今回は早苗さんはお休みらしい。「私も一緒に行きたいです」と言っていたけど、神奈子様と諏訪子様は口をそろえて『危険だから』、と。
確かに諏訪子様にとっては子孫でもあるし、気持ちはわかる……というか。正直なところ私も行きたくはない。危ないし。
でも紫さんが怖いんだよね……。
蜘蛛の巣を外してもらって、私と霊夢さんは下へ下へと降りてゆく。
どうも魔理沙さん達はかなりのスピードで進んでいるらしく、大穴が地底の外れにあることを考慮しても、
「今日は人間が多くくるね……おお! 久しぶり」
「ヤマメさんじゃないですか」
すでに弾幕勝負を終えたらしいヤマメさんが、少し疲れたように手を振ってきた。
「誰よこの妖怪」
「地底は忘れ去られた場所だからねぇ、私のことを知らなくてもおかしくはないね。黒谷ヤマメ、土蜘蛛だよ。そっちは数日ぶりだね、ヴィー」
「お久しぶりですー」
「あぁ、ヴィーから話は聞いたわ。で、何か用かしら?」
ヤマメさんは肩をすくめた。
「うー、本当なら弾幕勝負でも吹っかけるところなんだけど………いやはや、どうにも暑くって力が出ないのさ」
「暑い? もうそんなに熱が伝わっているの?」
「私みたいなのは暗く湿ったところが好きだからよくわかるのよ。悪いけど、さっきの人間で私は限界、もう休むことにするよー」
そう言ってヤマメさんは何処かへふらふらと消えていった。
「こりゃ楽だわ。たまには魔理沙に先を譲るのもありね」
「博麗の巫女とは……」
「たまによ、たまに」
そう言って霊夢さんは辺りを見回した。
霊夢さんの視線を追って私も視線を動かすと、空間が割れてそこからぽとり、とにとりさんのやつみたいな陰陽玉が落っこちてきた。
どう考えても紫さんだ。霊夢さんもスキマを見て確信したようで、
「もっと早く行くべきだったわ」
『あら、つれないわね。私も霊夢を手伝ってあげようと思ったのに』
「どうせ見てるだけに決まってるわ。紫のことは信用はしても信頼はしないってのが基本姿勢だもの」
『立派に育ったわね、霊夢』
「やりにくいったらありゃしない……ヴィー。無視して先行くわよ」
「あ、はい」
ちらりと陰陽玉を見た。表情がない分何を考えてるのかわかりにくい……いや、普段から表情あてにならないな。変わらないや。
▽
結局のところ、地霊殿にたどり着くまでほとんど弾幕勝負などしなかった。その辺の怨霊を追い払うくらいで、どうも勇儀さんなんかは怨霊をぶちのめしに彼方此方へと走り回っているらしい。アグレッシブ……。
つまり、霊夢さんがヤマメさんの次に見た妖怪は、
「だから! 今普通の人間がいくようなところじゃないって言ってんのさ! 死体も残らず燃え尽きちまうよ!」
「だから! 冷却装置なら持ってるんだ! なぁ、にとり」
「もちろん!私の水を操る能力を生かして気化熱で……まぁとにかく大丈夫!……なはず。実験してないけど」
「おい冗談だろ?」
地霊殿の門の前で押し問答をしているお燐さんと魔理沙さんだった。
「何やってるのよあれ」
「あ、私の知り合いです……お燐さーん!」
駆け寄ると、お燐さんは漸く安心したような表情を浮かべた。
「あ、ヴィーじゃないか! てことは、どうにかなったのかい」
「はい、制御棒! 作ってきましたよ!」
「よし……これでお空が救えるんだね?」
期待するまなざしに応えるように頷く。
「そのはずです。近づいて直接取り付ける必要がありますが、それは萃香さんが……萃香さんは?」
「いるよー」
風が集まって萃香さんを象った。……顔が真っ赤だ。
「あんた、また飲んだの?」
「いいじゃないか霊夢、大仕事の前の景気付けさ……いや、すごいね。こんなに高密度の力を扱うのは初めてだ」
そういうと萃香さんは一人ですたすたと庭の方へ入っていき、ごく普通に灼熱地獄へと続く穴に飛び込んだ。
「ヴィー、私たちも行くわよ」
「あ、はい!」
穴の周りはすでに熱風が吹き荒れていた。
穴の中は灼けるように暑くなり、
そして穴を抜け出た先に……
お空さんは、宙に丸くなるように浮いていた。
体が重くなるほどの熱の中で、
「霊夢。私は今からこれを散らすけど……それでもかなりのエネルギーが四方八方は飛び散ることになる。避けてね」
萃香さんが手をお空さんに向けて突き出した。
途端、極大の赤く可視化されたエネルギー弾がばら撒かれる。
まるで本当に原作のような……。
本当に弾幕勝負をしているみたいだ。
「これじゃ近づけないじゃない……!」
「よし!私が押し返してやるぜ!」
魔理沙さんは八卦炉を構え、マスタースパークを放った。
しかしそれはいくつかのエネルギー弾を消し飛ばすのみで、
「おいおい……まだ来るのかよ、これ」
さらに似たような弾幕がばら撒かれ、魔理沙さんは避けるしかなくなったみたいだ。私も何かできることはないか……!?
