ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(下巻) 作:Edward
四人は山間の夕闇に包まれてしまい、その場で仕方がなく野宿となった・・・。
野党共の襲撃を考えたが、ここにいるメンバーは名のある騎士に剣士が二名、対応できると踏んだのだ。少女は食事を取ると疲れからか名乗ることも出来ずに寝てしまっていた、それにラーズも・・・。
「アレス殿、しかしながら手厳しいな。
ラーズ殿の剣を所望するにしても、手加減無用では殺してしまうぞ。」アレスへ素焼きのカップに湯を注いで渡す。
「奴はそんなにやわな男では無い・・・。」アレスは一口含むと、ほうっと息を吐く。
「彼の持つ黒曜石の剣、かつて地獄のレイミアと言われた傭兵が持っていたそうだが・・・。」
「博識ではないか・・・。ラーズはレイミアの一人息子だ、経緯は知らんが血の繋がった息子らしい。」
「地獄の剣士復活か・・・、アレス殿の型破りの攻撃にラーズ殿も力を発揮できなかったのだろうな。」
「剣士だろうが、騎士だろうが、俺に勝てるやつなどいないさ。・・・スカサハ、お前にもな・・・。」
「・・・ラーズ殿が勝てなかったアレス殿に、私などに勝機はないだろう。」スカサハはアレスの刺すような視線にやんわりと返す。そしてアレスはフッと、笑った。
「ラーズよりお前の方が一段上と見ている、俺の目は狂っているか?」
「・・・死闘の戦いでは実力の差が勝敗には左右せぬだろう、それはアレス殿も理解しているではないか?」スカサハは湯を飲むとその場に置く、彼の目は一瞬優しい目から剣士の目と変わり気迫を感じる。アレスは肌に刺さる闘気に自分の目に狂いは無いと踏んだ。
「・・・返せー、俺の剣・・・。」ラーズもまた、スカサハの闘気に反応に意識を戻す。そして手足を縛られて、木に巻き付けられていた。
「すまん、立派な剣で見惚れていた。ここに置いておこう。」スカサハは縛られた木の隣に黒曜石の剣を置き、ラーズに問いかける、
「ラーズ殿、君も愛刀が人に渡るのは嫌だろう。少しはアレスの話を聞いて、君が手に入れた剣を見せてやったらどうだ?」
「・・・・・・・。」ラーズは下を向いてしまう、アレスはラーズに詰め寄ろうとするがスカサハは制止する。
「君の手元にはもう無いのか?」
「・・・・・・。」ラーズは小さく頷いた。
「どこへ・・・、売ったのか?それとも誰かに渡したのか?」
「・・・・・・渡した・・・。」
「誰に・・・。」
「・・・・・・・・・。」再びラーズは沈黙する。・・・どうも彼は言葉をうまく伝えるのは苦手なタイプらしく、スカサハは辛抱強く待つ。何度となく、アレスがやろうとするがスカサハは目で止めていた。
「湖の・・・、女神に授けた。」
「え?・・・女神・・・?」
「ふざけるな!女神?大概にしろ!!」アレスの怒号にラーズは再び俯いた。
「・・・・・・珍しい剣を手に入れた。でも、アレスの言う通り、使える事、出来なかった。
神の剣と思った俺、神に返そうと、湖の女神に、祈って、返した。」
「・・・ラーズ殿、湖の女神にあって返したのか?」スカサハの言葉に首を縦に振る。
「湖の女神は、ヴェルダンの森深くにある、湖に、住んでおられる。
・・・だから、祈って、湖に沈めた・・・。」
「貴様!」ラーズの言葉にいよいよ激昂したアレスは縛られたラーズの胸ぐらを掴む!
「案内しろ!それはおそらく俺の探している魔剣ミストルティンだ!!
父上と共に失った魔剣を求めて、俺はようやくここまで来たんだ。」
「魔剣、ミストルティン・・・。貴殿はエルトシャン王の子であるのか?」スカサハの言葉に頷く。
「・・・エルトシャン王の御子息、ずっと我が主君セリス様がお会いしたいと言われてました。」
「セリス!・・・スカサハ、お前の主君はセリスか!
