ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(下巻)   作:Edward

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早春

シレジアの春、雪融けそうそうにトーヴェ南の森林地帯で大規模な戦闘が始まった。

フリージ軍に対するシレジアの敗残兵と、トーヴェを統治していたかつてのシレジア軍が合流し、最後の一戦に臨んでいた。ここで敗走すれば、シレジアには反攻する勢力は全て失われて事実上シレジアは名を歴史の中でしか残せなくなる。

フリージ軍を指揮するイシュトーの部隊はシレジアのほとんどを制圧し、元シレジア市民に重い重税をかけて苦しめた。その収益を本国に送る為、元シレジアには経済の循環を失い、時間を追うたびに国は貧しくなっていく。

しかし、それはイシュトーの意思ではなかった・・・。グランベル本国の皇帝陛下よりの勅命である為、イシュトーには抗える筈もなく失望する。

以前までの陛下は属国であろうとここまでの重税を課すような方ではなかった。数ヶ月前の勅命以降陛下の属国への圧政指示は日に日に酷くなり、イシュトーですら躊躇する程であった。

それ故に人々の抵抗も激しくなり死者が出るまでになる・・・。捉えた罪人は本国に送る命令が出るが、送った罪人がシレジアに戻る事もなかった。

トーヴェの南西部、川と林に挟まれた場所で両軍が激突した。

反乱軍には飛行部隊が多く先制は有利であった、しかしフリージの強大な軍事力に反乱軍は押し返される。

地の利のシレジアと、強大なフリージ・・・。勝敗はどちらに傾くか、・・・それは各国の密かな注目の的であった。

それはシレジアには沢山のカルトとシグルドの財産が遺っているからだ・・・。

カルトの子であるアミッドとリンダ

カルトの親友アゼルが遺した、アーサー

カルトを心から信頼したフュリーの娘、フィー

カルトの運命を信したクロードの一子、クラリス

そして運命を争い、得た辛苦より得た仲間の子供達であるレティーナとティーダ

彼らがこの危難をどう払うのか?前世代から生き残った者達は注視していたのである・・・。

 

フリージはゲルプリッター不在とはいえ、その厚い軍備層は準勢力で

も他国を攻める力を誇っていた。

イシュトーの部隊は彼を中心によく統率されており、正面から当たれば残党であるシレジア軍は敗色濃厚である。

しかしながら、この戦いは退くことの出来ないシレジア軍に宿る猛烈な士気の高さが、フリージ軍の物量を超えていた。

殿で指揮をとるのはティーダ、彼女には軍師としての才能があり前線が崩壊しない限りは出張る事なく戦局を見極める。

前線にはレティーナとアミッドがアタッカーとなり、中衛にはリンダとフィーが、後衛には回復にはクラリスがティーダの指示のもとで動く・・・。

針葉樹の森と平野部が乱立し、山脈から流れる幾重もの川でイシュトー軍の混成軍の進軍を阻む中、レティーナの天馬部隊が空中から急襲する。

今まで物資不足を考えて温存していた物資を今回は存分に投入、レティーナは天馬部隊の使用として珍しい手斧を投げつけた。もちろん彼女以外は手槍を使う・・・。

 

「急襲ー!魔道士隊エルサンダー準備!!」

前線部隊長が応戦態勢に空中にいるシレジア天馬部隊に魔法で応戦を呼びかけるが、魔力に反応して針葉樹の森から待ち伏せをしていたアミッドの魔法戦士部隊とフィーが受け持つシレジア騎馬部隊で切り込んで一気に混線と化した。

フリージ軍のエルサンダーと、シレジア魔道士隊のエルウインドが飛び交う中、地上ではフリージ軍は重装歩兵団と魔道士部隊が主な戦力で機動力ではシレジアが有利であるが、シレジアの制空権を支配する天馬部隊がそれを阻んだ。

両軍の戦いは徐々に持久戦の削り合いになり、数の少ないシレジア軍は不利と感じて早々に決着をつけようとアミッドとレティーナが前線に立ち始め、事態は動く。

イシュトーとライザが前線に躍り出てきたのだ、数で押し切れる状況に指揮官が前線に出てくる事などあり得ない・・・、咄嗟に各部隊の指揮官が攻撃を一時停止させて距離を取った。

