私に出来る責任の取り方だと思ってた
けれど、誰かが許してくれるのなら私は
あなたを好きなままでいさせてほしい。
---雪ノ下side---
あの後、誰もいなくなった部室で、私は1人考えていた。
彼になんて言うか、そんな単純なこと。
言うまでもなく、比企谷君は優しい。優しいから、誰を悲しませたくないと思っている。
けど、それで自分が傷つくことが、周りを1番悲しませていることに彼は気づいていない。
...私が言っていいのか分からないけど、彼はきっと今回も自分のせいにする。それでは、これまでと何も変わってない。
こんなままだと、私は彼に頼りっぱなしで、彼は自己犠牲に走って...、彼がこれまで散々毛嫌いしていた馴れ合いの関係に戻ってしまう。
私が欲しいのは、そんな彼じゃない。
だから、私は謝らないことにする。そして、私も彼に謝らせない。
けれど、それは無責任でこれまでと同じ顔をするという訳では無い。
こうなってしまった以上、私にも責任はある。そんなこと考えなくても...と由比ヶ浜さんに言われそうだけれど、最低限譲れないものが私にもある。
とはいえ、心から彼に愛がある以上、別れるなんて選択肢は私に用意されてなかった。由比ヶ浜さんには悪いけれど、譲る気はさらさら湧き出てこなかった。
なら、どうやって責任を取るか。
ここまで思考が来て、止まってしまう。
不器用だから、と言い訳するつもりではないが、本当にこういうのはダメみたいだ。全く何も浮かんでこない。
「...はぁ」
完全に意気消沈し長机に力なく伏せる。傍から見ればだらしないと言われる姿勢だけれど、やってみるとこれはこれで気分がいい。
そのまま、顔を空いている比企谷君が座るはずの席の方へ向ける。そうすると、私の目に切れたストラップのリングの接続部分が見えた。
(...ストラップ? 由比ヶ浜さんのが切れたのかしら)
少し気になって足元辺りを見てみる。しかし切れた端の方は落ちてないみたいだ。
(...まあ、別にどうでもいいわ)
そう思ってまた先程の体勢に戻ろうとする。けれど、脳が何か閃いたのか、そういった姿勢をとることを許さなかった。
(...そう、言葉なんかじゃなく、形で意志を示せばいいの。私は彼と一緒にいたい。彼のそばで一生を生きる覚悟だって今はある。...だから、それを彼に伝えればいい)
姉さんに胸ぐらを掴まれ、由比ヶ浜さんに説教されて、そうしてやっと自分自身の気持ちが分かった。
やっぱり、彼のことが好きだ。好きで、好きで、仕方がない。
彼を傷つけてしまったのは私の罪だ。かと言って、彼の面倒を見るために彼との将来を考えるのではない。
私は、彼のことが心から好きだという私の意思で、彼を選ぶ。
今度こそ、もう迷わないように。
気がつけば、体が勝手に動き出し、私は見慣れたアドレスに電話をかけていた。
prrrr
2、3回コールがなり、相手が電話をとる。
『どしたの、ゆきのん?』
「もしもし由比ヶ浜さん。...唐突なのだけれどとりあえず、明日の放課後、時間空いてるかしら?」
『なるほどね。...聞かせて? ゆきのんの答え』
「...うん。私は━━━━━━━━━━━」
胸の奥から湧き出てくる声で、一言一言はっきりと私の意思を、私がやりたいことを紡ぐ。
私の言葉を聞き終えた由比ヶ浜さんが苦笑いを浮かべているのは、電話越しでもはっきり分かった。
『...あはは、やっぱりゆきのんだな...。でも、そういうの、いいと思うよ、ゆきのんらしくて』
「...ごめんなさい。その...由比ヶ浜さんだって、彼のこと大切に思ってるはずなのに」
『ううん。いいのいいの。...これで、やっと諦めが着いたから。だから...ゆきのん! そう決めたんだったら、もうヒッキーのこと手放しちゃダメだよ! ああ見えてヒッキー、色んなところから狙われてるんだから!』
「ええ。...分かってるわ」
直接由比ヶ浜さんが目の前で言った訳では無いのに、私は力強く頷いた。おそらくこれは自分自身の覚悟を確かめるためだ。
けれど、きっと大丈夫だ。
『それじゃ、明日放課後すぐ行くんだね?』
「ええ。...もうあまり時間をかけたくないから」
『分かった。じゃあ、また何かあったらかけるね、ゆきのん!』
そう言って向こうが電話を切る。切れたのを確認して私も電話をしまった。そのまま白い天井を見上げる。
教室の天井と、病院の天井は似ていることがよくある。もし彼が同じように天井を見上げてるのなら、見えてる世界は一緒なのかもしれない。
...けれど、私は、そんな似通った世界を見たいのではなく、彼と一緒に同じ明日が見たい。だから、想いを伝えに行くんだ。
先程しまった携帯をもう一度取り出す。
今度は彼にLINEを送信するために。
キーボードを打つ指が震える。けれど、最後まで打ち切り、彼にメッセージを送信する。
「明日、そっちへ行きます」
私が彼にとってきた態度からすればありえないほどかしこまった文章に少し吹き出しそうになる。
すぐに既読は返ってきた。が、返信はない。
「...それでいいわ」
変に返信が返ってきた方が、私も焦っていただろうから。
かえってこない返信に気を害することなく私は再び携帯をカバンの中にしまい込んだ。
そのまま立ち上がると、私はまっすぐ家に帰り始める。
その足取りは、今まで生きてきた中で1番軽いものに感じた。
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「...じゃあ、ゆきのん、これでいいんだね?」
「ええ。...ここまで付き添ってくれてありがとう、由比ヶ浜さん」
翌日の放課後。電話の内容通り、私はあるものを買うために由比ヶ浜さんに買い物に付き添ってもらっていた。
とはいえ、買おうとしてるものの値段が高い分、高校生の財力で買えるものは限られてる。都合よく私が気に入ったものがあったので買い終わるまでは早かった。
そのまま彼のいる病院へ向かう。けれど、由比ヶ浜さんは建物の中にすら入るのを拒んだ。
私はその意志を否定しないでおいた。
代わりに彼女に心の底からの感謝を伝える。
「...今改まって言うのも何だけれど、あなたという人がいなかったら私の部屋はきっと暗いままだった。...だから、その扉を開けてくれて...光をくれて、本当にありがとう」
「そりゃ私はゆきのんの友達、だからね! ...ううん、それ以上の関係だから。だから、ゆきのんの力になりたいなんて、当たり前だから。...はい、行った行った! ヒッキー待たしちゃダメだよ!」
「...ええ。それじゃあ、行ってくるわ」
最後の彼女の声は上ずっていた。恐らく私がいなくなった後で泣いてしまうのだろうと思う。
...けれど、ここで立ち止まってしまうことが1番失礼だから。由比ヶ浜さんにとっても、彼にとっても。
だから...私は歩く。
そうして私は、彼の部屋の扉を開いた。
次回最終回ですかね。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
最終回、アフターまでお楽しみください