俺は小さい頃から叔母上とフィンの話を聞いて育ってきた、聖戦士シグルドとその仲間たちの絆は、俺の胸を躍らせたきた。
・・・父上とシグルドは無二の親友で、俺の憧れだ。」
「はい!セリス様も、エルトシャン殿の御子息には是非お会いしたいと常々言われておりました。お会いでてきて光栄です。」
「そうか!それなら尚の事ミストルティンを手に入れなければな。
・・・今、レンスターは決戦に向けて準備をしている。
父上達と縁深いキュアンの息子リーフが、最後の決戦の準備を進めている。レンスターを急襲して、アルスターとメルゲンを突破すればセリスのいるイザークを挟み撃ちにできる、と考えている。」
「・・・しかし、アルスターは。」
「ブルームがいる、奴にトールハンマーがある以上勝ち目はない。リーフもわかっているが、俺たちの拠点を見つけられ、襲われたら勝ち目はない。・・・だから俺はそうなる前にミストルティンを手に入れてブルームを倒す!それが目標だ。」
「・・・ミストルティンを手に入れられればアレス殿は正式にエルトシャン王の子として認められ、アグストリアを動かす事もできるのではないか?」
「・・・・・・。」アレスは饒舌に語っていた口が一瞬にして貝のように閉じてしまう。
「スカサハ・・・、それ、禁句・・・。こいつ、アグストリア王、殺そうと、考えている。」
「なっ・・・、それは穏やかではないな。」
「昔、こいつの、父親、シャガールに、囚われた事、恨んでる。
今、善人に、なっても、気に入らない、と考えてる。」
「ラーズ!・・・それ以上言うな!」アレスの怒気にラーズも黙る。
大きく息を吐いて、平静を取り戻すとアレスはスカサハに向き直る。
「ラーズの言う通りだ。今の俺がシャガールに会えば、間違いなく奴の首を地に落とすだろう・・・。
スカサハ、お前はアグストリアに行くと言っていたな・・・。お前の目的を聞きたい。」
「・・・私も、貴殿と同じだ・・・。父親の剣がアグストリアのマディノにあると聞いてな・・・、セリス様の大望を果たす為にその剣と共に歩もうと思ったのだ。」スカサハの言葉に意外にもラーズが反応する。
「・・・マディノに眠る、白銀の、大剣・・・。大理石に嵌って、17年、誰にも抜けない、剣か?」
「ラーズは知ってるのか?」スカサハの言葉にラーズは頷く。
「腕に、覚えのある奴、腕力自慢、みんな、挑んだ。・・・でも、ぬけない、・・・まるで、剣が、引き抜く者を、待ってる、みたい。
スカサハ、あの剣、お前が、抜く?」
「・・・私に、抜けるかどうかはわからない・・・。その場に立てば、何かを感じ取れると思っている。
母と俺たち姉弟を守る為に・・・、父はその剣と共に散った。
・・・父は、命を懸けて親友に切られる立場をとった。
父がその親友と共に行けば、シグルド様の立場が悪くなる・・・。
表立ってイザーク出身の父がシグルド様に阻めば、イザークの残党とシグルド様は敵対していた事になり、俺たち親子のスケープゴートができると考えたのでないか、と・・・バイロン様が仰っていた。」スカサハの言葉にアレスは初めて穏やかな顔に変わる。
「・・・お前の父も、大した御仁だな。・・・誇れよ。」アレスは湯の入ったコップをスカサハに掲げる。スカサハは一瞬判断が遅れたが、アレスの敬意を感じ、自身のコップと併せた。
二人はにっと笑うとその湯を一気に飲む、訳がわからないラーズは首を傾げるだけだった。
「ならばスカサハ、お前はこのままアグストリアに行け。
この女はどこに向かおうかわからんが、とりあえずアグストリアではないと言っていたのなら俺が預かろう。
ラーズ、お前は剣の捨てた所へ案内しろ。」
「捨ててない、女神に、捧げた。」
「わかった、わかった!その場所へ案内しろ!」
「バチ、当たっても、俺、知らない。」
「返してもらうだけだ、女神も持ち主に返すなら文句は言わん筈だ。
・・・スカサハ、剣を抜いたらアグスティに来てくれないか?」
「構わんが・・・、どうした?・・・!まさかシャガール王との一騎討ちを立ち会え、とか言わんだろうな・・・。」
「そんなつもりはない!
