迫る凶刃を瞬時に回避する。自分の爪の鋭さは自分が1番知っていた。
「おい、これはルール違反じゃないのか」
その問いに対し、初撃を外したレミリアの虚像が、煽るように答える。
「ルールぅ? 私が弾幕そのものだよ。それにも気づかないのか?」
「……ふざけたスペルだ」
「面白いのはここからだぞ──虚像『スカーレットマイスタ』」
大小様々な紅の弾幕がばら撒かれた。合わせるように、フランの虚像もスペルを唱える。
「くふふ……虚像『レーヴァテイン』」
剣を模した赤い弾幕が、激しい熱を帯びたまま空間を薙ぎ払う。
弾幕回避に不慣れなフランを抱え、レミリアはその全てを回避しきって見せる。しかしよく見れば、服の裾にはいくつか焦げた跡が残っていた。
思わず舌打ちをかます。フランが不思議そうにレミリアを見上げた。
「どうしたのお姉様」
「あの弾幕、最初の軌道は私の模倣だが……見ろ、弾と弾がぶつかると軌道が変わる。恐らく先程の星形と同じようなものだろう……フランもどきの弾幕も同じだ」
「じゃあ、今度は鏡を壊せばいいの?」
フランの問いにレミリアは頷いた。
「そうだ。頼む」
「わかった。今度こそ、一発で決めてみせるよ………」
狙いを定め、フランは掌を握りしめた。
「ドカン!」
そうして虚像は、鏡と共にいとも容易く砕け散った。
「よくやった、フラン」
レミリアが満足げに呟く。
しかし、フランは見てしまった。
レミリアの虚像にヒビが入り、愛しい姉の顔で苦悶の表情を浮かべるのを。
割れかけの
目の前で消えて無くなった。
「───フラン? どうした?」
フランドールは頭を抱え、壊れたオルゴールのようにぶつぶつと呟いている。
「………たこ…れ……われたこわれたこわしたこわしたわたしがこのてでこわしておねえさま………」
気づく。仮にも私の姿の相手を、フランに任せるべきではなかった。
(先程の演出か。どこまでも悪趣味な……!)
レミリアは視線に殺意を載せた。しかし……それすらも、妖精には3割しか届かない。ふつふつと怒りが燃える。
「貴様ッ……!」
「まだ三枚目が残っています。私を殺すのはその後でもいいでしょう?」
三枚目のスペルカード。仕上げの一枚。
「月呪『ミスター・ミスメイカー』」
先ほどのような鏡が今度はいくつも現れ、レミリア達の周囲に展開されていき、やがて正二十面体を象った。
その多面体の内側で、レミリアは周りを囲む鏡を見渡した。
すぐに弾幕が出る様子はないか──それを確認したのち、レミリアはフランの肩を掴み呼びかけた。
「フラン!気をしっかり持て!」
しかしその声は届かない。フランはすでに肥大化した自分の虚像に呑まれてしまっている。
「こわれたこわれたこわしてこわしてこわすこわれろこわれろ壊してやるッ!!!」
出鱈目な狙いをつけて、フランが破壊の引き金を引く。
選ばれたのは──レミリア達を取り囲む鏡のうちの一枚だ。それに亀裂が入ると同時、その鏡に映っていたレミリアの腕が吹き飛んだ。
「ぐッ……!」
痛む腕を抑えながらも、思考は至って冷静だった。レミリアはこの弾幕とも呼べぬスペルカードの仕組みを正確に理解していた。
鏡に加えられた衝撃を、鏡に映った対象に7割反射しているのだ。
あの妖精の能力が付与されているのは明白だった。
月の光を受けて修復されていく鏡を見ながら、レミリアは荒い息を吐く。
「自己修復機能も備えているとは……ハハ、なるほど。我慢比べというわけだ」
満月の夜。月の光の魔力を受けて、吸血鬼の回復能力もピークに達する特別な夜。
この多面体の中で、フランの能力は7割に減衰される。つまり、完全に壊されることはない。
フランの破壊で即死することはない。
(成る程。フランの能力は対象の破壊……。しかし反射することで、鏡に映ったものに破壊の7割を転嫁している)
(つまり、この状況下なら、私はフランの破壊衝動を再生が追いつく限りいくらでも受け止められるわけだ。……ふふ、ふふふ。あの妖精は絶対に許さん)
(だが、今は。少しだけ感謝してやる………初めて。姉らしいことができる)
弾けた腕を再生させながら、レミリアは言った。
「………いくらでも壊せばいい。私が受け止めてやるから」
▽
右手が弾け、左腕が潰れ、膝から先は粉々になった。それでも愛する妹に反射した破壊が及ばぬように、レミリアは盾であり続けた。
