戌亥「…」
カトリーナ「…クソッ!」
壁を殴ろうとする手をバーガンディが抑える。
バーガンディ「お気持ちは分かります。でも、怒りに震える時間は無いようですね。」
カトリーナ「何?」
バーガンディ「情報収集の過程で、すでに皇女殿下の目撃情報も出ています。しかし…」
戌亥「貯めんでええわ。はよ言い。」
バーガンディ「はい。何か、様子が変であったという情報があります。もしかしたら…」
カトリーナ「…まさか。」
戌亥「今度は勇者その人を狙いに来たか。」
バーガンディ「今彼女は旧王室の方へ向かってる様です。…行くなら、急いで。」
カトリーナ「…」
戌亥「考え事の暇はないで。さっさと行くよ。」
カトリーナ「…うん。」
…深い。ここは、何処だろう。
???「ようやく、気づいたのね。」
リゼ「…!」
???「ふふふ…やはり、声だけで気づかれてしまうものね。」
リゼ「…姉様。」
ロゼ「会えて嬉しいわ。愛おしいわたしの妹。もうこんなに立派になって。」
リゼ「でも…姉様は…」
ロゼ「…知ってしまったのね。貴方には、あのことは知って欲しくなかったのだけれど。」
リゼ「姉様は…その…」
ロゼ「ええ。私は謀殺されたわ。シフ帝国の王子に。」
リゼ「…」
ロゼ「ごめんなさいね。貴方達を置き去りにして。そして…」
リゼ「そして?」
ロゼ「貴方の身体を復讐に利用しちゃって。」
えっ。
目の前が暗くなってゆく。
まって。姉様。まって。
私は、貴方に…
なんて素敵なことなんでしょう。
こうして地に足を付けられること。
そして、私に復讐のチャンスが与えられたこと。
確かに、彼のおかげで王家はほぼ権力を失った。王子も処刑された。けど、まだ彼に加担した人は生き残っている。のうのうと生きている。
それだけで。
人殺しの理由として素敵じゃなくって?
彼女はバーガンディの言う通り確かに旧王室へと歩いてきた。
カトリーナ「リゼ。」
リゼ「あら。その綺麗な赤髪。アンジュちゃんじゃない。」
カトリーナ「!?」
リゼ「あらら。ちょっとお口が滑っちゃったわね。リゼのフリをして不意打ちでもしようと思ったのに。」
カトリーナ「ロゼ…なの?」
ロゼ「ご名答。あの子は私の中で眠ってもらってるわ。つまり、この身体は今は私のモノなの。」
戌亥「憑依しただけで自分のモノって言い張るあたり器の小ささを露呈させているように見えるけど.... 違うか?」
ロゼ「あら...はじめましてかしら?亜人さん。 あなた、知ったような口を利くけど、何者であって?」
戌亥「詳しいことは言えないけど...踏んだ場数が違うということは確かやな。 んじゃ...さっさとあんたを引き剥がさせてもらう!」
戌亥が抜刀して飛び込んだ。
しかし。
突如地面から飛び出してきた茨に阻まれる。
戌亥「面倒!」
カトリーナ「戌亥!」
カバーをするために私も間合いを詰める。
しかし、無数の茨に阻まれ、私達は二分された。
ロゼ「私は、復讐がしたいの。貴方たちなら分かるでしょう?」
カトリーナ「ええ。あなたが受けた侮辱。あなたが受けた仕打ち。その全てを見てきた。 そして、救えなかった。」
戌亥「復讐をするなら勝手にしいや。だけど、リゼはんの心を蝕むような所業。見逃すわけには行かない。」
カトリーナ「私には今ロゼまで届く腕と力がある! それを以って、あなたを救う!」
カトリーナ「賢者の鍵!」
戌亥「獄炎剣!」
茨を黒い炎と凍てつく氷が襲う。
カトリーナ「行くよ!」
戌亥「了解!」
戌亥が間合いを詰め、私が後ろから氷針で射撃する。
しかし、茨が全てを邪魔する。
しかし、これはただの距離調整に過ぎない。
カトリーナ「戌亥! 下がって!」
ソシエとともに、あなたに手を伸ばす!
賢者の鍵に貼られた赤い付箋。 そのページを開き、叫ぶ。
カトリーナ「メラガイア!」
目線の先が一瞬歪み、その刹那。
大爆炎は立ち上がる。
その炎は茨を焼き尽くす。
炎が尽き、煙に消えたと同時にその煙を飛び出し彼女のもとへ走る影が2つ。
戌亥と私が同時に切り込む。
しかし。
無数の茨に蝕まれたロゼの腕に握られた蒼い剣がそれを受け止めた。
カトリーナ「!?」
戌亥「精神汚染だけではないのか。 事は急を要するな。」
ロゼ「この子、やっぱりかわいいわ。 この鍛錬の跡。 あなた達に追いつきたくて必死だったのかしら。 まぁ、その劣等感が生み出す隙間が私がこの子に取り憑く鍵になってしまったようだけど。」
二人の剣をいともかんたんに振り払う。
戌亥「...」
ロゼ「心当たりアリのようね? あなた達の強さ。それとは裏腹な対等な関係。それがあの子の歪んだ迷いを生み出していた。」
カトリーナ「.....」
ロゼ「アンちゃんの悪い癖よ? 他人にできないことを平気で自分だけで完結させて。その上で他人を助ける。 強い者にはお約束な事でしょう?でも、それによって苦しむ相手がいる。 ニュイちゃんもそうでしょう? あの子とぶつかって学んだはずよ。それなのに...」
戌亥「ヒトっていうのはそれを乗り越えてこそ成長するもんじゃないの? 劣等感っていうのは自分がどう成長したいかの指標だ。 それをマイナスな思考と断じるのは早計だとは思うけど。」
ロゼ「...そうね。 そうよ。だからこそあなたたちは彼女の迷いを導くべきだったのではなくて? この子は自分の進みたいモノを望みすぎた。一人で抱え込んでいた。この結果がこれではなくて?」
カトリーナ「その通り。 私はリゼを守りすぎた。貴方の忘形見を貴方のように失いたくなくて。 でも、それは違う。 リゼはリゼだ。 忘形見だからじゃない。友達だから救うんだ。 だから、何者にも。貴方にもリゼを奪わせない!」
心做しか、自分のチカラが溢れてくる気がした。
ロゼの元へと駆ける。
もう迷いはない。
賢者の鍵を投げ捨て、剣だけの単純な勝負。
ここからが、意地の張り合い。
真っ直ぐに切り込む。
が、またも蒼い剣に阻まれる。
何度切りかかっても、彼女には届かない。
どうやって....
