この数日、とても濃い日々だ。忙しいを通り越してる気がする。
3月に4月分+αのラジオを録音しておいて本当に良かった。
今日は臨時休校になったから、バンドメンバーを緊急で集めて相談をする。
メンバーには申し訳ないが、仮病で学校を休んでもらい、俺の家に集合してもらった。
『皆、ゴメンな!いきなり呼び出して!』
「Jackが呼び出すなんて珍しいじゃん」
「Kingの言うとおり、基本さ、緊急集合かけるのってAceだからね〜」
「はぁ?!まあそうだけどさ、突然なんなんだよ?」
「めっちゃ申し訳ないんだけど、ラジオ辞めたい」
「あ、そういう系ね。俺はいいぜ!」
Aceは反対すると思ってたから意外だ。
「僕も、もっと高校生活謳歌したいな〜って思ってたの!バンド活動は続けたいけどね!ラジオは半年でもうお腹いっぱいになっちゃった」
「でた!Queenの飽き性!まあ俺も反対はない!2週間に1回、土日のどっちかつぶれるのは結構キツいし」
「Kingってバイト始めたんだっけ?」
「そうなのよ、一応、バンド以外の社会も知っとくべきじゃん。」
「じゃあ今、親父に電話して5月いっぱいで辞めさせて貰えるようにするわ!」
「さすが!Ace!仕事はやーい!」
「Jackの棒読みがすご〜い」
Queenがツッコミをして、皆で爆笑する。
まあ4月の頭だし、そこまで迷惑にはならないはずだ。
そして、Aceが電話をかけて事情を話したあと、あっちで相談しているようで、1時間ほどして電話がかかってきた。
「今度の公開収録で最後になるってさ!ラジオ局の人めっちゃ残念がってたっぽい!最後は2本録るって!」
「ありがと、Ace。お父さんにも感謝言っといて!」
「了解!」
「じゃあ今回の新曲は僕の担当だからね!各自練習よろしく〜!」
Kingからコードと歌詞が渡されて、デモの音源を流される。
「いい曲だね〜!じゃあこれの合わせとかの予定はまた話そ!」
Queenの一言で3人は帰った。
翌日、
「皆ーーー!朝のHRが始まる、席につけーーー!」
「ついてるよ、ついてねーのおめーだけだ!」
朝から賑やかだなぁ。そんな俺は今日、自分に勝手にミッションを課した!耳郎に公開収録に来てほしいことを伝えるのだ。
「お早う」
「「「相澤先生復帰早えええ!!!」」」
復帰に入るの?あれって?包帯ぐるぐる巻きだよ?
「先生!無事だったのですね!」
飯田、あれは無事とは言わないと思う。
「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ」
戦いって、また物騒なことに巻き込まれるのは御免だ。
「雄英体育祭が迫ってる!」
「「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」」
絶対1位になって、大量の指名をもらってやる!
体育祭は2週間後か…。
俺は朝のHRが終わり、耳郎に声をかけに行く。
耳郎は八百万と話していた。これはちょうど良かった。俺は頭を下げる。
「一昨日は申し訳ない」
俺はあの時、とても混乱していた。酷く感情的になってしまった。
帰宅してからずっと耳郎と八百万に対する罪悪感があり、なかなか寝付けなかった。
このままでは俺の気持ちが晴れないから勇気を出して謝った。
「気にしないで下さい。私も迫り過ぎましたわ」
八百万は微笑んでそう言ってくれたが、耳郎は俺のことを睨んでる。
「ふざけんなよ、うちらのこと助けてくれたのかもしれないけど、同じクラスメイトにヒーロー面されたくない」
「すまなかった」
「耳郎さん、私たちにも非はありますわ。」
「そんなのわかってるけどさ…」
「昼、ちゃんと話す」
「二言はないよね?」
「約束する」
俺はどこまで伝えるべきか悩みながら、午前の授業を受けていた。
あっという間に昼休みになってしまった。
今日は珍しく食堂に行きご飯を食べる。
目の前に耳郎と八百万が座り、隣には蛙吹がいる。
「鍵無ちゃん、ごめんなさいね。私も少し気になるの。
あと梅雨ちゃんって呼んで」
ケロケロと笑いかけてくる。
「機会があれば」
「それでいいわ」
そして食堂に来ても俺の食べるものは変わらない。すぐに食べ終わる。
