「あ、そうだ。今日は私ちょいと出かけるから」
朝。ご飯を食べながらにとりさんはそういった。
「何方まで?」
「うん?ちょっと物を売ってくる。山の下の方のさ、ちっこい鳥居があるだろ?実はあそこには………神様が住んでんのさ」
「はぁ」
にとりさんは何かに気づいたようにため息をついた。
「……そういや、助手が世間知らずだったことを忘れてた。神様くらいは知ってるよな?」
「ええ、そりゃもちろん。本で読みました」
「本物は?」
「みたことある訳ないじゃないですか。神様ですよ? そのへんにいるような存在じゃないですよ」
「雛も神様だぞ、一応」
「あえっ」
そういえばそうだった……すっかり忘れてた。
もっとこう、神様ってなんか尊大な感じのイメージだったものだから、自分の中の神様像と違いすぎてね……。
「で、今日向かうのは静葉と穣子のとこ……秋を司る神様さ。天気の変わり目をしる道具が欲しいってんで、空気中の水分量やら風向きやらを測定できる計測機を作ったんだ。で、今日渡しに行くって訳」
「成る程……。でも、神様ってお金持ってるんです?」
「いいや、お代は作物だ。あの二人、民間からの信仰が結構あるんだ。ほら、農家にとって実りは最重要課題だろう? だから人が供物をするのさ」
「あ、わかりました。そのお供え物と交換するんですね」
「まぁ貰うのはきゅうりだけどね」
「え?」
「うん?」
なにか重大な価値観の違いがあるらしい。
「待ってくれ助手。いいじゃないかきゅうりだけでも、私はきゅうりが好きなんだ」
「それで戻ってきた日きゅうりしかなかったんですか、わかりました。私もついていきます。にとりさんに任せたら三食きゅうりになりかねません」
「何言ってるんだ、助手は遠出できないだろう」
「その辺はにとりさんがどうにかしてください。どうせ姿を消す道具くらいあるでしょ」
「…………人使い、いや妖怪使いが荒すぎないか?」
「一日一回はきゅうり料理出しますから」
「うーーーーーーーーーん。んーーーー。仕方ない。連れて行くから、見つからないでくれよ。助手が捕まったら元も子もない」
「お任せください」
「まったく、流される私も私だな……。ほら、準備してくれ」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「じゃ、これを被ってくれ」
「これは…………にとりさんの帽子?」
「予備さ。帽子の
手渡されたのは小型の薄い板。
「………なんであるんですかこれ」
「そりゃ作ったからさ」
「いやいやいやいや。回収されたはずでは」
「大丈夫だよ、どうせ私との回線しかないから。それに、前のやつ持ってないんだろ? だったらそれがないと場所が把握できない」
「そりゃそうですが……………」
私の手には新しく作られたらしい『k-phone』があった。
「じゃいくぞ」
もうすっかり秋らしい。紅葉の中しばし歩く。私は透明で飛んでるからあれだけど。
「で、その神様ってどんな方なんですか?」
一応認識のちがいがあるかもしれないし、にとりさんの神様観も気になるところ。ちょっと期待していたのだが、にとりさんの返事はいたってシンプルだった。
「実ってる方が穣子で、そうじゃない方が静葉だ」
「情報量が増えないんですが」
「みりゃわかる、そろそろ静かに」
数分も行けば、すぐに小さな神社………神社?に出た。
あまり神社行ったことないからわからないけど、寂れてはいないみたいだ。
「きたよー!」
にとりさんが声を張ると、社の奥から紅葉色の服の少女が顔を出した。
「あら、にとり。ってことは」
「おうとも、ついに完成したのさ!」
成る程。穣子さんね。成る程。話し込むにとりさんを横目に、私は境内を見回した。はらはら落ちる紅葉が地面を埋め尽くし、空も地もオレンジに染まっている。
すごく綺麗な景色だ。
今の私って、周りには見えてないんだよね?
……ちょっと探検してもいいよ……ね? 神社から出なきゃばれないよね。
「それで、どう使うの?」
「ここにボタンがあるだろ?それをだな……」
まだ余裕ありそう。
私は社の裏側にまわった。
「おぉ………!」
これはすごい……!
前世でもなかなか見れないぞ、こんな光景は!
地面は落ち葉の絨毯で秋色に染まり、空は紅葉が青に映える。
何より素晴らしいのは人がいない事。360度どこをとっても絵になる空間。
この景色を独占している感じが堪らない………!