 

「ふふふ、臆したか・・・。正面から戦えば勝ち目がないから出張ってきてやったが、勝機を逃すなど具の骨頂・・・。

行くぞ!!」イシュトーとライザを先頭に、先程まで統制されていたフリージ軍が攻め一辺倒の消耗戦に切り替えたのだ。

一瞬臆してしまったシレジア軍の指揮官達に、形勢を立て直す程のカリスマはなくフリージの突貫を受けて不利に傾き出した。

 

「どこだ!どこにいる!!」イシュトーとライザは先陣を切って空駆けるペガサス部隊にエルサンダーを打ち込み、襲いかかるペガサスの槍を巧みに交わしながら長剣でカウンターを見舞う。仕留め損ないはライザが完璧なフォローでエルサンダーの追い討ちをかけ、追撃の一撃をイシュトーがニの太刀で仕留める・・・。

2人は互いにフォローし常に先頭を突き進んだ、それに呼応する様にフリージの魔法戦士部隊はその本領を発揮していく・・・。

 

「イシュトー様、上!!」ライザの珍しい警戒に確認せず後退しライザが前へ出る。ペガサスから繰り出されたハルバードの重い一撃が見舞われライザの剣が折れ、さらに吹き飛ばされる。イシュトーが彼女を受け止めると、破壊された剣の端で負った顔へのかすり傷をライブをかける。

 

「ちっ!」舌打ちをする力自慢のレティーナ、すぐさま旋回して再度の一撃の準備をする。

回復を施されているライザがエルサンダーを放とうとした時に、フィーの鋭く放たれた手槍の投擲が的確にライザを阻害する。

ライザはエルサンダーを手槍に向けて手槍は推進力を失うが、ライザと横にいるイシュトーにエルサンダーが頭上に落ちた。

 

「よっしゃー!トドメだー。」土煙が舞う中、レティーナは再び特攻する。

彼女の目には土煙の不自然な動きを捉えて目星をつけていた。

 

「あっ!レティーナ!駄目よ!!」ティーダは彼らには雷の攻撃に対しては特に魔法防御が高いと踏み足止め程度にしか考えていないが、レティーナは先走った。フィーも危険と感じて手槍を投擲する、彼女の狙いは正確でレティーナの頭上すぐを追うようにして同じ対象物を狙う。

 

「トロン!!」イシュトーのトロンが追い越したフィーの手槍も破壊してなお突き進み、レティーナのペガサスごとを穿った。

かなりの深傷を負い、意識をなくした人馬は魔法陣に包まれ、姿を消す。

 

「リカバー」いつの間にかイシュトーの見える位置までやってきていたアミッドとリンダにより救出され、回復を施される。

 

「・・・あの女か?レスキューにリカバーを一人で・・・。」イシュトーの言葉に副官のライザは静かに頷いた。

 

「・・・リンダ、すまない・・・。」レティーナの謝罪に無言で微笑み治療を施すリンダ、その横にいるアミッドは切らすことのない緊張を保ち、妹を気遣う。

 

「治療は一人で事足りるか?」

 

「致命傷ではないわ、大丈夫。・・・にいさん、気をつけて。」

 

「ああ・・・。」

アミッドとイシュトーは互いに見据え、対峙する。

 

「貴公がイシュトーか、随分我が物顔でシレジアを荒らしてくれた報いを受けてもらおうか・・・。」

 

「ようやく現れたか、俺は以前からお前達に会いたいと思っていたところだ。」アミッドの挑発にも乗らずにイシュトーのかけた言葉にアミッドは踏みとどまった。

 

「なに・・・。」

 

「アミッドにリンダ、お前達は俺達に着け。こんなシレジアの残党どもと一緒にいても、滅びる運命だ。

お前達と俺に流れるトードの血で、グランベルを大きくするのだ!」

 

「・・・・・。」

 

「何を躊躇う?よかったらお前の仲間も一緒に来るがいい。ティニーに会いたくはないか?」

 