「それしか食べないのですか?」
八百万、なんて量を食べているんだ…
「むしろ多いくらいだ」
「それでその身長とか、男子っていいね」
耳郎は相変わらず睨んでいる。
「何を話せばいい?」
「鍵無さんの“個性”を教えて下さりますか?」
「分からない。“ロック”だと思ってた」
「分からないってそんな訳ないでしょ!」
「耳郎、八百万、梅雨ちゃん。俺の昔話を少し聞け」
「梅雨ちゃんって言ってくれたわね」
「要望は断る必要はない」
「ありがとう、話してくれる?」
「あぁ、俺は幼少期の記憶がない」
「具体的に何歳ごろですの?」
「10年ほど前だ。俺は俺自身のことを何も知らなかった」
「あら、過去形ということは、思い出されたのですか?」
「そうだ。一昨日、少しだけ」
「何を思い出したんだよ?」
耳郎がグッと迫ってくる。
俺は言うべきか結論を出せずにいた。
「それは、知らない方がいい」
「朝、話すって言ってたでしょ。話して」
「全て話すとは言っていない」
「ケロケロ、私たちが知りたいの。どんなことでも良いわ」
「本当に良いんだな?」
「えぇ、大丈夫ですわ。私たちはヒーローになるのですから、仲間の過去も受け入れる器はあります」
八百万にそこまで言われたらな、不和になるのも避けたいし、オブラートに包んで話そうにも難しいし……
俺は大きく深呼吸をした。
「俺はきっとヒーローになれない」
「は?鍵無のネガティブ発言聞きたいわけじゃないんだけど」
「そうよ、鍵無ちゃん。個性把握テスト1位でオールマイトにも勝ったのにヒーローになれないなんて冗談がキツいわ」
「違う、実力の問題ではない」
「では、どういうことですの?」
「俺は“モルモット”だ」
3人が凍りついたのが分かった。
「ヒーローを消す為の存在と敵は言っていましたね。しかし、鍵無さんはそんなことしませんよね?」
「記憶は戻りきっていない。しないとは断言できない」
「私は鍵無さんを信じますわ」
「鍵無ちゃん、苦しくなったらいつでも頼ってね」
「感謝する。話を変えるが、耳郎、放課後空いてるか?」
「いきなり?空いてるけど、」
「少し話がある」
「はいよ」
俺は食堂を後にした。
そして放課後、
「カラオケ行く、俺の奢りだ」
「鍵無って唐突すぎるの多いんだけど、なんでカラオケ?」
「ピックの話だ」
「ピックって…、思い出したわ。」
そして特に話すこともなくカラオケボックスに入る。
「これを見て、聞いて、耳郎がどう思うかは自由だ。俺はこれに関しての質問には答えない。勝手に想像してくれ」
そして俺はギターを取り出す。今日、学校に持ってきたのはサブギターじゃない。ライブで使っているギターだ。
そして面倒だが持ってきたマイクスタンドに、カラオケのマイクをつける。少し合わないが仕方ないだろう。
「耳郎のプラグをこのギターの挿せ。この前聞いていたみたいに」
耳郎は困惑しながらも、イヤホンジャックを伸ばしてギターに挿す。
そして歌い終わるまでの短い間だけだが、この瞬間から仮面やパーカーはないが、俺はJackだ。スイッチを切り替える。
「耳郎響香さんのために歌います!
……… No Point !!!!」
そして今までにないくらい一言一言に想いを込めて歌い終わった。
「すまない、プラグを抜いてくれ」
耳郎はハッとしてプラグを抜いた。
そして俺はギターやマイクスタンドなどを片付ける。すると耳郎は困惑気味に聞いてきた。
「どういうこと?」
「答えないと言った」
「この前の昼のピックの話は嘘なの?」
「それには答えよう。嘘だ。
しかしピックを俺の所有物だという風に肯定したわけではない」
「3月のjokersのライブには行った?」
「教えない。
そして俺が耳郎を誘ったのは、違う理由だ。
今度の日曜日、jokersのラジオの公開収録があるのは知っているか?」
「知ってる。行こうと思ってた」
「それなら話は早い。絶対行ってくれ」
来てくれ。と言ったら俺がJackだという疑いを確信に変えてしまいそうだから、俺は第三者のように装う。
「なんであんたに指示されなきゃなんないんだよ…」
「それも言えない」
「あのさ、鍵無はどんなヒーローになりたいの?
