ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(下巻)   作:Edward

2 / 13
遅くなりましてすみません。

毎年のことながら2月、3月は仕事の関係上繁忙期で・・・。
徐々にギアを上げていきたいと思ってます。


少女

「かんぱーい!」食料を奪取した喜びから酒宴が行われていた。

トーヴェの寂れた酒場では本日は大々的で活気に溢れ、皆が奪ったエールで喉を潤した。

 

「たとえ、税で持っていかれた品々を奪い返したとはいえ、死人が出たのは心苦しいです。」クラリスは聖職者らしく果実を絞ったジュースを口にしながら言う。レティーナはそれに苛立ち、エールを机に叩きつけて反論した。

 

「私達が生きるためには仕方がないだろ!それにクラリスも最後には賛成したから送り出したのに・・・、お前は!」

 

「レティーナはもう少し状況を見極めなさい、クラリスが来なかったらイシュトーは退かなかったでしょう。

それに・・・、一般人が数人被害が出てしまいました。我らがもっと気をつけるべきでした、すみません。」

ディーダは頭を下げる、クラリスはそっと微笑んだ。

 

「いいえ、あなたたちが行きて帰ってきてくれたことがなによりです。イシュトー相手にこれだけ帰還出来たのですから。

でも、相手にもかなりの被害を出してしまった・・・。」

 

「やつらは、私達に重税を押し付けたんだぞ!冬を越せないくらい!」

 

「それでも、あの兵士たちも命令を聞いて動いていただけ。本国に戻れば家族もいて、子供もいるのでしょう。殺された家族は私達を憎む、そしてまた争いになる。愛する人を殺された憎しみが憎しみで溢れてしまう。これに正義があるのでしょうか?」

 

「クラリス・・・。」ディーナは彼女の大きな慈愛ゆえの苦しみを理解するが彼女ほどの痛みはない。それは世の中の道理と決めつけて処理してしまうからだろう、大抵の人は自分自身の事で精一杯なのだから・・・。ディーナ自身も同じである。

 

「じゃあ、どうしたらいいんだよ!恨まれずに戦うことなんてできない!全員捕虜にして連れ変えればいいのか?生きて捉えるなんて殺すより難しい、生きて逃せばまた敵兵となって襲ってくるぞ。もしそいつがもし私達の大事な仲間を殺したら、私は絶対にそいつを殺さなかった事を後悔する!」レティーナは浮かれて騒いでいる連中すら静まり返るくらい大声で言った。

クラリスはその怒声とも言える声すらも涼しげに見つめ、その後果実の入ったグラスに目を落とした。

 

「私は、救いたい・・・。こんな時代でも、少しでも悲しみと憎しみが溢れないように・・・。」クラリスは果実を飲み干すと、ふらりと立ち上がる。聖杖を持ち、かけていたローブを待とうとその場を立ち去る。

 

「ど、どちらへ?」

 

「セイレーンで亡くなられた方々を埋葬する時間です。

今、私に出来る事は彼らを鎮魂させることしかできません・・・。」そういうと、扉を開けてそのまま後にした。

 

「・・・。」レティーナはどっかり座ると髪をガリガリとかいてうなだれる。

 

「馬鹿・・・。」ディーナはそういうと長いエールを口にするのであった。

 

 

「クラリスさまー!」子供がクラリスのローブの裾を掴む。

 

「おとうさんがねむったまま起きてこないの、お母さん泣いてばっかりだし、お父さんをおこしてよ。」クラリスは少し微笑んでしゃがみこんだ。

 

「おとうさんはね、寝ているんではなくて、死んでしまったの。

おかあさんとボク君を救う為に、戦ってね。」頭を撫でて伝える。

 

「じゃあ、おとうさん、帰ってこないの?そんなの嫌だよ!」

 

「・・・大事な人がいなくなるのは嫌だよね。

でもね、おとうさんは、大事なおかあさんと、ボク君がいなくなるのが耐えられなくておとうさんは戦ったのよ。だから、いってしまうおとうさんを許してあげてね。」

泣きじゃくる子供をあやし、抱きしめる。

 

