ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(下巻)   作:Edward

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花束

フィノーラで足止めになった三人に先行してダーナに向かうディーナは、荒れた砂岩の上からダーナを確認する。

 

最近ダーナにはよからぬ噂ばかりを耳にしている・・・。

特に子供が神隠しにあっているそうで町では子供を外に出さないようにしている親が多く、出歩く人がもっぱら減っているそうであった。

また怪しい宗教家が闊歩するようになり、人々に恨んでいる人がいれば呪い殺してやる、などの暗い話が飛び交っていると聞く。

 

「たしかに・・・、アミッド様が気にする理由はわかる気がします。」ディーナはつぶやいた。

天馬にくくりつけてある皮袋の水を一口飲み、砂岩の影で休息をとりつつ町に入る算段を考えた。

かつてのダーナは聖戦の傷跡に歴史を研究する者や、信心深い宗教家が訪れる聖地として崇める者が多いのだが、夜は娼婦が客引きをし、奴隷を売るなど治安はかなり悪い場所でもあった。

清濁入り混じる魔都ダーナ、ここは古来より希望と絶望が交錯する震源地として語られているのである・・・。

 

その震源地、ロプト教団はこのイード砂漠のどこかに拠点があると言われている。シレジアの封印の地を何度も襲い人々を不幸にしていった。

 

ディーナとレティーナの母親も教団の関係者に殺され、謀略でフリージをけしかけてアミッドとリンダ、アーサーの母親は拉致された。

さらにアーサーは、妹も一緒に連れ去られて孤児となった・・・。

 

シレジアがこれだけ被害を受けたのはロプト教団の仕業と思っているが、そのような火種を持ち込んだアミッドの父であるカルトが原因と知ると絶望して父を憎むようになってしまった・・・。

 

誰もそれを責める事はしないが、多感な時期に真実を知り彼は酷く自分を責めた。それからは誰よりも前に出て戦い、誰よりも傷つきながらも仲間を救った。

教団に封印の地が知れてからは、憎くき父の眠る地を守らねばならない矛盾を背負い、彼の心が歪んでいったように感じる・・・。

それでも彼が落ちる事がなかったのはクラリスとリンダのおかげだった。

 

ディーナは深く思案に入った為に周りの警戒が解けていた、天馬が放つ警戒にハッとしたディーナは腰にあるいかずちの剣を引き抜くと気配の方向へ向く。

 

「誰だ!?」ここは広さはあるが絶壁の砂岩・・・、わざわざここを登る人もいないはず・・・。ディーナの警戒は最高潮となる。

 

「敵ではない、剣を引いてくれ。」砂岩の影から姿を現すと、長身の女騎士が姿を現す。

 

「あ、あなたは・・・。アルテナ様!失礼いたしました。」剣を戻して畏まる。

 

「久しぶりだな・・・、1年くらい前か?」アルテナは柔らかい笑みを浮かべるとディーナ問いかける。

 

「そうですね・・・、ところでアルテナ様はどうしてこちらに?」

 

「お前と同じようなものだ・・・。

神剣がイード砂漠にある情報を聞いてシャナン様と共にダーナに来ているのだが、なかなか手がかりがなくてな・・・。近隣の町に赴いての情報収集・・・、といったところだ。

お前はどうした、シレジアは大丈夫なのか?」

 

「シレジアの内乱が終わりまして、アミッド様がダーナに向かっています。フィノーラで休息をとっているのですが、私一人先行してこちらに・・・。」

 

「シレジアの内乱が終わったのか・・・、それはいい知らせだ。」アルテナは明るい表情になったが、ディーナの憂いのある表情にすぐに元に戻る。

 

「万事解決、には至らぬといった感じだな・・・。」

 

「はい・・・。私の口からでは申し上げられませんが、よくない状況です。

アミッド様はこのイード砂漠に、フィーとレティーナ達はセリス様の助けにイザークは旅立っています。」

 

