「魔法……少女?」
「うん、名前の示す通り、今の私みたいな状況だよ。」
得体のしれない化け物をバラバラにして見せた短剣使いの少女―
碧さんは、白色の謎の生物の言葉を解説してくれた。
「んー、魔法少女って……要はプ〇キ〇アみたいな奴の事?
女の子が魔法のアイテムで変身して、今の恐ろしい怪物と戦う……って感じの。」
「ちょっと違うけど、まぁ似てはいるよ。
このキュゥべぇは、さっきみたいな恐ろしい魔女を私たち魔法少女に退治して貰う代わりに、何でも願い事を叶えてくれるんだって。」
矢満田さんの例えを肯定しつつ、碧さんは白い生物……キュゥべぇのことを指差しながら微笑んで言った。
何でも願い事……非科学的だし、信じたくないけど目の前にいるどう見てもぬいぐるみとかCGには見えないモノ。
それを見ると、どうしたって信じないわけにはいかない。
「願い事って、何でもいいんですか?
ギャルのパンツくださいとか、遊園地で無料遊び放題とか……」
「そうだよ。キュゥべぇが言うからには、望まれたことは大概叶えるんだってさ。
億万長者とか、満漢全席とか、酒池肉林とか、恋愛成就とか、後はその他モロモロなんでもアリ。」
「わーお、如月如月!なら私の長年の願い事が叶うかもしれないよ!
やったね如月!家族が増えるよ!」
……何を言っているのかさっぱりわからないけど、このキュゥべぇって言うのはどんな願いでも叶えてくれるみたいだ。
そうすると、私たちは魔法少女になってキュゥべぇのために戦って、魔女……さっきのみたいなのと戦うんだろう。
どんな願い事でも……と言われると、色々考えられる。考えるだけならタダだしね。
「まぁ、キュゥべぇに頼まれたからって無理に魔法少女になることはないよ。
鬼ヶ山市の平和は私が守ってるんだし、命を賭して戦うことは必要な事じゃないから。」
「はぇ~、そうなんですか……
じゃあ、どうしても叶いたい願いがある時、って言うのが大切なんですね。」
「そーそー、そう言うこと。」
矢満田さんが願い事を言おうとしたところで碧さんは手を出して待ったをかけてくる。
……なんでさ、とは思ったけれどもここは黙っておこう。
「じゃあ、碧さんにはどうしても叶いたい願い事があったんですね。」
「そーそー、教えられないけども。」
願い事を教えるのは魔法少女界でのタブーなのか、それとも彼女自身が言いたくないだけなのか。
まぁどっちでもいいけれど、碧さんは私たちが魔法少女になることは望んでいないみたいだ。
……元々なる気もないけどね、だってあんな風に戦える気がしないし。
「碧はそう言っているけれども、僕は望まれたことは必ず叶えるよ。
だから契約をしたいとき、いつでも言うといいさ。
僕は必ず君たちの力になって、君たちの願い事と引き換えに魔法少女になるようにするだけさ。」
キュゥべぇはそう言うと碧さんの肩から私の肩に飛び移った―
けど、ちょっと驚いて私は反射的に避けた。
「あっ」
ズシャーッ、とキュゥべぇは派手に転んだ。
ごめんなさい、キュゥべぇ……ぶっちゃけちょっと見た目キモかったから……
とは口が裂けても言えないなぁ、怒らせたら怖いかもしれないし。
「避けなくてもいいじゃないか、少し顔に傷が出来ちゃったよ。」
「あはは、ごめんなさい……」
「……さ、もう魔女は倒せたし、二人ともちゃんと家に帰れるよ。
気を付けて帰るようにね。」
キュゥべぇの文句に謝っていると、碧さんは話の流れを変えたいとでも言わんばかりに手を叩いて私たちを帰そうとしてきた。
まぁ実際帰るつもりだったから、キュゥべぇとかと無駄話をして時間を浪費しなくて済みそうだけれどもね。
「あ、如月、本当に怪奇現象起きてたからジュース奢ってね」
「はてなんのことやら、拙者には微塵もわかりませぬぞ」
「おいコラ」
くっ……あんな風に命の危機にあっても、ジュースの賭けのことを覚えて素直に要求してくる矢満田さんめ……
精神の太さだけなら、多分鬼ヶ山市どころか日本で一番なんじゃなかろうか……
まぁ、結果的に凄い安いジュースで済んだからお財布にはダメージが少なくて済んだからいいか。
「さて、と……
如月、このことはクラスの皆にはナイショにしとこっか。」
「そうだね……そもそも話したって信じて貰えないだろうしさ。
魔法少女になりたい、って思った瞬間だって来ないだろうし……
忘れたっていいと思うよ。」
「そーだね……冷静に考えたら、私たち殺されかけたんだし……さ。」