「クラリスさま、おとうさんをなおせないの?」

 

「死んだ人を治す事は誰にもできないの。だからこそ命は大事にしないといけないの?その命を無くさないために、頑張ったおとうさんにお祈りしようね。」

 

「うん・・・。」子供と一緒にクラリスは斎場へ向かう。

子供の悲しみを救うクラリスだが、子供の心に救われたのはクラリス自身だったかもしれない・・・。

 

 

葬送が終わったクラリスはとぼとぼと帰路についていたが、途中の小川のそばにある岩の上で座り込んでいた。

夕闇となり再び風雪が起こり出すが彼女は気にする様子もなく項垂れていた、風が彼女のフードを外して波打つ金髪が露わとなる。

 

「私は、まだ無力です・・・。お母様も、お父様も、こんな事あったのでしょうか・・・。」母のマーニャを思い出す。

流行病でクラリスが物心ついた頃から病弱であった母は、床に伏せ死の間際までクラリスを一人で育てていた。それは母の妹であるフュリーも一緒だったそうだ・・・。

一人になったクラリスは、当時シレジア国王であるレヴィンから宮廷に呼ばれたが拒否し修道院に入った。

母親を失った悲しみを感じるを忘れるようにブラギ神に祈りを捧げ、飢饉に苦しむ人達を救う日々を選んだ。それは奇しくも父クロードの教えを辿るかのように彼女は力を付けていく・・・。

彼女は10歳になる前にはリカバー、リザーブ、ワープまで習得し、改めて宮廷入りを誘われる事となった。

 

それでもクラリスは修道院を選んだ。宮廷に入れば、給金は良くなるが戦争の回復要員に連れ出させる。

戦争の道具になることも、力を持たない弱者を治すこともできなくなる。それ故に断り続けたが、その国が滅んだ・・・。

 

国が滅んだ時にクラリスは自覚する。土台が崩れ、自衛する術を失い、路頭に迷う人々が溢れた。

国にいる以上、国を守る事は民を守る事と同意であったのだ。

グランベル公国のフリージ軍に蹂躙されたシレジアは、金品を略奪され、私刑にあって殺され、女性の尊厳はことごとく奪われた。

力ある者が弱い人々を守るのは義務です、・・・母がよく言っていた言葉がようやく理解したのだった。

 

大人達の懸命な抵抗でフリージ軍から逃れ、フィーと再会し、シレジア義勇軍に入って戦った。しかし敗戦を繰り返し、最後の砦トーヴェまで後退する事となった。

ここで負けたらシレジアが終わる・・・、その重責がか細い彼女の肩にのしかかる。そっと持つ聖杖を握り、祈りを捧げる。

 

「よ、よう・・・。」不意に背後から声をかけるレティーナにクラリスはそっと立ち上がって振り返る。

 

「心配かけてごめんなさい、ちょっと川を見たかったの。」

 

「そ、そうか・・・。まあ、・・・さっきは言い過ぎたよ。」頭をガリガリとかきながらバツが悪そうに謝罪する。

クラリスは少し驚いて、後にはにかむように笑う。

 

「あなたが、そんなに素直に謝るなんて・・・。明日は吹雪くのかしら。」

 

「なっ!・・・まあ、そんなところだ。」レティーナはクラリスは一切冗談を言わない、その彼女が拙い冗談で返したのはレティーナへの気遣いと感じ、レティーナは再び頭をかきながら不自然な返事でかえす。

二人は気まずくなるが、目を合わせた途端ふっと笑いがこみだした。

 

「ふふふふ・・・。」

「はははは・・・。」

 

「クラリス、私と性格がまるで違うけど、あんたは好きだよ。弱っちい外見だけど、意外と度胸があるし、芯はしっかりしてる。・・・ワープで私を強制的に撤退させたのは驚いたけどな。」

 

「ごめんなさい、あの時は説明する時間が無くて・・・。」

 

「終わった事だ、いーってことよ!

