時系列としては、主人公が地霊殿ストーリーで一回休みになった後の話になります。
現在(2022 9/7)の時点で、この話以前……つまり「三つ目の足、三つ目の目」まではすでに改稿作業が終わっております。
なので、わからなくなっても読み返すのにさほど苦労はしないはずです。どうにも自分の文は読みにくい気がするので何とも言い難いですが。
灼熱地獄から帰還した霊夢は、回収したお空をさとりに渡した。
「良かった、良かったよう」
お空の胸元に顔をこすりつけて泣いているお燐を尻目に、さとりは功労者代表に頭を下げる。ちなみに、この異変に参加した他の面子は『心を読まれたくないから』と早々に帰って、ここには霊夢と陰陽玉が一つしか残っていない。
「おかげで助かりました。……若干一名、帰還できなかったようですが」
「そうね。またこのパターンってわけ」
なんとなく、さとりは理解した。あの妖精はどうやら、いろいろなところで騒動のもとになっているらしい。
「……ともかく。酒を持たせますから、それで手打ちとしていただけませんか。こちらも灼熱地獄の復旧などで手が回らない状態でして」
「そうね……いや、あんたたちも宴会に来なさい。特にそこの地獄烏」
霊夢は眠るお空を指さした。
「定期的に守矢神社に連れてってメンテナンスしてもらいなさい。こんなに不安定な依り代、放っておけるほど能天気じゃないわ」
「それに関しては私たちも完全にとばっちりなのですがね」
「ご愁傷様。文句は神奈子に言うことね」
そうして──異変未満の異変は、ここに収束を迎えたのである。
ちなみに、灼熱地獄が神の光で満たされたことによって、そこで彷徨っていた地霊たちは残らず浄化されたそうな。
▽
……暖かい。降り注ぐ熱ではなく、隣で寄り添う温もりだ。
人肌に引き上げられるように、お空は眠りから目を覚ました。寝ぼけ眼で目をこすろうとして、腕に装着された棒に気づく。
「……なんだっけ、これ」
ダメだ、何にも思い出せない。しばらく記憶の糸を手繰っていたお空だったが、やがて考えるのをやめた。
代わりに隣で眠っていたお燐をぎゅうと抱き寄せる。安眠を妨害されたお燐は不機嫌そうにぐるると唸り、それからわずかに目を開けた。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「……。……!」
お燐の緋色の瞳に、みるみるうちに涙が溢れていく。
「えっ、なんで泣いてるの」
「バカ! おバカ! あたい、すっごい心配したんだぞ……!」
二又の尻尾が、ぺしぺしと抗議するようにお空を叩く。
「説明してっ!」
「せ、説明って言われても……」
本当に何も覚えていないのだ。
けれど、涙目でにらみつけるお燐にとっても迷惑をかけたことはわかる。
だから、一度は投げ捨てた記憶の糸をもう一度手繰り寄せた。その日の記憶の、一番初めは何だったか。
──そうだ。その日はさとり様からお使いを頼まれたんだ。
でも私って方向音痴で、いっつもダメダメで。さとり様を待たせちゃうこともいっぱいある。
だから、そう、近道を見つけたんだ。ここを通れば酒屋まですぐだって、そう思って。
で、結局迷っちゃって。あっちかなこっちかなって歩いてるうちに、町はずれのほうまで来た。
そこで見た。きれいな緑色の目を。
『……あら、ごめんなさい。いまちょっと調子が悪いの、離れててくれる?』
何か言ってたんだけど、よくわからなかった。すごい変な気分だった。
なんだか急に、まともに買い物もできない自分が嫌になって、
それで、
それで、
お燐のことが羨ましくなったんだ。
「あ……」
さとり様だって、仕事ができるペットのほうがいいに決まってる。
いいなあ、いいなあ。
どうして私って要領悪いのかなぁ。
私も、さとり様の役に立ちたいなぁ。
お燐みたいに、頼られる存在になりたいなぁ。
『ねえ、ちょっと? ……行っちゃった』
心がもやもやしたまま、私はふらふら歩いてった。だんだん考えは変な方向に向いていった。
どうやったらお燐になれるかな、とか。誰を倒したらさとり様は褒めてくれるかな、とか。
同時に、地霊殿に帰るのが辛くなった。さとり様の優しげな目が辛くなった。さとり様は心を読める。でもそれは、読みたくて読んでるわけじゃない。
だから地底の端っこに屋敷を立てて、あまり関りを持たないようにしてるんだ。心が読めるってのは疲れるから。
だったら。さとり様には、こんな汚い私の心、見せられない。
逃げるように、禁を破って地上に出た。
そして──それから──
『おや、珍しい。どうしたんだい地獄の鴉が』
『うん? そうだねえ……。手助けしてやってもいいけど、結局はあんた次第だ』
『ま、今はもう神霊クラスの神だし。強く気を持っていれば大丈夫さ』
それから──
『……お前が依り代か。この八咫烏に何を望む?』
『おい小娘。お前、そんな意志薄弱さで名乗りを上げたのか』
『あの神のところへ戻るぞ……おい、聞いているのか?』
いいなあいいなあいいなあ。お燐みたいに、私も強いペットになれたかな。
「あ……ごめん、ごめんよう……」
「謝るくらいならさっさと帰ってこいっ! 二度と忘れんな、アンタの! 家は! ここだっ!」
その言葉は、びっくりするほどストンと胸の中に納まった。
身を焦がすような嫉妬の炎ではない。ただ、暖かい。
それから二匹は、主人が様子を見に来るまで抱き合って泣き続けた。
▽
『で、核融合エネルギーの話なんだけど。アレってとんでもなく有用だし、扱い方を間違えれば山が吹っ飛ぶ危険物でもあるんだよね』
「……真意は測りかねますが。私どもとしても、守矢神社のほうに定期的に面倒を見させるつもりで──」
『ああ、そうじゃなくて。商売の話だよ、これ』
陰陽玉がゆらゆら揺れる。
『万が一のことを考えても、私と核融合は能力的に相性が良い。力の正しい使い方を教えてあげようかと思ってね』
「私たちにメリットがないように感じますが」
『そうかい? 例えば、今使ってる陰陽玉。これは使い切りタイプだからあと10分くらいでエネルギーが切れるんだけど」
「聞いてませんが」
『言ってないからね。もしそっちの核融合エネルギーをうまく扱えれば、
「……一体そこまでして、何が目的ですか」
『言ったろう? これは商談なんだ。私はただ金が稼げればそれでいいんだよ』
……ああ。
案外この能力も捨てたものではなかったのですね。
さとりは嘆息した。
そもそも八咫烏周辺の設定を良く練っていないまま突き進んだので、かなり表現が雑でした。その辺りも突き詰めて修正したので、以前よりも本作の地霊殿で何が起こっていたのかがより分かりやすくなっていると思います。
ところで、最新話のあとがきに神霊廟が始まるとかなんとか書いてあって、非常に決まりが悪いです。