「・・・我らの助太刀、といったところか?それはありがたい、セリスが喜んで迎え入れてくれるだろう。」

 

「皆、あの聖騎士シグルド様の御子息には是非お会いしたいといってました。私達シレジアも一時は滅びの危機があった時も、シグルド様のご活躍を聞いて奮迅したものです。」

 

「嬉しい事だ・・・。私の中にもシグルド様の聖戦士バルドの血が流れている事に誇りに思えるよ。」アルテナは胸に手を当てて頬を赤めた。

 

「アミッドは、どうしてこのダーナに?セリスと合流しないのか?」

 

「アミッド様は・・・。シレジアで起こった暗黒教団との一件に決着をつけたいようです。」

 

「ダーナは教団のお膝元と言っていいほど活発に動いている。

無茶もいいところだ・・・。」アルテナは困った顔をしながら呟いた。

 

「・・・どこからダーナに潜伏すればいいか思案しておりました。

よろしければ、協力しませんか?」

 

「・・・そうだな、一度シャナン様に伺ってみよう。

とはいえ、あの方が断るような事はないな・・・よろしく頼む。」差し出された手を握った。

(やはりこの方はシグルド様所縁の方だ・・・、なんど接しても気持ちのいい御仁だ。)ディーナも顔を緩ませてアルテナに応えた。

 

「では、早速アミッド様に伝えに行きます。

では、後ほど・・・。」

ディーナは笛を取り出すと相棒の天馬を呼ぶと、すぐさまディーナの頭上を飛んできたかと思えば彼女は跳躍して手綱を掴み、そのまま飛び去ったのだ。空中でアルテナに手を振りつつ、手綱の反動で背中に乗り込むとあっという間に小さくなっていった。

 

「無茶な乗り方だな。」アルテナもまた相棒を笛で呼ぶと、立派な体をした竜が降り立つ。

 

「シュワルテ、待たせたな。」アルテナはゆっくりとその背にのり、空中に乗り空に舞いあがろうとした時、一本の手槍が手前の地面に突き刺さる。

 

「何者だ!」地面に刺さる手槍はほぼ垂直に着弾している、という事は真上に投げた者がいるという事、アルテナは真上を見上げるとシュワルテと同じ体格の竜が舞っていた。

すぐさまアルテナは上空へ舞い上がり、手槍を投げつけた者と対峙する。

 

「まさか、我が国以外の者に竜騎士がいるとは思わなかった。

どこで操竜の術を知った?」

 

「答える義務はない、・・・トラキアの者だな。

私にとってお前は敵だ。」アルテナはゲイボルグを構え臨戦状態に入る。

 

「・・・手槍を投げた事は謝ろう、どうしても興味があって引き留めた。」

 

「何だと・・・。」アルテナは少し苛立った。

 

「すまない・・・。

私はアリオーン、トラキア国の竜騎士だ。」アリオーンは両手に武器を持っていないとばかりに両手を軽くあげる。

 

「・・・アルテナだ、操竜は義母に習った。」相手に戦いの意思のない者に手を挙げるなど武人ですらない。アルテナはオイフェの教えを守り、槍を納めた。

 

「それで!私に何を聞きたい!私も忙しいのだ、率直に頼む。」アルテナは苛立ちを隠す事なくアリオーンに問いかける。

 

「・・・・・・・・・。」アリオーンはアルテナの激しい感情が渦巻く目を見ているだけで口が開かない。殺気も闘気はなく、感情は抑え込まれているのか、目から仕草から読み取れるものはなかった。

その姿勢にアルテナは冷静さを取り戻し、次第に激しく動く感情は落ち着くようになりアリオーンの動向を待つ・・・。

 

「・・・・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

 

 

 

「・・・すまない、口では言い表す事はできぬようだ。

今は、黙ってこれを受け取ってくれ。」アリオーンの指を指した方向には一振りの剣が鞘ごとで地面に突き立てられていた。

アルテナは怪訝とするが、それ以上に立派な装飾の鞘に魔法の力が込められているのか、柄に白く輝く宝玉に魅入られて敵国の騎士の騎士の言葉に素直に歩み寄り受け取ってしまう。

