夕日が煌々と2人を照らす。
奴が踏み出した。
それと同時に私も踏み出す。
剣の腕には自信がある。が、剣を握ること自体が久しい。あのケガもある。前ほどの動きができるとは思えないが…獲物を把握する程度、先の戦いで十分だ。
奴の剣は動きは遅いが一撃一撃が重い。それに、剣が妙な加速をする。 この剣、見覚えがある。行方不明になってるアイツの剣に似ている。アイツも弟子を取ってたと聞いたが…まさか?
しかし。これじゃ埒があかない。避けてばかりじゃやはりダメか。しかし、切り返すにも隙が無さすぎる。隙を作ることが出来れば…
やはり、力を借りるしかないようだ。
そう思った刹那、剣が少し光ったように見えた。
次の瞬間、私は見慣れた紅葉の森に居た。
???「まさか、あんさんが次の担い手とはな。」
戌亥「久しぶりですね。獄王様。」
獄王「そう畏まらんでもええわ。俺は今いる本物の獄王でもないからな。ただの影法師よ。」
戌亥「というと…?」
獄王「今ここにいる私は私の人格を持ったこの剣の説明書のようなもんに過ぎない。故に、あんさんにこの剣の役割を説明する。この剣は歌吹の剣。文化、文明を司る剣だ。この剣は存在するだけで魔力を発生してそれを溜め込む。それだけじゃただのキケンな武器だ。悪用されかねない。そこで、私ら3人の勇者でリミッターをかけた。友を、街を、想う心。思いやりの心をリミッター解除のトリガーとした。だから、その心を込めれば件の真の力を発揮できる。伝えるべきことは以上だ。」
戌亥「面倒なことをしたもんですね、獄王様。」
獄王「私もそう思ったさ。でも、アイツらとの友情ごっこも面白いもんだった。お前も、友達、大切にしろよ?んじゃ、無駄話も終わった終わった。さっさと行きなよ?やるべき事あんだろ?」
戌亥「ええ。ありがとうございます。」
戌亥「目覚めよ、歌吹の剣!」
煌めく風が吹く。
紅葉が舞い上がる。
???「貴方も…それを…」
戌亥「勅令。此処に或るは文明の証。獄王の真髄を知れ!」
煌めく風を纏い、奴を間合いに入れるべく突進する。
やつを間合いに捉え、全身全霊の連撃。
その一瞬でできる全てを載せた斬撃。
風が。剣が奴を捉え幾度も切り裂く。
怒涛の6連撃。その最後の一撃に全てを賭けて。
戌亥「ヘルエスタ セイバーァァァァァァ!」
舞い上がった紅葉が降り注ぐ。
穿つ剣から光の環が広がり、心の鎖を断ち切る。
きらめく夕日が2人を照らす。
???「なんでですか…なんでですか…! 何故、守ることごときにそんな全霊を掛けられるのですか!」
戌亥「答えは簡単だよ。英雄クン。私は、この街を、愛してる。そして、この街を愛する友も愛してるのサ。」
???「そんな…ことで…」
戌亥「君にはわかると思ったんだけどね。彼女の弟子なんでしょ、君。」
???「!?」
戌亥「さっきの剣、彼女の剣そっくりだ。もしかして…君がこの前言っていた教会に奪われた大切な人ってもしや…」
???「盲点でした。こんな早くにボロが出るなんて。」
戌亥「君の執妄は、確かに斬った。話す気があるなら、大人しく捕まってもらうとしようか。」
???「ええ…地獄の門番を前にしたら僕の復讐なんてこんなちっぽけなものだったんだ。」