真っ黒な空間。
俺はひたすらもがいている。
逃げなくてはならないのだ。
後ろから真っ黒な空間なのに黒いとわかる謎の影が迫ってきた。
捕まるっ!
その瞬間、目が覚めた。
知らないところに寝ている。
腕に点滴をされ、ナースコールが目に入った。
ここは病院か?
とりあえず右目にアイパッチをつける。
あれ?俺は何をしたんだっけ…?
考えながらナースコールを押す。
何となく思い出してきた。
あの時の俺は怒りに支配されていた。
あぁ、俺は狂って自分のことを傷つけたのか…
怪我がどうなっているのか気になり布団をめくり腹部を見ると、縫われているのがわかった。まだしっかりとくっついてはいないものの、痛みは感じない。
すると看護師が来た。
「鍵無さん、目覚めたんですね!
お医者さん呼んできますね!」
『ありがとうございます。』
そしてすぐに医者が来た。
「怪我の具合はどうだい?
あ、動かないでね。痛いだろうから、」
『大丈夫です。痛くありません。』
「本当に痛くないのかい?
じゃあ少し診察するからね。」
そうして俺は診察される。
「うーん、すごい驚異的な回復だよ。
今日はもう夜も遅いから詳しい検査は明日しようか。」
『わかりました。ありがとうございます。
ところで…、クラスの皆は無事ですか?』
「無事だよ、まだ2人ほど入院しているがね。」
それはきっと耳郎と葉隠のことだろう。
今は無性に耳郎に会いたい。
『耳郎のところに行かせてください。』
「え?君はまだ起きたばかりだし…」
『ただ姿を見たいだけなんです。お願いします。』
すると医者は少し遠くに行き、何やら連絡を取り始めた。そして戻ってくる。
「君はあの日、ひどく錯乱していたね。
正直、君はまだ危ないんだ。怪我もそうだが、精神面でも…」
『はい…』
「でも、その理由は彼女たちがやられたからなんだろう?」
『そう、です…』
「仕方ない。今回だけだからね。」
『ありがとうございます。
耳郎は起きているんですか?』
「もう意識は戻ったよ。でももう寝てる時間だから起こさないようにね。」
『本当にありがとうございます!』
そして俺は点滴を外された。
それから耳郎の部屋を教えてもらって、ベッドを降りて耳郎の病室に向かった。
静かに戸を開けて病室に入り、音を立てないように戸を閉める。
そして耳郎が寝ているベッドの横の椅子に腰掛ける。
すると規則正しい寝息が聞こえ安堵する。
耳郎が生きてて良かった。その思いに打ちひしがれる。
そして起こさないようにそっと耳郎の手を握り、小さくささやき始めた。
『耳郎、すまない。
俺が不甲斐ないばっかりに、こんなことになってしまって…
俺は耳郎も葉隠も守れなかった。
誰も守れなかったんだ。』
自然と涙が溢れてくる。
『耳郎が倒れてるのを見つけた時、胸が張り裂けるかと思った。すごい苦しかった。
なあ、好きだよ。耳郎。どうしようもなく好きだ。
今はヒーローを守るどころか、誰一人として守れないけど、
いつかちゃんと守れる強いやつになるからさ、
こんな俺をどうか許してくれ……』
すると握っている手に力が入ったのがわかる。
『起き、てるのか…?』
耳郎の目がゆっくり開いた。俺はますます涙が止まらなくなる。
「起きてた…」
『い、いつから起きてた…?』
「最初から…、ねぇ、泣かないでよ。」
『ごめん、耳郎、』
そして俺は耳郎をギュッと抱きしめ、耳郎の肩に頭をうめた。
「ちょ、まっ、いきなり、」
『しばらく、こうしてて良い?』
「でも大怪我してるんでしょ、」
『そんなの痛くないよ。ちっとも痛くない。』
そう言ってもっと強く抱きしめたら、耳郎も背中に腕をまわしてくれた。
「青山から聞いたよ。ウチらが倒れてるの見てから、形相が豹変したって……。
その後のことは、飯田とか切島に聞いた。あんたが大火傷して戻って来たと思ったら様子が変で、いきなり痛みを訴え始めて、刃物で自分を刺して大量出血で気を失ったこと。」
『バカなことしたと思ってる。』
「ほんとだよ、バッカじゃないの、」
肩が濡れてるのがわかる。耳郎も泣いてるんだ…
「ウチもその話聞いて、苦しかったんだから!」
『ごめん…』
「さっきのこと、もう一回言ってよ。」
『俺はもっと強くなる。そして皆守る。』
「違う、それじゃなくて、」
俺は少し離れて、耳郎をしっかり見つめる。
『耳郎響香さん、好きです。』
「ウチも……」
『付き合ってください。』
顔を赤くしてうなずいてもらえた。
『キスしてもいい…?』
「そ、そんなの聞くなよ、ヘタレ!」
そう言って耳郎が目を閉じたから、俺は静かに深呼吸して耳郎の唇に俺のそれを合わせる。
一瞬だったが、それが俺にはとても長く、幸せに感じた。
『響香かわいい。』
そう微笑めば、耳郎はさらに顔を真っ赤にした。
「恥ずかしいから、秘密にして!
皆の前では普段通り!」
『わかった。じゃあ俺は戻るね。おやすみ。』
「おやすみ」
そうして俺は病室に戻った。
スマホを開けば大量の通知が来ている。
オールマイトの引退、
雄英の謝罪、
爆豪は戻ってきた。
眠っている間にいろいろなことがあったんだな…
そして両親やバンドメンバー、クラスメイトからのメッセージ。
それに一つ一つ丁寧に返信する。
そうしているうちに朝になり、精密検査をされた。
そして退院する日、
「怪我もある程度は大丈夫になりましたし、精神状態も本当に一時的な暴走だったようですので、まあまた何かあれば来てください。」
『ありがとうございます。』
両親には怪我をした理由を説明し理解してもらった。めっちゃ怒られた。
また、実家に戻ると、数日後に相澤先生とオールマイトが来て、雄英の全寮制の話をされる。俺からも両親にお願いして雄英の全寮制に関して同意してもらえた。
8月中旬、これから俺の新しい雄英ライフが始まる。