ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(下巻)   作:Edward

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英傑

「はあ・・・、はあ・・・、はあっ!」一人の少女が逃げていた、背後には傭兵崩れの野党が卑下た笑いを浮かべながら迫っている。

少女は必死に逃げながら、ようやく林を見つけて飛び込むとひたすらに足を動かす。

多少の障害物を見つけ、葦のながい草むらに身を飛び込ませて潜んた・・・。もう足は限界でもう走れない。心臓は飛び出すのではないかと思うくらい動悸を打ち、途切れた酸素を取り込もうと肩で口で呼吸していた。

しかし男共も林に入り怒号が響きだすと少女はとっさに呼吸を潜める・・・、体が酸素を欲しているが少女は疲労した身体に鞭を打った。

 

「探せ!殺しても構わん!!そこらへん全部獲物を突っ込め!!」

その言葉にぞくっとする、男たちは所構わず剣や斧で草を払うようにした探し出したのだ。

もし、その刃に当たれば致命傷は免れない。

 

「おーい、お嬢ちゃんー。悪いようにしねえから出てこいやあー。

どっかに潜んでいるんだろー。」

容赦なく草むらに武器を突っ込みながら少女を威嚇する。

 

「おっ!手応えありー。・・・って、兎かあ。」

草むらから血が滲み出し、書き分けるとでてきた兎を取り出すと無造作に投げ捨てる。

偶然にも少女の潜む草むらに兎を投げ込まれて恐怖は限界に達した。

 

「ひっ・・・、ん!」少女は咄嗟に口を塞いで声を妨げるが、野党達は逃さなかった。

 

「ひっひっひ・・・、さーて続きだ、どこにいったのかなあ。」少女に迷いなく近づく・・・。

 

覚悟を決めた少女は、まさに脱兎の如く再び疲労で乳酸の溜まり切った足を叱咤するように足を叩いて駆け出す。

 

「あっ、待ちやがれ!!」そのまま隠れてやり過ごすと踏んでいた野党の一人は対応が遅れた、走り出した時には少し距離が離れる。

 

少女は一瞬笑みを浮かべたが、逃げた先には別の一人の男が探していたのだ。道を塞ぎ待ち構えた。

 

「・・・・・・。」少女は懐から一振りの剣を抜き覚悟を決めた。

「しねえー!!」大剣を振り上げて唐竹割りに振り下ろすが、その剣は少女の外套を切り裂いただけで本体はまるで手品のように消えた。

 

「な!なにい!」大柄の男は大剣にまとわりつく外套を引き裂くと辺りを見渡した。少女はは一本の巨木を蹴り、大柄の男に空中から抜いていた剣を背後から切りつけた。

 

「があああ!」男はその場で蹲り、崩れる。

 

「おい!こっちだ!」

「あれだ!あの剣を奪え!!」

そう、彼らの狙いは少女の右手に持つ魔法の剣・・・。鈍く光る青い軌跡を残す剣には非力な少女でもそれなりに切り裂く力があるが、それ以上に持ち主を加護する力を付与した守りの剣・・・。それが名前の由来である魔法剣をこの野党達は狙っていた。

 

少女は再び大地を蹴って逃走する。体力と、体格が圧倒的に劣る少女では数と暴力には敵わなし、野党の一人に怪我を与えても彼らを怯ませる材料には至らない。再び追いかけっことなった。

 

 

 

「この山、・・・騒がしいな?」一人の剣士が、殺気混じりの気配に立ち止まる。

エバンス周辺は、最近までアグストリアとヴェルダン連合がグランベルとの小競り合いがあった場所・・・。食料の調達に寄った村ではアグストリアへの越境はやめたほうがいいと忠告されたが、そうはいかずに一人山に入った。この状況に少しは村の人の話を聞くべきだったか、とため息混じりに思う。

村人の話では小競り合いでおこぼれを狙う盗賊や野党が、ヴェルダン山中に巣食う根城から降りてきているそうであった。

ヴェルダンはかつては蛮族の国と言われていた。現在はキンボイス王の厳しい管理のもとで随分とならず者は減っているとは聞くが、どうしても国の体制に反対する者や、時代の変化を嫌う者が現れ、徒党を組む事は少なからず現れる・・・。