・・・お前の話を聞いたらそんな気は失せた。あんな小物でも、今は賢王と言うではないか・・・。お前は俺を止める鞘になれ、・・・わかったな!」アレスは突然、早口でスカサハに伝えるとシーツを取り出してその場で寝転がる。
「火の番はスカサハだ!交代したくなったら起こせ!寝るぞ。」
アレスはそういうと、一瞬にして寝息をたて出した。
唖然とするスカサハとラーズ、目が合い少し笑う。
「スカサハ、逃げないから、そろそろ、解いて・・・。」その言葉にスカサハは笑うのであった、解かれている最近にラーズは呟く。
「スカサハ、お前強い、俺、もっと鍛える。」アレスの言葉を聞いていたようであった・・・。
グランベル公国、皇都バーハラの地下で秘密裏に作られたロプトウス教会・・・。マイラの血筋である皇帝アルヴィスは、彼らを利用する為に許した唯一の場所であるが。彼すらも知る事のない儀式が日々行われていた。
今日もまたアルヴィスの知るところではない闇の儀式を行い、ロプト教団にとって重要な人物の召喚に勤しんでいた。
ここまで秘密裏に子供をさらい、暗黒神に捧げ続け、ようやく成就する。怪しげな魔法陣より這い出るように現れるのは、彼らの最高司祭である。
「おお、マンフロイ様!ご快癒おめでとうございます。」
「・・・バランか、お前も復活したのだな。」
「はい、一年ほど前に・・・。カルトの小僧め、まさかあの時仕留め損なった奴がここまでとは・・・。」儀式用に用いていた杖を真っ二つに折ってしまう、憎しみが顔中に溢れていた。
「奴だけは私の手で殺してやりたかったが、奴ももう生きていないと聞きまして口惜しいばかりでございます・・・。」
「儂がいない間の事を聞こう・・・、何年経っている。」
バランとマンフロイは今までの経緯を語り出した。
・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・
「なんて事だ、扉は手に入れたが鍵を失うとは・・・。
フレイヤまで失っては最終手段のヌルを制御できぬ、儂がいぬ間にここまで戦力を失っているとは・・・。」マンフロイは驚き、落胆する。
「しかし、鍵の在りかは存じております。
それさえ手に入れれば扉は手の内・・・、我らの悲願はもうすぐそこです。」
「しかし、今まで手に入れることが出来ずに17年も経っているではないか!ううむ・・・。」マンフロイはバランを叱責し、思案する。
「こうなれば、私がヌルを呼び起こします!儂とてマンフロイ様に次ぐ者、少しは魂も保ちましょう。」
「いや、やめておけ。儂の魔力でもヌルの制御など1時間も持たず魂を食い尽くされるだろう。・・・魔力よりも、奴と波長が合わなければならんのだ。」
「我らの内に、強靭な魂と魔力を持ったものがいれば・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・,。」
二人は沈黙する・・・。この十数年鍵を手に入れる為、かなりの人員をシレジアに送り鍵の奪取に活動したが全て不発に終わっている。
ロプト教団はこれまで扉を得る為に活動する為に大きく動いてきたが、活動すれば体内の魔力を消費する。
ロプト神の復活していないこの世では、魔力の回復には儀式による生贄により人々を直接恐怖を与えてその負の感情と刈り取った生命から得るしかない・・・。だからといって表立って子供をさらえば人々はロプト教団の存在に気付いてしまう・・・、細々と活動するしかなかった。
「儂は何を見落としているのだ・・・。バランよ、ユリウス殿下を連れて来い。」
「え、ユリウス殿下?しかし・・・。」バランはマンフロイの意図を読めず狼狽る。