そうして何時間が経ったのだろうか。やがてフランの動きはぎこちなくなり、糸が切れたように崩れ落ちる。
それを血塗れのレミリアが抱き止めた。
「フラン!」
「お姉様…ごめんなさい」
「良い、気にするな。………私もだ。フラン、すまなかった」
「お姉様はわるくないよ」
「そんなことがあるものか! 間違っていたのは私だ、ちゃんと話をしてやらなかった、目を背けていたのは私だと言うのに!」
フランは笑った。
「じゃあ、おあいこだね」
「……そうか。そうだな」
「お姉様、ないてるの?」
「…………まさか」
「ふふ。変なお姉様。ねえ、ひとつだけ、いいかしら。やってみたいことがあるの」
「何だ?」
フランはよろよろ飛び上がり、一つの鏡の前で呼びかけた。
「妖精さん」
「なんでしょうか」
鏡一枚隔てたすぐ外から、ヴィーの声がした。
「半分だけ、反射してね」
「……承りました」
試しに鏡をこつこつノックしてみる。が、返ってきた衝撃がどの程度なのか分からず、フランは苦笑いした。
「わからないわね、これ。信じるしかないかしら」
「……フラン? 何をするつもりだ?」
「大丈夫よ、きっと上手くいく」
(私が四人になれるなら、
(だって、今までにないくらいに私の心はお姉様でいっぱいで、壊したいと思う心なんか遥か遠くだもの)
(私はこんなに
(きっと、この鏡なら───)
そして、フランは魔法の言葉を唱えた。
「───禁忌『
鏡に映るフランの顔が歪み、目から光が消え失せた。
その姿は、先程まで破壊衝動に呑まれていたフランとそっくりだった。
まるで駄々をこねる赤子のような鏡の中の自分と目を合わせたまま、
「────さよなら」
フランは、鏡に映る自分を破壊した。胸に返ってくる衝撃。自らの能力で破壊され、ぽっかり失った心の半分が。
自分の名を叫ぶ姉の愛で埋め尽くされていくのがわかった。
▽▽▽▽▽▽▽▽
私は混乱している。
私はとーっても混乱している。
そもそも。私がどうして見ているこっちも辛くなる弾幕を用意したかと言えば、身近な人を失う可能性と辛さを知ってもらうためだ。
その上で、レミリア様が破壊衝動を受け止めてくれる存在だとフラン様に理解させる目的があった。
それはいい。それは別にいいのだ。事実成功したみたいだし。
問題はその後だ。落ち着いた様子のフラン様に話しかけられて返事してしまったけど、中でなにが起きているのかさっぱりわからない。
……そろそろスペルの効果が切れる。中で叫び声が聞こえるのがかなり怖い。
逃げよう。「私に勝てたら好きにしていいですよ」とか大口叩いて思いっきり負けてるし、姉妹の感動の瞬間に邪魔しちゃ悪いし。
あと怖い。弾幕勝負中のレミリア様の視線でちょっとちびりそうになった。早く帰ろう、そして早苗さんに褒めてもらおう。
私は神社の方を向いて、下向きに飛び始めた……かった。
しかし、私の肩に置かれた手がそれを許さなかった。
「何処へ行く」
「ちょっと用事が出来まして」
「勝負に勝った私達はお前を好きにできると記憶しているんだが」
「………………………」
肩に指がめり込んでとても痛い。恐ろしくて私は振り向けなかった。
その後ろからフラン様も来た。
「そうだ! 妖精さん、お友達になろう?」
「えっ」
「あ……そうだよね、急には無理だよね」
「くっ……フラン様は! 今日から私と! 友達です!」
だからそんなしょんぼりした顔をしないでください罪悪感がマッハです。
「本当?」
「本当です」
「なぁフラン。実は友達同士でやる素晴らしく面白い遊びがあってな?鬼ごっこっていうんだが」
「どんなの?」
「鬼がそれ以外を追いかけるんだ。私達は吸血鬼だから鬼だな」
「私の知ってるルールと違う気がするんですが」
しかし私の指摘は聞き届けられることはなかった。
「タッチすることで相手を捕まえたことになる。捕まえた相手は鬼のものになるんだ」
「追いかけっこみたいなものね……やってみたい!」
目をキラキラと輝かせるフラン様。
「まって、まって」
「じゃあ三秒後に始めるとするか。フラン、どっちが先に捕まえられるか競争だ」
「負けないわ!」
「話を聞いてくれない……!」
私は半泣きで覚悟を決めた。ええ、やりますよ。
そっちがその気なら………こちらだって、全力で地の果てまで逃げてやる!