野党達も生きる為にやっている事、とは言えども巻き込まれた者はたまったものではない。そのような事になれば救わねばならない、剣士はそう考え、腰に挿す鉄の長剣を握る・・・。

 

剣士は山の合間に流れる川沿いの道を往く、アグストリア領はもうすぐとまできた時に、先ほど感じた殺気が近くまでに及んできた事を察した。

(どうやら、穏やかにアグストリアには行けないか・・・。)

 

剣士は川に目をやると、道から外れて川辺へと降りる。

すぐさま茂みから飛び出す少女に剣士は叫ぶ。

 

「こっちが浅い、渡って来い!」少女は一瞬立ち止まるが、風体で判断したのだろう。すぐさま指示通りの浅い場所を確認しながら再び走りだす。

対岸までたどり着いた少女の足は完全にもつれており、安心した事もあってか、剣士の胸を借りるように崩れた。

 

「わ、私・・・。」

「わかっている。」息も絶え絶えな少女に説明無用とばかりに左腕一本で彼女を支えると右手はすでに長剣を抜いて臨戦体制を取り、直後に水を踏みしめるように追っての野党が姿を現す。

 

「・・・随分物々しいね。女の子を口説くにしても、それじゃあ交渉にもならんだろう。」

 

「交渉だあ?俺たちは奪うしかしねえよ!」

 

「・・・そうか。じゃあやっぱり見たまんまお前達が悪党で、この子は追われている可哀想な子でいいんだな。」

 

「こいつら、私のこの剣を狙ってるの!エバンスの酒場で剣舞に使ったんだけど、そっからずっと・・・。」少女が見せる剣は確かに普通の剣ではなく、魔法の剣である事はすぐに見切った。

 

「・・・剣、ねえ。命には変えられんだろう、奴らに渡す事は考えなかったのか?」

 

「渡すものか!・・・この剣は、私にとって・・・。」ぎゅっと柄を握った少女には涙が溢れていた、剣士はフッと穏やかになりその柄の手に添えた。

 

「いい剣だ、これからも手放すなよ。」と少女に告げると剣士は一歩前に出る。

 

「お前たち、これ以上進むなら俺が相手になろう。」

 

「けっ!気取りやがってー!」野党達は一斉に獲物を振りかざす。剣士は瞬時の襲いかかる人数、速度、獲物を目で捉えると構えを取る。

初めに振り下ろされた斧に突進して間合いの内側に入っめそのまま胸を刺突し、そこから横薙ぎで斧使いの胸を切り裂いて隣の剣を持つ男を一緒に切り裂いた。その剣には一瞬、青白い閃光が走る。

 

「なっ!」

「げえっ!」瞬時に二人を斬り殺されて、野党達も只者ではないと動揺し、攻撃を中断する。

 

「どうした?諦めるのなら引き返すのだな。」

 

「・・・いいのか?俺たちにこんなことしたら、夜もおちおち眠れなくなるぜ。」

 

「脅迫のつもりか?」剣士は戦気を放ちながら睨む。

 

「・・・脅しと思うな、俺たちは仲間をやられた報復するのが掟だ!」

 

「随分な仲間意識だな、善悪のつかない連中が仲間の報復?聞いて呆れる。」剣士の闘気に殺気が加わった途端、攻撃的なオーラが野党どもの肌に冷たく刺さり出し、言いようのない恐怖を与えて後退りさせる。

 

「なら、お前たち全員この場で死体にしてやる。」剣士から立ち上がる闘気に竦む者まで出た、彼を怒らせてしまった事で彼らの生存は限りなく低くなったのである・・・。

 

それは一つの流れ星、居合わせた少女の感想である・・・。あっという間に敵陣の間合いに切り込むと数人を切り捨て、敵が切り込んだ時には間合いの外・・・。そして回り込み、再び間合いに入る。

