ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(下巻)   作:Edward

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皇子

ここはシレジアとセイレーンの間にある山脈の中腹辺り。

かつてアミッドの父がシグルドの意思に携え、扉を開く鍵と自身の命を封印した運命の地・・・。

アミッドは幼少からこの地を見守り続けていた、それは父の意思を継ぐ気持ちや尊敬の念ではない。アミッドはいつもこの地を見る表情は穏やかではなく、残された銀の剣を握りしめるだけであった。

 

リンダの手前、大見得を切った。一握りほど残された魔力など集中を切らせれば霧散して次の魔法を放てるかどうか・・・、それでもさらに奥から迫りつつある邪悪な魔力に逃げるわけにはいかない、アミッドは死を決意していた。

 

「リンダ・・・。お前の命、俺に貸してくれ。」

 

「え・・・、どうしました。」

 

「凄まじい悪意が感じられる・・・。なぜさっきまで感知できなかったのかわからなかったが・・・、今ようやくその意味がわかった・・・。

本能が察知を避けているんだ、よく感じ取ってみてくれ・・・。」

アミッドの言葉にリンダは荒れた息遣いを正すと、目を閉じて兄の指摘する方向へ意識を向ける。

閉じた瞳は動揺し揺れているのを感じる、リンダは落ち着き集中していく・・・。

ここから斜面を下った先に森林地帯があるが、その辺りにから感じる邪悪な気配。魔力よりも兄の言う悪意が凄まじく、人間が放てる雰囲気ではなかった。

リンダは途端に、集中した意識を手放して目を開ける。

先程以上に息が荒くなり、落ち着かなくなる。体は震えて寒気が全身を駆け巡った。

 

「ああっ!なに・・・、この気配。」

 

「尋常が無いものがくる、それしか言えん・・・。リンダ、俺と戦ってくれるか?」

 

「兄さん、私・・・、怖い・・・。」

 

「・・・俺もだ、でも逃げるわけにはいかない。

シグルド様の意思を俺たちで守るんだ。」

 

「・・・こんな時でも兄さんは、お父様の事は口に出さないんですね。」

 

「・・・・・・先に行く、リンダは後方援護で頼むぞ。」アミッドは斜面をゆっくりと降りだしリンダはそれに続く、胸に抱いたオーラの書をギュッと握るのであった。

 

近づくにつれて邪悪な気配はどんどん強くなる。まるで現世と地獄の入り口の狭間に立っているのでは無いかと思えるほどの、心を押しつぶすような恐怖がリンダを襲っていた。

 

「リンダ、苦しいが共に戦ってくれ。とても俺一人ではどうにかできる相手ではない、・・・無理に前に立たず援護だけでいい。

・・・もし瓦解した時は迷わず逃げろ、そして仲間を連れて来てくれ。

それがお互いの生存率を上げる一番の方法だ、わかったな。」

 

「兄さんも、その時は逃げて・・・。」リンダの小さな言葉にアミッドの小さく頷いた。

その頷きと、邪悪な存在とは同時であった・・・、視界に入るは一人の少年、リンダと同じか、それよりも若い少年であった。

燃えるような真っ赤な髪、まだ発展途上な体躯に小さな身長。

大人からはかけ離れた少年であるはずなのに、その表情と醸し出す雰囲気は異常な程に恐怖を植え付けた。

 

「・・・目的と名を明かせ、俺はシレジアのアミッドだ。」銀の剣を抜き、道を阻むが少年は一向にその歩みを止めない。

 

「・・・・・・。」少年は俯き加減にそのまま歩み続ける。

 

「間合いに入れば敵対として、斬るぞ!」アミッドは伸ばした銀の剣を青眼に構えるが少年の歩みも、捉える呼吸にも乱れがない。

アミッドはいいようなのない恐怖を押さえつけ、逆に乱れた呼吸を必死に整える。汗が・・・、シレジアでは余程動き回らなければ吹き出さない汗が、額を伝って首筋を冷やした・・・。

リンダも、喉奥に溜まった生唾を飲んでオーラの書を祈るように抱く・・・。数秒後にはアミッドの間合いに入る少年、突き上げる恐怖と二人は戦っていた。

 

