生半可に手を出した以上後には引けず
それが夢を妨げる障害になるというなら
愛なんてその次のものでしかないのだ
---八幡side---
雪ノ下を守った理由。
そんなもの、事故が起こってから、今日の今日まで考えたことはなかった。
「多分、君なら相手が雪乃ちゃんじゃなくても助けたのかもしれないけどね。...でも、君は雪ノ下雪乃という女性の彼氏にあたって、その上で雪乃ちゃんを守った。...これは、ただ目の前が危険だったから、咄嗟に、ってのは違うと思う」
「...少し考えさせてください」
車道に身を出したあの一瞬、俺は何を考えてたんだろうか。
見知らぬ他人でも助けたかもしれない。それは俺自身が思ってる。
...特別な理由?
全く分からないな。
多分、あいつのことが好きだったから、というのは念頭に置くべき事案だ。
じゃあ逆に、雪ノ下を好きだと思った理由を考えよう。
俺はあいつの何を好きだと感じたのか。
...色々ある。本当に色々ある。
でも姿形じゃなく、1番に俺は、雪ノ下雪乃という存在に憧れを抱いていた。
真っ直ぐで、凛々しくて、不器用で、でも正しい答えを導こうとして、本当はひとりじゃ何も考えれないほど弱くて、それを自分で知って夢を語って、それを描こうとする...、そんなあいつの背中が俺の憧れだった。隣にいたいと思った。共に歩いていけたらなって思った。
ああ、なるほど。
...俺は、怖かったんだ。
あいつが初めて自分の意思で叶えようと決めた夢、その夢が奪われることが俺はたまらなく怖かったんだ。
「陽乃さん」
「答えが出た?」
「はい。...俺は、ずっと雪ノ下雪乃という存在に憧れてたんですよ。...不器用で、ひとりじゃ決めることが出来なくて、でもなんとかしようと足掻く、そんなあいつに。いつしかそれが好きという感情に変わってたんですよ」
「...それで?」
「それで、あいつの夢はあいつの親父の仕事を継ぐことって、本人の口から初めて聞いて。それが誰の強制のものでもないと知って、俺は応援したくなったんです。その夢を。だってそれは、雪ノ下がおそらく初めて自分一人で決めたことだから」
次第に声が震える。俺はそれでもちゃんと最後まで紡げるようにと拳を強く握った。
「...」
「だから...俺があいつを守った理由は、そんなあいつの夢が、未来が奪われることが怖かったからなんですよ」
皮肉なことに、結果として俺は限りある未来しか描けなくなったが、雪ノ下に表向きの大きな障害は残っていない。つまり、俺の行為は自分の未来を犠牲にして、雪ノ下の未来を描くための力を守ったわけだ。
陽乃さんはため息を一つ吐いた。
「はぁ...。...比企谷君らしいや。けどいいの? それで、君の未来は狭まったわけだよ?」
「...好きな人を守れたってだけで、いいことになりませんかね。結局、俺自身は未来なんて考えてもなかったんですよ。特にやりたいことも無い。就きたい仕事もない。...なら、ちゃんと意志を持ってるあいつに全てを賭けたほうがいいって、そう思うんですよ」
俺は言葉を口にする度に、胸が違和感を覚えるのを感じた。おそらく、どこか矛盾点がある。
こう中途半端に手を出した以上、あいつには夢を叶えて欲しいと思う。まだ、チャンスは消えてないのだから。
だから、その夢の障害になるものは、なくならなければならない。
...あ、そういうことか。
俺は自分の抱えていた違和感をようやく見つけた。
俺はあいつに夢を叶えて欲しいと願っていながら、俺自身が、雪ノ下の夢の足でまとい、つまり、『障害』になっていたことに気がついていなかった。
...なら、仕方がないことだ。
心が一気に冷め、少し生気が抜ける。
「...陽乃さん」
「なあに?」
そして、俺が次の言葉を発した瞬間、陽乃さんの表情が凍りついた。
「...俺、雪ノ下と別れます」
「...!? ...とりあえず、理由は聞かせてくれるかな?」
「簡単ですよ。...俺は、あいつの未来を守るために、障害にならないように庇った。なら、自分がその障害になっているのなら、夢の完遂において、ただの邪魔者でしょう」
「そこに愛とかないの?」
「愛じゃ世界は救われませんよ」
ここで俺が雪ノ下が好きだという気持ちだけで雪ノ下を束縛してしまっては、あいつは先に進めなくなる。...雪ノ下の夢に希望を賭けたのは俺だ。なら、先に進んでもらうことでしか俺は報われない。
「...今の君は、やっぱり笑えないなぁ」
「こういうひねくれた考えの俺の方が陽乃さん好きでしょ?」
「...いや、君の言ってることはもうひねくれてないんだよ。...おそらく正しい。だから可愛くない」
そこに佇む陽乃さんには、完全に余裕がなかった。ここまでの動揺は正直見たことがない。
「...分かった。それを決めるのは私じゃない。...私がなんとかして雪乃ちゃんここに呼び寄せるから、後は自分たちで解決してね」
「そうしてくれるとありがたいです。...今日の陽乃さんは」
「そういうのはいいから。...私も、私なりに雪乃ちゃんのこと思ってるだけだから。その感情を君に押し付けてるだけ。だから...優しいなんて言わないで」
軽く睨みつけてくる陽乃さんの目が、生半可な覚悟じゃないことを証明している。俺は息を飲んで、優しいという言葉を撤回した。
「分かりました。...それじゃ、時間、そろそろでしょう」
「あ、うん。そうだね。それじゃ、今日は帰らせて頂こうかな。...もし、雪乃ちゃんが動く場合、私から連絡入れた方がいいかな?」
「いや、いいっす。いつも通りアポ無しの方が気が楽なんで」
「...そ。じゃあね」
それ以上は何も言わず、陽乃さんは帰っていった。
時刻は5時過ぎ。これから夏に差しかかるであろう空は未だ明るいままだ。
果たして、俺の未来はどちらへ向かっているのだろうか。検討なんてつくはずもなかった。
そろそろ折り返しか...?
しかしまあ、なかなか言葉が出てこないなと。
ま、ぼちぼち頑張りますので感想評価等ビシバシお願いします。
ここまで読んでいただきありがとうございます