戌亥「... そういえば。 明日から試験開始だけどもう受付は済ませたんか?」
奈羅花「誕生日のその日に済ませてありますよ。」
戌亥「そういうとこは抜かりないな。 試験期間中に一回でも受けに行って合格すればそれでいいらしいが... 早速明日行って取ってくるんか?」
奈羅花「勿論です。 猶予はすべて有効活用しないと。」
戌亥「やっぱお前さんは慢心とは程遠いのかもしれないな。 姉として嬉しいよ。」
奈羅花「油断ほど刃を鈍らせるものはありませんから。」
フレン「奈羅花ちゃんももう立派な剣士になっちゃうんだね...」
尊「それもお前の尽力の賜物というやつではないのか? 何故そこまで不安そうな声を出す?」
フレン「いやぁ... 奈羅花ちゃんは最初からなりたい自分が定まってる子だったから私はその手を引いただけに過ぎないんだよね... あとは勉強教えたくらいで。」
尊「そこがすごいと言っておるのじゃ。 お前以外の者だったら手を引きすぎたり、かえって才能を潰すこともありえただろう。 その点、自然体でここまで育てきったのはかなりのモノじゃろう。」
フレン「へへへ... ありがとうあねさ... Zzzzz」
尊「こやつ話の最中で寝てしもうた。 妾も寝るか...」
厨房長「...今夜は泊まってくか。 戌亥ちゃーん、ちょっと外で煙草吸ってくるわー。」
戌亥「おう。」
奈羅花「ほら。 バン、ケン、阿、吽。 朝ごはんだよ。」
奈羅花「にしても... こんな状態になった師匠方を置き去りにして試験に行っていいのだろうか。」
厨房長「気になさんな。 これらは私がなんとかする。 それより試験行くならはよしな。 こいつらに寝起き一番のサプライズをお見舞いするのも兼ねてサ。」
奈羅花「... ありがとうございます。 行ってきます。」
家から徒歩で10分ほど。
姉や先生と共に時折来ていた警備隊の本部だ。
受付「奈羅花さんですね。 受験なさるのであればこちらに。」
奈羅花「いつもありがとうございます。」
通されたのはたまに借りていた練習場。 すでに先客がいたようだが...
試験官「甘い。 僕に一本も取れないなら此処に入る資格はないよ。」
その一言で試験内容を理解した。 試験官から一本取る。中々に厳しい試験だ。
試験官「よっと...受付さん、次の人来た? ってもう来てるのか。呼符使うまでもないね。」
奈羅花「ここが...試験会場なんですか?」
試験官「そのとおり。 シンプルでいいでしょう? さっき見たとおり試験内容は僕に一本当てるだけ。 早速やるかい?」
奈羅花「勿論で...?」
肩を小突かれる。
受付「(間違っても峰打ちで気絶させたりしないでくださいよ? あとが詰まるので。)」
奈羅花「(分かってます。 一回当てるだけですから。)」
試験官「準備、できたかな?」
奈羅花「ええ。」
受付「それでは... 開始!」
奈羅花「行くよ。 "火桜"!」
腰に差した桜柄の鞘から刀を引き抜き試験官のもとへ駆ける。
試験官も真剣を引き抜きこちらへ構える。
そのまま斬り込む... 素振りを少しした後奴の刀を蹴り上げる。
手を離れ中を舞う刀をジャンプし、自らの刀で遠くへ弾く。
試験官「まずは武器を奪うか。 被害を最小限にするその動き!流石防衛課長の妹さんだ!」
奈羅花「みっちり叩きこまれたものでね!」
そのまま奴の後ろに着地し、背中合わせで奴の首に峰を向けた刀を据え、当てる。
試験官「お見事。」
受付「おめでとうございます!」
試験官「やっぱり防衛課長仕込みの剣には勝てないか。 マジでやっても僕が負けるだろうね。」
奈羅花「姉さんだけに教わってここまでの剣は振るえませんよ。 尊の姐さんやフレン先生にもたくさんお世話になって、今の自分があるんですから。」
試験官「中々に豪華でらっしゃって... まあいい。記念すべき今季1番目の合格者だ。胸張りなよ。」
受付「正式な手続きがございますので... こちらに。」
奈羅花「了解です。」
奈羅花「疲れた...」
こんなに書類を書かされたのは初めてだ。
...でも。 これで晴れて姉さんたちと肩を並べられる資格が手に入ったんだ。
姉さんは確かについてこいと言った。 しがらみは全て解けた。あとは追いつくまで走るだけなんだ。
今は...まだ夢を掴む腕を手に入れただけなんだから。
奈羅花「ただいま...」
戌亥「おかえり。 試験、どうだった?」
奈羅花「無事合格できたよ。 ほら、1番目。」
戌亥「すごいね。 今季から試験をかなり厳しめにしたって聞いたけど... 実技試験、大丈夫だったんか?」
奈羅花「大丈夫だったよ。 試験よりかはその後に書かされた書類のほうが大変だったけど。」
戌亥「お前らしいな。 ...ちょっと手伝ってくれんか。 昼飯、今日は多めに作らなきゃなんでな。」
奈羅花「先生方... まだ寝てるんですね。」
戌亥「いい加減起こしてやったら?」
奈羅花「そうですね。 阿!吽! 軽く噛み付いてあげて。」
尊「...おはよう。」
フレン「いてて... おはようございます。」
奈羅花「先生方が寝てる間に私もう試験受けてきちゃいましたよ?」
フレン「え!? 結果は!?」
奈羅花「合格しましたよ。」
フレン「よかった... これで肩の荷が下りるよ。」
尊「いや。 また別の肩の荷が降りかかるかもじゃな?」
フレン「え? なんですか!?」
尊「お前さんが奈羅花に追い抜かれる日も近いってことじゃ。 若い頃のあんたが次々と追い抜かしていったように。」
フレン「若い頃って... まだ若いんですが。」
奈羅花「でも、姉さんに追いつくには先生を追い抜かす必要も出てくるかもですよ?」
フレン「奈羅花ちゃんまで! ...私も、もっと精進しなきゃね。」