皆様こんにちは。
私は「紅魔館」という吸血鬼の住む館で妖精メイドのまとめ役のようなものをしている妖精です。名前はヴィーと申します。
ただの妖精の一匹であるはずの私がどうしてこんな役職についているのかというと、私に前世の記憶があって、精神が幼女な妖精メイドの中ではかなり頭がいいとメイド長に判断されたからですね。
ふんわりと生まれ、野原でのほほんとしていた私が捕まったのは、パチュリー様の大規模結界とやらのせいです。
紅魔館周囲に張り巡らされたそれは、妖精如きに破れる強度じゃなかったんです。
そうして蚊帳の内側に閉じ込められた哀れな妖精たちは、あえなく妖精メイドへと転職させられてしまったわけです。
私は前世では東方projectのファンだったので、つかまっても最初のうちは大喜びでした。しかし実際はブラック企業もいいところの仕事量に心が疲れてきています。
逃げようと思ったことはあります。しかしメイドとして捕まった妖精たちにはパチュリー様特製のネックレスが配られる‥…というよりかは無理やりつけさせられるのですが、これが厄介で、自力で外せない上に紅魔館の屋敷の外に出ると強制的に中に転移させられてしまう機能付きなのです(実証済み)。
つまり実質的な首輪。おまけに防犯ブザー付き。あのときは森にハーブを取りに行くつもりだったなどと言い訳しましたが、あの氷のメイド長に二度も同じ言い訳が通用するとは思えません。
そしてこの職場、言うことを聞かない部下と言うことが厳しすぎる上司に挟まれた地獄です。中間管理職がこんなに辛いとは思わなかった。
そこで私は、紅魔館から逃げ出すためにとある計画を立てました。
前世の記憶によればうちの主人、すなわちレミリア様が幻想郷を赤い霧で包むなんてことを実行するはずです。紅魔異変、というやつですね。
原作通りであればおそらくそこでパチュリー様は魔理沙に負け、気絶か何かしらして力が弱まるはずです。そのタイミングで私の能力を使いネックレスをぶち壊して逃走してやります。
因みに私の能力は「7割まで反射する程度の能力」。言ってしまえばドリー・ダガーというスタンドのようなものです。ご存知です?
私自身に向けられたものを視線の先に反射するほかにも、能力を物体に付与することができて、私は骨董品の小さいナイフに能力を付与して持ち歩いています。このサイズなら身につけても許されますし。このナイフで私自身を刺すと、刀身に反射したものに傷の七割が反射されるので、これでネックレスを破壊できるというわけです。
ただし三割は自分が食らうので、使いすぎには気をつけよう!
さて、前述した通り私の目標は紅魔館からの脱出です。パチュリー様の力が弱まれば、屋敷周りの結界もネックレスの効果も弱まるはず。それに主人公組の襲来で私に構っている暇はないでしょう。
今は機をうかがいつつ、日常業務をこなしましょうか。
▽▽▽
さて。館の外も中も赤く染められる日がやってきました。そうです、待ちに待った紅魔異変当日です。
にもかかわらず──いや、だからこそ。メイド長がヤバいことを言い始めました。
「私は今日どうしても持ち場を離れられないから、代わりに妹様の食事を運んでちょうだい。いい? 必ず部屋の中に入っては駄目よ。ワゴンを部屋の前に置いたら速やかに去りなさい。頼んだわよ」
そのまま消えるメイド長。
ぽかんと口を開けたまま取り残された私。
このまま命令を無視して逃げてもいいのですが……
……運ぶだけなら……まあ……
▽▽▽▽▽▽▽▽
どこの屋敷でもそうでしょうが、地下というのは暗くじめっとしていてあまり住むのには向いてないと思います。私は響く自分の足音に緊張しながらそんなことを考えておりました。要は注意散漫状態だったのです。
だから──扉の隙間から紅い目がこちらを覗いているのに気がつかなかったのでございます。
「ねぇ」と、少女らしいかわいい声が聞こえました。しかしその声は全く意識の外から飛んできたわけで、私はうっかり悲鳴を上げてしまいました。
「ひょえっ」
視線を向ければ、そこには金髪の、虹色に輝く羽を持つ吸血鬼……ごまかしようがないですね。つまりはフランドール・スカーレットがこちらをニコニコしながら手招きしているのが見えました。
「ちょっと来てよ」
当然ながら私に選択権はありません、力量差からして。機嫌を損ねたら一瞬で死ぬ自信があります。私は言われるがまま部屋に入りました。
