それでも雪ノ下雪乃は、比企谷八幡を選ぶ   作:白羽凪

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一瞬のすれ違いが生んだ大きな歪み
それは各々を確実に狂わせた
でも変わらないものがあるとすれば
そこに眠る愛だった


第14話 誓愛

---八幡side---

 

 

満を持して、病室のドアが開けられる。

訪問客の名前は知っていた。

 

ずっと心配で、ずっと会いたくて、それでもってずっと遠ざけていた。

だから今こうやって面と向かっても言葉が出てこないまま、手が止まる。

 

俺はやるせなく、1度名前を呼んだ。

 

 

 

「雪ノ下...」

 

「ごめん、待たせたかしら」

 

 

 

特に動揺もせず、雪ノ下は少し垂れ下がった前髪をかき分ける。改めてその表情を拝むが、その表情は事故を起こす前の日のものに相違なかった。

 

「...いや、別に。まああれだ。とりあえず座れよ」

 

「じゃ、遠慮なくそうさせて貰うわ」

 

 

俺は雪ノ下が座るまでどうにか次の言葉を考えていた。けれど、そんなものはすぐに浮かんでくるはずもなく、雪ノ下は椅子に座った。

 

しかし、ものの流れは止めてはいけない。俺はどうにか次の言葉をと口を開く。

 

 

「あー...そのだな」

 

 

 

 

「謝らないでちょうだい、比企谷君」

 

 

雪ノ下は鋭い目で俺を諌める。

 

 

「...分かっちゃう?」

 

「あなたがそうやって気まずそうに声を上げる時は、絶対に謝るって相場が決まってるわ。一年以上見ていて分からないはずがないわ」

 

「そりゃそうだ。...てかもうそんな経つんだな」

 

 

雪ノ下にあったのが去年の春か。...毎日が忙しく感じたぶん、そんなに月日が経ってると思ってすらなかった。

 

 

,,.そうか、それだけ時間があったら好きになるよな。

 

 

「...比企谷君。お願いだから、全部自分が悪いだなんて謝らないで。あなたは自分が悪くないことでさえ自分を悪者にする。...それじゃ、誰も救われないわ。...間違えたのなら私達が言う。だから、自分が言ってる事が全て間違えだなんて言わないで。自分の存在を否定しないで...」

 

 

積年の想いを雪ノ下が口にする。

 

そういえば、同じようなことを小町に言われたな。なら、そろそろ気づかなきゃダメだ。

 

 

「...分かった。...ただ、すぐにできるなんて思っちゃない。だから、その時はお前が俺を叱ってくれ」

 

「ええ。分かってるわ。あなたを叱るのは、私の役目だもの」

 

「えらい言い草だこと。...」

 

 

そう言ったところで、俺は口ごもった。

 

 

 

いつから、雪ノ下がこれからもいてくれるとちゃんと口にした?

俺は、これから雪ノ下とどうしたらいい?

 

 

 

これまでのようにいることはもう不可能だ。修復不可能な傷が俺の人生と身体に刻まれている。

だからといって、安易に将来を口にできない。その選択権が俺にあるのだろうか。

 

 

雪ノ下のことは好きだ。一緒にいて欲しい。心からそう願っていても、ごく1部がそれを許しても、世間が許してくれるとは限らない。

 

 

雪ノ下が高みを目指すなら、当然その中で出会いがあるわけで。俺なんかより優れたやつになんていくらでも会うだろう。

なら、その中で俺なりの責任のとり方といえばどうなんだろうか。

 

 

悪い癖だと分かっていても、そこだけはいつまでも霞みがかっている。

先の見えないことへの苛立ちが増していくのを感じた。

 

気づけば腕が震えている。

 

 

 

 

 

けれど、その腕を握る優しい手がそこにはあった。

顔を上げると、ベッドの右側に移動していた雪ノ下が俺の右手を握っていた。

 

 

「比企谷君。今から私が言うことをちゃんと聞いてください」

 

「お、おう...?」

 

 

曖昧に返事を返すと、雪ノ下がポケットから何やら小さい小箱を取り出した。そして中身が現れる。

 