少年の足が、アミッドの間合いに淀みなく踏み入れた刹那、青眼から滑るような足運びからそのまま喉元に鋭い突きを入れる。

アミッド得意の無拍子突きが少年の喉元を突き破るがアミッドには一切の手応えが無い、気づいた時には陽炎のように少年の体は消え、横にスライドするかのように移動していた。

 

「なっ!」すぐさま、突きの反動を右足で踏み留めて横薙ぎへと変化させて追撃するが、少年は回避したのみでアミッドに興味がないように歩を進めていた。背後から遅いかかってくると思っての反撃の横薙ぎのため、すでに間合いの外の剣は再び空を斬った。

 

 

振り返ったアミッドは驚き、そして相手にもされていないと知ると怒りが冷えた体に血潮が巡る。少年は終始同じ速度で俯き加減に歩を歩み続けているだけであった。

 

「貴様!!」

「兄さん!!」アミッドの怒りと、リンダの言いよらない不安が同時に叫びとなった。アミッドは剣を収めると少年の背後から肩を掴み強引に振り向かせた。

 

「なんだ、無礼者・・・。」一言発するだけで相当の威圧感、アミッドの怒りが冷めていく・・・。

その一瞬を少年は見据えていたとばかりに初手を放つ、あたりの空気が急激に灼熱へと変貌した。アミッドは閃熱に目を眩ませながら吹き飛び、一本の針葉樹に叩きつけられる。

 

「ぐはっ!!」針葉樹は大きく揺動し、しならせた。

(大気を圧縮させて、発火させた。膨張させて可燃気体を燃やしたのか?早すぎる・・・。)

アミッドは眩む頭で分析しながら立ち上がる。少年の第二波を警戒したが、その様子はない。

再び歩みを始める、その方向は封印の地である事は間違いなかった。

アミッドは奥歯をぎりっと噛み締めると一気に立ち上がると魔力を放出させる。

 

「エルウインド!」真空の刃を放つが、少年は先ほどの回避で揺らぐように歩みながら交わしていく。先ほどの攻撃も、鬱陶しく自身の周りを飛び回る虫をあしらったかのような態度に感じ、アミッドは屈辱感に染まっていった。

 

「おのれ!」少年の肩を再度掴む、2度の行為に少年は少し苛立つような表情をするがアミッドは構う事なくライトニングを叩き込んだ。

強烈な閃光に次は少年が吹き飛んだ、しかし少年はゆっくり起き上がると次の少年はアミッドの目を捉えた。

 

(・・・!なんて目をしてやがる。殺気とは違う、もっと昏いものに命をからめ取られるような・・・。)

アミッドは凍りついていた・・・。

 

「兄さん!!」妹の叫び我に帰る、気づいた時には少年は目の前に迫っていた、差し出してくる右手を払って袈裟斬りに斬りつける。

 

(入った!)ようやく手応えのある一撃を見舞う事ができたが、少年はまるで苦痛を感じなかったかのように、払われた右手を再度突き上げてアミッドの首を掴んだ。

 

「・・・っ!」アミッドは声無き悲鳴を上げる。少年とは思えないほどの握力で一瞬に視界が暗くなる。血流や呼吸が止まる事もあるが、その前に首の骨を砕くのではないかと思えるくらいの力が込められていた。

 

意識が飛ばされる前に、足掻いた銀の剣が偶然にも少年の締め上げている親指にあたり力が緩んだ。とっさに脇腹は回し蹴りを入れると距離をとって離れる。

止まっていた呼吸を開始した瞬間に、気管に入った唾液が拒否反応となり一気に咳き込む。

 

「・・・ヘル。」少年から放たれる暗黒魔法、精神崩壊を引き起こす危険魔法を浴びせる。

 

「ぐああああ・・・。」頭を押さえながら地面に沈むアミッド、目は焦点が定まらず狂人のような呻き声を発しながら転がり回る。

 

「ふははは・・・、そのまま狂って死ね。」少年の無慈悲な言葉にリンダは震えが止まらない、そんな彼女を少年は侮蔑したように見る。

 

「お前もやるか?」少年の挑発にリンダは青ざめその場で崩れる。

 

「そうだ、弱者は這いつくばれ。刃向かえたこ奴には称賛するが、その報いを受けるがいい。」少年は廃人間近なアミッドの頭を蹴ると、道端へと転がした。

フン、と鼻を鳴らすと再び歩み始める。

 