「今日はね、本当に久しぶりに足音がしたから出てきてみたの。貴女、数百年ぶりのお客様なのよ!遊びに来てくれたんでしょう?何して遊ぶ?鬼ごっこ?かくれんぼ?」
ああ、咲夜さん時間とめて配膳してたんだろうなぁ……。足音がしないっていうのはそういうことだ。道理で配膳しても問題ないわけだよ。
じゃなかった、どうにかして断らないと。私は深々と腰を折った。
「いえフランドール様、私は食事を運びに来ただけでして……」
「え?」
頭上から無機質な声が降ってくる。
「なんだ、遊びに来たわけじゃないのね。………じゃあ、貴女、いらないわ。遊び道具にもならないなんて」
フランドール様が右手を握りしめたのが、視界の端にちらりと映った。
「ドカン」
私は全力で能力を行使しました。いつもは限りなく低くしている反射率を7割まで引き上げます。ナイフを出す暇もなく私の体の三割、つまり右足から先が吹っ飛び、残る七割は私のそばのテーブルに反射され粉々になりました。
驚いているような表情のフランドール様を尻目に、私はドアを蹴破って裏口から逃げ出したのです。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「壊れなかった」
「壊れなかった」
「あの子なら 私の初めてのともだちになってくれるのかしら……?」
▽▽▽▽▽▽▽▽
死ぬかと思った!!!怖かった!!!!足ガックガク!!!片方ないけど!!!!!
……オーケー、落ち着いてきた。私は晴れて自由の身。
さて、時間的にもすでにパチュリー様はやられているはず。多分。
心なしかネックレスの石も輝いてない気がするし。何よりフランドール様から早く逃げたい……ということで!
私はナイフにネックレスを映したまま思い切り腕を刺しました。瞬間、ネックレスがちぎれ飛び、私の腕の傷は浅くなるのがわかる。
さぁ、恋い焦がれた自由が待っている!
私は裏口から出て壁を飛んで超え、森の中を一直線に進み続けた、というお話です。
▽▽▽▽▽▽▽▽
紅魔異変解決の翌日。
後片付けに追われるメイド長、十六夜咲夜はとある妖精メイドを探していた。自由気ままなメイド妖精のなかでは割と話の通じる、いわばまとめ役のような妖精である。時折疲れたような表情を見せるのが人間臭くて、ほんの少し親近感を覚えたり覚えなかったり──。そのせいでお願い事を多くしてしまうのは、まあ許してほしい。
廊下を音を立てずに歩き回る。どこぞの魔法使いのせいで屋敷はかなり破損しており、修復やら修繕に人手がとにかく必要だった。
しかし……見つからない。業を煮やした咲夜は屋敷の外に出て、紅魔館の庭にまで足を延ばす。もしかしたら戦いの余波に巻き込まれ、一回休みになったのかもしれないし。
しばらく捜し歩くと、ふと何か固いものを踏みつけたような感触がある。拾い上げてみるとそれは、
「あら?このネックレス……うちのメイドに支給されている物ね。なぜここに? しかも千切れて……。いや、このネックレスって千切れるような代物だったかしら?」
と、そこへ
「さくやーー!」
きらきらと笑顔を浮かべながら裏口から現れたのは、地下に監禁されているはずのフランドールだった。咲夜の背筋が一瞬で伸びる。
「何用でしょうか、妹様」
表面上は取り繕いながらも、咲夜の手は太ももの純銀製のナイフに伸びていた。足止めにすらならないとわかっていても、だ。内心では疑問がぐるぐると廻る。
どうしてここに?
今まで許可なく地下室を離れる事はなかったはずだ。
時を止めて──ダメだ。もう遅い。
気づけばフランドールは咲夜のすぐそばまで来ていた。深紅の瞳がきゅるきゅるあたりを見回して、それから咲夜の目を射抜く。
「昨日の朝、私のところに来た妖精メイド知らない?」
「知らないですが……そのものが何か粗相でも?」
「ううん! ただ、私の友達になってくれるかもしれなかったから……」
フランドールの残念そうな顔をみるのは初めてだった。何か変革が起きている。何か変容が起ころうとしている。直観的に咲夜はそう思い立った。主人はそれを求めて幻想郷に来たのだから。
ならば、私がすべきは──。
のちにこの発言は咲夜を介しレミリアに伝わり、紅魔館をあげてヴィーの捜索が行われるのだが
それはまた別の話。
主人公の能力は相手の雰囲気……いわば波長も反射しますので相手からは同タイプに思われます
それが信頼につながるのか同族嫌悪になるかはわかりませんが