今回のこれは「アモリタチテカミトミユ」の歌詞から。知っているかわかりませんが、名曲です。そのうちイントロの長さがたまらなくなります。サビの声があまりにも私のゆかりんのイメージにピッタリなので私の中ではゆかりんはあの声です。
「私の名前、知ってるかしら?」
目の前のゆかりんはすーーーっごくいい笑顔だった。
いや……知ってるけどさ……一般妖精的には普通知らないんじゃない?
とりあえずシラを切ることにした。
「知らないです。どちら様です?」
「……ふーん。まぁいいわ。私の名前は八雲紫。このセカイの管理者みたいなものだと思ってくれればいいわ」
「はぁ。で、管理人さんが私に何か用ですか?」
ゆかりん、もとい紫さんは私の懐を扇子で指した。
「貴女が作ったそれ」
「それって……この『k-phone』?」
「ええ、それよ。正直な話……この幻想郷にはオーバーテクノロジーすぎるのよ。時代をいくつも吹っ飛ばしていること、理解してる?」
……。
えっ、通話って魔法使いとかなら余裕でできるよね? 一瞬そう思ったが慌てて考え直す。
本当に不味いのは、誰でも使えるって点か。パチュリー様が気軽に念話とか使ってるから勘違いしていたけど、本来は力の弱い妖怪が使って良いものじゃ無いんだろう。
「……そんな大変なものだったんですか」
とはいえ、広まってしまったものを全て回収するのは無理だ。ここは知らんぷりで行こう、ゆかりんに目をつけられたら本当に自由に動けない気がする。
「ええ、そうなのよ。だから……貴女から河童に生産停止をお願いできない?」
「えー……。せっかく形になったのにですか…?」
「ダメなら私から直接お願いに上がるわ」
「うっ……どうにか説得はしてみます」
「よろしい。じゃまたさっきのとこにつなげてあげるから、お話ししといてね」
紫さんが扇子を振るうと、空間がピシッと裂ける。隙間の向こうにはアリスさんが見えた。
「ちょ、ちょっと待ってください!さっきのとこは不味いんです!」
「あら、何故かしら?」
知ってる。この顔は絶対に今までの流れを知ってる顔だ。
「実はちょーーーーーーーっと追いかけられてまして……」
「あら、そうなの。じゃああの河童さんのところにも戻れないかも……ね?」
「うっ」
確かににとりさんとアリスさんが出会っている可能性は否定できない。おたおたしていると紫さんが呆れ半分なため息を吐いた。
「……まぁ、いいわ。少し遠くの方に飛ばしてあげるから、ほとぼりが冷めるまでしばらく反省してなさい」
「え、それだけでいいんですか……?」
「不思議なことを聞くものね。その首から下げてる
「これですか?えへへー。これ世界に2台しかないにとりさんとのお揃いなんですよ」
「うふふ、仲がいいのは良いことね。
────けれど。もう少し言葉に気をつけるべきだわ。
このセカイに
「え……?」
フレンドリーだった紫さんの笑顔が、急に妖しく歪む。
「良い顔ね。妖怪にとって極上って感じ。……貴女、外の世界を知っているわね?」
口が動かない。既に喉はカラカラ、膝も震えてきた。
……消される? まさか、そんなことはない……と信じたい。でもゆかりんの能力ってば暗殺すっごい向いてるんだよなぁ……。
スキマでちょんぱされたりしないよね?
「別にそんなに怯えなくても良いわよ。大方、そういう能力でも発現したんでしょう? 夢に見た、ってとこかしら」
違う! 違う……けど、ここは流れに乗るしかない!
