NINEPIECE   作:ハルアas稗田阿求

2 / 2
 この作品は東方projectの二次創作作品です
 予めご了承の上、お読みください


二話

 この物語は、天狗のインタビューをもとに、稗田阿求が記したものである。

 

「これで、あの吸血鬼たちは迷わずに月へ行けるでしょう」

 紅魔館の一室、月人と月の兎が吸血鬼のロケットに細工をしている。どうやら、『月の羽衣』という月へ向かうために用いる道具の切れ端を使って、吸血鬼を月まで導くつもりらしい。

 物陰からその様子を盗み見ていた私は、そっとロケットの方を見る。ロケットの屋根の部分が一部だけ色が変わっている。あれが『月の羽衣』なのだろう。

「行くわよ。鈴仙」

「はい。お師匠さま」

 月人たちの声が聞こえる。私は今まで以上に息を殺し、月人が部屋をでるのを待つ。

 ギィィィィ、バタン

 ドアが開いて閉まる。ドア越しに聞こえる足音がどんどん小さくなっていく。

 完全に足音が消えたのを確認し、私は無音で立ち上がり、ロケットに近づく。このタイミングで吸血鬼や博麗の巫女が部屋に入ってきたら大変だ。私のような下級の妖怪が侵入しているのを見られたら、絶対に退治される。

 極度の緊張感の中、ついにロケットの屋根に触れられる所まで来た。そして、屋根そのものには目のくれず、そこについている一切れの布・『月の羽衣』を手に取る。

 これ一つでも、無茶をして紅魔館に忍び込んだ甲斐はあるだろう。だがそれで終わらないのが私だ。

 吸血鬼が月に行けば、当然、月の奴等はその対応に追われる。その間にこっそりと月の都の武器をくすねることが出切れば、私は、その目的に大きく近づくことが可能だ。

 そう思って口角を上げると、手に持つ『月の羽衣』を真っ二つに裂き、一方を再び屋根に張り付け、もう一方を私のポケットに入れる。

 その時である。

「船はどこだー!」

「どこなのかー」

「ちょっ、チルノちゃん、ルーミアちゃん。これ大丈夫? 怒られない?」

 妖精が二人と妖怪が一人、ロケット部屋の中に入ってきた。何回か見た顔だが、何故かその内の一人・最初に叫んだ水色の妖精は麦わら帽子を着用している。他の二人は、妖精にしてはかなり大きい緑色の妖精と金髪の片側に赤いリボンを付けた黒い服の妖怪だ。

「ん? 誰だお前。紅魔館の住人じゃないよな」

 麦わら帽子の妖精がこちらを向いて質問する。この妖精たちは、この館の関係者か? だとすればこの状況は非常にまずい。例えここでこいつらを倒したとしても、そのバックにいる吸血鬼には、絶対に勝てない。

「くっっ、わ……私は……」

 私が返答に困っていると、代わりに麦わら帽子の妖精が目を輝かせながら口を開く。

「もしかして、お前も海に行くためにロケットに忍び込もうとしてる奴か」

 どうやらこの妖精たちも紅魔館に侵入してきたらしい。海というのはおそらく、月の海のことを指しているのだろう。麦わら帽子に海、いかにも子供が好きそうな物だが、わざわざ月に行ったり、吸血鬼に関わったりするような物ではない。私は、相手の目的を確認するために妖精たちに話しかける。

「ああ、お前たちもか?」

 すると、麦わらの妖精の隣にいる緑の妖精と、黒い服を着た妖怪が答える。

「えっと、わたしたち、ワン○ースっていう本にはまってまして、みんなで海に行きたいなという話になり、レミリアさんたちの月旅行に忍び込もうって決めたんです」

「そーなのだー」

 いや、黒い妖怪の方は何も答えていない。緑の妖精に相槌をうっただけだ。私は、頭の中から『ワンピース』という単語をひねり出す。

 たしか、トップとボトムが一繋ぎになった女性用の衣服だよな。って、それに嵌って月に行く訳はない。少なくとも海という概念に関係する『ワンピース』だろう。もしかしたら麦わら帽子も関係しているかもしれない。

 海、麦わら帽子……思い出した。最近、妖怪の山に引っ越してきた神社の巫女が外の世界の文化とか言って見せていた本の中に、『OnePiece』とかいう題名の本を見た記憶がある。私が長い間あの神社にいたら退治されてしまうから序盤しか読むことが出来なかったが、私のイメージと同じようなスタンスのキャラクターが登場するところは読むことができた。

 そこまで思い至ると、緑色の妖精が自分たちの自己紹介をしてくる。

「わたしは大妖精です。こっちの金髪にリボンの妖怪がルーミア。それにこっちの麦わら帽子の可愛い妖精が……」

「あたいはチルノ。海賊王になる妖精だ!」

 大妖精が麦わらの妖精の語ろうとした刹那、その言葉を遮ってチルノは自らの名を名乗り、高らかに宣言する。どうやら、『ワンピース』とは、あの海賊が出てくる本のことで間違いないようだ。

「……あっ、そうだ。あなたはどなたですか?」

 チルノの介入に大妖精は言葉を失っていたが、少ししてから私が何者か尋ねてくる。

 この妖精たちの目的に興味はないが、月の住民たちを混乱させる人員は多い方がいい。それに、ここで騒ぎをおこして吸血鬼たちに見つかることも避けたい。

 だから、目的だけを偽って、私は自らの名を語る。

「私は鬼人正邪。ここには、偉大なる海の戦士になりにきた!」

 