「もうすぐだ・・・、もうすぐ復活できる。

・・・そして完全な存在になる。ナーガよ、待っていろ。

イツカオマエノノドモトニ、ワシノツメヲツキタテテヤル・・・。」

少年の異常な昂りを見せながら山道を上がっていく。

 

 

「ユリウス様は余程昂っておられる。打ち捨てていったが、こやつらは危険だ。始末しておかなければな・・・。」

アミッドは精神崩壊を、リンダは喪失状態にある中、ロプト教団の大司教マンフロイが闇の影から姿を表す。

 

「くくく・・・。マイオスとカルトお陰で復活には17年もかかってしまったが、まあいい。その溜飲はここでお前たちの首で贖ってもらおう。」マンフロイの言葉にリンダ反応する。戦意を喪失し彼女は涙しながら怯え、動かなくなったアミッドを覆うようにして首を振る。

 

「ほう・・・、ユリウス様の畏怖に当てられても兄を守るか・・・。殊勝な事だが、儂の暗黒魔法で二人仲良く贄となるがいい。」

じりじりと詰め寄るマンフロイ、リンダは必死に兄を守ろうと首を振る。

 

「無駄じゃ、諦めろ。」マンフロイの魔の手が伸びつつある中、リンダの心の中で叫ぶ声が広がった。

(リンダ!今だ!撃て!!)

その言葉は叱責でも命令でもない、頭に響くのは導きの声。

咄嗟に残った魔力を胸に抱く魔道書へ込められた。

 

「「オーラ」」誰かの声とリンクするように撃ち放たれるオーラにマンフロイは天空からの光に撃たれる。

 

「ぐわあああ!・・・て、転移!」油断し切っていたマンフロイは直撃を受け、咄嗟に転移の杖で逃げ帰った。リンダは力を使い果たして意識が遠のいていく・・・。

 

(リンダ、よくやった・・・。お前たちに、何も出来なかった俺を許してくれ・・・。

・・・・・・さらばだ、我が子たち・・・。)

 

リンダは事切れる直前、封印の異国の木が倒れていく姿を目で追っていた・・・。

 

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

「気がつきましたか・・・。」うっすらと目を開けると、憂いの瞳をこちらに向ける少女に問いかけた。アミッドはトーヴェのアジトと判断すると一先ず落ち着いて一息つく。

 

「クラリスか・・・、俺は守れなかったんだな・・・。」アミッドはクラリスの瞳に全てを察して、顔を腕で隠す。

 

「・・・アミッド様のせいだけではありません。私も、レヴィン様も察する事ができませんでした。」クラリスの赤い目にアミッドは寝ている間奔走してくれていたのだろう、アミッドはその苦労に弱音ばかりを吐くわけにもいかない。ベットから起き上がると、クラリスに向き直る。

 

「2日も意識がなかったのです、ご無理は・・・。」

「無用だ。それよりもクラリス、これからどうすればいい。

封印は解かれたのだろう?・・・それに、リンダは?」

 

「・・・リンダ様は無事です、意識はすぐに戻ったのですが色々あったみたいで少々混乱しています。それでもアミッド様のように精神魔法をかけられたわけではないので時間が解決するでしょう。」

 

「そうか・・・。状況を確認したい、すぐに有力者を集めて会合しよう。」アミッドは外套を纏うとクラリスに進言する。

 

「はい・・・。その前に一言、今回貴方達を見つけ出してここまで運んできたのはレヴィン様です。

貴方が目覚め次第、レヴィン様も話がしたいとおっしゃってました。」

 

「・・・レヴィン!あいつが来ているのか。」

 

「・・・はい。アミッド様、どうされますか?」

 

「わかった・・・。」アミッドはクラリスの目を見る事はなく合意する。

 

 

 

質素な作りの円卓に、反乱軍の所要メンバーが席に着いていた。

みな、アミッドとクラリスの入室を待ちわびている様子・・・。

 

元シレジア国王のレヴィンは、腕組みをして瞳を閉じてその時を待つ。

レティーナは自慢のハルバードの刃を丁寧に磨き、鼻唄混じりに待つ。

ディーナはその鼻唄を疎ましげにジト目を飛ばしていたが、全く意に介さない相棒にため息をついていた。

そしてアーサーは静かに座り、書物に目を通している。

 

