ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(下巻)   作:Edward

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二人の剣

聖都バーハラ、帝位を退いたアルヴィスはヴェルトマー公爵となり、都から去った。それからのバーハラは暗雲の日が続く・・・。

イシュタルはユリウスより与えられた一室から窓を覗き見る。

暗雲から覗く雷光が今にも地に落ち、雨嵐が吹き荒れる雰囲気にイシュタルはレースを閉じる・・・。

軽いノックの後、ユリウス皇子が入る。

 

「ユリウス様、ようこそおいで下さいました。」ドレスのレースを広げてユリウスを歓迎する、ユリウスの手をそっと引くと奥へ招いた。

イシュタルは奥よりグラスを二つ持ちワインを注ぐ、鮮やかな赤が灯りを反射し不敵に笑うユリウスを照らした。

ノッキングチェアーに深く腰掛け、ワインを口にする。

 

「シレジアが反乱軍に落とされたそうだ。」

 

「えっ!・・・ではイシュトーは?」ユリウスの言葉にイシュタルはワインを落としそうになるが気丈にも持ち直し、そっとボトルを置くと向き直った。

 

「捕らえられたそうだ。

要求もなく、交渉もない・・・。殺されたかもしれぬ・・・。」ユリウスの手振りにイシュタルの瞳は色を失い、その場で畏まる。

 

「申し訳ありません。イシュトーも軍人、命を落とす事は当然であります。しかし殿下の執権初戦で敗走などフリージ家の失態極まりありません。弟に変わりまして罰をお受けします。」イシュタルはユリウスの前で膝付く。

 

「よい、責めに来たのではない。

フリージ家にはまだまだ働いてもらわねばならぬ、この程度の戦で咎などない。」

 

「・・・殿下の懐の深さに感謝いたします。」

 

「反乱軍はシレジア奪回後、主要となる者達は他国の反乱軍と合流するために海路、陸路を使って移動を始めているそうだ。」

 

「奴らはどちらへ・・・。私自ら弟の生死を問いただして、地獄へ落としたく思います。」イシュタルの瞳に小さな炎が巻き上がっている事にユリウスは不敵な笑みを浮かべる。

 

「アグストリアか、イード砂漠か、イザーク辺りだろうな・・・。

まあゆっくり遊ぼうではないか、いい遊び相手ができた。

・・・イシュタル、俺の分も残しておけよ。」ワインを一気に煽る、気の昂りからユリウスからドス黒い魔力をまとい出した。

 

「ユリウス様・・・。」ユリウスの不気味なオーラにイシュタルは今まで何度となく震え上がっていたが、麻痺したかのようになり。

今は、何も感じなくなった。

感じなくなったユリウスを写す瞳は、もはや光を感じなくなったかのようにイシュタルの瞳は輝きを失っていた。

 

「ユリウス様は、まだ私を愛してくれますか?」イシュタルは下を向き、震える手を握って止めようとする。

その言葉にユリウスはロッキングチェアから立ち上がり、冷たい笑みを讃えながら歩み寄る。その笑みには温かみなど無い、イシュタルはその抱擁に会えて飛び込んだ。

 

「どうした?イシュタル、まだ抱かれ足りないのか?」

 

「・・・もっと、私を・・・。ユリウス様の色に、染めて下さい。」ユリウスはそっと、顎を持ち上げて口付けをする。

イシュタルは、上等な葡萄酒を飲んだかのように紅潮しユリウスの唇を求める。

 

「かわいい奴だ、もっと私の元に来い。お前は俺の特別にしてやる。」

 

「・・・はい、ユリウス様。」イシュタルは自分が堕ちていくのを感じる。争い、抵抗し、苦しむイシュタルの姿にすらユリウス様は楽しんでいる。

わかっていても、それをやめられない。

自身の破滅に向かっている、わかっているがそれすらも・・・。

抱き抱えられ、そしてベットに沈んだイシュタルの衣服に手を掛けるユリウス。その首に手を回し、自ら受け入れていくイシュタル。

ユリウスの冷たい瞳はもう誰にも温もりを与える事はできない・・・。イシュタルはそれも理解していた。

 

