愛する人さえ守れれば。
その未来が潰れないなら、
自分の犠牲くらいなんともなかった。
そうして残された未来には、大きな代償があった。
---八幡side---
硬い金属のようなものが身体に触れたかと思うと、俺の体にとてつもない衝撃が走った。
ミシリ、と骨が軋む音、ボギッ、と骨が折れる音。
そんな嫌な音が耳に聞こえてきたが、どうやら脳がやられてしまったらしく、痛覚を感じなかった。
「あっ...」
バァンと強い音を鳴らしてトレーラーと衝突した後、俺はそこから数メートル先まで飛ばされた。
当然、着地なんてできるはずもなく、身体全身を擦りながらアスファルトにうつ伏せに倒れる。
その数秒後、俺が目を開けようとする前に俺の身体は黒い影に包まれた。どうやら俺の身体の上をそのままトレーラーが通過してるみたいだ。
それと同時に、少しだけ神経の残っていた左腕に数トンの重力がかかる。今度は痛みを感じる前に、完全に意識が飛んだ。
これだけ痛い目を見ていて、俺は痛いと思うことがなかった。
ただ、どんどんと眠気が迫ってくる。
身体の神経はプツリプツリと接続が切れ、どこも動かせそうにない。
手も、足も、上半身も、下半身も、目も、口も、全く動かない。
「比企谷君! 比企谷君!!」
...ただ、最後の最後までかろうじて動いていた耳は、ひたすらに俺の名前を呼ぶ声を拾っていた。
ああ...悪い、雪ノ下...。俺は...。
そして、俺の意識は完全に消え去った。
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夢を見た。
というか、よく見たら俺は白い服を着ているようだ。しかも普段着のようなものじゃなく、なんかこうギリシャっぽいやつ。
身体はどこか軽く、今なら空を飛ぶことだって容易く思える。
到底、生きてるうちにはありえない状態だろう。
夢って言ったって...俺は、いつ寝たんだっけ?
....そもそも、どこで記憶が途切れた?
俺は思考を振り絞って、最後に自分の身に何があったのかを思い出した。そして思い出す。
...確か、何かあって、事故に巻き込まれて...。
...誰かがいて、守ろうとして...撥ねられて...。
ああ、そうか。
俺は、死んでしまったんだな。
そうして死を実感する。その割には冷静でいた。何故か生前の記憶がすっぱり消えている、というのも影響してるかもしれないが。
生きてる間は死後の世界なんて気にしたことは無かった。極楽浄土が待っているだとか、アヌビスに裁かれるだとか、そんなもんどうでもいいと思ってたけど...。
んじゃああれか。ここがいわゆる天国ってやつか。
「...ん?」
ふと、遠くの方に同じような服を着た人を見かけた。ただし俺より少し目上のようだ。
とりあえず何かしら情報を手に入れたかった俺は、迷わずそっちへ向かい、その後ろ姿に声をかけた。
「あの...」
「はい?」
振り向いた顔つき、声ともに女性だった。
やっぱり、異性と話すのは苦手だが、まあここでは、ぼっちとかそんな概念はないだろうし問題ないはずだ。
「すんません、ここってどこですか?」
「はぁ...、そうですね、一応天国、に通ずる道ですかね」
「天国ではない?」
「そうですね、振り分けもありますし」
「まじなんだ...」
参ったな...、俺、生前の行いは必ずしも善と言えないしな...。なんなら悪までありそうで怖い。
「あの...それで、その振り分けは何処なんですかね?」
「え? ...ああ、あなたは受ける必要、ありませんよ?」
「は?」
「そうですね、ちょっと触ってみてください」
そう言うとその女性天使(?)は俺の片腕をつかんで自分の胸に押し当てた。俗世でやれば紛れもなくアウトなやつである。
「え、何してるんですか」
「今、あなたの手は本来心臓がある場所に置かれてます。...感じませんよね、私の心臓の鼓動。ここは死人が来る場所ですから、みな心臓が止まってるんです。それでは」
そう言って女性は俺の手を払い除けた。
「今度は自分の胸に手を当ててください」
「は、はぁ...」
返された手を胸に当てて、目を閉じる。
...。
ドクン、ドクンと、確かに鼓動が脈打ってるのを感じる。
ということは...。
その女性は慈しむように微笑んだ。
「ええ、あなたは死んでないんです。...ここに来たのも、何かの手違いか何かでしょう。例えば、ここに来る前強いショックで意識を失ったりとか、そういった事がありませんでした?」
「そういえば...」
そうして俺はさっきの事のように思える事故のことを再び思い出す。...あの時、俺が庇ったのは...。
...! そうだ!
「雪ノ下!」
あそこには、雪ノ下がいた。なんで庇ったかは思い出せない。それでも、あの場所に大切な、好きな人がいたことだけは思い出した。
「あの後、どうなったんですか!?」
「俗世の方の話ですか? ...残念ながら、ここはそっちの様子は見れません。...今分かるのは、あなたが生きていること、それだけです」
その女性は首を横に振った。その仕草からこの人には何一つ嘘がないと判断出来た。
とすると、後はもう帰るしかなかった。
自分の目で、もう一度、雪ノ下を見たい。ここに来ていないということは、きっと無事だということだから。だから。
「帰ることってできるんすか!?」
「ええ、生きてる人間なら帰れますよ。...ただし、俗世の様子がわからない以上、あなたがどういう状態で生きているか、というのは理解しかねます」
「構いません。...俺は帰ります」
「ええ。...ご武運を」
女性の人は強い眼差しで、俺を見つめ、その視線を足元へ落とした。そのつぶらな瞳には先程感じた慈しみではなく、歯がゆさに似た何かが映っていた。
...本当は、俺がどういう状態か知ってるんじゃ....
!!
そう思った瞬間、俺の体は光ったかと思うと、その場から消え去った。
代わりに、先程まで感じなかったまぶたの重さを感じる。
数秒して、今度は体が倦怠感を感じる。
おそらく、目覚めればさっきとは違う場所だろう。
しかし、恐怖はなかった。
そうして、俺はゆっきり瞼を開ける。
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「ヒッキー!!」
「お兄ちゃん!!」
目を開ければ、2人の女性が俺を覗き込んでいた。
ああ、分かってる。このふたりは、ちゃんと覚えている。
「...うす、なんか久しぶりだな。...待ってろ、今起き上がっ...」
そうして身体を起こそうとした時、体全身に激痛が走った。少し浮き上がった体がベッドに叩きつけられ、また痛みが走る。
「がっ....!!!?」
「ダメだって、お兄ちゃん! 今は起き上がれるような状態じゃないんだから! 寝てて!」
「お、おう...。悪い」
しかし、身体の痛み以前に、ほんの一部分、普段生きてるより軽いと感じる部分があった。
今はまだベッドで隠れているであろう部分を、無理して布団から引っ張り出す。
その左腕は、肘から先が存在していなかった。
務まらない前書き。
しかしまあ、なかなか発想だけが独り歩きしてらぁ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想、評価等頂いたらありがたく、真摯に受け止めますので、是非お願いします。