振り返ればスタートラインはそこにある
まだ進んじゃない
なら、間違えそうになったこれからだって
きっと変えられる
---八幡side---
由比ヶ浜から、雪ノ下が学校に来るようになったとLINEを貰ったその日、小町から見舞いに来るとの連絡が入った。
「んな律儀なことしなくてもいいんだけどなぁ...」
1人呟いて返信を返す。打ち終わったところで体をベッドの方へ預けた。
...片腕で生活するのも少しは慣れてきたと感じる。とはいえ、退院は当分先だが。
ただ、やはり身の回りのことがかろうじてできるようになったとしても、家のことはほとんどできることが狭まる。そうなると、これからも小町に頼りっきりになるかもしれない。
ただでさえ、これまでさんざん尽くしてもらったのに、これ以上負荷をかけることを考えると、地面に頭をついて謝りたくなる。
...もし雪ノ下と別れる道を選ぶなら、そうなることは間違いないだろう。
数十分後、病室のスライドドアが開く。どうやら来たみたいだ。
「調子はどう? お兄ちゃん」
「日に日に良くはなってるわな。そりゃ治らない方がおかしい」
「...日に日に悪くなっていった、お兄ちゃんの死んだような目についてはどう言及します?」
「...あれ? ひょっとして戻ってる?」
「......はぁ。座るね」
小町は大きな溜息をついて、近くの椅子に腰かけた。
「...お兄ちゃん、ゆきのんさんと別れようとしてる?」
「あ? なんだ急に」
「そりゃ目が昔のようになってきてたら、誰だって勘づくでしょ。お兄ちゃん不器用だし。どうせまたくだらないこと考えてるんだろうけど?」
「えらい言い様だな」
だが実際間違いではない。
今俺が考えてることは、俺にとっては大切なことかもしれないが、傍から見ればくだらない意地の張り合いなんだろう。
でも、少なくとも俺自身はそんな無下にできるものではないと認識していた。
「...はぁ。あのね、お兄ちゃん。この際だから言っておくけど、私はお兄ちゃんのこと、尊敬してるんだよ? ...そりゃ確かにさ、勝手に事故されて、片腕失って、私の負担が大きくなること考えるとちょっとは怒りたくなるけど...、それでも、お兄ちゃんは身体はって1人の人を助けたんだよ? それも、お兄ちゃんが人生かけて愛そうとしてる人を。...ずっと死んだように生きていた頃を考えると、こんな私への負担がどうでも良くなるほどに、尊敬してるんだよ?」
「小町...」
強く、はっきりと意志を持った小町の声が俺の胸を打つ。
本当に、こうやって唐突に我に返るから小町が好きに思える。
こんな大きな態度をとっていいのかわからないが、本当に誇らしい妹だ。
「...なぁその、小町。...俺って、もっと迷惑かけていいのか?」
「迷惑、ねぇ...。お兄ちゃん、国語得意なのにそういう言葉しか出てこないんだ」
小町は呆れていた。ため息もつけないほどに。
「じゃあ他に、どう言えばいいんだよ」
頭が良くても、その知能が使えない時があるように、ふだん国語が得意でも、心が曲がっててしまえば正しい言葉が出ない時がある。
少なくとも、間違いだらけだった俺の人生は、正しい答えを知らない。
「頼る、とかさ、一緒に生きる、とかさ、そういう言い方だってあるじゃん。なんでそうやって、自分が生きてる事が迷惑みたいに言うの? 私とかさ、結衣さんとかさ、ゆきのんさんとかさ、お兄ちゃんが生きてる事、迷惑に思うと思う?」
「それは...」
「自信が無いんだったら小町が断言してあげる。私たちは、お兄ちゃんに生きてて欲しいと思ってるよ。...そのうえで、まだゆきのんさんはお兄ちゃんと一緒にいたいって、お兄ちゃんのことが好きだって思ってる。じゃなきゃ、ここまで苦しんで会いに来ないなんてことないでしょ?」
...確かにそれはそうだ。
自分の彼女のことを信じなくてどうするんだ、と言いたいんだろう。
実際、俺は雪ノ下を信じてないわけじゃない。
でも、違うんだ小町。そうじゃない。
俺が守ったのは、好きの気持ちなんかじゃなく...
「...ああもう! お兄ちゃん! 顔上げて!」
小町が大声で怒鳴る。顔を上げると、俺の目を涙目の鋭い目付きで睨んでいる小町がいた。
「好きなんでしょ!? ゆきのんさんのこと、今でも! ならさ、いらないじゃん! くだらない意地とかさ、遠慮とかさ! 一生を歪める権利をくれって、お兄ちゃんそう言ったんでしょ!? だったらさ、だったらさ!? 最後まで責任取りなよ! 迷惑だなんて、絶対に思わないから!」
俺の心の奥底で燻っていた本心を、小町が代弁するかのように怒鳴りつけた。
怒鳴られて、少しだけ気が楽になる。
...ああそうか。俺は、心の底から無心で誰かを愛することを、誰かに承認して欲しかったんだ。
マイナス思考だらけで気づくことのなかった声だ。
その声に体を支配させる勇気はまだないが、今ならそれもいいんじゃないかと思える。
「...ありがとな。俺、少しわかった気がする。...だから、あとはちゃんと雪ノ下と話して、それで考える。..,ありがとな、お兄ちゃんのこと、尊敬してるって言ってくれて」
「今更どうってことないよ」
口を開けばありがとうしか出てこない。
怒涛の感謝に俺も小町も呆れ笑いをうかべる他なかった。
ただ、今はそれでいい。
プラスの事象は全て甘い罠だと思っていたが、今なら違うと胸を張って言える。
なら...逃げるのは、もうやめだ。
そう思った瞬間、雪ノ下に一刻も早く会いたい気持ちになったのは、きっと偶然ではないだろう。
うへぇ...。
言うことは無いです。グダリそうですが最後まで頑張ります。
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