ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(下巻) 作:Edward
シレジアを奪回し最後の砦リューベックを落としたシレジアは歓声にわいた。
フリージ軍はオアシスの町ファノーラまで撤退する事になり、フリージ本国への援軍要請をするも返ってきた答えはそのまま撤退せよ、だった。
年々激しさを増すトラキア半島の反乱にブルームは苦戦を強いられ、シレジアに割いていた軍勢を必要となっていた。
イシュトーを討たれ、イシュタルはユリウスと共にバーハラに滞在しており戦線には出せない・・・。ブルームはイシュタルをトラキア半島に呼びたいが、妻のヒルダが許さなかった。
シレジアを奪還されたが、事なきを得ているのはイシュタルの貢献であるなら口を出すわけにはいかない。
それに懸念材料は反乱軍だけではない、トラキア軍の動向がなにより気になった。トラバントは狡猾な男だ・・・、シレジアに軍を追加で送る知れば侵攻始めるかも知れない。
「イシュトー、お前が討たれるとは・・・。」ブルームは嘆く。
シレジア城の最上階で祈りを捧げるクラリス、父はここで毎日祈りを捧げていたと母から聞き、シレジアを奪還してから毎日のように祈りを捧げていた。
雪解けのシレジアとてまだ寒い風を受けクラリスは祈る。敵味方関係なく命を落とした者へ、そして今を生きる者へ・・・。
「・・・クロード司祭のようだな。」祈りを捧げるクラリスの横に歩むレヴィンが驚かない程度の声量で声をかける、その隣には一人の少女が佇んでいた。銀の髪をなびかせる彼女はまるで春の祝福に訪れた妖精のように、儚げな瞳が印象的であった。視線が合うと彼女は笑顔と軽い会釈をする。
「その方は?」
「・・・ああ、旅をしている時に出会った子でな。記憶を無くしているので保護している。」
「お記憶を・・・?それはまた、大変なことがありましたね。」クラリスは自分より幾分か年下に感じる少女の手を取って笑いかける。
「クラリスと言います、お名前は覚えていらっしゃいますか?」
「ユリアです・・・。クラリス様はこちらで何をしていたのですか?」
「この方の父は偉大な司祭様の一人娘でな、お父上もよくここでみんなの為に祈りを捧げていたのだよ。」レヴィンがクラリスに変わって代弁する。
「皆様の為に・・・。クラリス様、私も一緒にお祈りしていいですか?」
「ええ、・・・と言いたい所ですが、レヴィン様がお困りの様子ですね。」レヴィンはクラリスに読み取られて苦笑する。
「すまない、実は彼女の顔見せにここに来たわけではないんだ。これから俺はティルナノグに行かねばならん。
内乱の激しかったので城下町のある方に保護してもらっていたんだが、さすがにいつまでも預かってもらうわけにはいかぬしな。今回は連れて行くことにしたんだ。」
「そうなんですか・・・、残念です。
ユリア様、きっとまた何処かでお会いしましょう。」
クラリスの笑みにユリアもまた、顔の表情が明るくなり差し出した手を握り返した。
「ではクラリス、私達はこれで失礼する。・・・アミッドの事、頼んだぞ。」自分の子供を託すかのように話すレヴィンの目は穏やかであった、クラリスはそっと笑い。
「わかりました、道中お気をつけて。」と返すのであった。
シレジアの階下では、違う別れをする者がいた・・・。
アミッドはその二人に厳しい目を向けているが、妹のリンダはその別れを惜しむ。
二人ともフードのローブを羽織り、顔を表に出さぬようにしている。
「・・・もはや何も言うことはない、行け。」
「もう、兄さん・・・。
クラリス様があなた達を信じると仰いました、私達はそのクラリス様を信じています。
・・・そして私達はこれからお二人の仕事を信じます。」
リンダの言葉にイシュトーの口許が軽く緩んだ。
「ありがとう、今はそれで充分だ。
俺たちは祖国の為にもう戦えない・・・、だが反戦もしたくない。