さあ、帰ろう!ディーナが待ってる。」手を差し伸ばしたレティーナの手を乗せると、二人は宿舎へと帰路に着いたのであった。

 

 

 

自由都市ミレトス・・・。どの国にも所属せず、この地で流通する品々は自由に取引が出来る唯一の街。

敵対する国であってもこの国を経由すれば流通する、それは物であろうとも人であろうとも・・・。

清濁併せ持ち、各国から不可侵領域として認められている唯一の地域である。

イード砂漠や、かつてのオーガヒルのような国に所属しない空白地帯はあるが、町レベルで発展し、国家形態を持たない地域は唯一と言えるだろう。

今のオーガヒルも、ミレトスを踏襲して作られているが、ミレトスほどの規模では無く、自由貿易とまでは発展していない。

そんな自由都市はグランベル国内は安定しており、アグストリアとヴェルダンから入る貿易の安定から比較的発展していた。

 

一軒の酒場に一人の騎士が軽い晩酌をしていた。

晩酌、といっても豪勢な食事などは一切なく、飲んでいる酒も始めの一杯のみ・・・。飲食が目的でないことはすぐにわかった。

他のテーブルではどこの出身かわからないほど多様な人種が入り混じり、いい身分の者からどこぞの荒くれ者かと思うくらいの客層の幅である・・・。

そんな中でその騎士は、羊肉を使った料理とエール一杯のみで時間をつぶすようにゆっくりと食べていた。

 

その騎士の身なりよりも品が良く、どこかの貴族出身であることは見て取れる。立てかける長剣は使い込んでおり、歴戦の戦士である事は間違いない。

 

「待たせたな・・・。」ローブ姿の男は騎士の対面に座ると、フードを外して座ると同じものを給仕の女性に頼む。

 

「レヴィン殿、相変わらず時間どうりに来ませんね・・・。」苦笑まじりに笑うと、羊肉を一口頬張ってエールを流す。苦味が喉を通って先程の苦笑を洗い流した。

 

「まあ、そう硬いことを言うな・・・。それよりどうだ?最近は?」

 

「・・・ティルナノグに迫る勢いで鎮圧が続いてます、このままでは我らの拠点を見つけ出されるのも時間の問題です。

決断する時は間もなくかと・・・。」

 

「もう17年か・・・、そろそろセリスも表に出る時かもしれぬな。」

運ばれてきた羊料理にワインボトル、グラスに注いで一口頬張る。

 

「私はシレジアに退く事も進言しましたが、セリス様は戦う意志を持ってます。お世話になったイザークを置いて退く事よりも、戦う道をすでに決断しました。」オイフェの言葉に満足したレヴィンはワインを口にする、久々の美酒なのかレヴィンの口許は少し緩み一気に呷る。

 

「さすがシグルドの子だな・・・。」

 

「レヴィン殿こそ、今回は旅でどのような成果が?」オイフェはエールを終えてグラスに変えるとレヴィンのワインを注ぐ。

 

「アグストリアとヴェルダンがエバンスから進軍したがグラオリッターとバイゲリッターとの前に敗れた。国外に戦力を出していても国内にはリッターを温存しているから盤石だ。

再びこの二国を攻めようとグランベルではこの話では話題になっている。」

 

「そうですか・・・、あの二国が動き始めたのですね。」

 

「ああ・・・。それよりもグランベル国内だが、ロプト教団の動きが慌ただしい。ギルドから頻繁に活動の情報を耳にするようになった。」

 

「!もしや、封印は?」

 

「それは大丈夫だ、あの2人があの地は守っている。

もはやあの2人に敵うのは私くらいだ。」

 

「そうですか・・・、カルト兄妹の話はかねがねと聞いてはいますがそこまでとは・・・。さすが、カルト様のご子息達ですね。」

 

「・・・。力の成長に心身の成長が追いついてないのが傷だな、カルトが力を使えないように封印されていた理由がよくわかったよ。」

 

「?」

 

「忘れてくれ・・・。」レヴィンはぐいっとワインを呷ると一息つく。

 