 

 

 

 

中には、綺麗な銀色をした指輪が入っていた。

 

 

 

「私と結婚してください。比企谷八幡さん」

 

 

 

その一言で、霞みがかった視界が一気に晴れ渡った。

理由は簡単だ。俺は、他の誰でもない雪ノ下からの承認が欲しかったからだ。

 

 

雪ノ下との将来を考えても、結局は雪ノ下がどう言うか知るまで分からなかった訳だ。

だから今、こうしてその答えを聞いて、視界が晴れ渡った。

 

 

 

 

 

しかし、右腕はさらに震えを増す。

 

本当にその告白を受けていいのかが恐ろしく怖かった。

 

 

 

「...まだ俺、法律の定める年齢になってないんだけど?」

 

「1つ夏を超えればそんなもの解決するわ」

 

「お前のところの親がなんて言うか分からないぞ」

 

「反対されるのなら、絶縁してでも結婚するわ」

 

「...俺、片腕がないんだぞ? 恐らく大学も行けないし、仕事もろくにできない」

 

「だったら、私がそのぶん動くわ。私があなたの腕になればいい」

 

「...お前の将来には、もっと沢山の出会いがあるんだぞ? お前はきっと成功する。なら、俺なんかといない方がいい」

 

 

 

「自分の好きな人が隣にいない人生で成功しても、何も嬉しくなんかない!!」

 

 

 

雪ノ下が心の底から怒鳴る。そこで俺の言葉は完全に尽きた。

 

 

「...幸せというのは、成功し続けることじゃないわ。...自分の望んだ未来になること、それが幸せなのだと思う。...私はあなたがいて欲しい。それだけで、私は幸せになれる。だから...お願い、比企谷君。どうかこの指輪を受け取って欲しいの」

 

 

 

つーっと涙が俺の頬を伝う。

 

 

雪ノ下にここまで言わせておいて、拒否することなんて俺にはできなかった。

これだけ俺を思ってくれる人を、俺は好きになったんだ。...もう、離れたくない。ずっとそばにいて欲しい。

 

 

そして、雪ノ下、お前がそれを望むのなら...俺はもう否定しない。

迷わず、お前と共に生きる未来を選ぶ。

 

 

だから...

 

 

「...雪ノ下、俺の右手の薬指に、その指輪をはめてくれ」

 

「!! ...分かったわ」

 

 

急いで雪ノ下が指輪を俺の薬指にはめる。途中骨でつっかえたのを無理やり通したあたり、どうやら簡単には取れなさそうだ。

 

 

「...なあ、雪ノ下」

 

「何かしら」

 

「...俺からも言わせてくれ。...俺と結婚してください」

 

 

それを聞いて、雪ノ下は嬉しそうに微笑む。

 

「...はい」

 

 

 

そのまま、お互いに目をつぶる。気がつけば唇と唇が重なっていた。

その柔らかい唇から優しさが伝わる。これから訪れるであろう困難も、この優しさがあればきっと生きていける。

 

 

気がつけば、再び2人手を繋いでいた。繋がれた手と手の間に温もりを確かに感じる。

 

 

 

あの日、ちゃんと手が繋がれていれば、こんな未来にはならなかった。

けれど...過ぎた過去は戻らない。ならばせめて、この繋がれた手の温もりをこれからの希望に変える生き方をしてみせよう。

 

 

...大丈夫だ。2人なら、やっていける。

 

 

唇が離れ、お互い澄んだ目で見つめ合う。

 

お互い吹き出して、そしてようやく口を開く。あの日と同じセリフの雪ノ下と、俺はその続きを口にする。

 

 

 

 

「あなたが好きよ、比企谷君」

 

「...俺の方が好きに決まってんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

この先どんな困難だろうと、きっとやって行ける。

雪ノ下雪乃が比企谷八幡を選んだ、その事実があるだけで。

 

-fin-




とりあえずfin、ですね。
アフターなんかは後日出しましょうか(アフター好き人間)
ここまで読んでいただきありがとうございます
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