優しい光を見つけた
触れることは簡単ではなさそうだが
温もりだけは確かにそこにあった
---比企谷side---
体をひたすら負の感情で支配する。
悲しかったのは、悔しかったのは、辛かったのは今回の事だけではなかった。
いつの間にか悪いのを全て自分と決め付けて、それで自分を傷つけることで周りとの距離を量っていたのに、いざ雪ノ下と付き合い初めて、自分を大切にしなくてはと思った瞬間に、裏切られた過去が祟った。
結局、俺は間違いだらけの道しか選んでいなかった。
せっかく正しいと思えた道を歩んでも、歩いてきた道はそれを許してくれなかった。
とっくのとうに消えていた心の声というのを、俺は久しぶりに聞いた。
けれど...それはもう遅すぎた。
「これから...どうしろって言うんですか...! また自分を傷つけてしか生きちゃいけないんですか...!? ...もう、もう嫌ですよ、こんなに辛いことなんて...!」
自分でも何を言ってるのかわからないくらい、思考回路がごちゃごちゃになっていた。喉の奥の方が熱い。
「...比企谷、君は優しい。優しすぎるくらいなんだよ。...だから、自分が損な役回りしかしなかった。...けど、もういいんじゃないか? 一方的に好意を押し付けるのはやめにして。...きっと今の君なら、見返りを求めたって誰も咎めやしないよ」
平塚先生は優しく俺を肯定する。それがただの気休めでないというのは平塚先生の目を見れば明らかだった。
「それに...、もう君はひとりじゃないだろう? ...君が今後雪ノ下とどうなるかは私にも分からない。けれど、それでも1人じゃないことぐらい分かるだろう?」
1人じゃないなんて軽い言葉だと思ってた。
ずっと一人で生きてきたから、実感がなかった。
「...俺、甘えていいんですかね?」
「ああ。...もちろん、私に頼ってくれてもいいんだぞ? ...その、こんな私でいいんなら、だけどな」
「...そうですね、お願いします」
平塚先生の言葉を聞いて、俺は少し気が楽になった。溢れていた涙を残った右腕でぐしぐしと拭いた。頼らさせてくれるのはありがたいけど、全部人に甘えれるほど、俺はまだ心に余裕が無いようだ。
「...それじゃ、あれだ。比企谷が退院したら、またなりたけでも行くか!
あれだ、ふーふーしてあげようか?」
「あ、それはいいです。...物置いたままになるんで行儀は悪いかもですが、箸は持てると思うんで」
「そ、そうか」
一瞬仮面ライダーみたいなの感じたぞ。なんだ、まだガラケー使ってんのかなこの人。因みに変身番号は913だ。
ああ、...ほんと、気が楽になった。この人がいなかったら、今までのこんな出会いはなかっただろう。
逆に言えば、事故に遭うこともなかったと言えるが、それでも俺はこの人に出会ったことを後悔しないだろう。
「...そうだ、先生。新しい学校はどうっすか?」
「なんだね、藪から棒に」
「いつまでもしんみりした話じゃつまらないでしょう。俺も先生が今どうしてるか結構気にしてたんすよ」
「比企谷...」
先生は瞳をうるっとさせた。
「ほら、先生職員室1の問題児だったじゃないですか。タバコは吸うし態度は悪いし。学校移って迷惑かけてないか心配なんスよ」
「比企谷ァ...」
先生は拳をぎゅっと握りしめた。
その、懐かしい反応が見れただけで十分な俺は軽く笑った。
「...なんて、半分冗談ですよ。ただ、退屈してなきゃいいなーって思ってたんですよ。ほら、俺だって先生がいない学校生活、意外と退屈なんですよ」
「はぁ...。全く君は可愛くないな。けど、君のそういうところがやっぱり私は好きだよ。...そうだな、向こうで君みたいな生徒に出会えたらな、なんて思って過ごしてるよ。あそこまで卑屈でひん曲がって、可愛げのなくて、だからこそ育ててやりたいと思う生徒はいなかったからな。そういう点では君は奉仕部一の生徒だよ」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてないぞ」
そうして頭を小突かれる。でも、流石GTHと言ったところ。そこの力加減は理解しているようだった。
平塚先生はふっと息を吐くと、時計に目をやり、立ち上がった。
「おっと、そろそろ帰らなきゃいけない時間だな」
「あれ、帰宅途中じゃなかったんですか?」
「本当はそうありたかったんだが、あいにく仕事と用事が山積みでな。今回だって上層部を半脅しで抜けてきたんだ」
「先生らしいっすね」
「だろ?」
全く悪気がないのか親指を立ててにっと笑う。来てもらっている当の本人からすればありがたい限りだ。
平塚先生が、離任前にバッティングセンターで言っていたことを思い出す。
縁は続くものだと、今ならはっきりと声を大にして言える。あの日平塚先生が言った言葉は、間違いじゃなかった。
...できれば、これからもそうあり続けて欲しい。
「なんか言ったか?」
「いえ、別に。それじゃ、帰り気をつけて下さいね」
「おう。...あ、そうだ、最後にもう一つだけ」
「なんですか?」
俺が尋ねると、平塚先生は襟を正して、俺の傍に寄り、肩をぽんと叩いた。いくら歳を重ねようと、褪せることのない宝石のようなものに思えるほど、真っ直ぐな瞳で俺を見つめる。
「比企谷、今の君なら大丈夫だよ。どんなに辛くても、君は生きていける。だから、...前を向け」
そうして俺の返事を待たずに、平塚先生は去っていった。1人のはずの病室には、2人分の温もりが確かに残っている。
...いや、2人分じゃない。
由比ヶ浜に、小町、戸塚も来てくれたし材木座も一応来てくれた。
十分に幸福に満ちた空間なんだ。ここは。
...今なら、それは俺が歩んできた道の見返りと言ってもいいかもしれない。
...けれど、一つだけ足りない温もりを、俺は心のどこかで欲しがっていた。
前書きがだんだんサマポケ化してる...(?)
まあ、そんなこんなで7話。
作者がぶっ倒れたので昨日は休みましたすいません。
明日は雪ノ下編になるか、もしくは比企谷編病室シリーズになるか。
おいおい考えてきます。
ここまで読んでいただきありがとうございます