彼女は受け取ると元の間合いまで戻り、そっと鞘の中の刀身を少し抜いて確認する。眩い程の白い刀身にアルテナはため息を吐く程の逸品であった。

 

「・・・これは、大陸に二つとない宝剣ではないか。

なぜ敵国の騎士が私に譲る。」

 

「・・・その剣の意味を知った時、君は私に並々ならぬ感情を抱くだろう。しかし、今の私にそれを伝える言葉が見つからぬ・・・。

剣の意味を知った時、私達は運命を背負う事になるだろう。

今はその剣を受け取ってくれるだけでいい・・・。」アリオーンの言葉の端に出てきた感情、それは確かに哀しみであった。アルテナは声をかけようとするが、アリオーンの頭上に自身のシュワルテと同格の竜が舞い、その風圧に圧倒される。

 

「ま、まてアリオーン!」アルテナの静止を聴く事はなく、彼も跳躍して手綱を空中で掴むと背中に回り込む。

彼は何か一言、アルテナに投げかけたが風圧で聞き取れない。

それでも尚、彼は竜を操り青空へと飛び立った。アルテナもおうまいとそばに控えていたシュワルテに跨るがシュワルテは主人の命令を聞かずその場で蹲る・・・。

 

「追いつけぬ、か・・・。」手綱を引く事を諦めたアルテナは再度譲られた剣を抜く・・・。

 

「アリオーン・・・、あなたは一体何を思ってこれを?」アルテナの心は大きく揺らいだ・・・。

小さくなっていくトラキア国の騎士とこの宝剣、彼女の心は大きく揺らいでいるのであった。

 

 

 

城内でどうにかして逃げ果せようと画策していたハロルド将軍は、城内に物資を運び込む業者に紛れ込み脱出を図ろうとしていたのだ・・・。

すぐさま反乱軍の中でガネーシャ出身の者に看破されて捕縛され、セリスの元に突き出される。

 

「ハロルド・・・。貴殿の非道な数々、私は決して許すわけではないが申し開きくらいは聞いておこう。」セリスは玉座の前で立ち上がり、静かに怒るセリスは吐き捨てる。

 

「貴様こそ!田舎で育った故、捕虜の扱いも知らんのか!俺はガネーシャ地方の統括者、ハロルド将軍だ!

俺を害すれば即座にリボーから本隊が来るぞ!わかっているのか!」

 

「・・・・・・。」

 

「ダナン様に釈明してやろう、どうだ?」ハロルドの言葉を黙って聞くセリスだが、周りからは怒気に溢れていた。

 

「将軍、あなたの命運は尽きている事をまだご存知ないようですね。

最後くらい、潔くガネーシャの方々に贖罪の気持ちを述べれば少しは考えたが、あなたには不要だったようだ。

・・・私がこの場で始末をつけよう。」セリスは立ち上がると白銀の剣を抜く。

 

「い、いいのか!本隊よりも、私の部下たちがガネーシャに戻りつつあるのだぞ!私がいなくなれば・・・。」

 

「彼らならもう戻ってきてるさ。」

 

「へ?」

 

「貴様がその身を落としてまで命を拾おうとした顛末を聞き、ガネーシ兵はすでに戦意をなくし降参している。」セリスはハロルドの眼前まで迫る。

オイフェはハロルドの頭を掴むと無理矢理に膝を降り、首を晒すとハロルドは狂乱する。

 

「さあ、終わりだ。」セリスは白銀の剣を振り上げる。

 

「セリス様がお手を汚させるわけにはいきません、私が・・・。」ラクチェが名乗り出るが、セリスは一閃する。

ハロルドの首は見事に胴から離れ、血飛沫がセリスを汚す。

 

「血に塗れる事に恐れなどないさ・・・。

それに、君にはもう復讐の凶刃を振るって欲しくない。」

 

