東方逃亡精   作:鼠日十二

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なんか真面目なストーリーも考えてましたが、こんぐらいゆるい方がいいなと思い直し投稿です。私はライブ感で小説を書いている。


クライム・ストーリーと

 

「思うにですね、神子さんはやんごとなき身分のひとなのではないかと」

「へえ、どうして?」

「吸血鬼の館、冥界の縁側、山頂の神社……今までいろんなところにお世話になりましたけど、こんなに広いのは初めてです。人間は大きなものを建てて権力を示すでしょう?」

 

 ぶわっと両手を広げてスケール感を示すと、神子さんはくすくす笑った。

 

「うんうん。君はもの知りなのね」

「いやまあ、知ってても役に立たないことばかりですけど」

「あ、そうやってすぐ否定しちゃうのは良くないのよ。もう少し自信満々でいても、誰も怒らないのに」

「……でも、畏れ多いでしょう? 吹けば飛ぶような妖精が、神とか強い妖怪の側で暮らせていたこと自体、結構な奇跡ですよ。私としてはそろそろ安住の地を見つけたいところです」

 

 幻想郷において、常識とか倫理観とか法律なんてのは覚えていても意味がない。人も妖怪も神も、一つ間違えるだけで簡単に死ぬ。死なないのは妖精くらいだが、そもそも生きているかも怪しい。そして、死なないから幸せというわけでもない。

 

 ここが異変の中心地になるならば、いずれ博麗の巫女がやってくる。いつまでゆっくりできるかわかったもんじゃない。それに、青娥さんが何を考えているかわからないのも不気味だ。

 

「……ねえ、それなら」

「太子様ーッ」

 

 神子さんの台詞に被せて、焦ったような声と、ドタバタした足音が聞こえた。驚きに身体が跳ねる。慌ただしい足音は徐々にこちらに近づいてきて、扉が勢いよく開かれた。古風ながら裾を短くスカートのように仕立て、烏帽子を被った少女が顔を出す。

 

「布都?」

「申し訳ございませぬ、少し目を離した隙に妖精に逃げられてしまいました! 今探して参りますのでしばしお待ちを!」

 

 そして彼女は私にチラリと視線を向け、

 

「お客人! 我はこの通り急用にてお相手できぬが、是非ゆっくり過ごされると良い!」

 

 と告げ、来た時と同じように喧しく去っていった。私はその後ろ姿を見送って、それから眉を下げた神子さんの方を向いた。

 

「……神子さん、今のって」

「わかってる」

「神子さん?」

「……よく働いてくれる良い部下なんだ。ただ少し周りと過去に目を向けないだけで」

「探してる妖精、きっと私のことですよね」

「……うん……」

 

 青娥さん、神子さんときて3人目の登場人物である『物部布都』は、2次創作ではアホの子として扱われることが多かったように思う。ただ本当のところはどうだかわからない。良くも悪くもネタにされやすい東方文化で、彼女のどの部分だけが強調されているのか。これで実は黒幕だった、とかだったら泣く自信があるぞ。

 

「彼女も妖精を見たことがなかったから、仕方ないと言えば仕方ないのだけど」

「私も引き止めるべきだったかもしれません。にしても、ここって他にも人がいるんですね」

 

 情報収集が先決だろうと、それとなく水をむけてみる。神子さんは同意するようにひとつ頷いた。

 

「ああ、言ってなかったっけ。せっかくだし案内しようか」

 

 良かった。察してくれたのかどうかはわからないが、これで自分の原作知識と現状のすり合わせができる。神霊廟以降はほんと、キャラとあらすじしか知らないからね。

 

 私は羽をぱたぱた動かして、神子さんの隣に並んだ。

 

 

 

 夢殿大祀廟とは木造の塔に似た形をしている。それが洞窟の中にあるというのだから、ここは相当大きい空間なんだろう。流石に聖人の墓なだけはあった。

 

 もっとも洞窟には他の建造物も存在していて、私が目覚めた所や神子さんが1人で読書に勤しんでいた場所も、そういったプライベートな建物の一つだったらしい。何故そんな場所があるかと言えば――

 

「私の耳はかなり性能が良くてね、話を聞くだけで相手の境遇や行く末をも知ることが出来るんだけど……なんでも聞こえすぎるのも問題でね。たまに静かに過ごしたくなる時があるんだ」

「……もしかして私、邪魔しました?」

「ああいやいや、別に気にしてないよ!」

 

 ――ということらしい。神子さんは首を振ったが、私はほんのちょっと落ち込んだ。地霊殿でさとりさんに会った時にも少し後悔したのだが、他人の気持ちが分かってしまう人に対してあんまり失礼なことを考えないようにしたかったのだ。

 

 いや、今からでも遅くない……か?