過去は考えなくていいからさ」
「俺がなりたいのは、ヒーローのヒーローだ」
「どういうこと?」
「一般人を守ることもするが、俺はそれ以上にヒーローを守りたい。一昨日のような時に先生や皆を守る存在になりたい」
「ウチはあんたに守られるほど弱く無いから」
「既知の事実だ。俺は耳郎を信頼している」
「あっそ…、てかまだカラオケの時間あるよね、歌お!」
「わかった」
そして俺は耳郎とカラオケで熱唱して帰った。
そして公開収録本番、
パーカーと仮面をつけて観衆の前に現れる。多くの歓声が聞こえ、俺たちは簡単に挨拶をして席に座る。
「じゃあ収録始めまーす」
「皆さんこんにちは、jokersのトランプゲームにお付き合い下さい。
まずはですね、皆さんに重大なお知らせがあります!
jokersのトランプゲームは、5月をもちまして終了させていただきます」
観衆から悲鳴が聞こえる。
「僕たち4人で話し合って決断しました!これからは音楽一本で勝負していきます!これからも応援お願いします!」
Kingがそう述べて、収録は順調に進み1本目の収録が終わって、2本目の収録が始まる。
「じゃあ最終回ですので、ファンの皆さんのお話を直接聞きたいと思いまーす!」
Queenがそう言ってスタッフに適当に何人か連れてきてもらう。
その中に耳郎いるとか有りかよ。
「俺らに質問をどーぞっ!」
Aceが1人目に質問を聞く。
「仮面を外したお姿を知っている関係者以外の人っていますか?」
「1人目から鋭いのきましたね。皆いませんよ、ね?」
3人も賛同する。目線だけ耳郎に向けるが、下を向いていて表情は分からない。
「では次、お願いしま〜す!」
Queenが2人目を指名する。
俺らは歳に合わず身長が高いのもあって基本は女性ファンが多い。
「あの、好きな女性のタイプを教えて下さい!」
「わ〜お、そう言えばメンバーでもたまに話しますけど、Jackの恋愛話は聞いたことないですね。Jackどうなの?」
King、耳郎がいるのにって俺、どうして耳郎意識してんだ?俺、耳郎が好きなのか?
「Jackさーん、聞いてますかー?」
「ふぁっ!Ace、くすぐるんじゃねぇ!
俺ですか?好きなタイプはツンデレな子ですかね。でも俺不器用なんで、恋愛とか難しいですね。はい、俺言いました!皆も言ってくださね」
そして3人も各々の好きなタイプを言う。そして最後、耳郎に質問する。
『じゃあ最後の子ですね!質問お願いします!』
「素顔を晒す条件ってなんですか?」
「皆そんなに僕らの顔が見たいのね」
「Kingは自意識過剰だよ〜、皆、興味があるだけだよね。」
Queenのゆるいツッコミが入る。
「そういう可能性もあるか、で、条件でしょ?」
『俺はさっき最初に答えたから、今度は1番最後に答えますよ。』
「了解、じゃあ俺からいきますね。」
Aceから3人順番に条件を言っていく。そして俺は耳郎をまっすぐ見る。
『俺の番ですね。何だろな、心から信頼したり好きになった人ですね。』
耳郎の顔が少し赤くなった気がする。
そして最後のラジオの収録は終わった。
夜、家に帰り耳郎に電話をする。
「もしもし、夜遅くに申し訳ない」
「大丈夫。なんか用?」
「今日、jokersの公開収録にいたな。ありがとう」
「うん、やっぱりさ、鍵無ってJackなの?」
「皆には秘密にしてもらえるか?2人だけの秘密だ」
「わかった。なんか初日と比べてすごく話すようになったね」
「クラスの人間を信頼し始めた」
「なんでウチに正体を明かしたの?」
「ピックに気がついたからだ。細かいところに気がつくほど、耳郎がファンでいることが嬉しかった。だから俺にとって耳郎は特別な仲間だ」
「それだけで正体明かしちゃうの?」
「今回は特例だ」
「そっか、じゃあ夜遅いし切るね。おやすみ」
「おやすみ」
俺はしばらく通話が終わったスマホを握っていた。