ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(下巻)   作:Edward

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狼煙

ガネーシャ城の統治を任されていたハロルド将軍は自室で悠々と、反乱軍討伐の報告を待ち望んでいた。

遅々としていた反乱軍の討伐に民から巻き上げた富を大量に使って野盗どもを使い、情報を金で買って策を練った作戦である。

うまくいかないはずがなかった・・・。

昼から早々にワインを煽り、口元を歪ませる。

早く報告を受けて今の酒を勝利美酒としたい・・・、ハロルドは部下の報告を待ち望んでいた。

 

「昇格すれば本国に戻れる、ここで富を築くのも悪くはないのだがな。」ハロルドは立ち上がり、グラスを片手に深く座り直す。

(リボーで腑抜けた老人の介護や馬鹿息子達のお守りで終わる男ではない、本国にいるブリアン様に仕えねば先はない。)

ハロルドの目には野心に満ちていた・・・。

 

「将軍!大変です!!」ノックもせずに息も切れ切れに入室する。

 

「どうした、騒々しい。」一瞬待ちに待った報告かと思いきや、部下の顔にはそんな良いものとはかけ離れた表情である。

 

「反乱軍が、乗り込んできました!!」

「なんだって!」ハロルドは立ち上がりワインのグランを落とす。

 

「・・・反乱軍は各地から集まり、すでに千人単位でこちらに向かってます。」

 

「本隊は反乱軍の、セリスのいる砦を襲撃したはずだ!

どうなっている・・・。」ハロルドは真っ青になり、腰を抜かしたように着座する、ハッと我に帰り部下に捲し立てる。

 

「ま、守りはどうなっている!ここには何人いる?」

 

「・・・ガネーシャの守りは200程度です。

将軍、どうすれば・・・。」

 

「リボーに援軍を頼め!すぐさま本隊に戻るように指示しろ!」

 

「はっ!ただいま!」慌ただしく指揮が伝令されていく、彼の野心が自身に火をかけてしまう瞬間である・・・。

 

 

 

 

砦を失ったセリスはすぐ様、軍議を始める。

その第一声にオイフェは絶句してしまう。

 

「直ちにガネーシャを攻略します。」

 

「・・・・・・・・・。」一堂の驚きで声が出ないままセリスは続ける。

 

「周辺に散っている囮の砦、ティルナノグの戦士達にも声をかけつつ進軍します。その時可能な限りの物資も運んでくれるように指示をお願いします。」

 

「ま、待って下さい。

ここは、一度どこかの拠点で人を集めてからでも・・・。

最小限ではありますが、死者の弔いを・・・。」オイフェの言葉にセリスは首を横に振る。

 

「それに、エーディン様の・・・。」

 

「エーディン様の為だ・・・。」セリスは強くオイフェに伝える。

 

「エーディン様が命をかけて私たちを救ってくれた。

これに報いるためにも、このまたとない勝機を逃してはいけない、私はそう思う。」セリスの言葉にオイフェは久しく忘れていた名軍師スサールの血が蘇る、熱い血潮がオイフェの脳を駆け巡った。

 

「功を焦った者の攻撃特化の策・・・。広範囲の捜索と攻略でガネーシャ全ての戦力を投入したといっていいと思う。

まだ背後には戦力があると思うけど、かつてないほどガネーシャの城の守りは手薄になっている・・・。反抗の狼煙はここからあげる!」セリスの言葉に有力者の士気が上がっていく。

 

「セリス様、私は長年守りを強いられ保守に回っておりました。

・・・おしゃる通りです。

軍略を教えた私がセリス様に諭されるなど、恥ずかしい限りです。

・・・セリス様にシアルフィにこの人ありと言われたスサールの軍略をお見せしましょう。」

 

「よし!時間がない!早速進軍だ!!」

「オイフェ様、詳しくは進軍しながら説明を!!」

「備蓄はないぞ!民から巻き上げたガネーシャの備蓄が狙いだ!!」

それぞれがセリスのまたとない勝機を聞き鼓舞していく、攻勢に出る事が出来なかった反乱軍はついにドズル家に一矢報いる事ができると実感していった。

 

セリス達がガネーシャ城近くまで進軍した時にはマリアンとラクチェとも合流し、反乱軍の持ちうる全ての戦力が集まった。

まさか砦を攻略されて半日でガネーシャに戦力が揃うなど考えてもいないだろう。それくらいに反乱軍の士気は高く、オイフェの頭脳が瞬く間に人を、物資を、資金を集めたのだ。

 

「奴らの先遣隊が戻る前に片付けねば勝利はない!!