ロゼ「無駄よ。 その程度のチカラで私を超えられると思うわけ? 私が受けた仕打ち。それを受けた私の憎悪がどれだけのものか。 予想もできないの?」
カトリーナ「だからって、諦める理由になんかならない!」
溢れる力を全ての斬撃に込める。
今出せる全てを彼女に向ける。
ロゼ「...それが...うるさいんだよ!」
下からの切り上げで剣ごと弾き飛ばされる。
ぼやける視界に映ったのはリゼのヘルエスタセイバーを持ったスーツ姿のチャイカさんだった。
チャイカ「お友達いじめて楽しいかい?」
ロゼ「…もう。立派になって。」
チャイカ「あんたに言われたくはないね。姉ちゃん。あんた28の皮を被った14歳みたいなもんだろ?11個下に立派になったとか言われたくはないかな。」
ロゼ「ふふ。変わらないわね…本当。」
チャイカ「まぁ…なんだ。妹の体、返してもらうよ。」
ロゼ「私には私の目的がある。チャイちゃんだって容赦しないよ。」
チャイカ「知らないね。 立ちな、アンジュ。 一人で届かなくても、二人なら届くはずだろう?」
カトリーナ「...はい!」
戌亥「…なら、こいつも持ってけ!」
戌亥のヘルエスタセイバーが投擲され、眼前に突き刺さる。
それを引き抜く。
…あ。
何か膨大な記憶が流れ込んでくる。 これは…戌亥?
魂が繋がったような特異な感覚。
それを乗り越え、歌吹の剣を確かに握る。
カトリーナ「行くよ、戌亥。」
姉ちゃんと我が妹を救うにはまずこの剣の間合いに入れなければならない。
あの茨。邪魔だな。
ロゼ「この数の茨。避けきれないでしょう。いまなら、逃げても許しましょう。」
チャイカ「逃げるだって?そんなことするわけないじゃん。」
彼女の元へと駆ける。
青薔薇を纏った茨が大量に襲いかかってくる。
しかし、次の瞬間それらはカラフルな花びらに変わった。
チャイカ「私の異名は花畑よ!」
カトリーナ「空間置換! これなら...行ける!」
土地との鎖が絶たれ、彼女の憎悪がほんの少し弱まったその時。
私達の手は確かに届く。
カトリーナ「勅令。此処に或るは生命の証。龍王の神髄を知れ!」
チャイカ「勅令。此処に或るは繁栄の証。人王の真髄を知れ!」
「「「嗚呼。愛しい人よ。」」」
「「 ヘルエスタセイバァァァァァァア! 」」
剣が、心を斬った。
彼女は、復讐を忘却するほどの人の温かさを思い出した。
私のために、泣いてくれた人がいた。
私のために、怒る人がいた。
そして、次の私を産まないように、行動する人もいた。
ありがとう。怒る人。
あなたのおかげで私は救われ………
見知らぬ天井。
心地よい花の香り。
ここは何処だろう。
チャイカ「あら、起きたのね。」
リゼ「チャイカさん!?」
チャイカ「貴方、色々大変だったわね…でも、1人で気負う事無かったのよ?」
リゼ「あ…」
チャイカ「色々と思う節アリのようね。まぁ、時には人を頼りなさいよ。貴方、いいお友達いるじゃない。」
リゼ「…そうですよね。でも、私はまだ…」
チャイカ「そういった所よ。自分は彼女たちを頼れるほど彼女たちに何かしたかって悩んでる。そんなことどうでもいいのよ。貴方は貴方であるだけでいいの。悩めばいいし、頼ってもいい。その結果できたことで彼女たちに恩返しすればいい。」
リゼ「…」
チャイカ「……泣きたいなら泣きなさいよ。」
リゼ「!?」
チャイカ「さっきも言ったでしょ。あなたは気負い過ぎよ。その涙にしたって。自分のせいだってすぐ思い込む。その結果色々溜め込んじゃう。だったら、悪いものは吐き出しちゃいなさいよ。」
懐かしい声に、朧気な記憶。
何故か涙が込み上げてくる。
そんな覚え…ないはずなのに…
リゼ「ーーーーーーッ!」
チャイカ「こんな事、子供にさせちゃいけなかったはずなのにね…」
戌亥「私の出る幕でもなかったようだね。」
カトリーナ「いや、そうでもなかったよ。」
戌亥「?」
カトリーナ「確かな強さの指標。戌亥がいたお陰で自分が進みたい道が、立ち上がる理由が見えた気がして。 だから...本当にありがとう。」
戌亥「そう言われると、これまでの経験が無駄じゃなかったみたいで嬉しいけどね。」
カトリーナ「歌吹の剣を握った時のあの感覚。 ヘルエスタセイバーにはまだ隠された能力があるのか…?」