東方逃亡精   作:鼠日十二

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world

 

……視界がぐらぐらする。おなかのあたりの浮遊感。

 

意識がはっきりしてくると、見覚えのある景色が目に飛び込んでくる。

 

 

 

 

 

「久しぶりね」

「……紫さん。メリーさんは?」

 

 

 

紫さんは扇子で口元を隠している。その表情から感情は読み取れない。

 

 

「まだ死んではいないわ。そんなことより、貴女には聞きたいことがあるの」

「わ、私もです」

「あら……いいわ。ここでは時間なんてないようなものだし。大方、『なぜマエリベリー・ハーンを殺そうとしたのか』なんてあたりかしら」

 

 

苦手だ。この見透かされている感じ。

 

「その通りです。どうして送り返すのじゃダメなんですか」

「貴女にもわかるように、かみ砕いて説明してあげるわね」

「子ども扱いしないでください……」

「私から見ればほとんどの存在の精神は未熟よ。さて、どこから話したものかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、これがマエリベリー・ハーンを殺す理由ね」

「自力で帰るわけにはいかないんですか?」

 

「ええ。それも説明しなければね。博麗大結界は『人の意識を通さない』という点において絶対的な強度を持っているわ。そうあれかし、と定められて証明された論理的な結界。だからこそ、マエリベリー・ハーンが結界を意識ある状態で抜けたことは結界にとって重大なエラーになった」

「証明に矛盾が見つかった、みたいな感じですか」

「そうね」

 

 

紫さんはため息をついた。

 

 

 

「……それでも、結界が弱るだけならまだやりようはあったのだけれど。貴女、外の世界における幻想郷の意味が分かるかしら?」

「ええと……忘れられた神秘が行く場所、でしょうか」

「大体はその認識でいいわ。幻想郷は外の世界の神秘にとってある種の避難所なの。知名度の高い存在はふつう結界に阻まれて幻想郷に入ることはできない」

 

「それも博麗大結界の効果ですか?」

「その認識でいいわ。さて……幻想郷と外の世界を分ける結界が弱まったら、外の世界の神や妖怪はどう思うかしら」

「……今なら入りやすい、とか?」

 

 

「ええ。現在外の世界でも知名度の高い神格や根強く信じられている妖怪がこちら側に来ようとしている。実現すれば『忘れられたものを呼び寄せる』という性質にも矛盾が生じるわね」

「ええと、そうすると……結界が完全に壊れる?」

 

 

「そうなる前に私は幻想郷につながる世界とのつながりを全て遮断する。こちらとあちらの境界を閉じる。故に、マエリベリー・ハーンはいずれにせよ帰ることはできない」

 

「ほ、ほかになにか方法は──」

「ないわけじゃないわ。どの策でもマエリベリー・ハーンは死ぬけれど」

 

「閉じる前に脱出するとか」

「脱出した先は力のある神や妖怪がうようよしているわ。贄あたりが末路ね」

 

 

 

どうすればいいっていうんだ……。

 

 

「今度はこちらの質問いいかしら?」

 

 

紫さんは口元の扇子を下した。

無表情だった。

 

 

「貴女にとって幻想郷は何?」

「……はい?」

 

 

思っている数億倍やさしい質問だ。

 

 

「ええと……最後の楽園、人と妖怪が共存する場所」

「もう結構よ。貴女にはしばらくここにいてもらうことにしたわ」

「しばらくってどれくらいですか」

 

 

「ふふ。どのくらいかしらね」

 

 

そう言って紫さんは消え──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──待ってください。では、ではこういうのはどうですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫はヴィーという妖精に対してものの見方のズレを感じていた。

 

 

 

 

『最後の楽園、人と妖怪が共存する場所』

 

 

この言葉は幻想郷に住む者というよりは幻想郷を管理する側に近い。幻想郷をただ自分がいる場所と思っていない。そこに紫は奇妙な、一種の同族嫌悪じみたものを感じた。性格そのものは嫌いではないが、あまりにもアンバランスなその在り方がやはり紫に異物感を抱かせる。