「黙れ!これ以上貴公の戯言に耳を貸す時間はない。

・・・俺を説得したければ、俺を倒してからだ。」アミッドの体から魔力が溢れ出した、その戦闘態勢にイシュトーとライザも呼応する。

 

「エルサンダー!」二人の速攻の中級魔法がアミッドを捉えるが、頭上で向きを変えて落雷する。

 

「なっ、なんだ?」二人の驚きを他所にアミッドは剣を抜くと、ライザへ振りかざした。ライザはすぐに立て直してその剣を自身もとっさに剣で受ける。

そのまま二人は互いの隙を伺いつつ剣を交え撃剣が響く。

 

「ライザ、待ってろ!・・・エルサンダー!」イシュトーが支援のエルサンダーをアミッドに浴びせるが再び直撃する直前に向きを変え、仲間であるライザに着弾したのだ。

 

「あああああ!」ライザはその場で悶絶し、両膝と両手をついて倒れる事はなんとか拒否した。荒い息を吐いて苦痛を隠すようにして耐える。

 

「終わりだ・・・。」ライザの首へ狙いをつけたアミッド、磨きあげられた白銀の剣が雪原の光を受けて鈍く光る。

 

「っ・・・。」ライザに振り下ろす剣を、イシュトーの剣が横合いから遮って受け止める。

 

「ライザ、すまない!退け。」

「すみません、回復します。」ライザは距離を置くと、ライブを施す。

 

「すぐ参ります・・・。」ライザは2人が鍔迫り合いの様子を唇を噛んで見つめた。

 

「いえ、あなたは私と戦うの・・・。にいさんの邪魔はさせません。」

ライザは振り返るとリンダが杖を携え、ライザの進路を塞ぐ。

 

「あなたが私の相手を?・・・いいわよ、5分で片付けてあげる。」

 

「・・・。」リンダは杖に魔力を送り始めるとライザは戦慄を覚える。放出する魔力は静かだが杖に帯びる魔力は尋常ではなく、無駄の無い魔力の運びに侮ってはいけないとライザの直感が働く。

 

「サイレス」魔法封じがライザを襲う。その魔力に抵抗できなければ己の内の魔力が変質してしまい、しばらく自分自身では魔法を操ることができなくなる・・・。ライザは精神を統一して放たれる魔力に抗う、気を抜けば一瞬で侵食され支配下に置かれてしまう。

2人の魔力と精神の削り合いとなる・・・。

 

 

 

イシュトーとアミッドは互いに力は同等と踏み、鍔迫り合いから身を引いて互いを伺った。

 

「心配しなくても部下は襲ってはこない、俺たちがぶつかったら他の連中から倒していけと伝えてある。

・・・お前とは、どんな形になるにしても、決着はつけたいと思っている。」イシューは不敵に笑う。

 

「戦場で一騎討ちを所望とは酔狂な事だな、感謝などせんぞ。」

 

「ふっ・・・。エルサンダーがお前に着弾しなかったのは風の魔法だな?真空を作り出して、自身の前を絶縁状態にした。

違うか?」

 

「ああ・・・、そうだ。俺にサンダーを当てたければ至近距離か、不意をつく事だ。」

 

「それこそ倒しがいがある。・・・いくぞ!」

 

イシュトーは長剣を振り抜く、アミッドはその波状の連続攻撃を受け捌いた。

連続に響く撃剣が2人の耳をつんざいた。イシュトーの下半身は素晴らしく、長剣を捌かれても上体がブレず、しなやかな上腕が即座に剣を引き戻し、下半身が錨に繋がれた船のようにその場に留まった。その繰り返しが連続攻撃へと繋がっていた。

その連続かつ連撃の度に重攻撃へと変わっていくその一撃にアミッドは徐々に捌ききれなくなっていた。

 

「くっ!」浅く入った横凪の一撃を二の腕をかすり、じわりと服から鮮血が浮かんで染みを広げた。

「はあっ!」横凪から引き寄せた剣が起動を上へ振り上げ、アミッドの頭上で振り下ろす。

 

アミッドはその瞬間、剣に魔法が帯びている事に気づいた。

(受けは、まずい・・・。)

 

「トールストライク!!」振り下ろされる剣はまさに雷神の一閃、刀剣からは雷の剣とは比較にならないくらいの雷が放電して音を発し、眩い閃光がアミッドに迫った。

ズドン!!