「神秘的!」
「そりゃそうよ」
「うひゃあ!」
呟きに返事があると思わず、変な声が漏れた。
思わず振り向くと、社を背に赤い服の女性が佇んでいた。
右に一歩移動する。
目が合う。
左に歩く。
目があったまま。
ぴょんぴょん飛んでみる。
なんだか視線に憐れみを感じる。
「……見えてる!?」
「見えないわよ。でもそこにいるのはわかる」
「どうして……?」
「ここが私の神域だからね」
「神域………? あっ」
そうだった。そうか。
これが神様ってことなのか。
「心あたりがあるの? ふふ、私の知名度も上がったものね」
「もしかして穣子さんのお姉さんですか?」
「その覚え方はやめて。私は秋 静葉、紅葉を司る神。穣子の姉というのは正解だけど、呼ぶなら静葉と呼びなさい。さぁ、あなたも姿を見せてくれないかしら」
ドキッとする。
「うぇっ? いやそれはちょっと事情があってできないというか……」
「大丈夫よ、見た目なんて気にしないから」
「そういう訳じゃ無いんです」
「じゃあ何、お尋ね者とか?」
「……………………」
「えぇ……。まさか図星?」
「ちがうんです! 私は悪いことしてない!」
「何かやった人はみんなそう言うのよ。ささ、話してごらんなさい。一体どんな悪事を働いたのかしら」
「で、ですから……」
その時、ポケットのk-phoneが振動し始めた。
見れば、にとりさんから着信が来ている。
もう切れているから、多分そろそろ行くということを伝えたいのだろう。
……よし。逃げよう。
「ごめんなさい静葉さん!」
「えっ」
私は私に当たる太陽光を静葉さんの顔辺りに反射した。
「眩しっ!」
今のうち!
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
戻ればにとりさんはまだ穣子さんと話していた。
穣子さんが野菜の入ったカゴを持っているから、物々交換の途中なのだろう。
私はにとりさんの側に寄り、耳元でこっそりと喋った。
「にとりさん」
「うひゃぁ!」
「………どうしたの?にとり」
「いや、何でもない。……………びっくりするじゃないか、急に耳元で話すなんて。しかもいなくなるし」
「すみません、ちょっと見て回りたくて。それより、野菜ですね?あれと、あれと、これ。あときゅうりを頂きましょう」
「穣子、こいつがいい」
「あら、きゅうりじゃなくていいの?」
「もちろんきゅうりももらうさ。ちょっと他の野菜にも手を出そうかと思ってね」
「決まりですか、決まりですね。じゃあ帰りましょう」
「やけに急かすじゃないか。………もしかして誰かに見つかったのか?」
「いや、そういうわけでは────」
「───逃げなくてもいいじゃない」
「ひょえっ」
後ろから、がっちりと体を掴まれた。
三月も終わりそうですね。
ギリギリ書き上げました。
タイトルは「雨はりらりら」という歌の歌い出しから。
『もみつ』とは感じで『紅葉つ』と書き、文字通り紅葉することを表す古語です。多分。
正直こんなに語感のいい日本語は私の中であまり無く、好きな言葉ランキングでは割と上位です。
次ー。
にとりと会話しているときになんで穣子にばれなかったか。
こいつは独自設定ですが、
静葉は紅葉を司る神様であるため紅葉の中においてはある程度力も強まり土地の把握も容易でしょう。
しかし穣子は豊穣と稔りを司る神。もちろん山のそれも当てはまりますがどちらかといえば人間に与える恩恵が大きく畑や田んぼなどに関して大きな力を持ちます。
結果として神社は紅葉の時期は静葉のホームグラウンドの一部。
穣子は何かいるような気も、でもそんな大事でもなさそうねー、くらいに感じています。
まぁ霊夢も言ってたけど神様もピンキリあるらしいです。
そういうことです。
次。
本当は永夜抄と風神録の間には花映塚があります。
あるんです。
しかし……これはほんとメタい話であれなんですけど。
主人公の動機付けから映姫に会った時の展開まで全てが全く思いつかなかったんです。
特にさぁ。前世持ちが映姫に会うのって結構‥…やばいと思うんですよ。
そういう意味ではこの小説のコンセプトに合うのかな、とも思ったんですが、白黒つける能力とかどう考えても性格そのものだし、あまり映姫が主人公を追いかけるイメージも浮かばないし……。
とにかく難しすぎるので手が出せませんでした。力不足………
とはいえ。個人的に幽香はちょっと出したい気持ちもある………ので。
もしかしたら風神録の後何処かで出るかもしれません。
では。また次の展開を考えるところから始めなければ………