「そうそう、他の者達は元気か?」

 

「シャナンは、神剣バルムンクの噂を聞いて旅に出ました。アルテナも同行したので早くに帰ってくるとは思いますが・・・。」

 

「という事は、彼女はもう立派な竜騎士か?」

 

「はい、ゲイボルグも随分使いこなせるようになりまして、今では一番の働き手です。」

 

「しかし、それではオイフェが留守にしてしまえばティルナノグは手薄ではないか?」

 

「心配ありません、セリス様はあの時代を切り開いた英雄達の子です。

どんな苦境がきても彼らはきっと苦難を切り開くはずです。」

 

「・・・オイフェ、よく我慢してくれた。

君やシャナンが耐えてくれたからこそ、彼らは立派に成長してくれた。

私は聖戦士だが、カルト達にも、君達にも、何もしてやる事は出来なかった、すまない・・・。」

 

「そんな!あなたこそ、・・・一番あなたが自分を殺して、世界の真理を求めてみんなを導いているではありませんか。

そんなあなたを責める事など誰にも出来ないはずです。」頭を下げるレヴィンにオイフェは慌てて否定する。

レヴィンは国の枠組みからも外れて、1人でこの世界の謎を追っている。妻の死に目にも立ち会わず、子の成長を見守る事はなく、まるで何かに取り憑かれたかのようにこの世界を紐解かんとしているのだ。

側から見れば狂気の沙汰であるが、オイフェはその行動に理解し、尊敬している1人であった。

 

「オイフェ・・・。君がシグルドやカルトの行軍を見てきた経験値は、これからの大戦に大きく貢献するだろう。君を残してくれたシグルドには感謝してもしきれない。

・・・だから、君もあの時一緒に戦えなかった事を後悔しないでくれ。」レヴィンはそういうと2人分の代金をテーブルに置き、微笑みながら退席する。

オイフェの顔は驚愕のままであった、レヴィンはオイフェの心の痼を

そっと愛おしく撫でたのであった。

 

「・・・風の聖戦士様には、お見通しだったんだな・・・。」オイフェは残りのワインを全部自分のグラスに注ぐのであった。

 

 

再びフード付きのコートで全身を包むと、酔った頭を冷やしながらどことなく歩き始めたレヴィン。

夕闇から完全に夜になり、辺りには肌寒い風が頬を撫でた。

シレジアはまだ冬だが南に位置するミレトスはもう春を迎えている。

あちらこちらで同じように酔客が歩き、活気があった。

そんな中、路地の一角で何やらきな臭い連中が1人の少女を囲んでいた。追い剥ぎ?それか連れ去り?

最近ではロプト教団が商売敵を呪い殺す為に子供を差し出して呪術にかけてもらったりと、活動が目に見えてきていた。レヴィンはその危機を察知し、その連中に声をかける。

 

「おい!何をしている。」不意に声をかけられた連中はびくりとして振り返る。船乗りのようないでたち、一つ間違えたら海賊といってもおかしくない。

レヴィンの目はその連中の中心にいる大男にむかった。

 

「いや、俺たちは怪しいもんではない。

・・・その、なんていったらいいんだ。この子が突然光の中から出てきたもんでびっくりしていただけだ。」

 

「なに?」レヴィンはその男の覗く先には少女が倒れていた。

まだ成人にも満たない華奢な少女、命には別状はないがこのような寒空に寝ていれば体調を崩してしまう。そっと抱き起こすと声をかける。

 

「おい、大丈夫か?」レヴィンはそっと抱いて声をかけ続けた。

 

「にいちゃん、すまねえな。この子は頼んだよ・・・。俺たちが抱き上げたらショックで寝込んじまうだろうし・・・。」

 

「ああ、疑って悪かった。この子は預かろう。」レヴィンはそういうと荒くれ達は、そそくさとその場を立ち去る。

悪い連中ではなかったようだが、彼らも自分の風態で少女では誤解になると踏んだのだろう。

 

やれやれ、と思った時。少女は目を覚ますのであった・・・。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。