 

 

 

だから、あの妖精の提案は悪くなかった。最低でも一人は消せるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通話が切れた。

 

 

「後ろ?もしかしてメリーが戻ってきたのかしら……」

 

 

 

蓮子は後ろを振り向いて、嫌なものを感じた。

神社の鳥居あたりにたたずむ影。襤褸切れを纏い、その頭部は草食動物の頭蓋骨だ。明らかに異常である。

 

その影が、こちらを向いた。その頭蓋の眼孔の空洞の暗闇に視線を感じる。

すでに夕方もいいところ、俗にいう逢魔が時というやつ。沈みかけの夕日が一層その姿を怪しく照らし出す。

 

 

 

ふと蓮子は視界の端に……本殿の陰に少女らしきものを見た。らしき、というのはその少女の顔が美しくきれいな曲線を描いてえぐり取られていたから。まるで顔をお椀状にするかのように。着物と髪型、下駄の鼻緒の色だけが少女だと感じさせる。

 

 

 

……訳が分からない。わからないがここにいるのは不味い、しかしメリーはどうなる?置いて行って……それで?

 

 

 

「まさか。私がメリーを置いていくなんてありえない」

蓮子は空を見上げた。薄く光る月が見える。

 

 

『星を見るだけで今の時間が分かり、月を見ただけで今いる場所が分かる程度の能力』とは究極的には『星と月が見えるなら決して自分を見失うことはない』ということである。

 

 

 

「待つよ、私は。夢美とも連絡が取れないし、向こう側に行く方法も分からないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はいまだ意識のないメリーさんを背負って博麗神社の裏手まで来た。隣には藍さんがいる。

 

「境界はもう開いてある。そこを潜り抜ける寸前で紫様の術は発動する。後のことについてこちらは関与しない」

「ありがとうございます。それじゃあ……いきますよ」

 

 

 

裏手の森をメリーさんを背負いながら走る。もともとある浮力をメリーさんを抱える力に充てることで、私でも背負って走るくらいは可能になる。

同じような景色をずうっと進んでいくと、そのうちボロボロになった建物が見えてきた。あれか!

 

 

 

森を抜けた。境内に飛び出す。

 

「蓮子さんいますかっ!」

「……貴女は」

 

蓮子さんは境内の中心に立っていた。心なしか顔色が悪い。

 

 

「メリー、それに君はヴィーだね?」

「とにかく逃げますよ!、私のそばにくっついて離れないで移動してください」

「ヴィーには見えないの?……うわ、私も見えなくなった」

 

 

 

必死に階段を下りる。森を走って、ようやく山道が見えてきたあたりで、私はメリーさんを蓮子さんに任せた。

 

 

 

「ここまでくれば大丈夫でしょう。あとは人のいるところまでいけば大丈夫なはずです」

「ヴィーは?」

「私は行けません」

「そうか。ちなみにメリーは無事なんだよね?」

「ええ、もちろん」

「質問とかいい?」

「大体のことはメリーさんが知っているので起きたら聞いてみてください。今はさっさと逃げるのが先です」

 

「そうか……残念。また来ることにするよ」

 

 

 

 

 

蓮子さんはメリーさんを背負って歩いて行った。

 

 

 

 

私は蓮子さんの言葉に返事をせず、手を振るだけにとどめた。

 

 

 

蓮子さんの姿が見えなくなったあたりで、全身の力が抜けた。意識も徐々に薄れてきた。

 

薄れる、というのは成功したということなのだ。水面に墨汁を垂らすみたいに、薄れて広がることが大事なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

そう思って私は今度こそ、確実に、目覚めないであろう眠りについた。

 

 

「私がコンティニューできないのさ、なんてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 















気合だけで書き上げました。リアルタイム投稿なので投稿時間を見ればなんとなく察していただけるかと。そんなテンションなので誤字あったらごめんなさい。


次回『答え合わせ』お楽しみに。
私は寝ます。
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