「そ、そうなんです!なんかこう、いっぱい壁が立ってるところで人がいっぱいで、スマホっていう板触ってて……!」
「慌てないの。別にとって食おうなんて考えてないわ。まぁ、そこで見たものを軽々しく再現しないように、と釘は刺しておくわね」
「す、すみません……」
「まぁ、今後に期待ね。じゃあ、それなりに遠く……この辺にしようかしら」
「どこです?」
「ついてのお楽しみ」
「えぇぇぇぇぇぇ………」
そうして私は、開いた隙間から落ちていった。
「面白い子ね。本当、面白い……妖精なのに自分が何を元に生まれてきたのかわかってなさそうなのが本当に……愚かしく愛らしいわね。あの子の根源は『月の光』……妖怪なら自然と近寄ってしまう魔性の月。触れれば奪いたくなる狂気の光。ふふ……難易度は『ルナティック』ってとこかしら」
そう言って八雲紫は一人くすくすと笑い続けた。
幻想郷の管理──。博麗大結界、巫女システム。いずれにせよ世界の均衡を保つために用意したものだ。
しかして、八雲紫は変化を是とする。進化を迎合する。
不変の箱庭に未来はない……人が進歩するように、妖怪も変容しなければならないことを八雲紫は良く知っている。
ただし。その変化は緩やかなものでなければならない。時代をいくつも飛ばしたようなブレイクスルーは、阻まねばならない。
「とはいえ、連絡機能は高位の妖怪なら要らないし。妖怪って独りよがりだから、仲間とコミュニケーションをとる種族なんて天狗と河童くらいかしら?」
八雲紫は、いつのまにか回収していた大量の『k-phone』を拾い上げた。
「ほんと、人間らしい発想よね。仲間と連絡をとりたがる、なんて」
▽▽▽▽▽▽▽▽
「にゃぁぁぁぁおちるぅぅぅ!!───ぐべっ」
顔面に凸凹した固い感触。口の中に入り込む砂利。咄嗟に反射したから痛みは少ないが、砕けた小石が口に入ってざらつく。
「うえっ、ぺっぺっ」
「───あら、珍しいお客さんね。妖精が来るのは初めてじゃないかしら」
振り向くとまず目に入ったのは大きな屋敷。そしてその縁側に座りこちらを眺める……水色の着物を着た桃色の髪の女性だった。
嘘でしょ?
「幽々子様!!侵入者ですか!!? ……えっ、妖精?」
「あら妖夢、そんなに急がなくてもあの子は逃げないわよ。ね?」
こちらを見て笑うその女性からは、圧倒的な妖気を感じる。
確信した。ここは白玉楼だと。とりあえず私は土下座した。
「ころさないでください」
「……私のことなんだと思ってるの?」
▽▽▽▽▽▽▽▽
「ふ、ふふ。悪いことして紫に捕まったから、もしかしたら殺されるんじゃないかって思ったの? 面白い子ねぇ」
冷や汗をかきながら、とりあえずお辞儀をする。
「わっ私、妖精のヴィーと申します」
内心はビクビクである。何せ白玉楼の主人である西行寺 幽々子の能力は『主に死を操る程度の能力』……吹けば飛ぶような木っ葉妖精など扇子の一振りで殺せるだろう。
そんな私の内心を知ってか知らずか、幽々子さんは楽しげに笑う。
「紫ったら気を使わなくても良いのに。そんなに鬱屈としているように見えたのかしら?」
「あの、幽々子様。あの妖精は如何致しますか?」
「んー……。紫のことだし、何か考えがあるんでしょう。しばらくウチに住まわせてあげましょ」
「「えっ」」
奇しくも妖夢さんと声が被った。仮にも主人がそんな緩くて良いのだろうか。しかし妖夢さんは主人の意向に逆らわないようで、私の元へ歩いてきた。
「こほん。白玉楼の庭師を務めている魂魄 妖夢です」
「ヴィーです。この度紫さんにポイ捨てされました」
縁側のほうで幽々子さんが吹き出した。
「では……ヴィーさん。ここにいる以上、貴女にはある程度仕事をしてもらいます」
「妖夢は真面目ねぇ。別にせっかくのお客様なんだからもてなしてあげればいいのに」
「幽々子様はそれにかこつけて料理が食べたいだけでしょう。良いですか、働かざるもの食うべからず、です。一応聞きますが、家事の経験は?」
言われて考えてみる。厳しいメイド長の指導のおかげで、大体のことはできるつもりだ。
「ええと、洗濯から食事の用意、掃除まで一通りは」
「!? つかぬ事をお聞きしますが、妖精なんですよね?」
「ええ……まぁ少し、使用人として働いていた時期があるといいますか……」
考え込む妖夢さん。主人に振り回される立場に、なんとなくシンパシーを感じたり感じなかったりする。
「ようむー」
「何ですか幽々子様」
「私、ヴィーのご飯食べてみたいわ」
「え」
ぽかんと口を開ける妖夢さんを差し置いて、幽々子さんは私に話を振った。
「ヴィー、ダメかしら?」
「とんでもないです!すぐ作ります!」
マジで紫さんにいつ見られてるかわからんし、迂闊なことはできない。反射という能力はあっても私はただの妖精であり、小市民なので。
強者には逆らわないのが吉なのである。
この小説はゆーーーーっくり、スローライフスローペースを目指しております。オチを求めず、ゆったり作者が書いているだけなのでまぁご了承ください。
ちなみにルナティックの語源はルナ=月、ティック=打たれるで
直訳は月に打たれるだそうで。古代の人々は月の魔力が狂気になりうることを知っていたんですねぇ。まぁその辺はFGOのカリギュラの宝具でご存知の方も多いのでは?
では、また。