「セリス様・・・。」ラクチェのその姿にラドネイは少し頬を緩ませた。隣にいる父がこちらを少し見るが、気恥ずかしくなりその場を後にする。

 

僅か1日でガネーシャを落とした反乱軍は、民衆より圧倒的な歓迎を受けその日はお祭り騒ぎとなる。セリスは即座に城に溜め込んだ資金から食料を解放し、民衆は厳しい圧政から解き放たれてセリスを称え続けた。反乱軍を受け入れたガネーシャの民は登城し、喜びを共有したのである。

 

 

 

「ガネーシャが落ちただと!」ガラスの破砕音と共に激昂するダナン、侍女は怯えたまま、火急の知らせの書状を渡して控えていた。

 

彼がいる場は、巨大な浴場・・・。

全裸で何人もの衣服を纏わぬ婦人たちと絡むように戯れ、情事の最中の通達に怒りをぶちまけた。

勢いよく立ち上がると、湯船から大量の湯が溢れて泡と共に流れ出る。

婦人たちは一斉に手で体を隠すと、いそいそと浴場から退出していく。

 

「ハロルド将軍はその場で処刑されたようです・・・。生前援軍の要請があったようですが、・・・これからは如何なさい、ひっ!」侍女はひれ伏せておりダナンが眼前にまで迫ってきている事に気づかず、その巨体が彼女を掴むと、浴槽に放り込んだ。

 

激しく湯と泡が弾けるように飛沫く、そしてダナンは侍女の衣服を破るように剥ぎ取り、激情のままその欲望を侍女にぶつけた。

 

「ダナン様!おやめ、がぼっ!」抵抗する暇もなく湯船に沈まされ、尊厳を奪われた侍女はやがて手足を動かす事はなく、その短い人生を終える。それでもダナンの激情は収まらない・・・。死してなお彼女の尊厳は奪われ続けて、ありとあらゆる穴から噴き出した汚物が湯船を汚そうともダナンの狂気は続くのであった・・・。

 

 

 

「セリス様・・・。」

「あっ!ラナ・・・。」セリスはギクリとして振り返ると、ラナがいた・・・。ガネーシャの街から少し離れた小高い丘、ラナは城の中庭で花を摘み取っているのを見て怪訝に思いセリスの後をつけていた。

 

「花なんて久しぶりだ。ティルナノグは荒地が多かったし、観賞用の花なんて育てる暇なんてなかった・・・。」

 

「私達はその日その日を生きるので必死でしたもの、仕方がありません。」ラナは少し笑った。

 

「・・・今日、ようやく僕たちは反撃の兆しが見えてきた。

嬉しいのと同時に、この朗報を生きて聞かせてあげたかった人達に報告したくてね、花をもらってきたんだ。」

 

「セリス様・・・。」ラナは杖を胸に抱いてセリスの気持ちを悟る・・・、たまらなくなり涙が溢れ出した。

 

「ラナ・・・、よく耐えてくれたね。

君にとって辛い決断を強いてしまった僕を許して欲しい。」

 

「そ、そんな!セリス様のご決断は正しいですわ、母もきっと喜んでいてくれると思います。」ラナの言葉にセリスは柔らかい微笑みを浮かべる。

 

「・・・だからね。こんな時こそ、僕たちに託して逝った人たちへ気持ちを手向けるべきだと思うんだ。」セリスは腰にある、壊れた剣を丘に打ち込むと花を手向ける。

 

「それは、お祖父様の・・・。」ラナの言葉にセリスは頷いた。

 

「祖国まで持って行きたいとは思うのだけど、いつまでも引き立って進めるほど楽な行軍ではないから・・・。ここで見守っていてください。」セリスは目を閉じて冥福を祈る。

(お母様、セリス様を見守ってください。)ラナもまた祈りを捧げる。

二人は辺りが暗くなるまで、その場で静かに祈り続けるのであった。

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