さて。さてさてさて。
実はこの話前の話を完成させてからほとんどすべての時間をかけて書きました。
難産だったんです。
私の脳内構想を文章にして伝える力の欠如とも言います。
恐らく皆さん最後のフランの鏡のシーンで混乱なさったのではないかと。
ええ。私の後悔もそこに尽きます。
あ、わかったよーって方はよまなくていいです。
何言ってるのかわからないという方に解説を書くことにします。
ちょっと恥ずかしいなぁ……
で。本編が回りくどいだけで、やってることはそんなに難しくないと思われます。
まず、フランの心の破壊衝動を分離……これは「破壊衝動が自分ではない」と強く意識することによる物です。
雑に言うなら「こんなの私じゃない!」。
次に、鏡に映る自分を、正確には自分の心の目を握り潰します。
ここで大事なのは……鏡に映るのは強く思うものという点。
フランは自分の破壊衝動を強く思ったためうつしだされたのは壊れたフランでした。あ、5割なのは心一個分を二つに分けたからです。
……何を強く思ったかって?さあ?
憎悪かもしれませんし憐憫かもしれませんね。
………この辺りで許して?だめ?
駄目だったら言ってね。その時は後日談で宴会回書いて必死に説明するから。
………話変えてもいいよね?
じゃ変えます。
さて。スペルカードの話です。
これもクッソどうでもいいですが、一応三人の能力とかその辺に近い1文字を入れてます。
『風雨の神』の雨。
『奇跡を起こす」の奇。
「祟り神としての側面を持つ」から呪。
次。前書きのなんかエモそうな言葉について。
これは前話でチラッと言及した「Embrace」の一節のガバガバ日本語訳です。最上級ついてるよとか言わないでね?こういうのはフィーリングでやるのが大事。
さらにいうならフランが最後に唱えた「Two of a mind」これも深く考えないでください。元ネタの「フォーオブアカインド」と語感が近いってだけで採用しました。実際日本語訳しようとすると「心の二つ」とかになります。何言ってるかわかんないね。
次。この作品の今後について。
正直なところ分かりません。
時間はあるので書くだけ書くかもしれないですが、今現在私は燃え尽きています。どうにか表現を絞り出した結果です。
さらに紅魔組がある程度解決したせいで今んとこ逃亡する必要があまりなかったり。アリス?もはや懐かしさすら覚えるね。
なんかパチュリーあたりが適当に説明しそうじゃない?知らんけど。
その辺りは何時かの私に期待します。頑張ってね、未来の作者。過去から応援しているよ。
更に続きでいう点でみれば、地霊殿ですよ。地霊殿。
今回の話で作者は狂気的な表現が不得意だと自覚したんですが、なんと!地霊殿にはこいしちゃんが登場します!
…………どうしよう。ほんとにどうしよう。
私のこの表現力でいけるんか?特に今回みたいな表現が面倒な装置を使った回とかきっと死ぬぞ……?
……まぁ、出さなければいい話です。難しい表現とか誰得ですかね。
スローペーススローライフが良いんです。
あ、誤字報告も歓迎してます。
疲れ果てて誤字探す余裕が私に今無いので。
では。もし私のやる気と上手い導入が私に降りてきたら、その時は……
………地霊殿で会いましょう。