背水の陣ではあるが、見事成功すればここを足がかりに反乱が始まる。イザーク各地にいる我らを支援する者も集まり、解放へと導く。

今より、解放へと踏み出すのだ!!」セリスの号令と共に、全速前進が始まった。

 

ガネーシャを警備する者は慌てふためいて迎撃に突進してくるが、勢いはまるで違う。重装備で固めた斧部隊は反乱軍の機動力に翻弄され、分断し各個撃破されていく。

 

「歩兵部隊は深追いするな!騎馬部隊の槍で当たれ!!」オイフェの指示で的確に戦線を押し上げていく・・・、1時間もしないうちに市街地へと踏み入れる。

 

「走り抜けろ!下手な小細工をされる前に城内になだれこめ!」騎馬部隊が真っ先に切り込み、市街地の住民を保護する。

追い詰められたガネーシャ兵が人質とばかりに住民の殺害や放火を恐れたが、その策すらも出てこないのか、城への侵入を阻む者と城内に逃げ込む者、指揮系統がバラバラであった。

対して反乱軍はセリスとオイフェが先頭に立つ、セリスは馬に乗ると白銀の剣に方形の盾を装備する。

 

「オイフェ、ここにいる敵将は誰だろう。」

 

「情報によるとダナンの子飼いの将軍がいたはずです、名前までは・・・。」

 

「ここまで混乱していたら逃げる可能性がある、奴は捕獲したい。」

 

「・・・わかりました、工作員を手配します。

セリス様、敵団です!ご注意を!」

眼前にハルバードを持つ重装歩兵団が道を塞ぐ、セリスはリーチの長い鉄の槍に持ち変えると斧の先端を捉えて軌道を変えてバランスを崩し、並走したオイフェが鎧の隙間を縫うように鋼の剣を喉元に突き立てる。

 

「セリス様に続けー!」騎馬は次々と突撃し一旦突破を計る、歩兵も追いついて一気に混戦となった、ラクチェも重装歩兵の鎧の隙間を狙うがオイフェのような技術はなく苦戦をする。

 

「ラクチェ様!」ラドネイがラクチェの背後から跳躍し、振り下ろす無骨な剣を鎧に吸い込まれるように切り裂いた。

ラクチェはその切り裂かれた胸部に鋭く倭刀を突き立てる。

 

「アーマーには倭刀は不利です、これを使ってください。」ラドネイは今しがた使ったアーマーを切り裂く専用剣を渡そうとするがラクチェは拒否をする。

 

「大丈夫だ、スカサハほどの使い手ではないが・・・。」ラクチェはさらにもう一人へ切り込んだ。柄は短いが刃厚のあるあの斧使い、受ければ剣が破壊されそうな重装歩兵で、ラクチェにとってはもっと不利な相手であるが、斧を巧みに交わして3度目の回避時にカウンターの袈裟斬り、胴切りを行うも金属を打ち付ける音があるだけで内部までには届いていない。

斧の反撃をもらい、かろうじてかわすも髪を切り裂かれて空中を舞う・・・。再度、ラクチェは切り返しの切り上げの時、刀剣が青白く発して鎧ごと内部まで刃物が通る。

 

(月光剣・・・、ラクチェ様もできるようになったのですか・・・。

その才能、羨ましく思います。)ラドネイは才の違いにただただ驚嘆する。

 

「ラドネイ、セリス様に追いつくぞ!オイフェ殿にも会いたいだろう?」

 