 

「むむ……」

「いや、君ねえ。だからって頭の中を空っぽにしようとするは違うと思う」

「え、何でわかったんですか」

「『何も考えないようにしよう』という欲が聞こえてきたもの。ふふ、君は面白いからそのままで良いよ」

 

 そりゃ自分の能力は自分が1番わかってるだろうし、折り合いの付け方も知ってるに決まってる、か。余計なお世話だったかな。そんなことを考える私の様子を見かねたのか、神子さんは私の頭に手を置いた。

 

「良いんだって」

「っ!」

 

 そのまま、わさわさと頭を撫でられる。

 

「あ、あ……」

「君はわかりやすくて良いわね」

 

 神子さんは撫でるのが非常に上手かった。猫や犬の類なら一瞬でお腹を晒してしまうような魔性の手つきで、切ないところを的確に覿面(てきめん)に……。

 

 ……。

 ……!?

 

「私、撫でられて喜ぶような齢じゃないんですけど!?」

「違うの?」

「これでも10年以上生きてるんですけど!」

「妖精にしては短いんじゃないの、それ」

「……」

 

 思わず口を閉じた。いくらなんでもボロを出しすぎではなかろうか。賢明な読者諸氏にはお察しであろうが、私が元人間であることがバレると酷いことになるに違いない。何故って神子さんに説明したように、()()()()()()()。死からの脱却を求めて仙人になった神子さんに、別の方法があるかもよ、と見せつけるようなものだ。

 

 私は明後日の方向を向き、めちゃくちゃな口笛を吹いた。

 

「……言葉の綾ってやつですよ」

「数字に綾も何もないと思うけど……まあ、良いよ。誤魔化されてあげよう」

 

 セーフなのかアウトなのか。首の皮一枚繋がったような。もっと良い誤魔化し方があったような気もする。果たしてなんと答えるのが最適解であっただろうか――と頭を悩ます私に、神子さんが声をかけた。

 

「そろそろ1人目の住人の部屋だ。多少言葉遣いが荒いかもしれないが、根は優しいから怖がらないでやってくれ」

「了解です。きっと吸血鬼とか祟り神よりかはマシでしょう」

「神と比べられると流石に……うーん。どうなんだろうね」

 

 神子さんが声をかけると、ややあって扉が開き、若竹色のウェーブヘアの女性が顔を出した。目つき鋭く怜悧な顔つきの綺麗な人だ。

 

「……そいつは、布都が見張っていたはずでは?」

「あー、うん。まあ誰にも失敗はあるよ。布都は顔を覚えるのが苦手だし」

 

 現れたその霊――蘇我屠自古は、途端に不機嫌になった。

 

「……それで、何用ですか」

「しばらく預かることになった。もしかしたら必要かもしれないからね」

 

 「ほら」と促され、私は神子さんの影から顔を出した。

 

 時に、ファーストインプレッションは今後の関係を左右する重要な要素だとされる。入社して3ヶ月はとにかく真面目さをアピールしろと言うし、挨拶ができる奴は大体会話もできる。無論私は問題ない。時に神を時に悪魔を、たまにスキマを相手に丁々発止の大立ち回りをしたこの私が、いまさら怨霊にビビるなんて――

 

「……」

「あ、あの、ヴィーっていいますよろしくお願いします……」

 

 怖い! なんか空気がパチパチ弾ける音がする!

 神子さんに「心配ない」と諭され、私は恐る恐る手を差し出した。

 

「あ、あ、握手……?」

「はあ?」

「ひえっ」

 

 隣で神子さんが噴き出した。

 

「この子は鏡だよ。君が好意を向ければ、きちんと返すはず」

「しかし……」

「なに渋ってるの? あんだけかわい――」

「わかりましたから」

 

 もう神子さんが名前を言ってしまったが、改めて彼女は名乗った。

 

「……蘇我屠自古だ。ここは貴重なものが多い、あまり勝手にうろつかないように」

 

 彼女の手はどうもふわふわして雲を掴む様だった。神子さんが「素直じゃないなあ」と笑った。




屠自古は刀自古郎女とは別人という公式声明があった気がしますが、それはそれとしてとじ→みこだったら私が嬉しいのでそうします。
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