右往左往しながら続いていく
そこに訪れる新しい出会いも
きっと彼らが幸せになるためのものだ
---八幡side---
某日。4時頃。
俺は相も変わらず椅子に座り、パソコンに映し出される画面とにらめっこしていた。
そう、比企谷八幡、社会人である。
...もっとも、ここ、家なんだけどね。...つまり
「ただいまー、お父さんー」
「おう、おかえり」
玄関から娘の、比企谷希乃(のの)の元気な声が聞こえる。どうやら学校から帰ってきたみたいだ。
そのまま希乃は俺のいる机の元まで駆け寄ってくる。
追い返すわけにもいかず(元からそんな気ないけど)、側に寄ってきた希乃を1度ぽんと撫で、隣の椅子に座らせる。
娘が帰ってきたので、少し仕事に集中出来なくなる未来が見えたので、俺はそっとパソコンの画面を閉じた。一応ノルマは達成してるので問題は無いだろう。
「お父さん、お仕事終わりー?」
「んー? そうだな。ちょうど終わった」
「じゃあさじゃあさ、お父さんにちょっと聞きたいんだけどさ」
「ん?」
希乃は目を輝かせて何かを聞きたそうにこちらを見ていた。一体なんだろうか....俺のスリーサイズ?
「今日学校でね、お父さんとお母さんがどうやってけっこんしたのかって話になってね。それで、お父さんのを聞きたくなったの」
「え、そういうの普通お母さんに聞くもんだろ...?」
「だってお父さん、ずっと家にいるし、左腕ないし。絶対に何かあったじゃん」
痛いところをズバッという娘だった。こういうところ、本当雪乃に似た子になりそうで怖い。
いやでも、学校で上手くやってるようだし、遺伝子に逆らってくれるだろう。...俺らがそういう教育しなきゃダメか。
「ははっ...。まあいいや。代わりに長い話になるぞ?」
「うん、聞かせて」
「そうだな...まずは部活の話からか」
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俺はひょんなことから、奉仕部という部活動に参加させられた。
雪乃とは、そこで知り合った。
もちろん、最初から仲がいいわけでもなく...むしろ最悪だったかもしれない。
お互い我は強いし、負けず嫌いだし、意見は衝突するしで、時には最悪な雰囲気をかもし出していた。
だが、そんな事をするうちに、次第に相手を理解するようになっていった。きっとそれは向こうも同じだった。
それは次第に、愛情という得体の知れない感情に変わっていった。
不器用ながら俺は、その愛情に支配されつつ、雪乃に愛を叫んだ。雪乃も、同じく不器用ながら俺を好きと言ってくれた。
「2人」の関係は、ここから始まった。
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「ってのが付き合い始めた経緯だな」
「...ん? あっ。ごめん、ぼーっとしてた」
「おいおい...」
希乃は目を擦って1度つぶり直してから目を開いた。ちょっと眠たいのかもしれない。
「大丈夫、話は聞いてたから。だからお父さんとお母さんは奉仕部って部活にいて、そこでお父さんから告白したってことでしょ?」
「大体はあってるな...。よく覚えていらっしゃる」
「あれ? お父さんの腕がなくなったのはいつだっけ?」
「これから話す。良くして聞け」
「ういっす」
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それから2、3ヶ月後。なんの変哲もない土曜日だった。
2人して行っていた買い物の帰り、俺は雪乃を庇って事故にあった。
今でこそ後遺症は左腕欠損のみだが、当時は本当に酷い症状だったのは今でも覚えている。そりゃそうだ。身体中の骨がバラバラになったんだから。
それでも生きていただけまし、と思えないのが俺の悪いところで、またその責任の重さから、俺は気付かぬうちに、雪乃は自然に心を壊してしまっていた。
雪乃には大きな目標があった。それを叶える実力もあった。俺は、そんな意志を守りたくて庇った。だから、雪乃が夢を叶えるために俺は別れて、雪乃から身を引くことも考えていた。
でも、そんな中で、1つの言葉が俺の胸を刺した。
「自分の好きな人が隣にいない人生で成功しても、何も嬉しくなんかない!!」
そうして差し出された指輪を俺は受け取った。ここにプロポーズが成立したわけだ。
そのまま高校を卒業してすぐに結婚した。
結婚に際しても色々あった。
まず、親の承諾について。
うちの場合、相手が相手なだけにどうぞどうぞな状態だったが、向こう方はそうもいかない。なんせ県議会議員だの会社の社長だのの地元有力者なのだから、ふさわしい相手を選ばせたいだろう。
当然、雪乃が結婚することを告げた時には、あの女王みたいな人は口を開けて10秒くらい固まったらしい。それだけで傑作だけど。
ただ、あまり小言は言われなかったらしい。
雪乃が報告する前に、母が俺をバカにするようなことをひとつでも言ったら絶縁する、と俺に言ってきたが、幸いそういうことは言われなかったらしい。
むしろ、
「比企谷君なら問題ないでしょう。...ですが、彼のハンデを支える覚悟はちゃんと持っておきなさい。雪乃」
なんて言われたらしいからびっくりだ。あの人俺の事買いかぶりすぎじゃ...?