矢満田さんがそう言ったところで、私たちの帰り道が分かれるところに来た。
そのまま何を話すこともなく、「じゃあね」「また明日」と一言だけ告げる。
こうして私たちは別々の帰路について、家に帰って―
寝た。
数日後。
あの恐ろしい怪物……こと魔女と言うのから襲われて、碧さんに助けられたのが嘘かのような日常が流れている。
流石に翌日はあんな光景を見た後なので寝不足に悩まされたけど、三日四日とするといつの間にか元の日常に戻れる。
いつも通りな授業内容、いつも通りなお弁当を食べる時間……
そんな風な日常で、私は何ともなく、ただただ流される時間の川に浮かぶ桃のようだった。
どんぶらこ、どんぶらこ……って、コレは違うか。
「んー、にしても魔法少女……かぁ……
忘れたくても、忘れられないし……どんな願い事も自由、かぁ……」
あの恐ろしい怪物との戦い、ガンマニアならああやって銃を向けて撃って戦ってみたいけど……
命懸けとなるとちょっと嫌だなぁ、と言う考えになるので、やっぱり魔法少女になりたいとは思えて来ないなぁ。
……って、忘れたっていいと思っていたはずなのに、何故かここ最近そのことばかり考えている。
少し前まで自分が男子だったとしても、今の自分自身は女の子だ。
だから、願い事を叶えて、モデルガンを敵に向かって撃つ魔法少女になるのもありなんじゃないのか、と言う自分がいた。
そんな一方で、命懸けの戦いは嫌だなぁ、出来れば日常を安心して過ごしたいなぁ。
魔法少女のことも忘れて、自分が男であったことももう忘れてしまいたいと思える自分もいる。
「―ぎ、―らぎ、ねえ、如月ってば。」
「え?あ、ぁ、あぁ、矢満田さん、何か用?」
「そうだよ、さっきからずっと呼んでたじゃん。」
私はいつの間にかボーッとしていたようで、考え事にふけって矢満田さんからの呼びかけを無視していたようだった。
いけないいけない、折角の女の子としての友達なんだし……友達の声を無視しちゃいけないよね。
「それで、なんの用?」
「うん、この学校ってさ、近くにるるぽーとがあるじゃん?」
「そうだね、色んなお店があって、何かを買うには事欠かないけど……
どうかしたの?」
「いやぁさぁ、アクセサリーショップが出来た、って言うから如月も一緒にどうかな?って。」
何故私を誘うのか……
矢満田さんはクラスの色んな子と仲がいいから、数日前の廃墟と言い私を誘う理由が謎だ。
尤も、矢満田さんは男子に関してはなるべく関わりがないように過ごしてるみたいだけど、女子で仲がいい子は多い。
なんでなんだろう……と思いつつも、私はフェードアウトしようとしている。
「別に、私を誘わなくたってよくないかなソレ……
欲しい物があるなら、普通に買えばいいと思うけど……」
「わかってないなー、如月。
こう言うのは友達と選んだりするから楽しいんだよ。
一人でただただ虚しく選ぶより、私は如月と一緒に選ぶのが楽しいんだって。」
矢満田さんはまた随分と変なことを言うなぁ……
私はモデルガンとか選ぶときは一人でじっくりと考えたい。
どんな銃を愛でるか、手入れをしたり、バラバラに分解するとき。
それは一人で行うからこその価値があると言うのに。
「まぁまぁ、一緒にいてくれるだけでいいって。
なんならその近くにあるクレープ屋のクレープ、私が奢ってあげるよ。
昨日のジュースは条件付きとは言えど、私が奢って貰っちゃったからさ。」
「よし行こう、仕方ないけど友達のためなら行ってあげようとも。
クレープをどうしても奢りたいと言うなら、仕方な~く奢られてあげよう。」
何度も言うけど、モデルガンを買うためにお金をためている私には甘いものを嗜む時間はない。
本来なら甘い物やらジュースは毎日欲しいくらいだけれど、モデルガンのためなら好きな物は捨てて見せる。
昔話にも、少年が夢を叶えるため、一年くらい好きな物を禁止して努力したと言う話がある。
なればこそ……人の施しは遠慮なしに全力で受け取るのが私の性なのデス。
それに、お爺さんとかは皆「若い時の施しってのは遠慮せず受け取るもんだよ」って言ってたしね。(個人の偏見だから皆は真に受けないでネ)
「んー……どれにしようかなぁ……」
るるぽーと、アクセサリーショップ。
選り取り見取りなアクセサリーが並んでいて、矢満田さんはすっかり夢中になっている。
私はアクセサリー等のオシャレなものに興味はあんまりないので、暇を持て余している所。
「あ、この間の……」
「あぁ、えっと、碧……さん?