 

 紅魔館からロケットが出発した。わたし、大妖精を含め、チルノちゃん、ルーミアちゃん、それに鬼人正邪さんの四人は、無事にロケットの荷物の中に忍び込んで月へ出発し、そして、

 

 無事に宇宙空間へ放り出されました。

 

 うん、分かってるよ。何が『無事に』なのか意味不明だよね。わたしもそう思うよ。でもねでもね、正邪さんも含めわたし達にはロケットに関する知識がさっぱりないんだよ。

 だから、ロケットの最下層が切り離された時に反応することが出来ませんでした。その結果がこれです。空気の入れ替えが出来なくて息苦しいです。外には星しか見えません。しかもパチュリーさんの魔法が切れたのか、重力も滅茶苦茶です。

 

 チルノちゃんは、「空島は動きずれー」とか言ってはしゃいでいる。ルーミアちゃんは完全に外の風景と同化していて、どこにいるか分からない。正邪さんは重力が出鱈目なせいで屋根に足を付けている。

「で、正邪さんはなんでそんなに落ち着いてるんですか?」

 チルノちゃんの頭では状況が分かっていないだろう。ルーミアちゃんは闇に包まれているためどんな様子でいるのか見えない。それはルーミアちゃん自身も同じだろうから、もしかしたらこの状況が分かっていないのかもしれない。だからこの二人が平然としているのはまだ分かる。だけど正邪さんまで平然としているのは納得がいかない。この環境下で慌ててるのがわたしだけって、この集まりって本当に大丈夫かな? 

 そう思って、わたしは正邪さんに声をかける。すると、正邪さんは口角を上げて(正邪さんは上下が逆さまなので正確には口角を下げて)わたしの質問に答える。

「私たちが吸血鬼のロケットから切り離された時、私たちはまだ宇宙についてなかったんだ。それが今はきっちりと宇宙空間の中だ。つまり、着実に月へ向かっているって訳だ」

 いやっ、その理論はおかしい。あっ、でもどうして重力を無視してこのロケットは宇宙空間にまで来られたんだろう? 

「(まぁ、私が『月の羽衣』を持っているから、絶対に月に行けるんだが、……)」

「ん? どうしたんですか。そんな『〇ーマーズ‼』みたいな表記で呟いて」

「メタいぞ! お前。ってか、お前も『うん、分かってるよ』から始まる状況語りも結構『ゲー〇ーズ‼』っぽいと思うぞ」

 正邪さんがこっそりと呟くと、わたしは正邪さんの言葉と作者の表記の仕方への疑問を抱く。表記の仕方の方を口にすると、正邪さんは何処かで見たことがあるようなハイテンションなリアクションをとる。

 わたしは、そんな正邪さんのリアクションをスルーして、先ほど抱いたもう一つの疑問を口にする。

「で、『月の羽衣』って何ですか?」

「雨野○太かよ! ()が付いてる所は聞いても聞かなかったことにしておけよ! ってか、この作者は『ゲーマ〇ズ‼』好きすぎだろ」

(うちの作者は基本的に内容重めのファンタジーもしくはSFしか読まないから、こういうコメディー系なやつは読むことも書くことも少ないんだよね。だから、その環境下だとそういう作品で唯一読んでる『ゲーマーズ〇』を参考に書くしかないっていう。っていうか、この一連の台詞、カッコが多すぎない?)

 正邪さんが小声で言った一言を『妖怪ウォ〇チ』ではなく『ゲーマーズ〇』の方の雨○景太さんの様に聞き漏らさず、わたしは正邪さんに『月の羽衣』について尋ねる。すると、正邪さんがメタい視点でツッコんできたので、わたしは心の中で作者の気持ちを代弁する。

 というか、わたしが正邪さんの呟きを聞き洩らさなかったのを○野景太さんに例えるなら、正邪さんのハイテンションなツッコミはまるで○原佑さんに見える。

「まぁ、話を戻すとな。私たちは無事に月に行けるから安心しろ。根拠は……えーっと、ロケットが出発してから五日経った時に私たちはロケットから切り離されたけど、その時はまだ外が青かっただろ。つまり地球の中にいたんだ。それが今は無事に宇宙空間に放り出されてるんだ。つまり私たちは……」

 正邪さんは一度言葉を止めて、にやりと笑う。まるでここにいない誰かを見下すように、天邪鬼というのに相応しい表情で高らかに宣言する。

「上に落ちてるんだ。きっと、紅魔館の連中とか竹林の月人の術を利用できたんだろ! 力のある奴らを利用してやったぜ、ざま~みろ!」

「そーなのかー」

 少しも信用できない根拠を述べて、正邪さんは歯の端を輝かせた実に綺麗でねじくれた笑顔を見せ、闇がそれに相槌を打つ。

『きっと』の部分で希望的な観測であることがよく分かる。結局、今の状態がどのくらい危険なのかを正しく理解しているのはわたしだけなのだ。いや、もしかしたらわたし自身でさえ、事の重大性を理解していないのかもしれない。

「(はぁ、幻想郷に帰りたい)」

 わたしの呟きは限りない宇宙に吸い込まれて、誰にも届くことはなかった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。