「ねえ?アーサー、いつも本ばかり見ているけど、楽しいの?」フィーは机に頬杖をつきながら話しかける。

 

「ええ、楽しいですよ。自分の価値感とは違う体験談や、知識が身につきます。フィーの中も一冊いかがですか?」アーサーは懐から一冊の書物を取り出す、その分厚いハードカバーの書物をパラパラとまくるだけで目眩が出たように頭をふらふらさせる。

 

「むーりー、私には苦痛でしかないわ。アーサーといい、お兄ちゃんといい、私の周りにはインテリばっかり。だからレティーナが大好き!」

 

「なっ、なっ!じゃああんたがよく纏わりついてくるのはそう言うことか!私も知能派だ!!」

 

「じゃあ、これ読んで・・・。」フィーが差し出す書物にレティーナは喉を鳴らして受け取った・・・。

 

アミッドとクラリスが入る。

 

「アミッド様、よくご無事で!」ディーナの言葉にアミッドはうなずく。

 

「不在の上、迷惑をかけてしまった。申し訳ない。」

 

「よせよ!私達はいつくも死線をくぐった仲間だ。それよりもこれからだ。」磨いていたハルバードを立てかけて笑う。

 

「そうだな・・・。

そのためにも、国を捨てて逃げたそこの男の聞こうじゃないか!」アミッドはレヴィンを指差すと、木製の椅子にドッカと座り腕組みする。

 

「・・・相変わらず手厳しいな。」レヴィンの笑みにアミッドは再び不快な顔をする。

 

「当たり前だ、俺は昔からあんたが嫌いなんだ。

話なんて聞きたくもないが、俺とリンダを介抱したと聞いた以上・・・。

礼などいいたいないが、言っておく。

・・・・・・ありがとう。」立ち上がって頭を深く下げる。

 

「ふっ・・・。礼を言っているか分からんいいようだが、受け取っておこう。」

 

「・・・・・・。」アミッドは再び着席した。

一堂が落ち着いたと感じたディーナはクラリスに目配りすると頷き、普段より進行役を行なってきたディーナは立ち上がって話を進める。

 

「レヴィン様、お願いします。」

 

「・・・ロプトウスの書の封印が解かれた。

今回アミッド達を襲ったのはアルヴィス皇帝の息子のユリウス、そしてロプトウスの化身だ。」

 

「!!」

 

「馬鹿な!」アミッドは机を両手で叩いて立ち上がる。

 

「ロプトウスの書がなければいかにロプトの血が連なる者でも、その力は発揮できないとあんたはいっていたじゃないか!だから俺たちは貴重な戦力を割いてでもあの地を守っていたんだ。」

 

「そうだ・・・。確かに俺はそう言った、現に奴らは17年間あの地を狙って教団員を送りつけていた。

だが、何らかの方法でユリウスの血に火を付けて襲わせたんだろう。そうとしか考えられない。」

 

レヴィンの推測に一堂は黙ってしまうが、新たに入室したリンダが発した。

 

「兄さんが倒れた後に、一人のロプト教団員が襲ってきました。

復活に17年かかった、お父様と因縁がある様子でした。」

 

「高位の教団員が復活して、その方がユリウス皇子になんからの力を働きかけた?って事でしょうか?」クラリスの言葉にレヴィンが頷く。

 

「まだ推測の域を出ないが、限りなく正解に近い答えだろう。

・・・時は来た。封印を守る必要がない今、我らはシレジアにいるフリージ軍を全軍で突破する。

そして、各国で反グランベルで抗戦しているシグルドの元に集った聖戦士の末裔と力を合わせる必要がある。」

 

「シレジアはどうなるんだ、私達はシレジアの為に戦ってきたんだぞ。」レティーナはレヴィンに突っかかる。

 

「・・・シレジアだけを守っても、ユリウスが力を蓄えきってしまえば数年もかからずに各国は崩壊するだろう。まだ力を蓄えきっていない時に、各国から聖戦士を集め対抗しなければこの大陸は永遠の闇に覆われる。」

レヴィンの話にクラリスとアミッドは静かに頷いていた・・・。

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