この間は、本当にありがとうございました。」
「そんないいって、私のやることが魔女を倒すことなんだからさ。」
碧さんと偶然目が合ったので、この間のお礼を言って頭を下げる。
命を救われたと言うことだけは、あの現象が信じられなくてもわかっている。
なら、当然そのお礼で頭を下げるのは当然だろう。
「あ、如月如月、私はこれに―
って碧さん!碧さんもここが最近できたの知ってたんですか!?」
「あ、いや別の用件でここに来たら、偶然目に止まったら入ろうと思っただけだから……
別に私、アクセサリーとかそう言うのが似合うようなのじゃないし……」
矢満田さんがやや大きめな声で碧さんに話かけると碧さんは手を振ってあたふたとし出す。
……本当は、アクセサリーショップにこっそり行こうと思っても、自分の見た目をいいと思っていない彼女は知り合いに見られるのが嫌だったのかな。
まぁ……発言と慌てぶりからそんな風に見えたけど、実のところは全然わかんないしどうでもいいか。
「別の用件って、何かあったんですか?」
「いやぁ、そんな大したことじゃ―
……………わかった、すぐ行く。
是が非でも死人は出さないようにするから。」
「え?碧さん?」
「ごめんね二人とも……魔力の反応があったの。
多分、魔女。
だからちょっと待ってて!」
碧さんはそう言うと一目散に駆け出した!
走る速度が速いので私たちも慌てて追いかけていく。
いやだって、あの人鞄私たちに投げて走って行ったんだもん。
「はぁ……はぁ……あの人……走るの……速すぎでしょ……」
体力がないのか矢満田さんは少し……いやかなり遅れてるけど私はとにかく走って進む。
少しでも走って進めなかったら、追いつけないしこの鞄どこに届ければいいかわかんないし!
と言っても、またあの命懸けの戦いを見るのは……少しやだなぁ……
「あ、見えた……碧さんっ……」
そうこう考えながらも走っていると碧さんの姿が見えた。
魔女のいる所……?を探っているのか、走るのをやめたと思うとあちこち見回している。
私はその隙にもっと走って、碧さんとの距離を詰めた所で―
周りの景色が変わっていくのが見えた。
「ふぅ、あっさり侵入出来たけど……
一般人がいないといいなぁ……」
「結界が出来たのは少し前だ。
この魔女が生まれた時に巻き込まれた人さえいなければ魔女に襲われている一般人はいないよ。」
「そっか、なら―
…………あのさキュゥべぇ、私の目が悪いのかな?
なんか……思いっきり……一般人が……」
「彼女についてはただ今、君と一緒に入っただけだからね。
ほら、現に魔女に襲われたりはしていないだろう?」
「屁理屈だなぁ……」
碧さんはキュゥべぇと何か話していたと思うと、振り返って私を発見。
すると私を指しながらキュゥべぇと何か話していた。
……やっぱり、来るんじゃなかったかなぁ……
「なんでいるの?