見合う仕事を与えてくれた君たちには感謝する。」
「私は、イシュトー様の命を助けてくれたあなた達に感謝します。
これからも、私はイシュトー様の意思と共に歩みます。」
二人の言葉にリンダは笑顔を向けた。
「私も、自分の親戚と戦う事にならず安心しました。
・・・内偵は危険な任務です、くれぐれもお気をつけて・・・。」
「ティニーとセティの事、頼んだぞ。」
「ああ・・・。命を救ってくれた恩を忘れる事はない。
・・・・・・一つだけ、気になる事があるならば、・・・イシュタル。
我が姉を悪魔から救ってくれ・・・、もう自分の力では抗えないくらい魅入られている。・・・残念だが俺の力ではどうしようもない・・・。」
「・・・正直、今の俺ではユリウスはおろか、イシュタルにも届かないだろう。・・・だが必ず彼らに追いつき、いつかその約束を果たそう。」
外の事情はレヴィンの情報のみでは心許ない思っていた二人は内偵の道を命じた、夫婦として行商を装えば怪しまれる事はないだろう。
二人を見送った兄弟は少し顔を綻ばせた。
2人の後ろ姿を見送りながらリンダは兄に問いかける。
「これで良かったのでしょうか?」
「クラリスの言う通り、信じなければ始まらないだろう。
俺たちはもう立ち止まる事はできない、信じて進もう。」
リンダに不安にアミッドはそう返す、そして外套を翻して城内に戻る。
その瞬間2人の翻しにひとりの少女とすれ違った。
この刹那のすれ違いもまた運命であろうか・・・、それともレヴィンの考えの元でのことなのか・・・。
リンダとアミッドは一瞬、少女に意識がいくが声をかけることはなく、出会いとならなかった・・・。
「シレジアは当面の危機が去った・・・。
皆はどうしたい?このままシレジアにとどまるも良しであるが、俺は打って出たい。」アミッドは翌日、シレジアの会議室で主力なメンバーを揃え、会議を行う。
「・・・はいっ!はいっ!
私は、セリス様に会いにイザークに行きたいっ!」フィーは元気よく挙手をするとイザークを提案する。
「・・・レヴィンの話によるとセリス様も挙兵間近らしい。
行ってやるといい、他にも行きたい人はいるか?」
「フィーだけで行くのは危ないだろうから私も行こう。」レティーナもイザーク行きを決める。
「ディーナはどうする、この二人のお守りは?」アミッドの言葉に二人は避難の声を浴びせるがアミッドもディーナも涼しい顔で無視を決め込んだ。
「・・・私は、そうですね。
アミッド様の向かう先を聞いてからにしましょう。」悪戯に笑うディーナの言葉にアミッドは小さく舌打ちをする。
「アミッド、お前はイザークに行かないのか?
お前ならてっきりセリス様に会いに行くと思っていたが・・・。」
「・・・俺は、俺のできる事をする。
その道中でセリスと出会い、共に進むべき道と感じた時に同行しよう。」
「だから、何処に行くんだよ。」レティーナの苛立ちにアミッドは再び舌打ちをする。
「・・・ダーナだ。
イード砂漠にあるロプト教団の根城を潰していく。」アミッドの言葉に一堂は立ち上がる。
「なんだって!お前正気か!!」
「・・・今まで散々シレジアで好き勝手暴れていたんだ。
次は俺が奴らの根城を潰してやる。」アミッドの顔は酷く歪んでいた。
何年も教団と戦い、酷い目にあった教団を追い詰めるチャンスと見たのだ。
「そうではないだろう!今は、シレジア以外で苦戦しているセリス様やリーフ様を救う時ではないのか!!」レティーナの怒号が飛んだ、それはここにいる者達の意見でもある。
それに魔窟と化したイード砂漠で教団を狩る、それは余程の狂人でなければ考えない・・・。
「・・・それは、お前達でもできる事だ。
さっきも言ったが俺にしかできない事をしなければ、セリスもリーフもその先にある闇に苦しむだろう。俺もあいつらも、合流するまでに力尽きたならそこまでの男であっただけの事・・・。」アミッドの言葉はそこで止まり、瞼を閉じる。