「ばか者!なぜ気付かんのじゃ!!ユリウス殿下はロプト神の化身、ヌル程度に魂を喰われる訳がない。逆にヌルを支配下に置き、一時的にロプト神の化身として復活するかも知れん!」マンフロイの提案にバランは嬉々とする。
「はっ!早速手配します。」バランはふっとその場から消えていくのである。
「ふふふ、これで世界は再び暗黒の時代が来る・・・。」マンフロイの悪魔的な思考と発想により再び世は闇へと誘われていく・・・。
バランは奇しくもアルヴィスが17年前に即位した日を狙い、祝賀のどさくさに紛れてユリウスの地下教会に誘い、サークレットを装着された・・・。その後ユリウスは、自身を脅かすナーガの血筋に手を掛け、自身の力を求めて根源であるシレジアへと向かった・・・。
・・・・・・
・・・・・・・
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「ミツケタ・・・、ワガタマシイ・・・。」ユリウスの魂は既に自身の奥深くへと追いやられ、ヌルの魂と内に秘めているロプトウスの地が共鳴し、肉体を支配された。
アミッドとリンダはそのユリウスの前に倒れて昏倒する。ユリウスにはその二人には眼中になく、ひたすらに山脈の一角へと足を運び続け、ついに封印の地である一本の大木の本まで辿り着いた・・・。
フュリーの気持ちにより、その後小さな社が建てられたが中身は何の意味もなく、その地下にロプトウスの書を封印する為に二人が眠っている。
ユリウスは忌々しく顔を歪めると、天空に手をかざした。
シレジアの地で、セティの魔力で守られたシレジアにメティオを完成させると社に叩き落としたのだ。
轟音と共に社は破壊され、瓦礫は火柱を上げて焼却されていく・・・。
「フフフ・・・。ワガモトニキゾクセヨ!」ユリウスは燃え盛る社の瓦礫にも気にせず、露出した魔法陣へ入ると拒絶するかのように白く輝き、ユリウスは苦痛に歪める。
「グワァ・・・。コレハ、ナーガノチカラカ!シカシ、コノテイドデ・・・。」ユリウスは地面に手を当てると抵抗を始める。
・・・・・・
「ウインディ、どうやら俺たちの封印はここまでのようだ・・・。」
封印の内部、精神世界が崩落を迎えて一人の青年が瞑想から醒めると呟いた。
虚空の空から巨大な怪鳥、ヴェルダンでは神の使いとされる白いファルコンが降り立つと、人間の少女に姿を変える。
「17年、人としてよくこの封印を保ち続けたな。
・・・儂に任せて天界の使者の誘いを受ければ良い物を・・・。」
「俺は人としてここで死ぬと決めた身、皆に任せて人を辞めることなどできません。
・・・ここの封印が解かれたら、貴方様だけは逃げてください。」
「・・・小僧が儂に指図するなよ、儂の命は儂が決める。
・・・お前はどうする気だ?」
「おれは・・・」青年がウインディに伝えようとした瞬間空間が歪み出す、それはこの封印の終息を意味していた。ウインディは口の動きで青年の言葉の意味を知り、深くため息をついた。
「やれやれ、先代のヘイム殿は茨の道ばかりを選ぶ・・・。
今更奴には追いつかぬし・・・、儂は暫しの眠りにつくか・・・。」ウインディは崩壊する封印の空間から光となり消えていくのであった。
・・・・・・
魔法陣はガラスが砕けるように破算し天に昇っていく中で、ユリウスは黒い聖書を手にしていた。
先程まで狂気に歪むユリウスの顔は穏やかになっていたが、目を開けた瞬間にそれは違う物に変化していた。狂気の炎に包まれていた瞳は、全てを凍てつかせる冷たさを放っていたのだ。
「ふふふ・・・、ははははは・・・。
ようやくだ、ようやくここまで戻ってこれた・・・。
全ての人々、絶望せよ。昏い未来はもうすぐだ。」ロプトウス復活、大陸に最大の厄災が再び訪れようとしていたのであった・・・。