「────逃げなくてもいいじゃない」
「うひゃあ!」
突然の感触に思わず悲鳴が漏れる。
「………お姉ちゃん?」
「ちょっと、そいつは私の連れだよ!」
慌ててにとりさんが声を上げた。静葉さんがこちらを向いて言う。
「そうなの?」
私は首を高速で上下に振った。赤べこレベル100である。でもこれ見えてないんだよね。振動で伝わってくれ……!
「で、なんで姿を隠しているのかしら」
「そ、そりゃこっちにも事情があるのさ」
「どんな事情かしら……?」
「別に悪いことはしてない、私の助手として雇ったんだ」
「ふうん?」
訝しむ静葉さんを穣子さんが宥める。
「まぁまぁ、にとりもこう言っているんだし。いいんじゃない?」
「けど……。気になるのよねー」
静葉さんは私をジロジロと見た。緊張するからやめてほしい。
「ま、いいわ。それで許したげる。その代わり、また来ることね」
そういって静葉さんはすたすたと社の方に歩いて行った。
「………変なお姉ちゃん。あ、にとり、今日はありがとね。また何かあったら呼ぶわ」
「おう、今後ともご贔屓に、な」
「うん。じゃあ、またねー」
手を振りながらにとりさんが私に言った。
「またなんかやったの?」
「私悪くないです」
▽▽▽▽▽▽▽▽
「お姉ちゃんどうしたの? さっきからニコニコして」
「何でもないわ」
「何かいいことでもあったのかしら?さっきの子?でもそんな力を持ってる感じしなかったけどなぁ……?」
にとり達が帰ってから、どこか上機嫌な静葉の様子に穣子は首を傾げた。
実際、静葉はちょっと気分が良かった。
久しぶり、そう、本当に久しぶりなのだ。
『信じられない』と言うような類の驚愕を向けられるのは。
幻想郷において自然は溢れんばかりのものであり、紅葉することに神秘さを見出す者は居ても、紅葉した自然がある事を喜ぶ者は稀だった。
神は想いを受けてその存在を強める。
ヴィーの感嘆は静葉にとって美味しい食事と同じ。
だから、
(また遊びに来ないかしら……。今度はもうちょっと案内か何かして、せめて顔だけでも見たいものね)
などとこれからのことを想像して、
「………そういえば名前聞いてない」
と肩を落とした。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「さて、帰ったら製作の続きだな。今度は……ん」
「にとりじゃない………あら、助手さんも。見つかったのね」
にとりさんの友人にして信頼のおける人、もとい神様の雛さんだ。私は帽子を外して雛さんに挨拶した。
「こんにちわ、その節はどうも」
「無事みたいで良かったわ」
「雛はどうしてここに?」
「私が厄を集めてるのは知っているでしょう? 基本的に私は祓われた厄を溜め込むだけなのだけれど。どうにも……この山の上あたりに厄が溜まっているみたいなのよ」
「不味いのか?」
にとりさんの問いかけに雛さんは首を振った。
「さあ? それが誰にとっての厄か私にはわからないもの。でも、きっといいことじゃないわ。だから暫くは家を出ないことをお勧めするわね」
「雛は?」
「様子見かしら。あまり溜まり過ぎるようならまた考えるけど───」
ドォォォォン!!!!
山頂方面から轟音が伝わってきた。地面がビリビリと揺れる。
「ちょっと遅かったかしら?」
「こりゃ一波乱ありそうだねぇ」
「お、落ち着いてますね……」
「此処じゃ常識なんて通用しないからね。助手は些か常識を知らな過ぎるけれど。さて、じゃあ私は帰るとするか」
「あら。見に行かないの?」
「助手がいるからね」
「ああ、あぶないものね。もう逃がさないようにね」
「本人の前でいいます? それ」
そう言うと雛さんはくすくすと笑った。妖怪の山は余裕のある性格の方ばっかりだなあ。
そして、なんだかんだ言って私も余裕がまだある……この世界に染まってきたのかも。
「ま、じゃあね。無事だったら酒でも持ってくるよ」
「ええ、気をつけて」
「雛さんも!」
雛さんに手を振って別れた後、透明になった私は小声でにとりさんに言った。
「にとりさん、さっきの言葉ってもしかして」
「ん? ああ、多分想像してるので合ってるよ……つまり。
「あるにはありますけど……」
「さぁ、さっさと帰って組み立てに取り掛かろう。見逃すわけにはいかない」
「怒られても知りませんからね!」
余裕というか……能天気なのかな?
