いつの間にか忘れていた大切な人への愛
ちゃんとこの声で届かせたい。
たとえ今の私が背負ってる物が
許されない罪であっても
---雪ノ下side---
私は、もうなんで泣いているのかさえ忘れていた。
ただ、そうやって罪を悔やんでいる風でいたほうが楽だったから。
けど、結局それは私が苦しくないための逃げ道でしかなくて、好きだったはずの彼のことを、私は全く考えてなかった。
姉さんに胸ぐらを掴まれて、ようやく現実を理解した。
私は...彼に、ちゃんと会わなきゃいけない。...でも、なんて言えばいいのか分からない。
彼と別れるべき? それとも我を通すべき?
...私、何をしたかったんだっけ。
数週間外の世界を閉ざしてきた私は、もう何もかもが抜けきっていた。
---
月曜。
私は数週間ぶりに学校に登校した。
けれど、そもそもあまり居場所がなかった私に触れる物好きなんてやはりいなかった。
ただ、1部例外はある。
今の私は、その例外をとても恐れていた。
由比ヶ浜さんにしても、小町さんにしても。
彼の今を知っている2人に会うのが、今はとても怖かった。
会って、何を言われるかわからない。
ここに来てさえ私は、自分自身の保身しか考えれてないみたいだ。
人目を避けるように、私は学校で時間を過ごす。空いてしまった時間分の授業はなんとか取り戻せたが、心に空いてしまった穴がどうしても埋まらない。
そんなある日、私はふと部室に寄ってみることにした。
別に中に入ってどうにかしようというつもりはなく、そっと外から眺めるだけ眺めようと、リノリウムの床を鳴らして懐かしの部屋へ。
ドアの前に立つ。中には誰もいないようだ。
...あれ以来、今まで同じように3人ですごしていた部屋。けれど、最近は誰が鍵を借りてるのか分からない。
「...ここに、私の居場所はもうないのかしら」
ドアに手をふれ、そっともたれかかる。
涙は出ないが、心は抑えきれないほど悲しさを覚えていた。
...あの時、私が彼の手を取ることを躊躇ってさえしなければ、きっとこんなことにはならなかった。...そう考えれば、私のせいだ。
けど、彼はきっと自分のせいにする。自業自得だって言うだろう。...それじゃ、今までと何も変わってない。彼も、...私も。
「なら...なんて言えばいいの? ...どうやったら前に進めるの?」
独り言を呟く声は増してく。誰かに届けるつもりもないのに、誰かに聞いて欲しいと言わんばかりの声が耳を鳴らす。
次第にそれは苛立ちに変わる。宛の無い苛立ち。
「...分からない。...何も、分からない...!」
「だから、そうやって逃げるの? ゆきのんは」
その時、私が恐れ、遠ざけていた声が耳に伝わった。
「...由比ヶ浜、さん」
「学校、来れるようになったんだね、心配してたんだよ?」
「...その、私は」
「立ち話はいいから、入ろ? 鍵、持ってきたから」
由比ヶ浜さんは笑うことなく、怒ることなく、ドアの鍵を開けて3つならんだ椅子の1つに座った。それに合わせて私も座る。...ひとつだけ、席が空いてるのが気がかりだ。
「...」
由比ヶ浜さんがどう切り出すのか分からない、臆病な私はただ次の言葉を待った。
「...ゆきのん、まだヒッキーの所に行ってないんだよね?」
「......ええ」
「仕方がないよね、少なくとも、ゆきのんだって被害者なんだから。無理強いして行くのもしんどいよ。...私だって、自分のせいでって塞ぎ込んでる中で会いに行けるかって言われたら、ちょっと怖いもん」
由比ヶ浜さんは私を頭ごなしに否定してこない。...いっそ否定してくれた方が今はありがたいと思ってしまうほどに。
そんな中、由比ヶ浜さんは口元をきゅっと結んで、こちらを見つめてきた。
「...でも、私なら絶対に行くよ。だって、ヒッキーのこと、好きだもん。大好きだもん。...ゆきのんは、どうなの?」
「どうって...?」
「ヒッキーのこと、好きなんだよね? ...怪我したから、させたから、嫌いになったなんて言わないよね...?」
「それは...」
嫌い、だなんていうはずもない。
けれど、好きと言うことが、とてもおこがましいことに感じて、すぐに口にはできなかった。
彼を愛する資格が、今の私にあるの...?
しかし、その一瞬で口にできなかったことが、由比ヶ浜の激昴に繋がったようだ。拳を握り、わなわなと震えて、瞳で私に怒りを訴える。
それは言葉となって、私の胸を突き刺した。
「ゆきのん!」
「!?」
「どうせゆきのんの事だから、資格がとか、そんな固いこと考えてるかもしれないけど...けどさ、好きって、そんな感情じゃないんだよ。...ヒッキーに、自分の一生捧げるって言ったんでしょ? だったらさ...」
由比ヶ浜さんは声を止めることなく、私にトドメを刺す。
「ヒッキーのこと好きって言えないなら、会いに行けないなら...私に譲ってよ...!」
私は尚も黙り込む。当然何も言うことが出来ない。
「ゆきのんはさ、ヒッキーの彼女なんだよ。...でも、2人なら、そんな甘い関係にはなんないって私は信じてた。...でもさ、そうじゃないならさ、私に譲ってよ。...私、今だって、ヒッキーのそばに居たいって、思うもん...。ゆきのんは、どうなの?」
「私は...彼のことが...」
そう言いかけて、言葉を止める。
すーっと脳内が冷めていき、久しぶりに冷静にものを考えることが出来た。
くだらない概念、固い思考、そんなものをとり払えるなら、心の底から叫んでやりたいくらいに、1つの気持ちが湧き上がる。
なら、叫んでしまえばいい。どうなってもいい。私は...私は...!
「好きに決まってるじゃない! 比企谷君のこと! 一生かけて愛したいに決まってるじゃない!」
私は久しぶりに、本心を取り戻した。
けれど、...この気持ちを彼にちゃんと伝えるには、まだ早かった。
「...だから、由比ヶ浜さん。もう少しだけ、時間をくれるかしら。...ちゃんと彼と向き合うために、私は自分の気持ち、確認したいから」
由比ヶ浜さんは表情を崩して、ようやく笑った。
「...やっぱりゆきのんだなぁ...。そういうとこ、本当に不器用だと思う。けど、待つよ。ゆきのんが自分で決めた選択、この目でちゃんと見たいから」
「ありがとう...。本当に」
「その代わり、もう逃げれないよ?」
「ええ、分かってるわ」
自分の好きな人が手に入るチャンスかもしれないのに、由比ヶ浜さんは私に時間をくれると言った。
なら、もう後戻りは出来ない。
彼とこのままいるにしろ、...別れるにしろ、自分自身のためだけじゃない選択、でも、自分の満足のいく選択をしたいから。
だから、あとほんの少しだけ、私に勇気と時間をください。
あ、投稿忘れてました...。
うーん、展開が難しいですね。
どうも陳腐になっちゃう。
ここまで読んでいただきありがとうございます