未来も、理念も、現実も。
けれど、変わらないものがあるとすればそれは
彼自身の優しさだった。
---八幡side---
事故から2週間ほど過ぎた。
まだベッドの上にいることがほとんどだが、骨折でない打撲のあたりはだんだんと治ってきているらしい。
しかしまあ、やることがないのには困った。
面会に来る人もずっといるわけじゃないし、テレビだってずっとつけてていい訳でもない。そう考えると、やることがあるとすれば物思いに耽ることぐらいだ。
...いや、逆にずっとそれしかしてなかった。
先日平塚先生に前を向けとは言われたが、どうしても未来のことを考えると悲観してしまいそうになる。しかし、それは無理もない話じゃないだろうか。
現状、今の状態では退院まではあと1ヶ月は余裕でかかるそうだ。
その空いた数ヶ月分、学力は失われるわけだし、大学にはいることも難しくなる。仮に出たところで就職にありつけるかと言われればまた微妙だ。
...というか、まず出席日数も怪しくなるな。
それでも、人に恵まれてると思えばまだ気が楽で入れた。これがあの日、サブレを庇って怪我した時みたいに、自分一人で生きていた状態だったら、多分俺は首でも吊って死んでたかもしれないのだから。
しかしそれでも。
業務的なものを除いて『雪ノ下』と名前のつく人は、まだここにはやって来ていなかった。
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午後4時頃。
ぼんやり眺めているテレビの番組がほぼニュース1色のこの時間帯は正直言って退屈だ。学校終わりの時間でもあるから、誰かが面会に来てくれる可能性もあるけど。
だが、毎日そういう訳では無いため、なんとなくウトウトして過ごしているのが現状だ。
(...今日は無さそうか)
なんとなく何もなさそうな気配を感じ、俺は目を軽く瞑る。...こういう時の勘は、当たるもんなのさ...。
と同時に、耳に病室のスライドドアが開く音がした。どうやら俺の勘は外れたみたいだ。
瞑目していた目を開けて、ドアの方を見る。
「どちら様で...、って、陽乃さんですか」
俺の病室のドアには、陽乃さんが少しだけ元気のなさそうにもたれかかっていた。
「ごめんね比企谷君、連絡無しで来ちゃった。寝てたのかな?」
「いえ、だいたい来る人連絡ないんで大丈夫ですよ。それより、今日はテンション高くないんですね」
「だってほら、ここ病院だし?」
「そりゃそうか」
「うん、そういうもの」
陽乃さんはそう言ってカラッと笑うが、いつものような覇気がどこか足りない気がした。この人がこうなっているのは、あまり見ない気がする。
「ね、座っていいかな?」
「いいですけど、時間はあるんですか?」
「んー? まあ、今から5時くらいまでは時間あるかな。どうしたの?」
「いえ、陽乃さん大3ですし、そろそろ忙しくなってくる時期かなと思って。この間平塚先生来たんですけど、時間なくて帰っちゃって」
「へー、静ちゃん来たんだ。そっか。そうだよね」
陽乃さんは色のない表情で窓の外を眺める。
そんな陽乃さんだからこそ、何を考えてるか、今日なら少し分かる気がした。
「陽乃さん、重く考えなくていいですよ?」
「...だといいんだけどね、そうもいかないでしょ」
少しだけ怒りの籠った鋭い目を俺に向ける。さっきの発言は少し軽率だったようだ。
「すんません。...でも、時間あるならその話は後にしましょう。俺も、笑えないことであるくらいは分かってるんで。ならせめて今だけは、そんな話から離れたいんですよ」
「...うん、分かった。じゃあ比企谷君に優しいお姉さんがなんでも教えてあげよう。何が聞きたいかな?」
「そうっすね...じゃあ」
そんな身のない話で時間を潰す。
こうして陽乃さんが来た、ということは、少なくとも向こうとしても何か動きがあったと考えていい。
そろそろ、雪ノ下との今後というのを考えなければいけない時だと思っていた。
別にあの手の話題を避けたかったんじゃない。けれど、そんなシリアスな話は、重たい雰囲気ではやりたくなかった。
しかし、ついにその時がきた。
「...比企谷君、そろそろいいかな?」
「流石に頃合ですかね。お互い、慣れない話は苦労しますからね」
「...私はああいうの、慣れてるけどね」
自分の生き方を遠回しに語る陽乃さんの目は笑っていない。この人の隠してきた本心が垣間見得るのは、正直あまりいいものでは無いように思える。
「...今回の雪乃ちゃんのこと、...本当にごめん」
例にもなくぺこりと陽乃さんが頭を下げる。
「謝らないでください。あいつに非があった訳じゃないんですから。...それに、結構困るんですよ、謝られたって」
「...じゃあ君はいつも通り、自分が悪いって片付けるの?」
「...それはもう、しませんよ。...少なくとも今回は、こっち側は誰も悪くないって、そう割り切るようにしてます。まあ、さすがに信号無視を悪くないとは言えないですけど」
しかし聞くところによると、俺を撥ねたトレーラーの運転手は、とてもブラックな環境で働いていたらしい。聞けば休憩をすることも許されないスケジュールで動かされており、事故当時は一瞬だけ居眠りしていたらしい。
それを聞いてしまった以上、心の底から1個人を憎むことが出来なくなってしまった。...例え自分の未来が奪われていようと、だ。
...それは、間違えた優しさなのかもしれない。
「そう。...本当は、雪乃ちゃん本人がちゃんと比企谷君と話すべきなんだけどね」
雪ノ下の名前が出て、俺の体はピクリと動いた。
事故以来、全く雪ノ下からのコンタクトはない。周りからの情報もほとんどなかったぶん、完全に分けられている状態になっていた。
「そうだ、雪ノ下って今どんな様子なんですか? 一応由比ヶ浜から、心を病んでるとは聞いてるんですけど、詳しくは知らなくて...。多分、気を使って何も言わないんだと思うんですけど、それでも俺は知りたいんです」
「...そうか。そろそろそれも言わなきゃだよね。一応、口止めしてたのは私なんだけど」
「陽乃さんがですか?」
「雪乃ちゃん、今スマホを触る余裕もないくらいだから」
「そんなになんですか...」
陽乃さんからの報告で、俺の気分はずーんと深く沈んだ。
「まあ、話すしかない状況だから言うけど、雪乃ちゃんは事故以来部屋からあまり出れない状態になってる。こないだ学校にも一旦休学届を出しに行ったしね。...何を考えてるかも話してくれないし、ただただ泣いているだけだと思う。私や母さんが中に入ろうとしても拒絶するくらいには、ひどい状態かな」
「そう...っすか」
「ねぇさ、比企谷君」
「なんですか?」
俺が頭を抱える前に、陽乃さんは口を開いた。
「なんで雪乃ちゃんのこと、守ったの?」
前書きェ...。
しかしまあ、私も現実見なきゃいけませんね。
確実に文章力がなくなってます。
グダグダしてないで展開進めないと...。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
遅くなりましたが、10000UA感謝です。m(_ _)m