪ノ下の元へ走る。
そして、たどり着いた瞬間、その勢いのまま、雪ノ下を前へ突き飛ばした。
「!!!」
バァン!!
その直後、俺の体は激しい音を鳴らしながらトレーラーと衝突した。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少し愚痴をば。
最後に書いた俺ガイルSSはR18でしたね。
あれがまあものの見事に学校中に知れ渡ったわけです。
ならば問いたい。馬鹿にできるほど自分に同じことをする力があるのかと。
書き始めたら毎日投稿をモットーにしてる私です。そこだけは負けたくないので。
では。
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この話はどこまで続くかわかりませんが、長期連載ではないのでおやつ感覚でお楽しみください。
それでは。