シレジアの奪回に沸く反乱軍。

首都では大きな騒ぎとなり、凱旋を讃えていた。

この度の奪還に大きな原動力となったのはセイレーンを取り戻し、シレジア攻略に向かう直前の援軍であった。

セイレーンの町がシレジア軍に戻り制海権を取り戻した事により、アグストリア王であるシャガールが同盟の盟約に兵を派遣したのだ。ヴェルダンのキンボイスもアグストリアに呼応して物資をオーガヒルを使って輸送した。

大きな支援に勢いの増したシレジア軍は進軍を始めて6日でシレジアを奪還し、ザクソンへ敗走するフリージ軍に追撃する様に潜伏していたザクソンの民間兵や、鉱山に立てこもっていた旧シレジア残党がザクソンを先に制圧。挟み込みを恐れたフリージ軍はリューベックまで退却する事となった。

グランベルではこの反逆にシレジア、アグストリア、ヴェルダンへの戦線拡大を宣言、暫し小康状態であった大陸が再び動乱を迎える・・・。

 

 

アグストリアではアレスとスカサハの目標である形見の剣を求めてアグスティへ赴き身分を明かすが、その場での謁見はせずシャガール王の提案でマディノで会談となった。

アレスの不遜な顔にスカサハは宥めながら従者の勧めの馬車に乗り、翌日の昼に謁見する事となった。

その日の夕方にマディノに到着し、城に一泊する。

 

大浴場を借りる事になった二人、体の汚れもすっかり落とし湯船へと身を沈める。

 

「おい・・・、シャガールは一体なんだってこんな片田舎に移動させた。意味がわからん。」

 

「きっと王には何か事情があるのだろう。・・・闇討ちを警戒したがそんな気配はない、明日を待つしかあるまい。」

 

「・・・今の俺たちなら、襲われるかもしれんがな。」アレスは立ち上がって丸腰である事を強調するかのようにスカサハの前に立ち、数知れない戦場で鍛え上げられた強靭な肉体を惜しげもなく披露する。

 

「確かに・・・。今の私たちでは逃げることしかできないが、シャガール王はそのような事はしないだろう。」

 

「なぜそう言い切れる。」

 

「アレスの命を狙うなら馬車で暗殺しただろう。死体の処理も困らないし、賊の仕業と言い訳をいくらでも立てられる。

ここ城内で起こればシャガール王にも責任が発生するだろう。

・・・安心していいはずだ。」スカサハの言葉にアレスは再び湯船に浸かり、足を投げ出して息を大きく吐いた。

 

「お前が俺の近くにいてくれて助かる、俺はそういう事を考えるのは苦手でな。」

 

「・・・私はあなたの相談役ではないぞ。」

 

「わかってるよ!」スカサハの背中をバシンと叩く、スカサハは驚いて咳き込んだ。しばらく咳き込むスカサハの姿にアレスの顔はふっと緩む、まるで憑き物が落ちたかのような表情にスカサハはさらに覗きこむ。

 

「・・・?」スカサハは怪訝な表情になりアレスの素顔とも取れる顔に懸案する。

 

「いやな・・・。お前がそんな風に思慮深いのは、支えるセリスの影響かな?と思ってな。」

 

「・・・いや、違うぞ!これは姉の影響だ!!セリス様は思慮深く、見通せる目を持っている。」スカサハの言葉にアレスの目は光る。

 

「そうか、姉の影響か・・・。話してみろ。」アレスの挑発にのったスカサハは即座に後悔する。今更アレスの好奇心は止められるはずもなく、諦めて語る。

 

「・・・ラクチェと言う。双子の姉だが、強くてな。

今まで一度も勝った事がない。」

 

「本当か!お前程の男がか!!」

 

「ああ・・・。」

スカサハには猛者の気配があるが自信が欠けているところが見えていた。自分を律し、腐らないスカサハだからこそここまでまっすぐ鍛錬してきたが、伸び悩んでいるようにアレスは感じていた。