「それよりも、まだ来ますよ。早く突破しましょう!」ラドネイは再び母譲りの跳躍と、アーマーすら切り裂く巨大剣を持ち新手に切りかかった。

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと!手つきがいやらしいわよ。」フィーは後ろに乗るアーサーに非難する。

 

「・・・困ったな。天馬の上がこんなに揺れるとは・・・。

揺れて掴んだらフィーの腰だったので・・・。」アーサーは本を片手に苦笑する。

 

「こんな時でも本読んでるの?信じられない。そんなんだから咄嗟の風でバランス崩すのよ。」

 

「面目ない。・・・しかしフィー、君って思ったより華奢なんだね。」

アーサーの言葉にフィーは真っ赤になる。

 

「・・・どこ触って言うのよ。

それに!あなたの好きな本で女の子の対応も学ぶのね。」

 

「あー・・・、参考書は見なかったな、探してみるよ。」アーサーと話していても何か噛み合わない、フィーはプイッとまたを向いてしまう。

 

「イチャついてるお二人さん!急ぐよ、もう何か始まってるよ!」レティーナは指差すと、眼下にある砦は襲撃された後があり煙が立ち上っている。

 

「イチャついてないんかないよ!

あれ!軍隊がいるよ!!まさか、セリス様、襲われてる?」

 

「そうみたいですね・・・。でも、戦闘している訳ではなさそうですね。探しているのかな?」アーサーは身を乗り出して観察する。

 

「ちょっと、やだ!どこ触ってるの!」フィーの黄色く非難の声が再び上がる、レティーナは白い目を向けていた。

(いちゃついてるがな!)

 

「・・・セリス様を探す事から始まりそうだな、骨が折れそうだ。」レティーナは頭がガリガリとかきながらため息をつく。

 

「いえ・・・、そうでもないですよ。」アーサーはあっさりと否定する。

 

「え!何、どう言う事なの?」フィーもアーサーの手を気にせずに話に参加する。

 

「私なら、拠点を奪われて逃げ延びたのなら。このまま敵拠点に攻め上ります。」

 

「ぶっ!・・・そんなわけないだろう!!

これだからインテリは・・・、レティーナは鼻で笑う。

 

「ここまでの被害が出てるのなら体制を整えるために撤退しているか、シレジア方向に逃げる事を考えるのではないか?」

 

「それはあり得ませんね。」アーサーの全否定にレティーナの額に青スジが入る。

 

「セリス様は17年もシレジアに逃げる事をせず戦い続けました、イザークを捨てて逃げるような御仁ではないでしょう。

体制を整えても、物資も人も圧倒的に劣る反乱軍が正面から戦えば勝ち目なんてありません。ここまで大軍で襲われたのならガネーシャ城は手薄になっていると考えるでしょう、なので今ごろガネーシャ城では戦いになっているはずです。

ガネーシャ城へ、ゴーです。」

 

「ちょっと、突飛すぎない?」フィーは腰にある手を前の手綱に握らせると不審そうにアーサーの提案を疑問視する。

 

「セリス様の居場所はこの砦しか知りませんので、あとは隠れ里を見つけて探すしかありません。隠れ里を探すより、ガネーシャに潜伏して待ち伏せるしかないと思います。

どのみちガネーシャしか選択肢がありません。」

 

「んー・・・。納得できたような、できなきような・・・。」

 

「ディーナさんがレティーナさんの意見は全て却下でいいと言ってましたので、ガネーシャへ行きましょう。」アーサーの涼しい言葉にさらに青筋が入る。

(うわあ、あまりアーサーと作戦行動した事ないけど、ここまで空気を読まない人とは思わなかったよ。・・・それより、この手!やめてよー。)気づけば再び腰に手をやるアーサーにフィーは落ち着かないでいた。

掴み所のないアーサー、掴んでいるのはフィーの細い腰・・・。

フィーはため息をついた。

 

 

 

 