野党共の力では彼を図る事はできない。彼らからしれば人外の者と戦っているように思うであろう、それほど剣士に秘める力は凄まじかった。

川はあっという間に赤く染まり、川底に沈んだ野党達が再び川面に出る事はなかった。

剣士は血糊を振り払って鞘に収めると吊り上げた眉を戻して少女に向き合う。

 

「怪我はない?って、無駄か・・・。」剣士は頭をかいて苦笑する。

この惨劇に彼女は気を失い崩れ落ちていた、気丈な娘とは言え耐えられなかったのだろう・・・。

 

 

・・・

・・・・

・・・・・

 

 

「おい、すまないが起きてくれないか。」意識の遠いところか声が響く、少女は飛び起きた。

 

「・・・!」彼女は草むらに流されていて、体には剣士の外套がかけられていた。辺りを見渡すとすっかり日も傾き、夕闇へと転じていた。

 

「起きてくれたか・・・。」先程助けてくれた剣士が安堵したように、竹筒を渡して水分補給を促す。

 

「ありがとうございます。・・・その、気を失ったみたいで・・・。」

 

「いや、私も配慮が足りなかった・・・。

・・・それよりも山の様子がおかしい、起きれるようなら早くアグストリア領に向かおう。」

 

「えっ・・・!わ、私は・・・・。」少女は困惑する。

 

「君の行き先とは違うかもしれんが、ヴェルダン領ではこのあたりには警備兵はいない。今はすまないがアグストリアへ避難しよう。」剣士の説得は正当な理由だった。山にまだならず者が潜んでいるのであればこの辺りは連中のテリトリー、夜になれば一気に強襲してくる事は確実であった。

少女は急に山から吹く風に身震いをし、こくりと頷いた。

 

 

少女と剣士は早歩きでアグストリアへの道を急いだ。

先遣の野党数人と接触したが、剣士の圧倒的な力の前に十分とかからず地に伏せた。

 

(この人、強すぎる・・・。何者?)

少女は走りながら、前を走る剣士の素性に関心を持つ・・・。年齢は自分とそう変わらない、身長は高くて痩身。目は穏やかだが、対峙した瞬間に内に秘める闘気を爆ぜさせて静と動を入れ替える。

夕闇につれて、時折刀剣が月明かりを反射させたかのように青白く光るのがわかる。そして、青白く光る時は野党の武器ごと身体を切り裂いていた・・・。

 

「止まれ!何か、くる!」剣士は少女を静止し、その先に潜む者を視認する・・・。

いや、潜んでいなかった・・・。その先にいる者は野党の首を左手に二つ持ち、右手には漆黒の剣を携え山の獣道から降りてきた。

 

「お、お前は野党どもの一味か?」

 

「・・・俺は、ヴェルダンの食客・・・。

ヴェルダン王から、山狩りを依頼され、動いている。」

 

「・・・そうか、お前が噂に聞くヴェルダンの凄腕剣士か・・・。その黒い剣に黒いローブ、そしてその黒髪・・・、噂通りだ。」黒剣の剣士には全く覇気を感じられないが、眼光だけは妖しい光を放っていた。

 

「お前こそ・・・、何者・・・?」

 

「私はイザークのスカサハ、故あってアグストリアに向かう最中にこの娘が賊に襲われている所で手助けした。」

 

「・・・そうか、じゃあ俺の敵じゃない。・・・早く行け、・・・奴が、くる・・・。」黒剣の剣士はスカサハが来た道の先に視線を移した。馬蹄の音が響きスカサハの耳も捉えた、振り返ると一騎の馬が跳躍し黒剣の剣士に斬りかかった。

 

ガキィ!!黒剣の剣士は凄まじい突進からの振り下ろしを見事に身の捻りの反動を使って捌いた、それでもその衝撃は凄まじく砂煙を巻き上げながら弾き飛んだ、黒剣を地面に突き立てて衝撃を止める。手にかなりの衝撃があったのか、立ち上がると手をふらふらと振っていた。

振り下ろした騎士は黒剣の剣士を見据えていた。

 

「貴殿よ、問答無用で相手に斬り付けるのは些か不躾ではないか。」

スカサハは黒毛の馬に乗った騎士に問いかけた。

 