だが、アレスにはそれ以上の好奇心が吹き上がる。

 

「やってみてえ!」

 

「・・・え?」スカサハの独白にアレスはもう何も見えていない、彼の戦闘意欲はスカサハの悩みなど頭にはなかった。

 

「お前程の男が勝てない女、剣を交えたい!そして勝って、優越感に浸りたい!」アレスの言葉にスカサハは閉口してしまう。

 

「スカサハ!予約しとけよ。俺に負けるまで、負けるんじゃないと伝えておけ!」アレスの言葉にスカサハは頭痛がする。

アレスの高笑いにスカサハは苦笑するが、本当な笑みに変わる。

 

(アレス・・・。君のような男に会えて、私の価値観が変わってしまいそうだ。)

 

 

 

翌日、マディノの謁見で対面する三人。

 

「アレス・・・、よくアグストリアに帰ってきてくれた。」シャガールはアレスの帰りを称えた、それに比べてアレスの目はシャガールを冷たく射止めていた。

 

「シャガール王、父に代わって俺はあんたを見定める為に戻ってきた。

・・・あんたは、父に誓ってこのアグストリアの尽してきたか?」

 

「・・・無論だ。」

 

「・・・・・・ならば、俺にこの国を明け渡せ。」アレスの言葉にスカサハは予想外を行き過ぎて言葉に詰まるが、シャガールはこの少ない言葉の応酬にアレスという人間を探る。その言動、イントネーション、表情から人間性を見出し、その答えを絞り出した。

 

「アレス、今のお前に渡すわけには行かぬ。

・・・今のお前には、父と比べても決定的に欠けている物がある。

それを見つけるまでは、アグストリアの入国も許さぬ。」

 

「・・・いいだろう。俺の欠けている物、必ず見つけてあんたを引き摺り落としてやる!」アレスの言葉にシャガールはようやく少し笑う。

 

「アレスよ。もっと世界を見て感じ、友を作り人に触れるのだ。

さすればエルトシャンはお前に語り始めるだろう。」シャガールは玉座の後ろから一振りの剣をアレスの前に掲げる。

 

「ま、まさか・・・。それは!」

 

「先の戦いで失われたミストルティンだ。」アレスは驚きを隠せない。

ラースと出会い、その後彼の言う湖に赴いたが女神に会う事はできなかった・・・。

ミストルティンの手掛かりを失ったアレスはその後、スカサハと再び合流してアグスティのシャガール王と面談したのだ。

驚きを隠せない中、シャガールの合図より奥よりやってきたのはラースと少女が一礼して入室する。

 

「ラース!お前、どうしてここに?

それにリーンまで、お前孤児院に帰ったんじゃあ・・・。」

アグストリア国境であった二人の再会にスカサハも驚く。

 

「アレス、すまない、これ、芝居・・・。」

 

「私は、ラースの話を聞いて面白そうだったから来ちゃった。」二人の言葉にアレスはさらに困惑する。

 

「な、なに!?どう言う事だ!」

 

「儂から説明しよう。」シャガール王は咳を一つすると、経緯の説明を始める。

 

「ラースの剣の噂は、儂が計画した。

ミストルティンは最近ある方が偶然見つけ、アグストリアに寄贈された。

使い手であるアレスが剣を求める気持ちがあるならば、ラースのデマを聞きつけてヴェルダンに来るだろうと考えた。

湖の女神の伝説はシグルドとヴェルダンの戦いで起こった奇跡の一つ、無視する事はないと踏んだのだが、この話は知らなかったようだな。」

 

「・・・。」アレスはバツが悪そうにそっぽを向く・・・、スカサハは小さく噛み殺すように笑う。

 

「まあ、結果的に噂を聞きつけたアレスはこの地に来てくれた。あとはヴェルダンのキンボイス王とラース、そして私へと導いてこの剣を渡す事ができた。」

 

「・・・シャガール王、しかしなぜそんな周りくどい事を?