私はさっき、ちょっと待っててって言ったのに……
魔女の結界内は凄い危ないのに……」
「いやでも……その……碧さん……
コレ、忘れてましたし……」
「あ、鞄……いつの間にか投げてたのね、ゴメン。」
碧さんはてへぺろっ、と舌を出しながら謝って来た。
……フィクションで見るならともかく、現実で見るといい物じゃないなぁ。
ぶっちゃけるとキモく見えてくる……
「……あからさまに引いた顔しなくていいから。
影で隠れててくれれば、キッチリ仕留めて終わらせるから。」
碧さんはそう言うと、私を連れて進み始めた。
魔女の手下……みたいな奴はなんだか動く気がないようで、少しずつゆっくりと歩いていた。
試しに近づいてみても、私には目もくれずだった。
「ここの使い魔、随分とやる気ないのねー……
まぁいいや、とっとと終わらせて、甘いものでも食べたいところ―だねッ!」
随分歩いたと思うと、一番奥に体育座りで鎮座している―
ように見えた猫のような化け物……の、魔女に向けて、碧さんは地面をバギィッ!と割る程の勢いで突進した。
とんでもない走行速度なので、多分誰だって見逃していると思う。
「せぇぇぇぁぁぁっ!」
碧さんが勢いをつけて放った短剣による斬撃。
それはいとも簡単に魔女の体へと吸い込まれて行った。
ザシュッ、と斬られた魔女は鎮座していた姿勢から起き上がり始めた―
けどもう遅い。
「ふっ!はっ!てりゃぁぁぁっ!」
車もビックリな速さで駆けまわる碧さんの短剣捌きにズバズバズバズバ……とどんどん斬られて行く。
猫っぽい見た目が故か、正直心が痛いような気もするけれど……
化け物だと思うとそこまで見ていて心は痛まないし、倒さないと人が傷つくと言う存在なら―
「いいぞー!もっとやれーっ!」
などと言ってしまった。
「じゃあお望みに応えて―
必殺!【ダッと行ってズバッ!】」
風のように駆けだした碧さんは、いつの間にか魔女の背後に立っていて―
魔女は真っ二つになり、そのまま崩れ、私たちがいる結界もいつの間にかなくなっていた。
そうすると、魔女のいた場所には……玉に針が刺さったような黒い何かが地面に刺さっていた。
「あの、碧さん、それって?」
「あぁ、コレね……
コレは魔女を倒すとその魔女が落としてくれる、私たちの魔力回復用アイテムだよ。
ほら、私が持ってる、この魔法少女の証である宝石……【ソウルジェム】。」
碧さんは右手の甲についている宝石を取り外すと、こっちに差し出して来た。
少し濁っていると言うか……なんか、煤のようなもので汚れている。
それも半分くらい汚れているので、なんだか汚らしく感じる。
「で、さっきの魔女が落としたアイテム……【グリーフシード】って言うのを使うと……」
碧さんはソウルジェム……と言っていた宝石に先ほどの魔女が落としたものを近づけた。
すると汚れていたソウルジェムが綺麗になっていき、反面グリーフシードと言う物は……更に汚れたような気がする。
「このグリーフシードに内包されてる魔力を使うと、ソウルジェムが綺麗になっていくの。
まぁ、一定数使うとグリーフシード内の魔力もなくなっていって、使えなくなっちゃうんだけどね。」
「それを回収するために、僕らは魔法少女の近くにいるんだ。」
キュゥべぇは碧さんの近くにトコトコ……と歩きながら碧さんの説明に補足した。
「あ、そうだ……キュゥべぇ、聞きたい事があるんだけどいいかな?」
私はどうしても聞いておきたいことがあったので、キュゥべぇを手招きすると、キュゥべぇはその場に座った。
「何だい?もしかして魔法少女になる決意でもしたのかい?」
「いやぁ、叶えられる願い事について知りたくて、そこら辺の説明をして欲しくて。
ほら、いつ契約するときが来るかわからないから、その時の願い事のルールとか知れたら便利かなって。」
「あぁ、魔法少女についての説明なら、それくらいお安い御よ―」
キュゥべぇがそう言い終わる前に、彼―彼女?
の肉体はグチャリ、と潰れた。
「えっ」
「きゅ、キュゥ……べぇ?」
思わず固まった私と碧さん、そして、キュゥべぇを潰した……と言うか、どこからか飛び降りてきて踏み潰した張本人。
恐らく碧さんと同じ魔法少女……と思われる彼女は辺りをキョロキョロと見回し始めた。
「……おかしいわね、さっきまで魔女の気配がしたのだけれど―
もしかして先を越されたかしら?」
「あぁ、悪いけど魔女は私が討ち取ったところだよ。
あ、良かったら―」
「まぁ……間に合わなかったのなら仕方ないわ。
その勲章は貴方の物だから、私のことは気にしないでいい。」
黒いコートを傍目かせ、腰には一振りの剣を持つ魔法少女は、目を少し瞑ったかと思うと変身を解除した。
……またもやウチの学校の制服だった。
「あぁ、自己紹介しておいた方がいいかな。
私の名前は黒田 有栖、貴方と同じ、魔法少女よ。」
「私は碧、こっちは魔法少女になるかならないかで迷っている如月さん。」
「そう、よろしく碧、如月。」
……いくつなのかは知らないけど、いきなりタメ口って言うのはちょっと引っかかるなぁ。
少なくとも同級生には見えないし、もしかしたら碧さんと同じ学年かな―
と思って碧さんに視線をやるけど、彼女も同じことを考えていたようで私に視線を向けて来た。
「因みに聞いとくけど、いくつ?」
「十二歳、まだ誕生日が来てないだけの中一。」
「「年下じゃん!」」
「あぁ、そうだったの……ごめんなさい。
これで許していただける?」
黒田有栖……結構不思議な子だなぁ。