そんなこんなで承諾を得た俺たちは晴れて結婚。...式は挙げなかったけど。
式を挙げて祝われるのも嫌じゃなかった。けれど、俺や雪乃に関わってくれた人達は、そんな軽いことで恩は返せない連中ばっかりだったから。
代わりに、一人一人お世話になった人の家に2人でお礼周りに行った。そこで何か一つ、してもらい事をどんなことでもやる。困っていることを助けたりだとか、お願いを聞いたりとか。
誰かを助ける、というのはよく奉仕部でやっていたから。
もっとも、「魚の取り方を教える」ような理念の奉仕部とは少し違ったけど。
最後に由比ヶ浜の家に回った。
由比ヶ浜は雪乃が指輪を買うところから付き合ってたみたいで、結婚のことは知っていた。
だからこそ、願いを聞くのには躊躇った。
けれど、そこで踏み込んで由比ヶ浜の願いを聞く。
しかし、由比ヶ浜は最後まで優しい子だ。
帰ってきた言葉はこうだった。
「絶対に幸せになって」と。
気がつけば、俺も、由比ヶ浜も、雪乃も、3人とも泣いていた。それぞれの感情があったのかもしれないけど、少なくとも俺は一概にまとめられる感情では無かったのは覚えている。
...ああそうだ。由比ヶ浜がいなかったら、絶対にこんな未来にならなかった。今でもよくうちに遊びに来てくれているし、きっとこの縁はずっと続くだろう。
それから、俺も雪乃も大学に行った。
元々、俺は半ば大学を諦めていたけど、それでも雪乃に叱咤されて、最後まで頑張って、雪乃の行く大学の隣の大学に入学することができた。
元々懸念していた左腕のハンデだったが、きっかけがあれば人は変わるもんで、俺は気づけば周囲に集まっていた大学での友人に助けられながら、卒業まで辿り着いた。
そうして今、1人の娘をもうけて、在宅で仕事を行っている。といっても、少し専業主夫みたいな面もあるけど。...高校時代の願い叶えてどうすんだ。
右往左往した俺と雪乃の人生だったが、まだまだドタバタしながら続いていくはずだ。...でも、きっと幸せに違いない。
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「ってのが結婚までの流れだな。...って寝ちまったか」
話が長すぎたぶん、希乃はぐっすり眠ってしまっていた。心地よさそうに寝息を起て、少し笑み混じりに眠っている。そんな娘の幸せそうな寝顔を見て、にやけない親がいるだろうか。
「っつても、机で寝るんじゃ姿勢悪いよな...」
そうして俺は長年頑張ってきた経験を生かし、片腕で希乃を抱っこして、ソファまで移動させる。
「...重っ。こりゃあと1年すれば持てんかもしれん」
現在小学一年生の希乃は、昔抱いていた頃より重たくなっていた。その重さが、重ねてきた時の長さを遠回しに伝えている。
「...よし」
ソファまで運んだ後、その上に毛布をかけて置いた。これでさぞ安眠できることだろう。
すると再び家のドアが開く音がした。
艶めいた黒の綺麗なロングヘアーに、キリッとした目。年を重ねて美しくなったその美貌の持ち主は、俺が今でも最愛する人物だ。
「おう、おかえり」
「ええ、ただいま。あなた」
プロフィール紹介
・比企谷希乃 (名前)
・小学一年生 (学年)
・目は死んでおらず、他者に冷たくすることもない、この夫婦あってこの娘ではない子。元気さは由比ヶ浜譲り(性格)
といった感じで新キャラです。実はアフターに娘を出したことなかったんですよね...。
あと1話続きます。
ここまで読んでいただきありがとうございます