イシュトーの剣が雪原深く差し込まれ、地面の雪と大地は陥没して巻き上げた。あたりは雪と土壌で視界が奪われる。

イシュトーの耳に金属が空を切る音に反応して剣を振る。アミッドの反撃と思われたが、それはアミッドの剣の切れ端であった。

空中でアミッドの剣の切れ端とイシュトーの剣が再びぶつかると、アミッドの剣の切れ端は地面に落ちてガランと音を立てる。

イシュトーの剣には血糊が付いていて、振りかざした時にまだ踏まれていない雪に鮮血が滴り、赤く染める。

 

「はあ、はあ・・・。」右肩に左手を当てたアミッドが、深い呼吸をしながら現れる。

 

「頭部への直撃は免れたか・・・、勘のいいやつだ。」

 

「恐ろしい程の切れ味と、威力だった・・・。雷の魔法を剣技に応用するとは・・・。」

 

「・・・俺はトールハンマーを使えない、だから俺は姉上の剣になると誓った・・・。

俺の必殺剣の威力はどうだ?」

 

「・・・脱帽した。お前は、大した奴だ・・・。

・・・なのに、惜しい。」

 

「何?」

 

「惜しい、と言ったんだ。ここでお前を殺さねばならないのが、惜しい。」

 

「減らず口を・・・。」

 

「リカバー」右腕を深く抉られた傷口は、淡い光を帯びて凄まじい勢いで治癒されていく・・・。

隙だらけのアミッドだが、イシュトーはそれを妨害する気にはなれずにいた。

 

「お前の手の内はこれが全てか?もしそうだとしたら、お前に勝ち目は無い。

大人しく、引き上げるか自軍と合流したほうがいい。」

 

「愚弄する気か?」イシュトーの睨みつける目は少なくても怒りから発するものではなかった。

 

「お前を過小評価しているわけではないんだ。お前の人としての器、人徳、どちらにおいてもお前は生きるべきだと思う。

・・・お前の手の内が魔法と剣の合わせ技、であるならもうお前の攻撃は見切った。これ以上続けるのであれば勝ち目は無い。」

アミッドは右腕の状態を確認すると根本だけになり、短剣となった剣を持ち構える。

 

「そんな剣で、俺の剣を凌ぐというのか・・・、俺を馬鹿にした償いをとってもらうぞ!」

イシュトーは先程と同じく連続攻撃を仕掛ける。アミッドはその初撃を紙一重でかわし、短剣の突きを見舞う。

 

「うっ!」咄嗟に左手で短剣となった剣先を掴んで腹部へのダメージを避ける。短剣とは違い、もと剣であった根本あたりは切れ味が鈍く、

強く握っても指が飛ぶことはないと踏んでの防御であった。

 

「お前の剣の弱点は初撃の甘さだ・・・。」アミッドは、イシュトーの連続で降り注ぐ雷の如くの連続攻撃の初撃は打ち込みが弱いことを一度見ただけで見切ってしまっていた。

そして、握られた剣をアミッドは手放して腹部へ蹴りを入れる。

 

「グッ!」鳩尾よりせり上がる嘔吐を押さえつけ、無手となったアミッドに斬りつける。

がアミッドは再び、その剣を素手で受け止めを試みる・・・。

パキィーン!

ガラスの破砕音のような音が生じて剣が止められた。

 

「ば、馬鹿な!自分の腕を・・・。」イシュトーの前に差し出された腕は、アミッド自身の風の魔法の応用で腕に氷を纏わせたのだ。

その分厚い氷でカードに成功するが、そんな無茶をすれば重度の凍傷になり腕を切り落とさねばならない事もある。

イシュトーは驚愕を他所に、アミッドはその腕でイシュトーの頭部を殴りつける。

 

「馬鹿な・・・。」

鈍い音を立ててイシュトーは雪原に沈むのであった。

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