シレジアの別働隊、もう一組はイード砂漠を南下しフィノーラに辿り着いていた。リンダが熱中症に当てられ、町外れにある宿場を見つけて数日の宿をとり数日の足止めとなった。

 

アミッドは宿場であり一階は食事処となっているテーブルに着座し、ワインと香辛料で保存を効かせた硬い肉料理を食していた。

リンダの看病を終えたクラリスがテーブルにつく。

 

「リンダ、大丈夫だったか?」

 

「はい。顔色も戻ってきていますし、発汗もしてきたので安静にすれば元気になるでしょう。」

 

「クラリスが来てくれていて助かった。妹とはいえ、俺が女の子の介助はできないだろうからな。」

 

「・・・そうですね。

それよりもアミッド様、こんな時にお酒なんて・・・。」

 

「仕方がないだろう、料金を見てくれよ。」クラリスに木に書かれた料金に驚く・・・。

 

「え?お水よりお酒の方が安いの・・・。

食べ物も、お肉ばかり。」

 

「さっき宿の人に聞いたら笑われたよ、ここで一番高いのは水だそうだ。保存の効くワインや蒸留酒、水を使って育てる野菜よりも保存肉の方が安い。」アミッドの言葉に納得するも、クラリスはお酒など飲んだ事もない。シレジアから持ち込んだ水を大事に使うことにした。

 

「あんた達、旅人みたいだけど珍しいね?ダーナの巡礼かい?」宿を経営する女主人がコップにサービスの水・・・、濁りが気になる。

を持って結託のない笑みを浮かべる。

 

「そんな所です、連れが日に当てられてしまい困ってました。

・・・この子に、食べやすい食事と飲料はありませんか?」

 

「うん、任せときな!

それにあんた達、あの格好じゃあ日に当てられちまうよ。

砂漠には砂漠の服装があるんだよ、夕方にいつもの行商さんが来るからそこで相談してみな。」主人は笑いながらクラリスの料理にかかる。

 

「・・・だそうだ。

日を避けるだけの格好では熱されてリンダのようになるみたいだから、着替えていこう。」

 

「そうですね、気をつけていきましょう。」クラリスはそういうとコップの水を飲もうとしたが、アミッドが手を掴んで制止する。

クラリスは首を傾げた所でそのコップの水を飲む、そしてなんともいえない顔をすると舌を出して何かを吐き出した。

肉料理の皿にカラン、と乾いた音が響きクラリスは驚いて口元を両手で隠す。

 

「・・・塩っぱい、余計に喉が渇くぞ。

クラリスとリンダは気にせず持ってきた水を飲め・・・。」

 

「・・・すみません、そうします。」

クラリスにはこの乾燥地帯でも育つ植物を調理した料理と、その植物が溜め込んだ水分を絞り出した果汁が提供された。とちらも決して美味ではないが貴重な砂漠料理らしく、クラリスはゆっくりと食していた。

 

「アミッド様は、セリス様の事をどう思われているのですか?

会ってみたいと思わないのですか?」

 

「・・・・・・またその話か。」アミッドは過去何度か質問された事のある言葉に少しうんざりした。

 

「アミッド様とセリス様、お二人が力を合わせればきっと・・・。」クラリスは祈るように願いを口にする。

 

「運命が俺達をそう導くのならそれに従うつもりさ。

・・・俺には俺のやり方がある。その中でセリスと出会った時、同じ道を進むのかどうか判断する。出会うことがなければそれも運命だ。」アミッドの投げやりな言葉であるがクラリスは柔らかく微笑む。

 

「・・・今はそれで十分です。

セリス様に出会った時、自分の心に偽りなく感じてください。

それが私の願いです。」

 

「・・・予知か?」

 

「いえ、そんな物ではありません。

アミッド様の悩みが、杞憂で終わる事を祈ってます。」

 

「・・・・・・なあ、クラリス。」

 

「・・・なんでしょう?」

 

「俺、・・・お前が好きだよ。」アミッドの言葉にクラリスは顔を赤らめる。

 

「・・・私も、アミッド様が好きです。」

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