それならラースに剣を持たせて、訪ねてくるアレスに渡すようにすればいいのではないですか?」スカサハのフォローにアレスも頷く。

 

「アレス、お前の話は耳にしていた。

今までのお前にミストルティンを渡せばさらに荒ぶるだろう・・・。

しかし、どうだ?

ラースは計画としていたが、偶然スカサハとリーンに出会い少しは心境に変化があったのではないか?」

 

「・・・・・・。」小さい頃から一緒であったリーフやフィン、ナンナでは意識していなかったが、セリスと一緒に行動していたスカサハと出会い、ラースとの戦いで得た経験と、彼らと話し共に行動した刺激は多少なりともあった。

それにリーン・・・。短い旅だったが、彼女と親しくなり安らぎを与えてくれた。

 

「後は自分で考え、ミストルティンを正しく使えば導いてくれるだろう。

・・・答えが出た時、もう一度ここに来い。」

 

「・・・魔剣ミストルティンは強い心がなければ剣の強さに負け、戦に魅了されると聞く。強さばかりに拘っていた俺が持てばどうなっていただろうか・・・。

シャガール王、礼を言う。」アレスはシャガールに騎士としての礼をする。その真っ直ぐな礼にシャガールは何度も頷き、目尻には涙を滲ませる。

自身の悪政でエルトシャンを牢に入れ、処刑まで企てたシャガールはようやくその息子に多少の恩返しができた達成感が胸の内に溢れたのだ。

 

その王の姿にスカサハは暖かく笑い、リーンもまたアレスの変化に嬉しく感じ、満面の笑みを讃えてアレスに抱きついた。礼の継続中であったアレスはバランスを崩してリーンともつれて転ぶ。

リーンとじゃれあうアレスだが、シャガールはスカサハに歩んだ。

 

「スカサハ、君はここに眠る剣を求めてマディノに来たんだね。」

 

「はい。私の父が遺した剣を求めてきました。」スカサハのまっすぐな瞳をシャガールは暫く見る、そして一つ頷くとこの謁見の前の中央のシーツを取り払う。一振りの剣が根本付近まで大理石に深く突き刺さっていた。

 

「これが君の求める剣だ。この剣にはイザークのソファラ家の刻印がある、見たまえ・・・。」スカサハは剣の柄をそっと握り、目を閉じる。

剣が何か語りかける、神器でもないただの白銀の大剣にそんなわけはないがスカサハは自然とそうしていた。

 

「この剣はまるで主人を待っているかのように、誰が引き抜こうとしても叶わなかった。

・・・もちろん誰が引き抜いてもこの剣は譲る予定だ、試してみるか?」

 

「はい、やってみます。」スカサハは両手で剣の柄を握り、上に引き抜こうとするが、すぐに手を離す。

 

「どうしたのだ、やらぬのか?」

 

「・・・この剣は引き抜くのでは抜けません、まだこの剣は斬っているのです。」他の者にはまるで理解できない答えだが、スカサハは逆手に持っていた剣を順手に持ち上とは反対の方向へ力を入れ始める。

 

「おい、まさか・・・。」アレスは二人に気付き声をかける、スカサハは一つ頷くと剣に集中する。

 

「ふん!」全身の体に力を込め、18年以上眠る剣にさらに切る動作を試みる。

 

「無理だ、そこからさらに切るなど・・・。」シャガール王はさすがに否定する、現に剣は全く動く様子はない。

 

(父上、・・・一緒に参りましょう。)

スカサハは、心の中で一つ願いを込めると呼吸を整えて、時を待つ。

他の人には単に体を弛緩させているように思うかも知れないが、スカサハは心と体の充実を計る。

 

そして・・・。

 

「月光剣!!」スカサハは気合と共に力を込める。体から、剣に青白い光が鈍く放たれた瞬間。

 

シュイン!

 

まるで砥石で剣を擦った時のような音と共に白銀の大剣は抜き放たれた。青白く光る刀剣、スカサハの旅はようやく達成されたのである。

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