なら私も覚悟を持とう
いくら傷つけようと構わない
それで雪乃ちゃんが前に進めるなら
---陽乃side---
本当は、予定なんてなかった。
切り上げて5時くらいに出たものの、そのあとのことなんて私は考えてなかった。
時間があるならなんで比企谷君のところから離れたのと聞かれるかもしれないけど、私が彼の元にいるのは畏れ多かった。
けど、なんで畏れ多いと思ったのかは、私自身が理解できてなかった。
彼が五体満足な状態なら、いつものようにグイグイいったかもしれない。実際彼といる時間は割と楽しかったりする。
...でも今は、そんな状態じゃない。
私は彼の彼女の姉という立ち位置になってる。そうなってる以上、必要以上のコンタクトは両者にとって迷惑になる。
私は雪乃ちゃんが好きだ。
だから、雪乃ちゃんが彼を選ぶ、という選択を自分の意思でしてることについて、それは邪魔したくなかった。
「...おっと、雨だ」
家に歩いて帰る途中、残り数メートルといったあたりで雨が降り出した。もう少し遅かったら危なかったかもしれない。
私は急いで家の中に入ると身の回りの整理を終わらせ、雪乃ちゃんがいる部屋の前へと向かった。
しかし、1歩、1歩と進んでいく中で、次第にその足が重たくなった。代わりにだんだんと彼の言葉が形を持って現れてくる。
『...俺、雪ノ下と別れます』
『簡単ですよ。...俺は、あいつの未来を守るために、障害にならないように庇った。なら、自分がその障害になっているのなら、夢の完遂において、ただの邪魔者でしょう』
そう言った時の彼の目は、ちゃんとした覚悟を持っていた。
安易な言葉じゃ片付けることは出来ない。その場ではぐらかすこともできない。
彼は、おそらく雪乃ちゃんの前から身を引くつもりなんだろう。
私は、その事を雪乃ちゃんに告げるべきなんだろうか?
言った方がいいかもしれないというのはある。
...けど、今の状態で雪乃ちゃんにそれを告げたら、本当に雪乃ちゃんが狂ってしまう気がして仕方がない。
それほどなまでに、今の雪乃ちゃんにとって比企谷君は心の拠り所なわけだから。
...けれど、さすがに時間かな。
私は、ちょっと雪乃ちゃんを甘やかしすぎたみたい。
比企谷君がやった、雪乃ちゃんが好きだから、雪乃ちゃんの前から身を引くように、私も雪乃ちゃんが好きだから、性格悪い姉を演じて奮い立たせるようにしてみよう。結末はどうなろうと構わないから。
...だから、ごめん、雪乃ちゃん。
私はドアの前に立つと、強引にそのドアを開けた。
雪乃ちゃんは、ベッドの上でぼーっとどこかを見てるだけだったが、こちらに気づくや否や、力なく睨んできた。
「...なぜ勝手に入ってくるのかしら」
「ドアの前で話すのは飽きたからね。それに、雪乃ちゃんの様子も気になってたところだし」
私は怯むことなく、カラカラと笑い、つかつかと雪乃ちゃんの元へ近づく。
そのまま3歩ほどの距離で足を止め、得意のおしゃべりを始める。
「比企谷君に会ってきたよ、雪乃ちゃん」
「...そう。...それで、彼は私に何か言ってたかしら?」
「別に?」
「とぼけないで...!」
「だから、別にって言ってるでしょ?」
自分でも驚くほど冷めた声で雪乃ちゃんを窘める。その場の空気が凍りつき、お互い言葉を発さなくなった。
けれど、それと対照的に私自身の心がだんだんと熱くなってきていた。おそらくこの感情は怒りだ。
...ああ、めんどくさい。もう、いっそ感情に任せて行動してもいいかな。後で怒られてもいいから、せめて今だけは。
「雪乃ちゃんさぁ、いつまでそうしてるつもりなの?」
「...どういう意味?」
「分かるでしょ。多少のショックがあるとはいえ、雪乃ちゃんはまだその目で比企谷君を確かめてない。彼の言葉も聞いてない。...いつまで、彼から逃げてるの? 雪乃ちゃんは比企谷君の彼氏、なんでしょ?」
「...姉さんには、関係ない」
「関係あるからそう言ってるんでしょ!」
大声を上げ、一気に距離を詰めて雪乃ちゃんの胸ぐらを掴む。言葉を紡いでいく度、怒りがどんどん込み上げてきた。
「雪乃ちゃん、中途半端に比企谷君のことを思って、こんなふうに泣いてるなら、今すぐ彼から手を引いたら? ...比企谷君、ずっと雪乃ちゃんのこと待ってるんだよ? でも、雪乃ちゃんは向き合おうとすらしない。....なら、私が取っちゃうよ?」
「...」
「前も言ったけど、私はもうこれ以上何も言わないよ。けどね、雪乃ちゃんが変わらずずっと心を閉ざしたまま生き続けるなら、私は構わず手を出すよ」
そう言って雪乃ちゃんの胸ぐらから手を離すと、せかせかとドアの方へと歩いていった。
「まあ、まずは久しぶりに外に出ることからだね。...休学届取り消すから、そろそろ学校にでも行ったら? じゃあね」
そして返事を待つことなく、私はドアを勢いよく閉めた。
「...はぁ、甘いなぁほんと」
自分でああ言ってながら、全然嫌味ったらしくなかった気がする。演じるのも苦手になってきたようだ。
まあ、私にやれることはやった。あとは、雪乃ちゃん自身がどうするかだけだ。
ま、何度も言うけど私はどっちに傾こうとどうでもいい。
あー...ただ。
...せめて、比企谷君には報われて欲しいな。
うわー...10話にして1番駄文だ。
どうか最後までお付き合い下さい
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