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
神にとって信仰こそが糧である。
ゆえに、忘れ去られた神ほど悲惨なものはない──力を失い、妖怪とも亡霊ともつかない存在となれば、最早再起の未来など見込めない。
だから、八坂神奈子は決断した。
この世は神を捨てようとしている。
神秘は解明されようとしている。
信仰はすでに廃れようとしている。
ならば、ならば。信仰を新しく得るための新天地が必要だ。
当てはある。おそらく私と諏訪子の能力を使えば移動も可能だろう。
「行くよ、諏訪子、早苗」
「はいよー」
「了解ですっ!」
そうして、彼女達は世界から忘れ去られた。
▽
地響きが収まる。木造建築の社はどうにか持ち堪えてくれたようだ。安心したように二柱はため息をついた。
「……上手く行ったようだね」
「ねぇねぇ神奈子、此処山の上みたいだよ。いいねぇ、天と地が近いってのは! 空気も美味しい……こりゃ住みやすそうだ」
そこへ「外の様子を見に行ってきます!」と飛び出していった少女──東風谷早苗が戻ってきた。
「すっ諏訪子様! 神奈子様! 羽が生えた人が周りを囲んでます!」
「あぁ、わかっているよ。此処は私が行こう」
出て行く神奈子に手を振りながら、諏訪子は早苗をじっとりと見た。
「………早苗」
「な、何ですかその目は」
湿度を感じる目が、にやにやと細められる。
「ふっ……天狗を羽が生えた人呼ばわりっ……」
「し、仕方ないじゃ無いですか! 向こうの世界にはいなかったんですもん!」
「そ、そうだね、見たことないもんね……ふふっ」
「〜〜〜!!」
ひとしきり笑った諏訪子は、ふくれっつらの早苗の頭をぺたぺた撫でた。
「…………ねぇ早苗。私達は信仰を失って此処へたどり着いた。全盛期なんか遠く及ばない程に力が落ちてるんだ。しかも此処には私たちを知っているものが居ない。居ないんだよ」
諏訪子は社の外を──神奈子の方を見ている。
「諏訪子様」
「心配なんだ。ここへきて更に力が落ちていたら? ここでも信仰が得られなかったら? ………私は、土着神だから。この地を知らない私は力を十分に使えない。また頼ってしまう」
「諏訪子様。大丈夫ですよ、だって神奈子様ですもの。それに……神奈子様としては、諏訪子様に頼ってもらう方が嬉しいんじゃないかなー……と」
「……そう言うもの?」
「ええ、そう言うものです」
「……なんか生意気。私より神奈子の事知ってるみたい」
そう言って、諏訪子は早苗のほっぺたを引っ張った。
「いひゃい、いひゃいでふすわこはま」
▽▽
神奈子は天狗等を睥睨した。なるほど、羽が生えただけの人風情が良くもまあこれほど数を増やしたものだ。
集まった天狗のうち、一際大きな羽を持つ天狗が前へと出た。
「この地に何用か。此処は妖怪の山ぞ」
「私は神だ。なに、大それた事ではない。この地を我が物としようと思ってな」
「ならぬ。此処は我ら妖怪の棲む地、我ら天狗の管理下である。……共存すると言うのなら認めてやらんでもないが」
「論外だ。神は崇められるもの。妖怪相手に対等な関係などあり得ん」
交渉は決裂だ。いや、そもそも交渉の席にすら座っていない。
「ふむ。致し方なし、やはり最後は武が物を言うか」
そう言って天狗は妖力を高め「最後に」と問うた。
「我が名は天魔。天狗の長である。其方も名を述べよ」
「八坂神奈子。風雨司りし神だ」
「では……行くぞ、八坂の」
「来い。上位存在も知らぬお前達に、神がどう言うものか教えてやる」
昨日だか今日だかって平沢進の誕生日なんですか?
はい。お待たせ?しました?かね?
やりました。ここから風神録クライマックスまでじっくりと行ける……はず。これからの私の思いつきに期待したい。
タイトルは本当に思いつかなかった。
faceとfaithって発音似てるよね。以上。曲名ですがいい加減聞き飽きたでしょう。割愛します
『信仰は儚き神様のために』でもいいかな、と思ったけど
ならそれ次の話のタイトルでよくね?ってなったんで
忘れてなければ次の話のタイトルはこれになるでしょう。
次。早苗さんについて。
これは半分裏設定です。
早苗さんは一種の先祖返り、諏訪子の神性を単身で色濃く受け継いだ形となります。そのため親やいるのかわかりませんが兄弟には神奈子と諏訪子は認識できておりません。
幻想郷は忘れられたものの地で御座います。故に彼女は二柱か家族かを選ばねばなりませんでした。
そして、彼女は助けることに決めたのです。
「きっと、私がいなくても家族は幸せになれる。けれど、私が見捨てて仕舞えば神様達はきっと向こうでも廃れてしまう。だって───神社には、神様には神事を行う為の巫女が必要だから」と。
…………うちの早苗さんは強い子です。
で。話は逸れますが。
なんかこう……早苗さんが幻想入りするときのこう言う取捨選択とかって大体の二次創作でシリアスシーン不可避ですよね。
普通の人なら喜んで現世を捨てるなんてできないですもんね……。
書いてて思いましたが、早苗につけるのって「ちゃん」ですかね?それとも「さん」?
私は早苗「さん」です。何故か?それはとある二次創作の所為です。
さなえさん
サナエサン
サナエサンサナエサンサナエサンサナエサンサナエサンサナエサンサナエサンサナエサンサナエサン
それはまさに奇怪な跡のような