こうなってはアミッドは意見を曲げることはない・・・、レティーナは頭をガリガリと掻きながら机に突っ伏した。
「ならばアミッド様、私も同行しましょう。」クラリスの言葉にレティーナはおろかフィーも驚く。
「わ、私も行きます!」リンダも手を挙げる。
「魔法の手練ればかりではバランスが悪いでしょう、・・・私も同行します。」ディーナは嫌な予感が当たり、名乗りでる。
「アーサー、お前はどうする?」アミッドの言葉に静かに聞いていたアーサーに視線が集まる。
「できればティニーを探す旅に出たいのですが、イシュトー殿の言う通りならば戦いに身を置かねばなりませんね。
・・・フィー達と共にイザークは行きましょう、セリス様と共にすればティニーに会えるかもしれません。」
「それは助かります。二人とも、アーサーの言う事をよく聞くのですよ。」ディーナの言葉に二人は頬を膨らませた。
「まとまったな。
明日はリューベックに移動、装備を整えたら出発する。」一堂は無言で頷き、解散となる。
アミッドの退室していく者達を送りながら、一人になったタイミングで懐から取り出した乾パンと瓶を取り出して採り損ねた昼ご飯を取り出す。
一欠片口に含み、長く咀嚼して瓶の水を流し込む。
シレジア奪回前から癖になった少ない食事での腹の満たし方を続けており、はっと気付いて苦笑する。
「・・・アミッド様。」一人と思っていたアミッドは驚き、喉を詰めてしまい再び瓶の水を飲み干した。
「クラリス・・・、いつの間に・・・。」咳き込んでつらいアミッドの背中をそっとさすりながら謝罪を口にする。
「いや、俺が悪かった。・・・それよりどうした?」
「これ・・・、レヴィン様から。」控えめに差し出されたサークレットにアミッドは眉をひそめた。
「数年前にレヴィン様から渡した時は拒絶したとお聞きしました。
・・・今も同じですか?」レヴィンは受け取りを拒否してからクラリスに渡していたのだろう・・・。
「・・・俺にとって親父は、責務を果たした男ではない。
家庭を顧みず、シレジアの反逆者となり、戦いにも負けた男だ。
そんな男の意思など俺には関係ない。
俺は俺の意思で戦う、だから親父は邪魔なんだ。」アミッドの手は硬く握りしめ、俯く・・・。
「アミッド様・・・。
レヴィン様はもう一つ、私に託された物があります。」クラリスは裾から古い杖を取り出す。
「!それは、まさか・・・。」
「はい、ヴァルキリーの杖です。父が苦悩し、父なりに運命を受け止いれ、最後まで抗った杖・・・。
私は父が遺した想いを継ぎたい。父が母の運命を変え、私がこの地に生まれ、育んできたこの命で父が見たかったその先を見てあげたい。
・・・アミッド様、私の想いと共感してくれませんか?」クラリスの目にアミッドは視線を逸らした。
「・・・よしてくれ、俺はお前ほど素直ではないんだ。」アミッドの拒絶にクラリスはサークレットを胸に抱き、俯く・・・。
(レヴィン様・・・。私も、アミッド様の奥深くに宿る憤怒を拭う事はできません・・・。)彼女は静かに自身の不甲斐なさに涙をこぼす。
(・・・クラリス、俺の為に涙を・・・。)アミッドは軽く肩を抱き、自身の胸に引き寄せる。
「・・・悪い。それを、預かっていてれ。」彼女にそう囁くと、一度彼女の目を見る。その清らかな涙にアミッドは込み上げる感情を抑え込み、その場を後とした。
(兄さん・・・。)もう一人、会議室を覗き見るように佇んでいてリンダは、退出するアミッドに遭遇しないようにドアから後退し、柱の影に隠れて兄をやり過ごした。
彼女の胸中にもクラリスと同じ思いが錯綜し、両手を胸に乗せて案じるのであった・・・。
こうしてシレジアの内乱は終わり、若者たちは大陸に平和を求める為に外の世界へと舞台を移す・・・。大陸を覆う闇は昏く、再びその闇に呑まれない為に若者達が立ち上がっていくのである。