「驚かせてすまない、・・・その男と多少の因縁があってな。」大剣を一度振るとスカサハの視線に向き合った。

金髪、精悍かつ端正な整いを見せる騎士・・・。その男の正体は黒剣の剣士の呟きで判明する。

 

「黒騎士のアレス・・・。お前、しつこい。」とてつもない速度で間合いを侵食した黒剣の剣士は騎士と同じ高さまで飛び上がり横薙ぎを振るうがアレスはその速度の剣を大剣で受けて振り払う。その力を剣で受け流し、その場で身体の回転で流しその場で止まる事に成功、黒剣の剣士は回転を利用しての唐竹割の一撃で還した。

 

ガキィ!!

再び大きな剣戟が響き、夕闇に火花が激しく散る。

アレスは大剣では第二撃に受ける事が出来ないと察知して、左手に仕込んだ手甲で黒剣から防いだ。

 

「チッ、・・・いい防具だ・・・。」黒剣の剣士は一度着地して嫌味を吐く。

 

「相変わらずの身のこなしだな、黒曜剣のラーズ・・・。」アレスは睨む。

 

「黒騎士アレスと、黒曜剣のラーズ。どちらも聞いた事があるが、敵対しているとはな・・・。」たった一瞬の斬り合いにスカサハは一筋の汗を流す・・・。自分の技量を測り自分を投影した時、命を保てただろうか・・・。思考を巡らせる。

 

「ラーズ、前にも聞いたが答えろ!

お前が以前手に入れた剣、あの剣を俺に見せろ。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「穏便に話し合いたい、貴様も俺とやり合いたくはないだろう。」アレスは大剣から槍に切り替える。

騎馬の機動力と槍の間合いでは、いかに素早い動きと身のこなしでもラーズの分が悪い・・・。これはアレスの警告なのだろう。

 

「あの剣は俺の探している剣かもしれぬのだ・・・、もしそうなら俺以外の者は扱えん。所望するならそれなりの礼はするつもりでもある。

・・・それでも話を聞く気はないのか?」

 

「・・・・・・・・・。」ラーズは答えない。彼がなぜ頑なにアレスの提案に反応がないのか計り知れず、アレスの言いようのない苛立ちに変わる。

ラーズはその不利にもかかわらず、アレスに突進する。

 

「ふっ!」アレスは迎撃に槍の一閃をラーズに放つ、彼は地を這うように前傾姿勢で槍を掻い潜り背後に回り飛び上がり背中に向けて袈裟斬りする、その速さにアレスは騎馬を旋回させる時間を与えない。

が、アレスは槍を手放し先程収めた大剣を引き抜いて袈裟斬りのラーズの速度に追いついた。

三度剣と剣が打ち鳴らされたが、アレスの行動はその次を狙っていた。

彼はラーズの握った剣ごと左手で掴むと、この場から離れる事を拒否したのだ。

 

「これでひらひらと距離はとれん、お前の負けだ。」アレスはなんと大剣まで手放して右拳の正拳突きをラーズの左頬に突き立てた。

 

「がはっ!」ラーズは思いもしない反撃に彼も黒曜石の剣を手放してしまう。アレスはそのままラーズを自分の馬上に乗せると、次は強烈な頭突をラーズに見舞った。

鈍い音がスカサハの耳に響く、その音はまるで頭蓋骨が砕けたのではないかと思える程であった。

ラーズはぐったりし、意識を失った・・・。

 

「なんて無茶な・・・、型破れにも程がある。」スカサハはラーズを馬上から受け取り、アレスに問いかけた。

 

「我流で戦場を生き延びてきた、俺に型などない。」アレスは馬から降りるとスカサハにラーズの見受けを求める。

 

「・・・私があんたたちの話し合いの仲介をしよう、さっきの押し問答では話が進まんだろう。」

 

「・・・すまんが、頼む。」アレスとスカサハ、そして事態に追いつかず戸惑う少女。そしてラーズ・・・、彼らの運命も動き出していくのである。

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