気づけば、私の腕の中に制御棒があった。
「……………え?」
「それ、必要なんでしょ?じゃ、いこっか!」
体が前に引っ張られてる……!?
「れ、霊夢さん!れいむさーん!聞こえてない!?」
「あ、ここ右ねー。次上ー」
ギリギリのところで弾幕を回避し続けて──というかもはやグレイズレベルで──理由もわからず、どうにかこうにか私はお空さんの近くに辿り着いた。
「腕につければいいのかしら?えーと、こうやって……なんだかケーキの入刀みたいね」
こうなったらヤケだ。どうなってるか分からないけれどチャンスなのは間違いない……!
私はお空さんの手を取ろうとして、赤熱したそれが怖くなってやめた。おそらく高熱だし、私が今ここにいられるのは多分反射が作用してくれているから、だと思う。
でもやっぱり怖いものは怖い。
「何してるの?ほら、はやくはやく!」
私の手は自然に浮き上がって、お空さんの手を取った。
もう片方の手は制御棒を取り、お空さんの手に付けた。
私は、それどころではなかった。
▽▽▽▽▽▽▽▽
八雲紫は陰陽玉越しに写る光景を一部理解できていた。
(どうやって辿り着いたのかは判らない。けれどあの妖精は確かに対象へと接近し、そして触れた……。あの地獄烏は、あるいは八咫烏は無意識にあの妖精をエネルギーの受け皿と認識し、制御が安定するまでの間過剰分を流し込んだ。混ざり合ったというような表現の方が近い気もするけれど)
結果として、ヴィーはぴちゅーんとあっけない音を立てて消えた。
「で、」
紫は振り返ると客人に問うた。
「読めたかしら?」
「ええ……確かに読めましたね。予想は合っていたというわけですか」
「そんな大層なものではないわ。これは実験程度……さて。聞いてもよろしいかしら?あの妖精の思考について」
客人と呼ばれた少女……古明地さとりはこう答えた。
「驚くほど何も考えていない」
「………ごめんなさい、何か聞き逃したかしら」
「いいえ、八雲紫。貴女が何を想定したのか分かりませんが、ヴィーがあの状況の中で一番困惑していました。作戦なども思いつきに近い計画性のなさ。最後の方はうちの妹のせいでもありますが」
「………そう。考えすぎたかしら……?」
八雲紫は珍しく疲れたような顔でため息をついた。
古明地さとりはそれを珍しいものを見た、と思いながら、
「貴女もそろそろ状況説明に赴くべきだと思いますが」
「そうね。ええ、此度の協力に礼を言うわ」
「いえ、結果的にですが私にも利はあったのでお構いなく」
「関わりを作る方が面倒って顔ね」
「お分かりですか。覚としての素質があるのでは?」
「遠慮するわ。疲れそうですもの」
みずねですー。
今回は普通に書くのが大変でした。でもこれも仕方ないことなんです。
というのも先日深夜にこれからの構想についてヤバめの妄想をキメていた所、どうもこの小説の区切り……ひとまずのエンドを思いついたんですよ。あれだけプロットがないって騒いでいた作者にしてはよくやったと自負しています。
時系列的には閑話挟んで星蓮船の後になるかも?そんな大層なあれではないのでさらりと。片付けたい。もしかしたら星蓮船は何事もなく終わってその延長線上になるかもしれませんが。
次。主人公ピチュりましたが、すぐ復活させます。当然です、閑話書きたいんだもの。今回お空さんと濃厚接触(エネルギー的な意味で)したのにも訳があります。あるったらあるんです。ヒントは核融合。あれはエネルギーの流入ではなく本体同士の融合に近かったんですね。ただ別に体が丈夫とか神様が体の中にいるとかではないふっつーの妖精なので容量オーバーします。
次。紫さんが実験したのは『一度に反射できる種類に限界があるのではないか』と言った内容です。目論見は当たったようです。紫さんがスキマを繋げてさとりさんに見せたと言う訳ですね。で、心を読んだと。ただこれ死に設定です。理由は次の話で言うかも。
次。タイトルはそのままです。覚りって小石投げられると逃げるって聞いたような聞かないような。なんか小石が出てくることがあるらしいですよ。詳しくないですが。
個人的にこいしの能力はジョジョの4部に登場する「アクトン・ベイビー」のように自身を中心に無意識を展開するイメージを持ってます。多分自分で調節可能ですが。
で、時間がないって言ってた話ですが、この小説はレベル8くらいなんです。
つまり、生贄が必要。私がリリースしたのは「睡眠時間」と「課題用の時間」です。そう言うことです。
次回から閑話に入るつもりでいる。ので。
またあえたらあいませう。