村が、燃えていた・・・。
夕闇が濃くなり始め、人々が仕事を終えて夕食を取り出した頃に野党の群れが村が襲われた。
悲鳴と、勇戦し金属を打ち鳴らす音が反響した。
簡素な移動式の家に火をつけて、火柱が上がる・・・。
今のイザークでは珍しくない光景であった。
ドズル家がイザークを占拠して以来、搾取はあれど治めるつもりはなく国の治安は悪化していった。巷では賊が往来を闊歩し、賄賂と悪政が飛び交う惨状・・・。そして反乱分子は瞬く間に殲滅される。
イザークを統治するドズル家のダナンはイザークの全ての富を吸い上げ、人々の尊厳を奪い、リボー城で快楽を貪っていた。
野党共に果敢に立ち向かう剣士達はシャナンの指導を受けており引けを取らない。剣士達以上の数の族を屠っているが、数の多さの前に一人、また一人と倒れていく・・・。
とうとう戦線は破られ、非戦闘員を守る砦になだれ込んだ。
必死に防衛していることから野党どもも、ここに食料や女が匿われている事は明白だった。
狂気としてなだれ込む馬賊は我先に侵入する。
「あいつらめ、先走りやがって・・・。」野党の頭領は、肩に両手持ちの巨大な湾刀を担ぎにたにたと卑下た笑みを讃えながら取り巻きの野郎どもと後をゆっくり歩む。
「みんな久々の大仕事ではやってますわー。」
「俺たちが入る頃には、あらかた女を食い散らかしてるかもしんねえぜ。」
など、冗談を口々にいいなら笑い声を上げながら砦の門を潜る。
そこには先程入って行った馬賊の一団が馬ごと切り捨てられ、全てを斬殺されていた・・・。
短時間でどれほどの手数で斬り伏せたのか、一体の死体に何箇所もの刀傷が刻まれ、夥しい血液が辺りにぶち撒かれていた。
「お、おお・・・。」残虐の限りを尽くす賊でさえ、その惨状に口を閉ざす。
中心には二人の女剣士が凄まじい殺気を放ちながら睨みつける。
二人とも黒い髪の少女、まだ体が成長しきっていない事は一見でわかるくらい若い。しかし押し寄せる殺気は熟練の剣士が放つ肌を刺すような気迫・・・、賊達ですらその違和感を肌で読み取れた。
「あの湾刀の大男は私が殺す、あなたは取り巻きをお願い。」すらっと抜き放つ歴戦を潜り抜けた長剣が血に濡れながらも鈍く光る。
「あれがラクチェが追ってた仇ね・・・、わかったわ。」
二人のやりとりにようやく我に帰り、殺気立つ。
「お、お前らが・・・。」前口上など聞くつもりがないのか、声を上げた途端にラクチェは走り出す。
後衛にいた弓使いが射出するが、まるで見切っているかのように直前で最小の回避をするだけで頭領に斬りかかる。
湾刀でその一撃を受けるが、すでに少女は目の前から消える。
まだ湾刀に衝撃が残っている中、頭領の背中に冷たい物が走った。
「ぐほっ!」頭領の鳩尾から剣が生える・・・、抑えきれない逆流が大量の喀血となり、口から溢れ出る・・・。
「さっさと死ね、この悪魔ども。」背後から恨みが乗った言葉を吐く少女は、すぐさま剣を引き抜くと再び突き入れる。
その剣速は凄まじく、頭領は1回に感じた突きは3回入っており両肺と心臓を串刺しにする。
「・・・・・・。」懺悔も恨み言も言う暇もなく絶命する、体が崩れかけてきたが少女は慈悲もなく剣を振り解いて打ち捨てた。
「貴様の戯言など聞きたくない・・・。」少女の目は冷たくなった死体に吐きかけるように言い放った。
この話でながかった序章を終えたいと思います。
本編に入る前にどうしても上巻から変更された部分を補足したく思いまして加筆させてもらいました。
相変わらず仕事が忙しすぎてなかなか進まない実情で申し訳ありません。・・・それでも自分がどんなに高齢になろうが、役職があがろうが
これだけは最後まで描き続ける気概でいておりますので、長い目で見ていただけるとありがたく思います。
次話より本作の6章「光を継ぐ者」の冒頭から入ります。
私の小説では1章となりますのでお願い致します。